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書評「日本の問題は文系にある なぜ日本からイノベーションが途絶えたのか」

著者である山本尚氏は京都大学卒業後、ハーバード大学院を経て、様々な大学研究室を転々としたのち、現在中部大学のペプチド研究センターのセンター長となっている。ノーベル化学賞の候補者でもある山本氏は本著で日本のイノベーションが途絶えた理由を大学の教育環境と日本の研究体制の二点を大きく挙げて論述している。 第一章 私の破壊的イノベーション 本章は筆者の今までの経歴の紹介と共に、破壊的イノベーションの必要性と研究費の審査の問題について触れている。破壊的イノベーションとは市場が新たに作り替わるような革新のことを指し、今現在は技術革新のスピードが向上したことにより「破壊的イノベーションか、死か」という領域に入っているという。この状況はもう一つの持続的イノベーションが得意であった日本にとっては危機的状況であるという。また破壊的なイノベーションを生み出す研究にお金を投資する嗅覚が今の省庁には無いため、「異質の香り」をかぎ分けられる優秀な科学者が審査側に必要であるとした。 第二章 日本人はもっと感動すればいい 本章では米国の自由な感性を鍛える方法を例示して、それと対象である日本の環境を批判している。また日本に過去会ったイノベーションを例示して、そこからの学びを論述している。米国では教育課程とプレゼンは表裏一体であるという。成長していく中で何度もプレゼンを行っていくことで、各個人の提案がより革新的で多くの人間の同意を得るためにはどうしたらよいかという思考方法が常となる。集団主義的な日本ではこの感性は育たないため、個人主義の考え方が必要であると述べている。また日本人が過去行ってきた海外から入ってきたものをまねてから、自己流に改造していくという漢字や鉄に見られたイノベーションの方法を日本文化と結び付けて我が国固有のものであるとし、この文化を大切にしていくことに勝機があると論じていた。 第三章 問題は文系にある 本章では大学の研究や講義の問題点を軸にイノベーションが生まれない理由を論じている。その一つの例が講座制である。講座制により准教授や助教が専任教授から独立した研究をできていないのだ。博士課程を終えた未来を担う若い研究者に思い通りの創造の道を歩ませる力が、講座制廃止にあるという。また文系の官僚にも問題があるという。文系の官僚がなんとなしに決めている習得単位や学生数などが教官の研究時間を奪いイノベーションを阻んでいるのだ。日本の大学教官が研究に割ける時間は20%以下で、米国の50%以上とは格段の差がある。大学発のイノベーションを目指すためには教育義務や事務書類にメスを入れる必要があるのだ。さらに文系の起こすイノベーションについても触れられていた。イノベーションというと技術革新が主だと思われがちだが、新たな考え方から大きな価値を生み出す社会変化もイノベーションといえると筆者は言う。しかしこの文系のイノベーションは日本ではほとんど見られない。その理由は日本の文系の学生の意欲の少なさだ。理系の学生に比べ、文系の学生は本を読まず、また読むことはあっても研究のために膨大な本を読むことは限られると筆者は述べていた。この問題の解決のためには「哲学」が必要だという。先人の考え方を知ることで、新たな考え方の切り口を作り上げることができる。この考え方の転換こそイノベーションの思考法なのだ。 第四章「学術会議」はいらない 本章では一時イノベーションの話題から少し離れ、一時話題になった菅政権の学術会議問題に関して言及している。日本の学術会議は税金で運営しているもので日本の政治の影響を大きく受けてしまう。しかし米国の学術会議に当たる全米アカデミーズでは、各々が出資をして参加している。この政府から独立した組織は、日本と違い大きな力を持つ。一つの提言に日本とは異なる緊張感が生まれるのである。この緊張感の有無こそが科学技術政策の決定に大きな影響を与えるのだ。だからこそ、日本には学術会議は必要なく、政府から独立した新たな科学者による組織が必要なのだ。 第五章 イノベーションは感動である 本章ではイノベーションを起こした人物のエピソードと筆者が思う創発に必要な要素の紹介となっている。筆者はノーベル賞を受賞した人物や印象に残った人物を列挙したのち、その人たちは何かしらの唯一無二性と破天荒さがあるとした。また筆者は創発に必要な要素としてボーっとすることを挙げた。問題に対して集中することは良いことだが、脳の一部を使っていないため、画一的な考えになりがちである。そこでボーっとすることにより、脳全体を使う非集中状態になり、脳を本当に活用できるようになる。この状態になった時こそ素晴らしいアイデアが生まれやすいのだ。だからこそ創発にはあえてボーっとすることが必要なのだ。 第六章 日本はやはり集団主義がいい 本章では破壊的イノベーションを起こすのは個人主義だと前提を置いたうえで、日本が持つ集団主義の良さと米国に干渉されて集団主義を捨てようとしたことの弊害について述べられている。集団主義はプロジェクトを進めていく能力に長けているという。それは一致団結して成果を出そうとするからだ。故に筆者は集団主義の中に少しの個人主義がハイブリットされているのがイノベーションに最も適しているとした。一個人の際立った研究者を中心として、様々な集団が力強く成果を育てる。つまり発想は個人主義、完成は集団主義という役割分担こそが重要であり、日本という土壌はその役割分担が適しているのである。 第七章 日本型イノベーションのために 本章では集団主義の欠陥についてイノベーションに交えて述べられている。具体的には、「リスク・フリー」社会と突出した個人の排斥の二つだ。「リスク・フリー」社会とは危険を予測し、注意深く避けようとする社会のことを指す。この性質のおかげで安全に過ごせているのは事実であるが、リスクも大きい。それは企業や政府の思い切った施策の有無である。思い切った行動ができない集団は、すべての行動が手遅れになることが常である。我々はリターンを得るために、リスクを取ることにためらいがあってはいけないのだ。また集団主義では、非がある個人への攻撃はとても厳しく重い。それは「道理」という概念が存在するからだ。この見えない「道理」に縛られ、個人主義の人が自分の意見を言えずに窮屈そうにしている状況は現在の日本でよく散見される。しかし個人主義の破天荒なアイデアが無ければ破壊的イノベーションは生まれない。だからこそ現在の日本では個人主義と集団主義が共存できるような制度作りが必要であるし、日本の若い研究者は現状の制度にとらわれず自由な発想で、イノベーションの実現を目指すべきである。   前回の書評の際に先生が理系の学生や教授の待遇についておっしゃっていったので、その問題とイノベーションを掛け合わせた本の書評を行った。前回の書評では文系の学生や研究者が「共鳴」できる場所が必要であると論じていたが、本著では極端に言うと文系、特に政府の文官は理系の研究の邪魔をするなという内容だった。ここまで大きな差があることに驚きはあったが、私的にはこっちの意見の方が理系の学生が研究できる環境の整備に注力されることを考えるとよいものだと思う。今回の書評では理系人材の育成的な視点からイノベーションを見ることができたので、次回は文系のイノベーションについても注目していきたいと思う。 産経新聞出版 日本の問題は文系にある なぜ日本からイノベーションが消えたのか 著者 山本尚 2022年2月23日 初版発行

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書評『アメリカ合衆国における再生可能エネルギーの普及促進に関する近時の動向と法的課題(2)』

本論文は小林寛がアメリカ合衆国の再生可能エネルギー事業の動向と法的課題を考察し、日本への示唆を行っている。第1章から第5章までそれぞれ太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス・バイオ燃料について述べているが、地熱のみをピックアップして書評を書く。 第4章 第1節 アメリカ合衆国 1 近時の動向 ここではアメリカの地熱に対する動向が記述されている。 アメリカは地熱賦存量が世界1位であり、地熱発電設備容量においても世界最大とされている。1978年の公益事業規制法により設備容量は大幅に増加したが、1990年台の電力自由化により地熱発電の建設は鈍化した。しかし、2009年のオバマ政権時にアメリカ再生・再投資法により税額控除や148の地熱発電事業に投資したとされている。トランプ政権に交代後、エネルギー省の2018年度会計年度予算要求によると、地熱は7100万ドルから1250万ドルへと減額されたが地熱開発に係る連邦政府による支援は依然として存在している。 2 法規制の概要 ここではアメリカの法規制、特に地熱資源の所有権が誰に帰属するのかが記述されている。 地熱資源は連邦政府に規則する場合、私人に帰属する場合、州に帰属する場合の3つがある。地熱蒸気法は、連邦政府に帰属する地熱資源を鉱物として管理し、リースプログラムを通じて私人による開発が許されている。また、地表における権利が私人に譲渡された場合でも、鉱物に対する留保により地熱資源はアメリカに帰属する。さらに土地の所有権が私人に帰属している場合でも地熱開発の際には一定の規制がかかる。 地熱開発における経済的支援策は税額控除、交付税、エネルギー省による債務保証などがあるが、最も地熱開発を後押ししたのはオバマ政権時に成立したアメリカ再生・再投資法だ。現政権下(トランプ政権)では同胞に匹敵する経済的支援策は望めないが、低炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの普及促進に向けた支援策の策定・実行が期待されている。 3 課題 ここでは地熱開発の際の課題について3つ記述されている。 1つ目は環境汚染の懸念だ。環境上の課題として「大気質」、「水質」、「水資源の枯渇」、「生物の生息地や文化資源の衝突」の問題が挙げられる。地熱流体には少量のメタンや硫化水素。アンモニアが含まれているため大気環境に悪影響を与えうるとされているが、大気浄化法によって具体的な数値を出して規制されている。また水質汚濁についても一定基準のもとで規制されている。 2つ目は歴史的文化資源との関係だ。地熱発電所の敷地が温泉と関係しており、「しばしば歴史的文化資源であったり貴重な生物種の生息地であり、その様な式地上での問題は共存できない」との指摘がある。アメリカでは日本と異なり自然公園法や温泉権の問題よりも、国家歴史保存法などの連邦法及び先住民族に対する忠実義務との関係が大きい。 3つ目は手続面だ。地熱発電に係るリースは競売の手続を経て発行されているが、「競売の手続は、地熱資源について集中的に行う開発者のインセンティブを大幅に弱化させてしまう」という問題点が指摘されている。さらに土地管理局だけでなく、農務省林野部、野生生物部、国家海洋大気管理局および国立公園局といった多くの機関が関与している。1つの事柄について様々な機関が手続に関与することによりリースに係る手続が遅滞してしまうことも考えられる。 第2節 日本 1 近時の動向 ここでは日本の地熱発電の現状が書かれている。 日本の地熱資源量は、アメリカ。インドネシアに次いで世界第3位とされているが資源量に対する利用率は約2%の53万kWにすぎない。また、2012年に施行された電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法に基づく固定買取制度のもとでも、導入量は認定容量の7.9万kWに対し1万kWと著しく少ない。 2 法規制 ここでは地熱発電事業に適用される法律のうち、日本特有の自然公園方と温泉法について記述してある。 (1)自然公園法 自然公園法は、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的とする。同法により、国立・国定公園内における地熱発電事業は規制を受ける。しかし、東日本大震災の発生後、再生可能エネルギーの利用を促進するために、2012年通知により開発規制は緩和されることになった。さらに2015年通知が発出され2012年通知は廃止された。2012年通知においては、特別保護地区と第1種特別地区においても傾斜掘削が認められていなかったが、2015年通知においては第1種特別地区において一部、傾斜掘削が認められることになった。 (2)温泉法 温泉法によると、温泉をゆう出させる目的で土地を掘削しようとする者は、都道府県知事の許可を得なければならないとされている。地熱開発を行う際の掘削も「温泉」を「ゆう出させる目的」であれば都道府県知事の許可が必要になる。2012年3月に定められた環境省の「温泉資源の保護に関するガイドライン」は2014年に改正され許可が不要な掘削の類型化がなされた。これは例示的に列挙されたものであり、個別具体的な事情に基づいて判断することが必要だ。 3 課題 ここでは日本の温泉権についての課題が詳しく記述されている。 一般的な課題は「掘削成功率が低く、開発コストが高い」、「リードタイムが長い」、環境アセスメントや地元調整などに時間がかかる」などがあげられ、これはアメリカに共通するところがある。日本特有の課題は「国立公園問題、温泉問題」が挙げられる。 いかなる場合に、地熱開発が温泉権の侵害となるかだ。福岡高判昭和27年10月25日は、いかなる場合に権利の濫用として掘削行為の差止めを求めることができるのか、その判断基準は必ずしも明らかにしていない。しかし、湯口における湯の直接採取・管理に支障が生じるのは、温泉の湯量の減少または温度もしくは成分への影響によってである。つまり、地熱開発を行うにあたり、源泉や湯だまりに向けた掘削によって、客観的に温泉の油量、温度または成分に看過できない影響を与えたことにより、湯口における湯の採取、管理または利用に支障をきたすと認められる場合には、温泉権の侵害と評価するものと考えられる。そこで温泉権の侵害にならないためには、都道府県知事の許可に加え、適切な地盤調査、湯口から一定の距離を空ける、温泉の採取量に一定の限定を設けることなどが必要になる。 アメリカと日本の現状、課題が比較できたと思う。日米で似ているところもあれば違うところもあったので、良いところはどの様に取り入れるのか、悪いところはどの様にしたらその様にならないのかを考えることが必要だと感じた。 紀要論文 アメリカ合衆国における再生可能エネルギーの普及促進に関する近時の動向と法的課題(2) 2018年11月9日 公開 著者 小林寛

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書評 EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘

本書は元内閣官房参与の加藤康子が、自動車経済評論家の池田直渡とモータージャーナリストの岡崎五郎との鼎談を元に、言い足りなかった点をそれぞれが加筆して完成したものである。 第一章 ガソリン車からEVへのシフトに乗り遅れてはならないの嘘 一章ではEV化が日本に与える影響についてまとめられている。菅義偉総理が2020年10月の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラルの実現」を掲げ、脱炭素政策の目玉として、自動車産業においては電動化を推進し、2030年代半ばにガソリン車の新車販売を廃止するという方法を打ち出している。そのような動きに対して自工会の豊田章男会長は、 国内の乗用車400万台を全てEV化した場合、原発がプラス10基必要になることや、充電インフラの投資コストが約14兆円から37兆円必要になることや、電池の供給能力が今の30倍以上必要になることを説明している。次世代に向けてe-fuelという合成燃料も使用するべきとしている。e-fuelとは水素を中心にして二酸化炭素と化合させるなど様々な技術で作られる科学的で脱炭素な新世代の合成燃料の一種である。またさまざまな燃料と混ぜて使えるため、技術の進展と新しい燃料のコストダウンに応じて既存の産業と折り合いをつけながら、かつCO2の削減に向かって進んでいける優れものである。脱炭素をするにおいてEVに注力するのではなく、他の選択肢を作ることで柔軟に対応するべきだと主張している。 第二章 EVは環境に優しいの嘘 二章ではEV化したときの問題についてまとめられている。EV化したときの一番の問題点はEVに使われるリチウムイオンバッテリーに様々な課題があるところだと述べている。その一つとして品質に課題があるとしている。リチウムイオン電池は燃えると消化の方法がないため消え終わるまで待つしかなく、品質が低いと発火事故の危険性が懸念される。実際バッテリーが原因でリコールが起きているといい、2021年に現代の「KONA Electric」が15件の出火事故が発生したことを受け、950億円の費用をかけて約8万2000台をリコールするに至った。また原材料が足りないことも課題である。リチウムイオン電池の原材料には、主にコバルト、ニッケル、リチウムが使われているが、コバルトはあと20~30年で枯渇するといわれているため、数年後全車EV化をしたときには、コバルトなどの原材料は枯渇してなくなっている状態になると述べている。 第三章 EV推進は株価のため? 三章ではEV推進によって得をする人について取り上げている。ESG金融商品を販売する金融関係者、ファンドマネージャーや投資家などはこのEV化に旗を振ることによって得をすると説明している。 第四章 中国EV最新事情 「中国製造2025」を読み解く 四章では「中国製造2025」についてまとめられている。中国製造2025とは2015年に中華民族の復興のために発表された国家戦略、製造強国戦略であり、2025年までに製造強国入り、建国100周年(2045年)までに製造強国のトップグループ入りを果たすためのロードマップである。中国製造2025の中の国家戦略10項目では、次世代情報技術(5G、半導体)や省エネ・新エネ自動車、新素材といった自動車産業に密接に関わってくる分野が入っている。そのため中国の自動車販売の影には、中国共産党の惜しみない支援があり、中国自動車メーカーのNIO(ニオ)、BYD(ビーワイディー)、SGSM(上汽通用五菱汽車)は大きな勢いで成長している。そして低価格の超小型EVというジャンルを他国に先駆けて中国が確立しつつあると説明している。 第五章 テスラの何が凄くて何が駄目なのか? 五章ではテスラに焦点をあてている。テスラはEVマーケットを牽引してきた。2008年に発売された最初の車である「テスラロードスター」というスポーツカーは、英ロースターからシャシーの技術供与を受け、そこにバッテリーとモーターを組み込むという、改造車の域を脱しないモデルであった。また「ノートパソコン用のバッテリーを大量に積んでスポーティーに走るEVに仕立てる」というコンセプトであり、EV時代を切り開いた。「EVが次の時代のクルマだ」という印象を作りあげてきたところがテスラのすごさであると説明している。一方でテスラのダメなところとして、日本の主要な急速充電器は「CHAdeMO(チャデモ)」という日本を中心とした規格であるが、テスラの規格とは異なり変換アダプタが必要になるところであると説明している。 第六章 欧州が仕掛けるゲームチェンジの罠 六章では、EVに関するEUの動きを取り上げている。欧州が仕掛けるゲームチェンジとして以下の二つを挙げている。一つ目はガソリン車あるいはハイブリッド車からEVへのシフトである。二つ目は「LCA」という新しい概念の持ち出しである。いままでのEUのCO2規制戦略はCAFEという燃料製造&車両製造時のCO2排出は無視し、クルマが走行時にどれだけCO2を排出するかで評価する手法を取っていた。しかしながらLCAは異なり、「製品のライフサイクル全体を通してCO2をどのぐらい出すか」という評価手法である。これによってEUのメーカーは、CO2の排出量が少ない北欧やフランスでバッテリーを作って、ドイツの工場でEVに積むという作戦を取ることで、トータルの排出量を少なくすることができる。結果として「ドイツのEVは優秀だ」という絵柄を作ることができ、化石燃料を主としてバッテリーを製造している日本、中国、韓国に対抗することができると述べている。EUだけが勝つ仕組みが作られていると説明している。 第七章 トヨタという企業の真実 七章ではトヨタについてまとめられている。トヨタは2020年度に国内約300万台、海外約500万台、トヨタグループでは合計952万台生産しており世界販売台数一位の自動車企業であり、また世界企業番付のトップテンにいる企業でもある。現在トヨタは電気自動車を複数開発している。軽より小さな新規格のクルマ「C+pod」(シーポッド)や、スズキ、ダイハツとの軽EVの共同開発、スバルとのEV共同開発「UX300e」などがある。またウーブン・シティ構造というものを立てている。ウーブン・シティとはトヨタが開発する近未来スマート都市である。そして無人の自動運転のEVによって荷物を搬送するシステムがあらかじめ町に組み込まれていたり、地下道では完全無人運転が走ることができたりなど、街全体がクリーンで全自動化する実験的な街作りを目指していると説明している。 第八章 パリ協定の嘘 実現不可能なCO2削減目標を掲げるのはなぜか? 八章ではパリ協定について取り上げている。パリ協定とは2015に採択された気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定のことであり、産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑える目標を掲げ、加えて平均気温上昇「1.5度未満」を目指すものである。このパリ協定に対して、2017年に日本では経産省が試算した結果「2050年までには温室効果ガスを2013年に対して80%削減する必要がある」という結論に至り、この水準においては農林水産と、2、3の産業しか国内で許容されないことになり、到底達成できないものであると主張している。にもかかわらずメディアなどが「脱炭素」の反対意見を一切掲載せず、「SDGS」や「持続可能社会」など実態が何かわからないまま、どういうインパクトが国民経済、暮らし、雇用に起こりえるのかを国民が理解しないまま、ムードで話が進んでいってしまっていると筆者は批判している。 第九章 日本にEV成長戦略はあるのか 九章では今後の日本のEV成長について取り上げている。自動車産業は、国民にとって日本の経済を支える一番重要な産業であり、基幹産業である。そのため自動車産業が駄目になると日本経済は途上国並みになってしまうと述べている。今後ガソリン車を廃止し、オールEV化するというのは、生産設備・資源・インフラ・電源の面でも時間がかかるとし、その間をつなぐためのもの、補完するものとして、ハイブリッドの重要性は高いものであると説明している。そして段階的なCO2削減にハイブリッドはきわめて有効な現実的手段であるとしており、ハイブリッドこそがEVが成長していくための下支えをする重要な戦略であると主張している。 本書を通して脱炭素の中のEV化の現状や問題点などを深く知ることができた。筆者によって見方が異なってくると思うので、別の人の本を読んでEVについて多角的に見ることができるようにし、卒論を書くためにさらに理解を深めていきたいと思う。   ワニブックス EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘 2021年11月10日発行

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初の非正規春闘

労働組合がない会社のパートやアルバイトが個人加盟型の労働組合(ユニオン)に入って賃上げを求める「非正規春闘」が靴小売り大手ABCマートで初めて行われた。物価高の中時給が下がることに対し、総合サポートユニオンの提案で時給を10%上げる団体交渉が3回行われたが、6%の賃上げにとどまった。交渉した女性は「業績を考えれば不可能ではないのに、いくら売っても給料で認めてくれない。」と話す。またユニオン幹部は最低賃金の引き上げがないと全体の賃上げは進まないのが実態だとし、非正規春闘に参加するユニオンや労働者を増やし、来年以降も賃上げを求めていくという。 23/07/17 朝日新聞 21ページ

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男女共用水着 全国で採用の動き

長野県の市立中学校が今夏、水泳の授業に男女で同じデザインの水着を採用した。希望する生徒が着用できる選択制で、長袖の上着とハーフパンツをセットにしたセパレーツ型になっており肌を露出したくない、体形が気になる、などと感じる生徒が水泳の授業を安心して受けられるようデザインした製品である。着用した生徒は「足が動かしやすくて泳ぎやすかった。人によって好きな水着は違うので、選択肢が増えるのも良い」と話した。この水着の本格販売を今年度に始めた東京の学校用品メーカーフットマークによると、出荷状況から全国300校以上の小中学校が採用したとみられる。 23/07/14 朝日新聞 19ページ  

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書評 週刊東洋経済 2023年5月27日号 アニメ 熱狂のカラクリ

アニメは過去10年で市場規模が2倍以上に拡大した日本の急成長産業である。映画では興行収入100億円超えの作品が続々登場したり、動画配信サービスの普及で海外ファンも急増したりするなど、今やアニメは国民的カルチャーになり、大企業はアニメへの投資にアクセルを踏んでいる。一方で、アニメ制作現場が利益を得にくい構造や、横行するセクハラなどの根深い問題は依然として残っている。本書は長年の課題を抱えながらも、熱狂が渦巻くアニメビジネスの最前線を徹底取材した本である。   1 「熱狂アニメマネーの全貌」   このパートでは現在のアニメ産業についての全貌を世界でのアニメビジネスの動向、製作委員会の儲けのカラクリ、出版社のIPバブル、アニメーター賃金の「二極化」を中心に紹介している。 日本のアニメは世界で混沌すら巻き起こすムーブメントになっており、中国では3月に公開された「すずめの戸締り」が現地で興行収入150億円、アニメ映画「SLAM DANK」は同120億円を突破した。「すずめの戸締り」のワールドツアーに訪れ、現地のファンの多さを目にしたコミックス・ウェーブ・フィルムの角南一城常務は「もはや日本アニメはサブカルチャーではない。世界のメインカルチャーになったんだ」と述べている。また、国を挙げて関与しているサウジアラビアでは石油依存型社会からの脱却を課題に、エンタメ産業を成長分野の一つに選定しており、日本アニメの大ファンである皇太子を筆頭に政府系ファンドが東映や任天堂など日本のエンタメ企業に相次ぎ出資している。 また製作委員会に関しても製作委員会の参加企業や出資比率が複雑になっていることに加えて、ヒットに繋がりやすい有名原作のアニメ化権を取得しようと争奪戦になっており、企業間での衝突が激しいと紹介されている。 出版社もアニメ好況での恩恵を受けており、出版大手の集英社は「鬼滅の刃」、「呪術廻戦」などの爆発的ヒットにより、売上を拡大させている。さらに国内外から急増ずるIP需要や儲かるIPビジネスに対応すべく、各出版社は東映アニメーションや電通から中途で人材を引き抜き、ライツ事業の強化を行っていると紹介されている。 アニメーター賃金にも異変が起きている。日本アニメーター・演出協会が昨年行った最新のアンケート調査によれば、アニメーターの平均年収は455万円と4年前の調査から15万円の増加となっている。さらに腕のあるアニメーターに対しては「拘束費」として出来高とは別に一定額を上乗せし、アニメーターを確保する慣行があるが、最近では支払いが常態化しており、よいアニメーターを確保するため、ある制作会社は多額の「拘束費」を提示している。しかし、「動画」や「第二原画」を手掛ける若手アニメーターは月10万も稼げず、生活が厳しいままであるとアニメーターの賃金の「二極化」について説明されている。   2 「アニメで攻める日本企業」   このパートではアニメコンテンツを取り扱う企業の動向についてソニーやネットフリックスの現在や現代のアーティストとアニソンの関係を中心に紹介されている。 現在、ソニーの子会社であるアニプレックスは日本のアニメ業界における“台風の目”と呼ばれており、「鬼滅の刃」など大人気作品を多く手掛けている。同社は有力な制作スタジオを抱えると同時に社外の有名制作スタジオとのつながりも深く、業界からは「ヒットに対する欲望のスケールが他社のスタッフと違う」や「収益最大化への気概、企画・営業の実力ともに申し分ない」と畏怖の声ばかりだ。さらに近年、日本アニメの配信で世界最大級の米クランチロールを買収しており、さらにアニメ関連のビジネスを拡大していくと述べられている。 「黒船」と呼ばれているネットフリックスは2018年以降、日本の人気アニメ制作スタジオと業務提携を結んだり、既存アニメの配信だけではなくオリジナルアニメの製作にも進出したりとその大盤振る舞いは業界内外で話題となっていた。しかし、2022年4月以降オリジナルアニメや独占配信が会員獲得数に貢献しないことや原作側からの独占配信の不安により、同社は失速したと述べられている。 アニソンの勢いも凄まじく、2023年の「チェンソーマン」の「KICK BACK」(米津玄師)は総合チャートの首位攻防戦を繰り広げ、アニメ関連局のストリーミングチャートで26週連覇を果たした。近年のアニソンは作品と音楽の密接度が増えており、大手レコード会社社員は「ドラマより安定して結果が出る印象があり、作品との寄り添い方が深い程、爆発力につながる」と語る。さらにSpotifyが公開した2022年に海外で聴かれた日本の曲のランキングを見ると10曲中7曲をアニメ関連が占めており、アニメが世界で音楽を認知させる強力なチャネルであるとも紹介されている。   3 「アニメを知ろう!生かそう!」   このパートでは現在のアニメブームに置いて行かれないよう抑えるべき最新教養アニメや地域活性化などで注目されているアニメの聖地巡礼、AIがもたらすアニメ制作への影響について紹介されている。 昨今の社会で巻き起こっているアニメブームに置いて行かれないよう、読者向けに教養アニメをランキング形式で1位は「鬼滅の刃」、2位は「君の名は。」、3位は「ソードアート・オンライン」と3人の識者の意見を踏まえて紹介されている。特に1位の「鬼滅の刃」はアニメ化によって、原作漫画だけでは到達しえない社会現象を起こしている点や異業種とのコラボがかつてない規模で成功している点から非常に注目すべきアニメであると説明している。 そして、アニメのファンが作品の舞台となった地域を訪問する「聖地巡礼」と呼ばれる行為も地域活性化や観光復興策として注目されており、アニメの聖地が国内だけでなく海外からの誘客が期待できる貴重な観光資源であるとして各地方自治体から重宝されている。しかし、アニメ聖地を復興するうえで抱える課題もあり、「版権元から許諾を得ることに高いハードルを感じる」という意見や「著作権等の権利関係が分かりづらい」という意見が各地域から挙げられていると述べられている。 アニメ制作内でのAIの活用も検討されている。いち早く導入が検討されているのがアニメーターよりも人材不足が深刻な背景美術の制作で業界大手東映アニメーションでは2021年に先端技術を使用し、美術の前処理工程の時間を従来の約6分の1に大幅に短縮できたという事例を紹介している。そこからネットフリックスでAIを使ったショートアニメやキャラクターの動きにAIを用いるなどアニメ制作でのAIの活用を進めているが、著作権関係の問題や制作スタッフからの反発もあり、アニメ制作へのAIの導入には課題が多いと説明されている。   本書を読んで最新のアニメ業界の問題やアニメコンテンツを取り扱う企業の動向について深く知ることができた。今回はアニメ業界の踏み込んだ内容についての解説が多く、現在のアニメ業界の知見を深めることができた。そして、今まで読んできた書籍を参考にアニメ業界の問題を解決するための新モデルなどを卒業論文でまとめたいと思う。 東洋経済新報社 週刊東洋経済 2023年5月27日号 アニメ 熱狂のカラクリ 2023年5月22日発売 著者:週刊東洋経済編集部

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大規模言語モデルは新たな知能か

序章 本章では大規模言語モデルにより発達したチャットGPTなどのサービスの紹介。そしてこれからどんな汎用サービスが登場するのか。大規模言語モデルにより、生活や社会を良い意味でも悪い意味でも変えうると述べている。大規模言語モデルは、世界中の誰よりも多くの知識を蓄えら今後も急速に進化していくことが確実な人工知能システムであるが、価値観や正義感、身体性をもつことから生じる世界の理解がないことに注意が必要と述べる。本書では大規模言語モデルによる新たな知能との付き合い方を考えていく。 1章 大規模言語モデルはどんなことを可能にするだろうか この章では現行の大規模言語モデルで可能なことと、将来的に実現できそうなことや今後の関わり方が挙げられている。現在は文章の校正、要約、翻訳やプログラミングのサポート、言語を使った作品を作ったり、ウェブ検索エンジンの上位互換ともなっている。今までのウェブ検索ではユーザーの意図や要望を単語や短文を並べて指示していたが、大規模言語モデルではより自然な対話形式になっている。ウェブ検索サービスの収益モデルは検索連動型の広告であり、何かに困って解決策を探している人、買い物をしようとしている人が対象となる。これらの人がウェブ検索でなく対話サービスを主に使うようになると、大手ウェブ会社は大規模言語モデルの開発に投資し、実用化に向けて準備する必要があると筆者は述べている。また、これまでの機械学習は一般的な知識や法則をうまく活用することが出来ていなかったが、大規模言語モデルはそれを可能にし、演繹的帰納的なアプローチを組み合わせた推論が可能になる。筆者としてはこれらAIと共存しつつも人間がコントロールするものとして考えていくべきだという方向性だ。 2章「巨大なリスクと課題」 ここでは大規模言語モデルが秘める大きな可能性と危険性について述べられている。大規模言語モデルには存在しない情報を作り出してしまう致命的な問題がある。専門用語で幻覚とよばれるが、この幻覚により生成された誤情報が、人間や専門家に本物かどうか区別のつかないほど正確に見えてしまうことがある。複数の記憶が混ざり合い、新しい事実を作り出してしまう。この幻覚の解決策は人と同様の考え方や新たな手法により将来的には解決できるが、現時点では難しい。常にその情報や回答に疑問を持ち、自分で考えることが大切だと筆者は述べている。 第3章「機械はなぜ人のように話せないのか」 ここでは計算機を用いて言語学習を用いることが難しい理由や機械学習を用いた言語処理がどこまで達成できたのか述べられている。人を人たらしめているのは言語であるが、われわれ自身、言語の獲得や運用の仕方を理解できていないために、それを計算機に実現させることは難しいし、機械学習も同様であると筆者は述べている。多くの人は知能は大部分が意識上で制御され説明できると考えている。しかし、その大部分は無意識下で制御されている。これをハンガリー出身の科学者マイケル・ポランニーは「我々は語れる以上のことを知っている」と表現しており、明示できない暗黙知が存在することはポランニーのパラドックスと呼ばれている。まずは人間の言語の獲得方法や運用方法を理解すべきだと筆者は述べている。 第4章「シャノンの情報理論から大規模言語モデル登場前夜まで」 ここでは大規模言語モデルが登場するまでの発展の過程を順に紹介している。1948年の情報理論の発見から2018年頃の大規模言語モデル登場前まで。20世紀を代表する科学者クロード・シャノンは情報を数学的な枠組みでとらえ、計算機で制御できる方法を確立した。言葉の意味を無くし、その事象が起こるであろう確率のみで情報量を定義する大胆な抽象化を行なった。例えば「北海道で雪が降った」はありふれているので情報量は小さいが、「沖縄で雪が降った」は珍しいので情報量は大きい。情報量とそれを基盤に構築された情報理論により、情報を数学的枠組みで扱えるようになり、現在目にする計算機や通信技術が登場するまでになった。 第5章「大規模言語モデルの登場」 ここでは大規模言語モデルの仕組みと今後の進展について説明されている。大規模言語モデルは自己学習ができる。インターネットや書籍にいくらでも言語や画像がありそれを訓練データとして学習することで様々なスキルを獲得できる。2020年1月にジョンズ・ホプキンズ大学とオープンAIの研究者たちは大規模言語モデルには言語を蓄える際の「べき乗則」があることを発見した。新たな言語や情報を取り入れれば入れるほど言語モデルの性能は改善されるというものだ。これにより投資対効果が前もって予測できることや大きなモデルほど汎化能力が向上し、学習効率が改善することがわかった。そのため、MicrosoftやGoogleは莫大なパラメータ数や訓練データ量を利用し、性能を上げている。 第6章「大規模言語モデルはどのように動いているのか」 ここでは具体的に大規模言語モデルのシステムが具体的にどのように実現されているか説明されている。これはニューラルネットワークと呼ばれるモデルを利用して次にくる単語を予測している。人間の脳内のようにニューロンはシナプスで繋がった他のニューロンから情報を受け取る。ここではシステム内で用いられる誤差逆伝播法と注意機構という仕組みが取り上げられている。誤差逆伝播法はネットワークの予測と正解との誤差がニューラルネットワークの伝播と逆方向に流れる仕組みのこと。これにより各パラメータをどのように調整すれば最終的な予測結果が当たるようになるかを正確に求められるようになる。注意機構はデータの流れ方の動的な制御を実現する仕組みの一つ。例えば「足元に注意」の看板を目にすると、普段は気にならない足元からの接触感覚などに注目し、目を向ける。同様に注意機構は特定の情報に集中する仕組みを実現する。 終章「人は人以外の知能とどのように付き合うのか」 これまでにも人は人の能力をある面では越える様々な道具を使いこなしてきた。AIは間違いもするし、考え方も異なるちょっと変わった人として付き合うのはどうであるか。人間とAIが共存し、互いに学び合い、新たな世界を築くことが重要であると筆者は述べている。 ここまで大規模言語モデルが広まった理由や今後どういったアイデアが生まれてくるのかを学んだ。チャットGPTに経験を積ませたり、人間の性格を記憶させることで性能も上がっており、ニューラルネットワークの精度も上がれば人間と同じ感性をもったAIが生まれてくると思う。書評ではメタバースや大規模言語モデルを取り上げてきた。卒論では最新のAIに関連する技術とそれが日常生活に及ぼす影響を取り上げたい。   「大規模言語モデルは新たな知能か」Chat GPTが変えた世界 著 岡野原大輔

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第四章 事例研究の考察

第三章では、企業組織において認知的多様性を高めた結果成功した事例を3社取り上げた。第四章では3つの事例を考察し、「経営理念に対する共感度が様々な段階の人が組織に関わることで経営組織における認知的多様性が高まり、その維持には組織の流動性が重要である」ことを主張する。   セイコーインスツルは社外取締役によって、経営から創業家の圧力を弱めることが出来た。W・L・ゴア・アンド・アソシエーツ社はプロジェクトごとのチームで開発を行い、積極的に外部の意見も取り入れる流動的な組織づくりを行った。日本たばこ産業株式会社では「変な人」を採用することで、変化を恐れずに挑戦していく組織風土を作り出している。3つの事例の共通点として「一時的なつながり」であることが挙げられる。マシュー・サイドの著書の中で「最初は多様性豊かな集団でも、そのうち集団の主流派や多数派に引っ張られて(同化して)結局みな画一的な考え方になってしまうことがある。(中略)同じ組織に長い間いると、みな代わり映えしない考え方になってくる。」[1]という文章が印象的だった。認知的多様性を高めるために「同じようなものの見方や考え方の枠組みが似ている集団では集合知を発揮することが出来ない」ことは3章でも確認したが、その維持のためには流動性が重要である。3つの事例を再び確認すると、社内の利害関係にとらわれずに株主の視点から経営に関与する社外取締役の任期は、平均6年程度である。会社によっては任期を1年または2年に設定することもあり、数年で新しい人が就任することになる。プロジェクト・ベースの組織編成では、プロジェクトごとにチームが作られ、プロジェクトの新設・改廃・解散に伴ってかなりの人材、資源、知識が流動している。日本企業において通常一年周期で行われる採用は、違う価値観を持つ人材を組織に受け入れ、組織文化を見直す重要な機会である。同じように3章で確認した「社交性」が認知的多様性において重要であることは、社交性の中に流動的な要素が含まれているからである。 [1] p93

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書評 イノベーションはなぜ途絶えたか 科学立国日本の危機

本書の著者である山口栄一氏はNTTの基礎研究所に勤めたのち、その研究所の閉鎖から「21世紀政策研究所」でイノベーション戦略の研究を行った。筆者はその経験から日本のイノベーションの復活にはどのような解決策が必要なのか、そもそもイノベーションとは何なのかなどの様々な切り口でイノベーションについて記述している。 第一章 シャープの危機はなぜ起きたのか 第一章では日本におけるサイエンス型産業衰退の原因を台湾の鴻海精密工業に買収されたシャープの事例に沿って考察している。日本のエレクトロニクス産業は2012年3月期の決算発表時、シャープやソニー、Panasonicなどの大手電機メーカーが巨額の赤字を計上した。打開に向けてシャープは2016年8月、台湾の鴻海精密工業に出資を受けてその傘下に入った。しかし元来シャープは稀有なイノベーション型企業であった。大型カラー液晶や両開きの冷蔵庫などがその典型だろう。そんなシャープが大赤字を計上した理由を筆者は「山登りのワナ」と形容した。これはある山に登ってしまったら、その山に集中して他の山が見えなくなる、また見えたとしても登ることをやめることはできなくなっているという状況を指す。シャープにとってその山とは液晶事業のことであった。シャープの経営者は2005年までにすべてのテレビを液晶にと意気込んで成功を収めた。その成功から様々な工場を作り出したが、リーマンショックの影響で多くの在庫を抱え込み、大赤字へ転落してしまった。この集中からの転落の流れは研究者にも起こった。多くの時間とカネを液晶に集中させてしまったことで希少性の高い技術であった「光・電子デバイス」の競争力を落としてしまったのだ。元来あったイノベーションを生み出す精神も液晶の集中のために自由な研究が制限され、亡き者となってしまった。この「山登りのワナ」でシャープは転落の一途をたどったが、鴻海の傘下に入って視点が大きく変わった。具体的には鴻海が持つ価値のある所には必ずお金をつけるが、それ以外には全く付けないという精神である。この精神の影響でシャープは「山登りのワナ」から脱出したといえる。この「山登りのワナ」はシャープのみならずほとんどの大手電機メーカーが抱えていた問題だ。未知情報と既知情報の研究の天秤を傾けさせないことが、これからの日本企業に重要であるといえる。 第二章 なぜ米国は成功し、日本は失敗したか 第二章では米国のイノベーションの成功の理由をSBIRとし、遅れて導入した日本との違いについて言及している。筆者は本書でイノベーションの源泉はたびたびハイテクベンチャーにあるとしているが、サイエンス型ベンチャー企業は科学知を社会に役立つように具現化するリスクから投資の対象となりにくい。しかしその問題を解決したのがSBIR(スモール・ビジネス・イノベーション開発法)である。流れとしてはSBIRに応募して採用されると、最大15万ドルを賞金として獲得でき、チーム作りとビジネスモデルづくりを試みることができる。また実現可能と評価されると、最大150万ドルを賞金として獲得し、商業化に挑戦できるというものだ。このように、SBIRは無名の科学者を起業家にするスター誕生システムなのだ。その結果21世紀に入ってから、毎年2000人を超える無名の科学者をベンチャー起業家に仕立て、1983年から2015年までの33年間で2万6782社の技術ベンチャーが生まれた。こうして、米国は政府主導で大学や企業などの社会全体の関係機関が自律的に活動してイノベーションを加速させている「イノベーション・エコシステム」を作り出したのだ。では日本ではどうだろう。日本版SBIRである「中小企業技術革新制度」は99年2月から施工された。しかし、その実態は失敗に終わってしまった。その理由は三つあり、賞金の拠出が義務ではない、実績のない科学者をはじいた、解決すべき具体的な課題が与えられてない、である。どれも米国のSBIRでは導入されていたものであり、この三つの影響で日本のSBIRは形式的で意味のないものとなってしまった。米国が抱えていたサイエンス型ベンチャーの抱える問題を政府が解決しようという思想を全く理解してないからこそ起こった事象である。その後日本でも大学発のベンチャーを求めて様々な政策が実施されてきたが、ほとんどが失敗した。理由は簡単で国の助成金を若き科学者ではなく、大学教員に与えたからだ。日本で使える国税は限られている。無駄遣いすることなく、持続可能性を持つ新たな制度設計の構築が急がれる。 第三章 イノベーションはいかにして生まれるか ここでは筆者の理論である「イノベーション・ダイアグラム」を用いて今までの事例に対して再度解説を行っている。「イノベーション・ダイアグラム」とは筆者が作成した既知と未知に対する考えかたを指す。既知は開発によりイノベーションを起こし、いずれ頭打ちとなる。しかし、その既知から新たな知が生まれ、それが発展しその頭打ちとなった天井を壊す技術が生まれる(新たなイノベーションが発生する)という考え方である。筆者はこの中でイノベーションに重要であるのは、「共鳴場」であるとした。「共鳴場」とは創発(新たな知の創造)をゴールとする人間と、知の発展(既知の開発)をゴールとする人間が、お互いに認め合って研究をする環境のことを指す。過去の日本は企業の中央研究所という場所でこの「共鳴場」が確保されていた。しかし90年代に入り、多くの中央研究所は会社の意向により閉鎖してしまった。同じく中央研究所の閉鎖が起こっていた米国においては、知の創造と発展の交差点であるSBIR制度により新たな「共鳴場」を創造したことで、イノベーションが途絶えず発生し続けたと筆者は言う。さらにイノベーションに重要な要素として「回遊」を挙げている。「回遊」とは、分野などの障壁を超えて知を探求することを指し、「知の越境」とも言う。この異なる評価基準の世界へ既知を移動させることによって新たな価値を生み出すこともイノベーションであるという。以上のようにイノベーションにも種類が存在する。日本の大企業は既知を発展させるイノベーションを長く行ってきた。しかし、創造によって発生したイノベーションや回遊によって発生したイノベーションには既知からのイノベーションは太刀打ちできないのだ。だからこそ企業内に「共鳴場」を生み出し、自由な研究・開発が可能な場所を作り上げることが日本の企業には必要だといえる。 第四章 科学と社会を共鳴させる この章ではイノベーション以外の社会と科学のつながりであるトランス・サイエンスに注目し、事例を通じて我々や科学者がどう向き合うべきなのかについて記述している。まずトランス・サイエンスとは「科学に問いかけることはできるものの、科学には答えることのできない問題」、つまり科学と政治間に存在するわだかまりことであり、福島第一原発の問題などが例として挙げられる。筆者はこの問題の解決法として科学者と市民の対話が重要であるとし、その前提条件として科学者には社会リテラシーを市民には科学技術リテラシーが必要であると述べた。組織の中で科学者と経営者の対話が行われず失敗した例として筆者は福知山線脱線事故と福島第一原発事故の海水注入問題を挙げた。この二つの問題の根源として筆者はJRと東電双方にイノベーションを要しない組織だということを提示した。イノベーションを要しない組織の職員評価は減点法になりがちである。その環境では、リスクが発生した際にいかに最小限にとどめるかよりも、いかにリスクに近寄らないかという方向に発想が進む。この消極的な思考法が科学者(技術者)と経営者との対話をなくし、独占企業の技術経営力を低下させた挙句、悲惨な事故を起こしてしまったのだ。このようなトランス・サイエンス問題を乗り越えるために、各々に必要なリテラシーとイノベーション発想を身に着ける必要があるのだ。 第五章 イノベーションを生む社会システム 本章では「共鳴場」の形成方法を大学院と企業、社会の三つに分けて論述している。その一つとして筆者はイノベーション・ソムリエを作り出す大学院を提示している。それは二つ以上の分野を学ぶ大学院のことを指す。知の越境により問題を言語化し、解決するというプロセスは「創発」と「回遊」というイノベーションに必要な本質を体得するために必要であると筆者は言う。また「共鳴場」を企業に構築するために必要なのは部署の垣根を越えて知識を循環させることだという。経営者は現場の知識を常にくみ取る努力をすることで、共鳴場を常に維持し、スキルシフトを行わないことが重要である。さらに社会においては市民科学者社会の構築が重要であるとした。多くの人々が文理の概念を乗り越え、科学者が行っている「創発」のプロセスを理解しようと試みるその姿勢こそが必要なのだ。職業科学者と市民科学者がお互いの人生を理解し、共鳴場を築くことで、トランス・サイエンス問題の解決にもつながるだろう。 本書を通じて日本のイノベーション・モデルの不在こそが大きな問題であることがよく理解できた。そのうえで米国のSBIR制度のようにベンチャー企業こそがイノベーションの主役であることから、日本でもイノベーションを生み出せるハイテクベンチャーを支援する制度の構築が急務であると実感した。また筆者のいう「共鳴場」の作成は、科学者だけが意識すれば解決できる問題ではない。政府の構築する制度、企業体制、大学のシステム、一人一人の理解しようとする意識、そのすべてが揃うことでイノベーションの土壌が完成するのだと思う。このイノベーションを主体としたマインドセットに転換することで、日本が新たなステージに移行することを切に願う。また本書は2016年に刊行されたもので、今現在のイノベーションのシステムがどう変化したのかはとても気になる。次回の書評ではその点に重点をおいて学習を行いたい。   筑摩書房 イノベーションはなぜ途絶ええたか ―科学立国日本の危機― 著者 山口栄一 2016年12月22日 初版発行

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書評

本書では先行する各企業の具体的戦略から、来るべきメタバース経済圏の姿を描いている。 第1章「誰が政権を握るのか」 そもそもメタバースとは何か。メタバースが定着しつつある現在の状況を解説。 メタバースが流行した経緯。 メタバースとはインターネット上に構築された仮想空間のこと。2021年10月、メタバースという単語が全世界で急激にバズワード化した。GAFAMの一角であるフェイスブックがメタへと社名変更したことが理由だ。マークザッカーバーグCEOは「メタバースは私たちが最重視しているテーマの多くに関わっている。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)のようなもので『センスオブプレゼンス』を作り出し、次世代のコンピュータプラットフォームを構築したい。フェイスブックとの連携がうまくいけば、今後5年ほどの間に当社を主にソーシャルメディアと見ていた人たちに、効率的にメタバースの会社になったと思わせることができると考えている」と述べている。ここでのキーワードが「センスオブプレゼンス」という言葉。意味は没入感や実在感と訳されるが、バーチャルリアリティの最大の強みと言われてきた。メタバースは主にゲームのためのものだと考えられてきたが、ザッカーバーグ氏はメタバースを他のユーザーとのソーシャル体験の環境として提示しようとしていると考えている。 ビジネスチャンスはどこにあるか これを考えるうえで、ベンチャーキャピタルであるベンチャーリアリティファンドのティパタット・チェーンナワーシン氏が作成した資料を参考にする。ナワーシン氏はデジタルの生活圏を遊び、生活、仕事に分類している。重要な点はそれぞれの分野が重なるところに新しいビジネスが生まれてきていることだ。遊びと生活が重なる部分では、バーチャルコンサート、アバターを利用したファッションショーがすでに展開されている。生活と仕事が重なる部分では、YouTubeやInstagramなどのプラットフォームを通じて広告収入を得たり、グッズ販売したりしている。遊びと仕事が重なる部分ではビットコインに使われるブロックチェーン技術とゲームを組み合わせることでplay to earnという仕組みも広まっている。ナワーシン氏は今後メタバースが成長していくうえで、3つの環境が整う必要があると述べている。それは「持続的な仮想世界」「機能する経済」「相互運用性」である。「持続的な仮想世界」はメタバースがサービスとして持続できるようなコンピューティング環境が必要であるということ。「機能する経済」はメタバースが独自の経済圏として自立的に機能するための仕組みを指す。ここで一番難しいとされているのが「相互運用性」だ。メタバースは一社単独のサービスではなく、さまざまな企業が提供するサービスをストレスなく行き来できるようになってこそ真価を発揮すると考えられている。あるサービスを利用しているのと同じアバターで別のサービスを利用したいが、それぞれのサービスは独自に開発していることが多いため、フォーマットデータの違いをどのように統合するかが問題である。今後どのようにサービス間で共通のファイルフォーマット規格がつくれるかが重要であると筆者は述べている。 第2章「先駆者としてのゲーム企業」 ここではメタバースの源泉にもなった小説「スノウクラッシュ」から影響を受けたサービス「セカンドライフ」について説明されている。メタバースという言葉は1992年にニール・スティーヴンズが書いたSF小説「スノウクラッシュ」が初出とされている。この小説は1980年代に流行したサイバーコンピューティングと呼ばれる分野の小説。人間は現実世界に生きるだけでなく、自分の代わりとなる化身(アバター)を使い、コンピュータネットワーク上につくられた仮想空間(メタバース)でも暮らす二重生活を送っている。この当時には考えられなかった未来のコンピュータやテクノロジーの姿は多くの人の想像力を強く揺さぶったと言われている。この小説のメタバースに直接的に影響を受けた革新的サービスが2003年に始まる。それが米リンデンラボの「セカンドライフ」である。これは従来のゲームと異なり、目的がなく、コミュニティプラットフォームのようなサービスであった。ユーザーはサービス内の開発ツールを利用して、独自のコンテンツを作成することやアバターを作成し、髪型や服装も自由に変えることができた。さらにサービス内で登場する建物などの3Dオブジェクトさえも作成できた。ここでは仮想通貨「リンデンドル」というものも使われて他のユーザーと取引できるサービスも備わっていた。2007年にiPhoneが登場し、スマートフォンの時代になるとFacebookやInstagram、Twitter等のSNSにとって代わられ、一度セカンドライフの存在は忘れられてしまうが、これが後のフォートナイト、ロブロックスといった大人気ゲームやメタバースの源泉となっている。 第3章「メタ・プラットフォームズの野望」 ここではメタバース分野を牽引するメタ・プラットフォームズの戦略について分析。没入感あるいは実在感と訳されるセンスオブプレゼンスはVRやARといった技術革新の重要な要素としてザッカーバーグ氏が繰り返し強調してきた。メタ社が他の企業と大きく異なる点はVRやARといったXR(クロスリアリティ)を事業の中心としてメタバースの展開を進めていることだ。 独自のサービス「ホライズンワールド」 ホライズンワールドはVRゴーグル、クエスト2向けに展開されているサービス。2021年12月から北米で正式サービスを開始しており、ゲームなどのアプリと並ぶ、今後のメタの主力事業として位置付けられている。ユーザーはVR空間内に用意されている独自ツールを使って、オブジェクトを作成したり、配置したり自分専用のバーチャル空間(ワールド)を持ち、カスタマイズできる。自由に3Dモデルをデザインできるツールが組み込まれているので、それを利用して建物や小物などを作成し、配置することもできる。ただ2022年6月時点ではサービスがアメリカ、カナダ、イギリスに限られており、同年2月のアクティブユーザーも30万人程度なので、数多くのユーザーが常時使うまでには程遠い状態だ。今後はfacebookやInstagramと連携を深めて集客を測る予定だ。メタ社はこれまで独自でハードウエア製品を持っておらず、アップル社が保有するスマートフォン上ではアップルの条件を受け入れながらビジネスを展開するしかなかった。この経験を通して、ザッカーバーグ氏は次世代の主流になるハードウエアを自社で持つという野望を強めたと考えられている。 第4章「猛追するマイクロソフトと、その他GAFA」 ここではメタ社以外のGAFAMのメタバースに関連する各社戦略について解説。マイクロソフトは最短で2023年に新型MR(mixed reality)デバイスを発売予定。自社のXboxや同社が持つさまざまなサービスをリアルタイム3Dを使い、統合する環境を整備していくと考えられている。 2022年1月、ゲーム業界に衝撃が走る。マイクロソフトがゲーム会社大手のアクティビジョン・ブリザードを約7兆8,000億円で買収した。この買収でゲームが同社のメタバース戦略の中核となることをアピールした。マイクロソフトは他にもマインクラフトの開発企業であるスウェーデンのインディーズガー会社モヤンを約2680億円で買収している。家庭用ゲーム機市場で優位に立つという目的以外に、取得した技術を公開することで、メタバースを誰もが作りやすくするという目的がある。スマートフォンの分野ではAppleやGoogleに敗北しているが、既存のサービスのクラウド化を進めることでビジネスモデル転換に成功している(マイクロソフト365)。ゲーム事業への投資拡大は好調な事業の業績を受けての戦略的拡大である。 Googleは技術への投資を通して、単発の製品やサービスでは目を見張る成功事例を挙げてはいるものの、それら技術をひとつなぎに し、大きな世界観を作り出すことはあまり得意ではない。成功しているアプリとしてはVR分野だとYouTube VRやGoogle Earth VRといった3D立体動画や360度映像がある。しかしほぼ無料でサービス提供されていたため、ビジネスモデルの確立には至らなかった。Googleはメタバースのような包括的なサービスを展開するよりも、要素技術の拡張を通して、AR機能を強化し、スマートフォンのAndroid OSをコントロールできる強みを活かした戦略を取っていくことが考えられる。 Appleはソフトウェアサービスを自ら展開するより、ハードウェア販売に徹し、ソフトはプラットフォーム上で展開する企業により実現されれば良いという考え方だ。アプリ経済圏を維持したまま、VRデバイスでも現状のハード中心の戦略を目指している。 クラウドゲームがメタバースの主戦場になる傾向がある。そのためメタ社は巨大なデータセンターを世界中に12ヶ所ももつAmazonと提携した。今後はメタが開発したAIの基盤をAWSで動かせるようにするといった研究開発用途や、買収した企業がAWSを使っていた場合にそのまま利用できるようにすることが考えられる。 第5章「新興企業に勝ち目はあるか」 この章では新興勢力として登場してきたAR技術中心のメタバースを作ろうとしているポケモンgoで知られるナイアンティック社やブロックチェーン技術を中心に展開するザ・サンドボックス等の実情が紹介されている。ポケモンGOはリリース直後100万人近くの月間利用者数がいたが、今は30〜40万人程度で横ばいになっている。それでもヘビーユーザーが多くいるのが現状。ゲームを有利に進めるためのアイテムや限定ポケモンをゲットするために必要な参加チケットの販売を通して売り上げを出している。ザ・サンドボックスはplay to Earnと呼ばれる稼ぐために遊ぶゲーム。自らが所有する土地にボクセル調と呼ばれるブロックで作られた3Dオブジェクトを配置して自由にゲームを作ることができる。そこで使うオブジェクトや土地はNFT化して取引所に売り出すことで、暗号資産に交換可能。各ゲームはさまざまな企業とのコラボで信頼や人気を高めるが、メタバースに参入する際にいくつかの難点がある。1つは暗号資産に応じてNFTの価値も変動してしまうこと。2つ目は国によってはギャンブル行為とみなされ、処罰される対象となる可能性があること。この要因がメタバース参入への難しさだと筆者は述べている。 第6章「2026年のメタバースビジネス」はこの章でメタバースが近い将来どういったものになっているのか筆者の持論と共に紹介されている。2021年米サンダス映画祭で発表された映画「We Met in Virtual Reality(私たちはVRで会った)」という作品がある。2人の主人公は遠距離恋愛をしており、女の子の親がコロナで亡くなってしまったということを受け、たくさんのランタンが仮想空間の空へと解き放たれる様子が描写される。現実世界での悲しみや孤独を抱えた少女の避難場所としてVR空間が機能している側面が見えてくる。現実と仮想の融合は短期的には人間がお互いを支え合う世界を広げていけるかどうかが普及するうえでの鍵。長期的には人間が時間や空間の制限を超えて存在するための方法として広がっていくのではと筆者は考える。メタバースに外見も反応も自分そっくりの存在がいるのだとしたら、私とは、自分とは何であるか。メタバースという技術はデジタル上で不死を生み出すことに最終的には向かっていくと筆者は考える。 ここまでGAFA各社の戦略やメタバース人口を増やすための取り組みや弊害などを学んだ。今後はメタバースに止まらず、NFTやチャットGPTといったAIについても理解を深めていきたい。 「メタバースビジネス覇権戦争」2022年8月10日  著者:新 清士

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