月別アーカイブ: 2017年11月

【書評】フードバンクという挑戦 貧困と飽食のあいだで

本書は日本のフードバンクのシステムがどのように作られたかを、日本で初めて本格的なフードバンク活動を行ったといわれるチャールズ・E・マクジルトンの生い立ちから現在に至るまでを通じて述べている。 フードバンクの原理はいたってシンプルなもので、まだ十分食べられるのに、売り物にならないとされてしまい捨てられてしまう食品を預かり、児童保護施設など、経済的に難があり、食料の補給に苦労している企業、個人に分け与える活動を行っている。もともとはアメリカ発祥のもので、40年ほど前にジョン・ヴァンヘルゲンが、スーパーのごみ箱をあさっている主婦を見つけて考え始めた。年々協力者が増えてきて、現在アメリカではボランティアといえばフードバンクと思いつくぐらいに主流なものとなっているという。チャールズ・E・マクジルトンはそんな中でアメリカの裕福ではない家庭に生まれ、一日食べるものがないような生活を営んでいた。そしてマクジルトンは成人し、日本で会社員として働いていたが、その中でボランティア活動に巡り合い、2000年にフードバンク設立を志す。そして2002年に日本で初めてフードバンクが作られ、日本では現在20以上のフードバンクができた。現在企業と連携した動きもあり、ニチレイでは毎朝決まって冷凍食品を乗せたトラックが150台ほど関東圏の問屋に運ばれるが、その中でも5、6ケースはフードバンクに送られている。企業としても、廃棄コスト節約、コストをかけずに社会貢献ができる、消費者に対するアピールとしてやくだつなどのメリットもあり、提携する企業も年々増えている。デメリットとしては、ボランティアとしての活動なので、給料が出るわけでもなく、むしろ寄付金を募っている中で、フードバンクは栄えていくのかという問題も抱えている。 食品ロスに対しての一例として読んだが、改めて改善が難しい問題だと感じた。フードバンク自体のボランティアとしての活動の限界など、根本的にどうしようもない問題もあり、改めてフードバンクというシステムも見直す必要があるのではないかと感じた。また、企業が食品の安全性をかなり重視していることもわかり、食品ロスを企業が減らすのも現実的に難しいことも感じた。全体を通して、安全性を重視する日本の特色を改めて考えさせられた。 著者大原悦子 岩波書店 2008年出版

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書評『相貌心理学序説』顔立ちと性格

本書は顔立ちと心理的な人格特性との間に法則が成り立つことを証明する相貌心理学の基礎に関して著したものである。またこの本で示されるいくつかの規則は、単純な類型から複雑な類型へと説き進められており、最終的には日常生活で出会う人々の独特な類型にたどり着くための手助けとなるように構成されている。 まず最初に顔立ちについての説明がされる。顔立ちの分析には3つ視点がある。外枠・感覚受容器(目や鼻のこと)・肉付きである。そしてこの3要素を基礎に、拡張ー縮小の法則や緊張の法則、可動性の法則などの要素を付け足していき、そこから人格特性を読み解いていく。 前回の本では初対面における顔と言語情報について学んだが、「好ましい顔」についての具体例が記されていなかったため少し消化不良ぎみだった。そこで、今回は気になっていた「顔」に主眼をおいて本書を選んだ。実際に読んでみて、顔から得られる情報量の多さに驚きを感じた。試しに知り合いの顔で実証してみたところ、どうにも私の把握している性格とは齟齬が生まれる。本書にも記されていた通り、実物は複雑で難しいものだった。更なる学びが必要であることを実感できた。 著者 L.コルマン 訳者 須賀哲夫、福田忠朗 北大路書房 2015年出版

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【書評】スポーツマネジメント論――アメリカの大学スポーツビジネスに学ぶ

本書は東京五輪を契機として、今後必要と思われるスポーツに関わる環境整備、人材育成、ビジネス、社会貢献、コーチング、そしてリスクマネジメントなど、スポーツにおけるマネジメント業務のための入門・解説書として書かれた一冊である。 本書はアメリカの大学スポーツ界の先進事例を中心として1.2章では運営形態や経済効果について解説し、3.4章ではオリンピックや社会貢献と結びつけて論じ、5.6章ではコーチングやリスクマネジメントのような人材育成について論じられている。 日本では競技ごとに独立した運営団体を持ち、球技ごとに決められた規則に則って活動を行うが、アメリカではNCAA(全米体育協会)のような大学スポーツを取りまとめる団体が存在し、その団体が規約の作定、収益分配などの運営を統一的に行う。統一した規約の中でも最も重視されるのは学業最優先の原則である。これは、学業とスポーツ競技双方での成功を目指し、心身ともに健全な人格形成を促すことで人生の成功へと導こうというトータルパーソンプログラムが元になったもので、学生アスリートはGPAや単位取得数で基準に達しなければ出場資格を得ることはできない。そのため大学は学業サポートの仕組みを手厚く作っている。また、日本では一般的に1つの競技を年中行うことができるが、アメリカでは競技を行う季節や週あたりの時間に制限があり、多くの選手が複数の競技に参加する。これは希少な人材を共有し人材不足を補うことの他に、特定の筋肉や関節をオーバーユーズすることによる怪我を防ぐリスクマネジメントとしての意味合いもある。 アメリカの大学スポーツチームの運営は、体育局とよばれるプロの職員で行われているが、大学から予算をもらうのではなく独立採算で賄われている。収入は、放映料やチケット売上などの他に、スタジアムなどの設備のネーミングライツや企業や住民からの寄付で成り立っている。このように社会からの支援で成り立っている分、地域への社会貢献活動が重要なものであり、教育支援や災害支援、ホームレスへの炊き出しなど、地域のニーズに応える形での地域貢献を年間を通して行っている。日本の大学でもスポーツ組織を単なるスポーツ振興の延長としてだけ捉えるのではなく、社会の発展に寄与できる組織として、社会と問題解決に取り組める組織ときて進化させることが望ましい。 大学のスポーツビジネス、マネジメントを学ぶためにこの本を読んだ。アメリカの大学スポーツでは、ただ組織規模が大きいのではなく、組織として学業重視や怪我防止による人材育成や地域貢献を徹底していることが分かった。新聞記事によると日本版NCAAを作ろうという動きが進んでいる。アメリカとは風土や環境がかなり異なるため、そのまますっぽり当てはめることは難しいので、日本に合った形でのNCAAを長期的な計画をもって進めていくことが大切だと感じた。 2015年10月出版 著 吉田良治 昭和堂

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書評:ショッピングモールと地域

本書は「第1部 ショッピングモールからみる地域社会」及び「第2部 ショッピングモールからみる現代文化」の2部構成で成り立っている。第1部ではショッピングモールとは何かという話から、法律や財政、商店街や交通問題といった、ショッピングモールが社会や地域と関わる中での位置付けについて述べている。第2部ではショッピングモールから現代の文化について、ショッピングモールを幻燈装置とし、そこに我々の欲望がいかに映し出されているかという話や、本屋がショッピングモール化しつつあるという話などが述べられている。第1部は歴史的な話や、表やデータが多かったが、第2部は現存するショッピングモールを例に出し、そこから現代文化について考察する話が多かった。しかしながら第1部や第2部の見出しの通り、ショッピングモールからみる「地域社会、現代文化」について書いてある本だった。興味深い話ではあったが、自分は「地域社会や現代文化」というものではなくビジネスの視点から「ショッピングモール」について学びたいのだと気づいた一冊だった。しかしながらショッピングモールというものについて多少は知識を得られたと思うので、参考になる本だった。 ショッピングモールと地域 井尻昭夫、江藤茂博、大崎紘一、松本健太郎 編 ナカニシヤ出版 2016年

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書評・リーンスタートアップ成長戦略

本書は「無駄がない」という意味の「リーン(rean)」と「起業」を意味する「スタートアップ(startup)」を組み合わせた造語「リーンスタートアップ」と呼ばれるものをUSERcycleの創始者”アッシュ・マウリャ氏”が実体験を交え紹介したものである。起業の方法論をマネジメント論に取り入れ体系化した理論の1つで極めて低い起業成功率を引き上げるための最善策とされている。 本書ではリーンキャンバスと呼ばれる一枚の紙を適用するために必要なステップを時間順に3部構成で解説している。1部では普遍的な進捗の指標”目標”について定義し、2部で”ムダとはなにか”を認識、3部でブレイクスルーの実現に向けた準備”リーンスプリント”についての方法論を展開している。各章において「演習」と呼ばれる既存のビジネスモデルを読者なりにグレードアップさせる問題が存在する。これを解くことで各章の核心を突くことができ読者の理解をより一層深める仕組みで、学校教育における教科書のような形式となっている。また初期段階から衰退までライフサイクルの各段階を図解を通して簡潔に解説しているため一貫性がある。 率直に実践的な内容であった。自分の想定するビジネスを前提に、適用させるとどうなるか、を考えて読むことによって理解度が格段に上がると感じた。逆に、頭の中に何かビジネスを想定せず読むと内容が入りにくいだろう。専門的な用語が並ぶが逐一別枠で説明されており馴染みの薄い読者でもスタートアップに興味があれば学んでおくべき方法論である一冊であった。3部の”リーンスプリント”に関しては次の書評で紹介しようと考えていた著書の内容で、その前段階の理解にも繋がった。 SCALING LEAN ~Mastering the Key Metrics for Startup Growth~ 邦訳:リーンスタートアップ成長戦略 Ash Maurya 角征典 2017年10月 日経BP社

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職場スイッチ

本書はひとりでもはじめられる職場の雰囲気の変え方や対話のしかた、チームを動かす仕事術などを示したものである。 重い空気で包まれた職場は無力感が生まれストレスが溜まりやすくなってしまう。そんな空気を入れ換えるためのスイッチが「自分」「相手」「チーム」「会社」の4つあり、それはほんの少しの知識と試す勇気があればできることである。挨拶をするときにはいつもより大きな声でする。自分のストレスが高い時ほど人の存在を承認する側に回ってみる。こういったことを少し意識するだけでも職場全体のエネルギーが高まるのである。 職場の雰囲気はひとりでも少しずつ換えられることがわかった。その内容もすぐにでも取り組めるものだったので、アルバイト先で実践して変化を見たいと思った。今後は前提とされていた職場の雰囲気が悪いときの影響についてや、組織として取り組める雰囲気の入れ換え方などについても調べたいと感じた。 職場スイッチ-ひとりでもできる会社の空気の入れ換え方-        鈴木 義幸     2009年

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書評:ショッピングモールと地域

前回取り上げた本は、イオンの宣伝本に近いものであり、客観的な視点がほぼ無いものだと感じた。そこで幅広くショッピングモールについて書いてありそうな本書を取り上げた。タイトルの通り、ショッピングモールと地域について、地元商店街との関わり、交通渋滞問題などの様々な問題について書かれている。例として挙げられたのがイオンモール岡山で、商店街との協力についてや、渋滞を起こさないための取り組みについて書かれていた。しかしながら、イオンモール岡山は駅近のショッピングモールという特殊性を持つこと、前回の本と同様にイオンモールの施策ばかりが書いてあったことにやや不満を感じた。勉強になる内容ではあったが、ショッピングモールというテーマの本の具体例がイオンであることが良いことなのか悪いことなのか考えさせられる一冊だった。 井尻昭夫、江藤茂博、大崎紘一、松本健太郎 編 ナカニシヤ出版 2016年

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【書評】アパレル素材の基本

この本はファッション関係の専門学校生やアパレル産業で仕事をしている人、しようと考えている人のためにアパレル素材の基本的な知識をまとめたものである。 衣服(アパレル)を構成する主要材料は繊維である。衣服は繊維から糸を作り、生地、染色・仕上げ、縫製と多くの加工を積み重ねることによって生み出される。繊維は天然の状態ですでに繊維の形態をしている天然繊維と、科学的な手段によって人工的に作り出した化学繊維の二つに大別される。天然繊維は、採取の源によって主成分がセルロースである植物繊維(綿、麻など)と、主成分がたんぱく質である動物繊維(羊毛、絹など)に区分される。一方、化学繊維は人工的に作り出した繊維であり、用いる科学手段の違いによって再生繊維、半合成繊維、合成繊維の三つに分けられる。合成繊維は加熱による変形が可能で、冷却(常温放置)するとその形のまま固定する。この性質を熱可塑性という。これを利用して合成繊維のスカートのひだ付け(プリーツ加工)やエンボス加工などが行われている。また繊維などに一定の変形(伸びなど)を与えるのに、どれだけの力を加えなければならないかを示す量としてヤング率(伸び弾性率)が用いられる。繊維では硬さや柔らかさなど柔軟性を示す数値として重要で、「伸ばしにくさ」を表す量として示される。麻はヤング率が大きく剛直で腰が強く変形しにくいので、通風量が大きく夏の衣料に適する。また、ナイロンや羊毛はヤング率が小さく、柔らかくて変形しやすいので、靴下などのニット分野に多く用いられている。ほとんどの繊維は、放置すると空気中の水分や汗などをある程度吸収する(このような性質を吸湿性という)。動物繊維は吸湿性が大きいため染色性に富む。 今回は衣服で使われる繊維について学ぶためにこの本を読んだ。前回読んだ繊維全般について書かれた本と重複する部分は多い分、理解が深まった。また化学繊維は人工的に作られた繊維であり、天然繊維に比較すると欠点を持つがそれを改良・改質してより快適な繊維が数多く生み出さていることがわかった。今まで化学繊維は天然繊維に学び模倣してきたが、天然繊維の性質を超えたもの、また天然繊維にない機能や性質を作れるようになった。 繊研新聞社2004年出版 鈴木美和子・窪田英男・徳武正人

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【書評】ワンクリック

【著】リチャード・ブラント  【訳】井口耕ニ2012年 日経BP社 本書はアマゾンの創設者のジェフ・ベゾスの半生とアマゾンの成長を述べている。 前半はベゾスの幼少期から就職、後半は、アマゾンの立ち上げから世界最大の通販サイトになるまでを描いている。小学生の頃に初めてコンピューターに触れプログラミングを学ぶ。初めての事業は高校卒業直後に、小学校5年生を対象にした2週間のサマースクール(化石燃料や核融合、スペースコロニーの可能性やテレビ、広告など内容は多岐にわたる)である。16歳になるまで夏休みは祖父が経営していた牧場で過ごし、そこで自存的な姿勢を身に付けたと語っている。プリンストン大学に進学後、物理学からコンピューターサイエンスに専攻を変更。大学卒業後、金融系の企業の転職を繰り返す。株取引のコンピューター化事業の通信部門を担当した時に、インターネットの可能性、特に「本」のEC事業に確実性を見い出し、アマゾンを立ち上げる。その後優秀な人材の採用、莫大な資金調達、顧客第一主義の実現、特許戦略、利益度外視の先進的な経営等、天才的なリーダーシップ&マネジメントを発揮していく。 本書を読み、ベゾスが顧客を最優先にしていることがわかった。今は自動化されている本の情報やレビューだが、創業直後は出版社から情報が得られない場合、アマゾン社員が本屋に足を運び情報をメモしてくるという手間のかけ方には驚いた。今はオンラインショップでは当たり前になっている「カスタマーレビュー」 だが、当時は否定的なレビューを書けることは画期的だった。そこがリアルな書店との差の1つであると感じた。前回の本は物流という大きなものに着目していたが、本書はAmazonユーザーにとって当たり前の機能の成り立ちや実装される経緯について書かれているため興味深かった。

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「書評:格差をなくせば子どもの学力は伸びる」

本書は、国際学力調査でトップクラスの成績を修めるフィンランドの教育について、筆者が実際に現地の小中学校で取材した様子が記されたものである。 2003年に行われたPISA(国際学力調査)のフィンランドの成績を見ると、高得点であるとともに、他国より国内の学力格差が低いことが分かる。この結果は高学力と教育における平等が両立しているといえる。その成功の裏にはフィンランドの教育の特徴である、「平等」と「個性」にあるという。フィンランドは他のOECD諸国と比べ、社会的背景が教育に及ぼす影響が少なく、教育制度が全ての生徒に平等に機会を与えることに成功しているといえる。また、「個性」においては、一つひとつの授業が早急に答えを求めるのではなく子どもたちの思考過程を大切にする教育法に表れている。それを可能にしているのは教育の権限のほぼ全てが、国ではなく現場にあることである。教育の分権化が子どもたちの個性を伸ばす授業へと繋がっているのである。最終章では翻って、知識詰め込み型の教育が日本に根付いた歴史が記され、それを批判している。 実際の学校の授業風景を写真付きで細かく書かれていて、フィンランドの自由な教育というものがよりイメージしやすかった。ガムを噛んでウォークマンを聞いているカップルがいても、他人の妨害をせず授業を聞いているので、教師は批難しないという個人を認める教育法の許容範囲の広さには驚いたが、こういったある種のゆとりのある教育は日本も参考になるのではないかと感じた。 「格差をなくせば子どもの学力は伸びる」 福田誠治 著 2007年7月22日 亜紀書房

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