書評: 食品ロスの経済学

農林水産省の統計によると、日本で発生している年間食品廃棄物1874万tのうち、可食部である食品ロスは500~800万t発生しているという。そんな中で本書は日本の食品ロスに関する問題について、経済的な面から探っている本である。食品ロスには、期限切れ、売れ残り等の廃棄、食べ残し、過剰除去が含まれる。それらについて、飲食店の中でジャンル分けをしたうえで、どのロスが多いのかを探ったり、その理由についてを述べている。また、その中でも廃棄については、閉店間近の品切れ状態を例に、食品ロスを増やしてでも発注するかどうかについて、安全性と廃棄のコスト関係を中心に述べている。安全性を重視して、廃棄の商品が多くなり、それらにかかった労務費、処分費のコスト、廃棄したことにより、売るチャンスを逃したことによる損失などのコストである。また、食べ残しの持ち帰りを意味するドギーバッグや、まだ食べられるが、安全上店に置けない食糧を難民等に送るフードバンクについても描写が多く、環境問題に関する3Rのreuseについての可能性についても触れている。
様々なグラフや表が多くイメージがしやすい内容だった。単に食品ロスを減らしたほうが良いというよりは、食品ロスがあることによって得る利益もあることがわかり、食品ロスのことについて考えるにはとても良い本であった。ただ、例として出る会社などは匿名となっているものが多く、真実味については少し欠けているのではないかと思った。

著者 小林富雄 農林統計出版株式会社 2015年

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書評 『印象形成における対人情報統合過程』

従来の印象形成研究は、そのプロセスを解明することに主眼が置かれていたため、専ら操作の容易な言語情報を用いて検討が重ねられてきた。しかし筆者は、実生活において人は顔からも他者についての判断材料を得ていることを鑑み、より現実場面に密着した研究を展開するには両情報を同機軸上で扱うことが肝要であると考えた。そこで、顔を認知的観点から捉え直し、両情報の統合・組織化のメカニズムを検討し、図式を提案した。認知者の処理容量に限界があったり、印象を決定するよう動機付けられたり、精緻化された情報処理への状況的要因が無い時は処理の単純化を促進する顔に依拠した処理が行われる。一方、認知者の処理容量に余裕があったり、正確さを動機付けられたり、精緻化された情報処理への状況的要因がある時は、言語情報に依拠した処理が行われやすくなることが示された。これらのことから、情報としての特徴を考えると顔及び言語情報はそれぞれ一長一短があるが、人は常にそのどちらかを偏向せず、様々な社会的要請に応じてうまく使い分けていることが示唆された。いくつか課題もあるが本研究は印象形成における顔の機能を明らかにし、両情報の統合過程に関する枠組みを提供した点で意義があると思われる。この本の形式としては、最初に目的を提示し、実験をして、出た結果から新たな課題を作って、また実験をするという少しずつ結果を積み立てて考察をしていくものだったため内容はつかみやすかった。ただ、表を読み取るのに数学的な見識を求められるため、文系の私には辛いものがあった。また、この本で明かされたことはあくまで対人関係の入り口において両情報の統合過程の一端に過ぎず、印象形成という分野の途方の無さを実感できた一冊であった。

川西千弘

風間書房

2000年12月25日 初版発行

 

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【書評】スポーツ都市戦略-2020年後を見すえたまちづくり-

日本は戦後、内需産業で発展して来たが、人口減少に伴い先細りし、新しい成長戦略が必要とされている。一方で世界の外国人旅行者の数は年々増加しており、アジア諸国、特に中国や東南アジアの中間層の伸びは著しい。
その中で、本書では隠れた観光資源であるスポーツを育て、訪日観光客の拡大や地域産業の復興を目指すスポーツツーリズムという考え方を提唱している。日本には隠れたスポーツ観光資源が多く眠っているが、現状では決して有効には活用されていない。プロ野球、Jリーグ、相撲などの観戦型の競技スポーツもあれば、マラソンやサイクリングのような参加型のアクティブスポーツ、スキーやヒルクライム、トライアスロンのような豊かな自然を活用したスポーツもある。
これらの観光資源としてのスポーツを顕在化させ、その都市に合った形で売り出していくための組織として、スポーツコミッションがある。まだ多くの自治体が設置しているとは言えないのが現状ではあるが、さいたま市、新潟市などがいち早く活動を始め、年々数が増えて来ている。
2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されるが、そこでどのように観光文化大国としての立ち位置を確立し、どのようなレガシー(遺産)を残して行くかが日本の重大な課題となる。
スポーツツーリズムの理念やスポーツイベントと都市開発との関係について国内外の様々な事例を用いながら説明されているので、専門知識のない私にも読みやすい内容だった。

 

著者 原田宗彦  学芸出版社 2016年

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【書評】繊維のおはなし 天然繊維から機能性繊維まで

繊維は私たちの生活にはなくてはならない素材である。私たちが身に付けている衣服はもちろん、衣生活に限らず産業用としても多用されている。衣服として使用される繊維は、ファッション性を楽しむとともに私たちの身体を環境の変化から守るために繊維のもつ機能を活用している。また産業用としては、航空宇宙の分野から医療の分野へと利用範囲が大きく広がっている。繊維材料は麻、絹、綿などの天然繊維のように古くから衣服材料として使われ今なお愛されている材料がある一方で、先端技術の発展の中で誕生した材料がある。例えばインテリジェント繊維材料は事前に想定される温度、光、湿度などの環境の変化を素材が感知して、その素材の機能の特徴を現すものであり、環境の変化についての判断能力が備わった繊維材料である。
「将来、期待されるインテリジェント繊維としては、光/紫外線を感知し遮光変色する繊維(カーテン、健康衣料)、大きな音波を感知し音圧を吸収する繊維(カーテン、壁紙)、有機汚れを感知し清浄化する繊維(衣料一般)、体重の圧力分布を感知し接圧を調整する床ずれ防止用の繊維(ふとん)などがある。」

http://kigs.jp/db/kakusinhis.php?kno=8&sno=203

もともと化学繊維は高級な絹の代用品として開発されたが、現在は天然繊維の代わりとしてというよりも、衣料やインテリアのほか自動車、農業、土木などの様々な産業分野で使われていることを知った。本書で繊維の歴史について学ぶことができた。

1998年6月29日発行 上野和義、朝倉守、岩崎謙次 共著

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書評 人が育つ会社をつくる ーキャリア創造のマネジメントー

本書は企業で人が育ちにくくなっている状況を、調査や研究会での議論ででた結果を用いて分析したあと、どうすれば若手社員が成長するのか、また、多様な成長パターンの提案などをしたものである。

人が育ちにくくなった理由として、成果主義の導入や人員削減をあげる人は多い。しかしこの問題はそんなに単純ではない。組織の上下関係が流動化してきたことや、非正規社員の増加などにより、日本が得意としてきた「縦序列の指導伝承型OJT」が機能しなくなったからだと筆者は述べている。今後はキャリア自律の風土を基礎として新たな人材育成のための仕組みを作っていく必要がある。

専門用語が多くでてきて、人材育成に関する基礎知識があまりないためか内容を理解するのが難しく感じた。現状把握と解決策が具体的に述べられていて、よりこの分野に関心が持てる一冊であった。

人が育つ会社をつくるーキャリア創造のマネジメントー       高橋俊介   日本経済新聞出版社2012年

 

 

 

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書評 イオンの底力「変化し続ける力の秘密」

イオンの経営方針を説明しながら、これまでの成功について書かれている本である。イオンは新規のモールを作る際に、世界をにらんだグローバル経営と、地域をよく知るベストローカルの二面性を追求する「グローカル」ということを目指している。2010年3月に千葉県銚子市にオープンした「イオン銚子ショッピングセンター」を例に挙げていて、イオンは出店の際に銚子市と提携協定を結んだ。多くの市民が足を運ぶショッピングモールに行政サービスの窓口「銚子しおさいプラザ」を設けた。また、電子マネーWAONの地域限定版を発行し、利用額の一部を銚子市に寄付する取り組みもしている。今後の人口減少の予想が県内トップで、大型商業施設の出店が危ぶまれていたが、地域に溶け込んで住民の支持を得て持続的に事業を継続することを目指して出店したという。こうした取り組みを日本に限らず中国など海外でも目指すことが、更なる発展へ繋がるという。

郊外ショッピングモールは地域の生活インフラ、雇用、税収などで地域に貢献することができるが、小規模商業者への影響や交通渋滞など忘れてはいけない課題があることを改めて学びました。

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FinTech入門〜テクノロジーが推進する「ユーザー第一主義」の金融革命〜

API・PFM・ブロックチェーン…様々な専門用語が一般誌を飾るようになった昨今、それがなにを意味し金融革命の一端とされているかを解説した入門書。3部構成の本書では第1部にFinTechの基礎概念の説明、第2部ではFintechをそれぞれの業界に分類し、業界ごとにFintechがどのような変化をもたらすのか、代表的なサービスを例に挙げ、第3部においてそれらを用いた未来の金融を推測している。今のFinTechをFinTech2.0と題しこの背景にはコストの低下、スマートフォンの普及、そしてユーザーの変化があると述べる。金融がブラックボックス化されていたのは過去の話でありスタートアップが前進させるFintechによって「アンバンドル化」が進んでいるのが金融の現状である。「所有」から「共有」の時代へと進む現代において、お金以外で価値の交換が可能となる未来への架け橋になること、Fintechという言葉が消える日が来ることを目指して技術はより進歩していく。

前述の通り「The・入門書」との印象を受けた。これからFintechを学びたい人に向けた具体的でわかりやすく背景や実例を解説した本であった。著者がマネーフォワードCEO・辻 庸介氏ということもありマネーフォワードの宣伝本かと最初は思ったが、多方面の企業が紹介され業界の分類が的確になされていた。独学でFintechを研究する私が今回得られたことは、分類された業界内でトップに君臨する企業名とその企業の背景に関することに限られてしまったため若干の物足りなさを感じたが、この先論文を作成するにあたっての土台としては十分な基礎的知識の盛り込まれた1冊であったので参考図書として常備しておきたい。

FinTech入門〜テクノロジーが推進する「ユーザー第一主義」の金融革命〜
辻 庸介・瀧 俊雄
2016年 日経BP社

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書評 アマゾンと物流大戦争

本書は、Amazonが成長した理由をロジスティクス(物流合理化手段)という観点から論じたものである。

Amazonがなぜ書店から始まったのかという着眼点をきっかけに、物流の見地から概略を説明している。また楽天が没落した理由をロジスティクスの側面から解説した。筆者曰く、ネット通販には、総合ネット通販とモール型ネット通販がある。Amazonは総合ネット通販で楽天はモール型ネット通販である。総合ネット通販は、入荷から出荷までを自社で行う。モール型はネット通販会社の集合体であり、メリットは各店舗が物流機能を担うため物流センターへの投資が必要なく、立ち上げのスピードを速くすることができることである。デメリットは物流品質のバラツキ、規模の経済が生じない点、客にとって利便性が悪い点(配送料がそれぞれかかるなど)が挙げられる。Amazonは優れたロジスティクスを構築することにより削減された物流コストをマーケティングにではなく物流へのさらなる投資と商品の価格削減のための施策につぎ込んでいる。

楽天はロジスティクスを短期的なコストだと考え、Amazonは長期で構築する投資だと考えたところに決定的な違いが現れたのだと感じた。具体的な数値を示した図やグラフでの説明よりも筆者の予想や勘が多いように感じたが、物流に関する本は初めてだったので読みやすかった。

 

アマゾンと物流大戦争  角井 亮一 2016 nhk出版新書

 

 

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書評:学力低下は錯覚である

本書は東北学院大学で教授を務めている著者が、実際に感じた大学生の学力低下の実態と、それを引き起こした原因について統計データを用いて論じたものである。著者は学力低下の原因は果たして「ゆとり教育」にあるのかについて検証している。PISAやTIMSSなどの国際的な学力調査について比較すると、年々順位が下がっていると言われているが、実際にはには参加国が増えたためであり、順位を標準化するとあまり変化していない。それなのに大学生の学力が低下して見えるのは、少子化により大学を受験する分母が減っているのにも関わらず、大学の定員が少子化に合わせて減っていないため、定員を満たすためにハードルが下がったからであるという。だからといって著者はゆとり教育を肯定しているのではなく、個性化・自由化の教育を取り入れているフィンランドを引き合いに出し、日本の教育に合うように研究すべきだと結論づけている。

常に統計データと照らし合わせて問題を論じているので客観性と根拠がしっかりしていると感じた。データが少し古いものであったが、データ自体も調べれば手に入るものばかりなので自分で研究する際のものの見方の参考になる一冊であった。

「学力低下は錯覚である」 神永正博 著
2008年 森北出版株式会社

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書評 「ゲノム編集を問う」

ノーベル賞級の発明とされるゲノム編集は遺伝子組み換え技術よりも高い効率で遺伝子を改変することを可能にした。本書では、ゲノム編集を農業、畜産業、医療の観点から世界と日本を見比べつつ述べている。そして、各分野での遺伝子組み換え技術の規制では、ゲノム編集を規制することができないことを指摘している。それに伴い生殖医療の章では、日本でゲノム編集が生殖医療現場で利用されるのは時間の問題であると、日本が不妊治療超大国であることを理由に述べられており、ルール作りの必要性を示唆している。

遺伝子組み換え作物が嫌われる理由や先端医療が与える影響などが生命倫理以外の点からも述べられていてとても参考になった。また、ゲノム編集は素晴らしい技術であるがその反面、デザイナーベイビーや倫理的な問題が起こるためルール作りが急務であることが改めて認識できた一冊であった。    「ゲノム編集を問う」石井哲也 岩波新書 2017年7月

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