【書評】スポーツマネジメント論――アメリカの大学スポーツビジネスに学ぶ

本書は東京五輪を契機として、今後必要と思われるスポーツに関わる環境整備、人材育成、ビジネス、社会貢献、コーチング、そしてリスクマネジメントなど、スポーツにおけるマネジメント業務のための入門・解説書として書かれた一冊である。

本書はアメリカの大学スポーツ界の先進事例を中心として1.2章では運営形態や経済効果について解説し、3.4章ではオリンピックや社会貢献と結びつけて論じ、5.6章ではコーチングやリスクマネジメントのような人材育成について論じられている。
日本では競技ごとに独立した運営団体を持ち、球技ごとに決められた規則に則って活動を行うが、アメリカではNCAA(全米体育協会)のような大学スポーツを取りまとめる団体が存在し、その団体が規約の作定、収益分配などの運営を統一的に行う。統一した規約の中でも最も重視されるのは学業最優先の原則である。これは、学業とスポーツ競技双方での成功を目指し、心身ともに健全な人格形成を促すことで人生の成功へと導こうというトータルパーソンプログラムが元になったもので、学生アスリートはGPAや単位取得数で基準に達しなければ出場資格を得ることはできない。そのため大学は学業サポートの仕組みを手厚く作っている。また、日本では一般的に1つの競技を年中行うことができるが、アメリカでは競技を行う季節や週あたりの時間に制限があり、多くの選手が複数の競技に参加する。これは希少な人材を共有し人材不足を補うことの他に、特定の筋肉や関節をオーバーユーズすることによる怪我を防ぐリスクマネジメントとしての意味合いもある。
アメリカの大学スポーツチームの運営は、体育局とよばれるプロの職員で行われているが、大学から予算をもらうのではなく独立採算で賄われている。収入は、放映料やチケット売上などの他に、スタジアムなどの設備のネーミングライツや企業や住民からの寄付で成り立っている。このように社会からの支援で成り立っている分、地域への社会貢献活動が重要なものであり、教育支援や災害支援、ホームレスへの炊き出しなど、地域のニーズに応える形での地域貢献を年間を通して行っている。日本の大学でもスポーツ組織を単なるスポーツ振興の延長としてだけ捉えるのではなく、社会の発展に寄与できる組織として、社会と問題解決に取り組める組織ときて進化させることが望ましい。

大学のスポーツビジネス、マネジメントを学ぶためにこの本を読んだ。アメリカの大学スポーツでは、ただ組織規模が大きいのではなく、組織として学業重視や怪我防止による人材育成や地域貢献を徹底していることが分かった。新聞記事によると日本版NCAAを作ろうという動きが進んでいる。アメリカとは風土や環境がかなり異なるため、そのまますっぽり当てはめることは難しいので、日本に合った形でのNCAAを長期的な計画をもって進めていくことが大切だと感じた。
2015年10月出版 著 吉田良治 昭和堂

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