書評 『印象形成における対人情報統合過程』

従来の印象形成研究は、そのプロセスを解明することに主眼が置かれていたため、専ら操作の容易な言語情報を用いて検討が重ねられてきた。しかし筆者は、実生活において人は顔からも他者についての判断材料を得ていることを鑑み、より現実場面に密着した研究を展開するには両情報を同機軸上で扱うことが肝要であると考えた。そこで、顔を認知的観点から捉え直し、両情報の統合・組織化のメカニズムを検討し、図式を提案した。認知者の処理容量に限界があったり、印象を決定するよう動機付けられたり、精緻化された情報処理への状況的要因が無い時は処理の単純化を促進する顔に依拠した処理が行われる。一方、認知者の処理容量に余裕があったり、正確さを動機付けられたり、精緻化された情報処理への状況的要因がある時は、言語情報に依拠した処理が行われやすくなることが示された。これらのことから、情報としての特徴を考えると顔及び言語情報はそれぞれ一長一短があるが、人は常にそのどちらかを偏向せず、様々な社会的要請に応じてうまく使い分けていることが示唆された。いくつか課題もあるが本研究は印象形成における顔の機能を明らかにし、両情報の統合過程に関する枠組みを提供した点で意義があると思われる。この本の形式としては、最初に目的を提示し、実験をして、出た結果から新たな課題を作って、また実験をするという少しずつ結果を積み立てて考察をしていくものだったため内容はつかみやすかった。ただ、表を読み取るのに数学的な見識を求められるため、文系の私には辛いものがあった。また、この本で明かされたことはあくまで対人関係の入り口において両情報の統合過程の一端に過ぎず、印象形成という分野の途方の無さを実感できた一冊であった。

川西千弘

風間書房

2000年12月25日 初版発行

 

カテゴリー: 新聞要約   パーマリンク

コメントを残す