書評:学力低下は錯覚である

本書は東北学院大学で教授を務めている著者が、実際に感じた大学生の学力低下の実態と、それを引き起こした原因について統計データを用いて論じたものである。著者は学力低下の原因は果たして「ゆとり教育」にあるのかについて検証している。PISAやTIMSSなどの国際的な学力調査について比較すると、年々順位が下がっていると言われているが、実際にはには参加国が増えたためであり、順位を標準化するとあまり変化していない。それなのに大学生の学力が低下して見えるのは、少子化により大学を受験する分母が減っているのにも関わらず、大学の定員が少子化に合わせて減っていないため、定員を満たすためにハードルが下がったからであるという。だからといって著者はゆとり教育を肯定しているのではなく、個性化・自由化の教育を取り入れているフィンランドを引き合いに出し、日本の教育に合うように研究すべきだと結論づけている。

常に統計データと照らし合わせて問題を論じているので客観性と根拠がしっかりしていると感じた。データが少し古いものであったが、データ自体も調べれば手に入るものばかりなので自分で研究する際のものの見方の参考になる一冊であった。

「学力低下は錯覚である」 神永正博 著
2008年 森北出版株式会社

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