大規模言語モデルは新たな知能か

序章

本章では大規模言語モデルにより発達したチャットGPTなどのサービスの紹介。そしてこれからどんな汎用サービスが登場するのか。大規模言語モデルにより、生活や社会を良い意味でも悪い意味でも変えうると述べている。大規模言語モデルは、世界中の誰よりも多くの知識を蓄えら今後も急速に進化していくことが確実な人工知能システムであるが、価値観や正義感、身体性をもつことから生じる世界の理解がないことに注意が必要と述べる。本書では大規模言語モデルによる新たな知能との付き合い方を考えていく。

1章 大規模言語モデルはどんなことを可能にするだろうか

この章では現行の大規模言語モデルで可能なことと、将来的に実現できそうなことや今後の関わり方が挙げられている。現在は文章の校正、要約、翻訳やプログラミングのサポート、言語を使った作品を作ったり、ウェブ検索エンジンの上位互換ともなっている。今までのウェブ検索ではユーザーの意図や要望を単語や短文を並べて指示していたが、大規模言語モデルではより自然な対話形式になっている。ウェブ検索サービスの収益モデルは検索連動型の広告であり、何かに困って解決策を探している人、買い物をしようとしている人が対象となる。これらの人がウェブ検索でなく対話サービスを主に使うようになると、大手ウェブ会社は大規模言語モデルの開発に投資し、実用化に向けて準備する必要があると筆者は述べている。また、これまでの機械学習は一般的な知識や法則をうまく活用することが出来ていなかったが、大規模言語モデルはそれを可能にし、演繹的帰納的なアプローチを組み合わせた推論が可能になる。筆者としてはこれらAIと共存しつつも人間がコントロールするものとして考えていくべきだという方向性だ。

2章「巨大なリスクと課題」

ここでは大規模言語モデルが秘める大きな可能性と危険性について述べられている。大規模言語モデルには存在しない情報を作り出してしまう致命的な問題がある。専門用語で幻覚とよばれるが、この幻覚により生成された誤情報が、人間や専門家に本物かどうか区別のつかないほど正確に見えてしまうことがある。複数の記憶が混ざり合い、新しい事実を作り出してしまう。この幻覚の解決策は人と同様の考え方や新たな手法により将来的には解決できるが、現時点では難しい。常にその情報や回答に疑問を持ち、自分で考えることが大切だと筆者は述べている。

第3章「機械はなぜ人のように話せないのか」

ここでは計算機を用いて言語学習を用いることが難しい理由や機械学習を用いた言語処理がどこまで達成できたのか述べられている。人を人たらしめているのは言語であるが、われわれ自身、言語の獲得や運用の仕方を理解できていないために、それを計算機に実現させることは難しいし、機械学習も同様であると筆者は述べている。多くの人は知能は大部分が意識上で制御され説明できると考えている。しかし、その大部分は無意識下で制御されている。これをハンガリー出身の科学者マイケル・ポランニーは「我々は語れる以上のことを知っている」と表現しており、明示できない暗黙知が存在することはポランニーのパラドックスと呼ばれている。まずは人間の言語の獲得方法や運用方法を理解すべきだと筆者は述べている。

第4章「シャノンの情報理論から大規模言語モデル登場前夜まで」

ここでは大規模言語モデルが登場するまでの発展の過程を順に紹介している。1948年の情報理論の発見から2018年頃の大規模言語モデル登場前まで。20世紀を代表する科学者クロード・シャノンは情報を数学的な枠組みでとらえ、計算機で制御できる方法を確立した。言葉の意味を無くし、その事象が起こるであろう確率のみで情報量を定義する大胆な抽象化を行なった。例えば「北海道で雪が降った」はありふれているので情報量は小さいが、「沖縄で雪が降った」は珍しいので情報量は大きい。情報量とそれを基盤に構築された情報理論により、情報を数学的枠組みで扱えるようになり、現在目にする計算機や通信技術が登場するまでになった。

第5章「大規模言語モデルの登場」

ここでは大規模言語モデルの仕組みと今後の進展について説明されている。大規模言語モデルは自己学習ができる。インターネットや書籍にいくらでも言語や画像がありそれを訓練データとして学習することで様々なスキルを獲得できる。2020年1月にジョンズ・ホプキンズ大学とオープンAIの研究者たちは大規模言語モデルには言語を蓄える際の「べき乗則」があることを発見した。新たな言語や情報を取り入れれば入れるほど言語モデルの性能は改善されるというものだ。これにより投資対効果が前もって予測できることや大きなモデルほど汎化能力が向上し、学習効率が改善することがわかった。そのため、MicrosoftやGoogleは莫大なパラメータ数や訓練データ量を利用し、性能を上げている。

第6章「大規模言語モデルはどのように動いているのか」

ここでは具体的に大規模言語モデルのシステムが具体的にどのように実現されているか説明されている。これはニューラルネットワークと呼ばれるモデルを利用して次にくる単語を予測している。人間の脳内のようにニューロンはシナプスで繋がった他のニューロンから情報を受け取る。ここではシステム内で用いられる誤差逆伝播法と注意機構という仕組みが取り上げられている。誤差逆伝播法はネットワークの予測と正解との誤差がニューラルネットワークの伝播と逆方向に流れる仕組みのこと。これにより各パラメータをどのように調整すれば最終的な予測結果が当たるようになるかを正確に求められるようになる。注意機構はデータの流れ方の動的な制御を実現する仕組みの一つ。例えば「足元に注意」の看板を目にすると、普段は気にならない足元からの接触感覚などに注目し、目を向ける。同様に注意機構は特定の情報に集中する仕組みを実現する。

終章「人は人以外の知能とどのように付き合うのか」

これまでにも人は人の能力をある面では越える様々な道具を使いこなしてきた。AIは間違いもするし、考え方も異なるちょっと変わった人として付き合うのはどうであるか。人間とAIが共存し、互いに学び合い、新たな世界を築くことが重要であると筆者は述べている。

ここまで大規模言語モデルが広まった理由や今後どういったアイデアが生まれてくるのかを学んだ。チャットGPTに経験を積ませたり、人間の性格を記憶させることで性能も上がっており、ニューラルネットワークの精度も上がれば人間と同じ感性をもったAIが生まれてくると思う。書評ではメタバースや大規模言語モデルを取り上げてきた。卒論では最新のAIに関連する技術とそれが日常生活に及ぼす影響を取り上げたい。

 

「大規模言語モデルは新たな知能か」Chat GPTが変えた世界

著 岡野原大輔

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第四章 事例研究の考察

第三章では、企業組織において認知的多様性を高めた結果成功した事例を3社取り上げた。第四章では3つの事例を考察し、「経営理念に対する共感度が様々な段階の人が組織に関わることで経営組織における認知的多様性が高まり、その維持には組織の流動性が重要である」ことを主張する。

 

セイコーインスツルは社外取締役によって、経営から創業家の圧力を弱めることが出来た。W・L・ゴア・アンド・アソシエーツ社はプロジェクトごとのチームで開発を行い、積極的に外部の意見も取り入れる流動的な組織づくりを行った。日本たばこ産業株式会社では「変な人」を採用することで、変化を恐れずに挑戦していく組織風土を作り出している。3つの事例の共通点として「一時的なつながり」であることが挙げられる。マシュー・サイドの著書の中で「最初は多様性豊かな集団でも、そのうち集団の主流派や多数派に引っ張られて(同化して)結局みな画一的な考え方になってしまうことがある。(中略)同じ組織に長い間いると、みな代わり映えしない考え方になってくる。」[1]という文章が印象的だった。認知的多様性を高めるために「同じようなものの見方や考え方の枠組みが似ている集団では集合知を発揮することが出来ない」ことは3章でも確認したが、その維持のためには流動性が重要である。3つの事例を再び確認すると、社内の利害関係にとらわれずに株主の視点から経営に関与する社外取締役の任期は、平均6年程度である。会社によっては任期を1年または2年に設定することもあり、数年で新しい人が就任することになる。プロジェクト・ベースの組織編成では、プロジェクトごとにチームが作られ、プロジェクトの新設・改廃・解散に伴ってかなりの人材、資源、知識が流動している。日本企業において通常一年周期で行われる採用は、違う価値観を持つ人材を組織に受け入れ、組織文化を見直す重要な機会である。同じように3章で確認した「社交性」が認知的多様性において重要であることは、社交性の中に流動的な要素が含まれているからである。

[1] p93

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書評 イノベーションはなぜ途絶えたか 科学立国日本の危機

本書の著者である山口栄一氏はNTTの基礎研究所に勤めたのち、その研究所の閉鎖から「21世紀政策研究所」でイノベーション戦略の研究を行った。筆者はその経験から日本のイノベーションの復活にはどのような解決策が必要なのか、そもそもイノベーションとは何なのかなどの様々な切り口でイノベーションについて記述している。

第一章 シャープの危機はなぜ起きたのか

第一章では日本におけるサイエンス型産業衰退の原因を台湾の鴻海精密工業に買収されたシャープの事例に沿って考察している。日本のエレクトロニクス産業は2012年3月期の決算発表時、シャープやソニー、Panasonicなどの大手電機メーカーが巨額の赤字を計上した。打開に向けてシャープは2016年8月、台湾の鴻海精密工業に出資を受けてその傘下に入った。しかし元来シャープは稀有なイノベーション型企業であった。大型カラー液晶や両開きの冷蔵庫などがその典型だろう。そんなシャープが大赤字を計上した理由を筆者は「山登りのワナ」と形容した。これはある山に登ってしまったら、その山に集中して他の山が見えなくなる、また見えたとしても登ることをやめることはできなくなっているという状況を指す。シャープにとってその山とは液晶事業のことであった。シャープの経営者は2005年までにすべてのテレビを液晶にと意気込んで成功を収めた。その成功から様々な工場を作り出したが、リーマンショックの影響で多くの在庫を抱え込み、大赤字へ転落してしまった。この集中からの転落の流れは研究者にも起こった。多くの時間とカネを液晶に集中させてしまったことで希少性の高い技術であった「光・電子デバイス」の競争力を落としてしまったのだ。元来あったイノベーションを生み出す精神も液晶の集中のために自由な研究が制限され、亡き者となってしまった。この「山登りのワナ」でシャープは転落の一途をたどったが、鴻海の傘下に入って視点が大きく変わった。具体的には鴻海が持つ価値のある所には必ずお金をつけるが、それ以外には全く付けないという精神である。この精神の影響でシャープは「山登りのワナ」から脱出したといえる。この「山登りのワナ」はシャープのみならずほとんどの大手電機メーカーが抱えていた問題だ。未知情報と既知情報の研究の天秤を傾けさせないことが、これからの日本企業に重要であるといえる。

第二章 なぜ米国は成功し、日本は失敗したか

第二章では米国のイノベーションの成功の理由をSBIRとし、遅れて導入した日本との違いについて言及している。筆者は本書でイノベーションの源泉はたびたびハイテクベンチャーにあるとしているが、サイエンス型ベンチャー企業は科学知を社会に役立つように具現化するリスクから投資の対象となりにくい。しかしその問題を解決したのがSBIR(スモール・ビジネス・イノベーション開発法)である。流れとしてはSBIRに応募して採用されると、最大15万ドルを賞金として獲得でき、チーム作りとビジネスモデルづくりを試みることができる。また実現可能と評価されると、最大150万ドルを賞金として獲得し、商業化に挑戦できるというものだ。このように、SBIRは無名の科学者を起業家にするスター誕生システムなのだ。その結果21世紀に入ってから、毎年2000人を超える無名の科学者をベンチャー起業家に仕立て、1983年から2015年までの33年間で2万6782社の技術ベンチャーが生まれた。こうして、米国は政府主導で大学や企業などの社会全体の関係機関が自律的に活動してイノベーションを加速させている「イノベーション・エコシステム」を作り出したのだ。では日本ではどうだろう。日本版SBIRである「中小企業技術革新制度」は99年2月から施工された。しかし、その実態は失敗に終わってしまった。その理由は三つあり、賞金の拠出が義務ではない、実績のない科学者をはじいた、解決すべき具体的な課題が与えられてない、である。どれも米国のSBIRでは導入されていたものであり、この三つの影響で日本のSBIRは形式的で意味のないものとなってしまった。米国が抱えていたサイエンス型ベンチャーの抱える問題を政府が解決しようという思想を全く理解してないからこそ起こった事象である。その後日本でも大学発のベンチャーを求めて様々な政策が実施されてきたが、ほとんどが失敗した。理由は簡単で国の助成金を若き科学者ではなく、大学教員に与えたからだ。日本で使える国税は限られている。無駄遣いすることなく、持続可能性を持つ新たな制度設計の構築が急がれる。

第三章 イノベーションはいかにして生まれるか

ここでは筆者の理論である「イノベーション・ダイアグラム」を用いて今までの事例に対して再度解説を行っている。「イノベーション・ダイアグラム」とは筆者が作成した既知と未知に対する考えかたを指す。既知は開発によりイノベーションを起こし、いずれ頭打ちとなる。しかし、その既知から新たな知が生まれ、それが発展しその頭打ちとなった天井を壊す技術が生まれる(新たなイノベーションが発生する)という考え方である。筆者はこの中でイノベーションに重要であるのは、「共鳴場」であるとした。「共鳴場」とは創発(新たな知の創造)をゴールとする人間と、知の発展(既知の開発)をゴールとする人間が、お互いに認め合って研究をする環境のことを指す。過去の日本は企業の中央研究所という場所でこの「共鳴場」が確保されていた。しかし90年代に入り、多くの中央研究所は会社の意向により閉鎖してしまった。同じく中央研究所の閉鎖が起こっていた米国においては、知の創造と発展の交差点であるSBIR制度により新たな「共鳴場」を創造したことで、イノベーションが途絶えず発生し続けたと筆者は言う。さらにイノベーションに重要な要素として「回遊」を挙げている。「回遊」とは、分野などの障壁を超えて知を探求することを指し、「知の越境」とも言う。この異なる評価基準の世界へ既知を移動させることによって新たな価値を生み出すこともイノベーションであるという。以上のようにイノベーションにも種類が存在する。日本の大企業は既知を発展させるイノベーションを長く行ってきた。しかし、創造によって発生したイノベーションや回遊によって発生したイノベーションには既知からのイノベーションは太刀打ちできないのだ。だからこそ企業内に「共鳴場」を生み出し、自由な研究・開発が可能な場所を作り上げることが日本の企業には必要だといえる。

第四章 科学と社会を共鳴させる

この章ではイノベーション以外の社会と科学のつながりであるトランス・サイエンスに注目し、事例を通じて我々や科学者がどう向き合うべきなのかについて記述している。まずトランス・サイエンスとは「科学に問いかけることはできるものの、科学には答えることのできない問題」、つまり科学と政治間に存在するわだかまりことであり、福島第一原発の問題などが例として挙げられる。筆者はこの問題の解決法として科学者と市民の対話が重要であるとし、その前提条件として科学者には社会リテラシーを市民には科学技術リテラシーが必要であると述べた。組織の中で科学者と経営者の対話が行われず失敗した例として筆者は福知山線脱線事故と福島第一原発事故の海水注入問題を挙げた。この二つの問題の根源として筆者はJRと東電双方にイノベーションを要しない組織だということを提示した。イノベーションを要しない組織の職員評価は減点法になりがちである。その環境では、リスクが発生した際にいかに最小限にとどめるかよりも、いかにリスクに近寄らないかという方向に発想が進む。この消極的な思考法が科学者(技術者)と経営者との対話をなくし、独占企業の技術経営力を低下させた挙句、悲惨な事故を起こしてしまったのだ。このようなトランス・サイエンス問題を乗り越えるために、各々に必要なリテラシーとイノベーション発想を身に着ける必要があるのだ。

第五章 イノベーションを生む社会システム

本章では「共鳴場」の形成方法を大学院と企業、社会の三つに分けて論述している。その一つとして筆者はイノベーション・ソムリエを作り出す大学院を提示している。それは二つ以上の分野を学ぶ大学院のことを指す。知の越境により問題を言語化し、解決するというプロセスは「創発」と「回遊」というイノベーションに必要な本質を体得するために必要であると筆者は言う。また「共鳴場」を企業に構築するために必要なのは部署の垣根を越えて知識を循環させることだという。経営者は現場の知識を常にくみ取る努力をすることで、共鳴場を常に維持し、スキルシフトを行わないことが重要である。さらに社会においては市民科学者社会の構築が重要であるとした。多くの人々が文理の概念を乗り越え、科学者が行っている「創発」のプロセスを理解しようと試みるその姿勢こそが必要なのだ。職業科学者と市民科学者がお互いの人生を理解し、共鳴場を築くことで、トランス・サイエンス問題の解決にもつながるだろう。

本書を通じて日本のイノベーション・モデルの不在こそが大きな問題であることがよく理解できた。そのうえで米国のSBIR制度のようにベンチャー企業こそがイノベーションの主役であることから、日本でもイノベーションを生み出せるハイテクベンチャーを支援する制度の構築が急務であると実感した。また筆者のいう「共鳴場」の作成は、科学者だけが意識すれば解決できる問題ではない。政府の構築する制度、企業体制、大学のシステム、一人一人の理解しようとする意識、そのすべてが揃うことでイノベーションの土壌が完成するのだと思う。このイノベーションを主体としたマインドセットに転換することで、日本が新たなステージに移行することを切に願う。また本書は2016年に刊行されたもので、今現在のイノベーションのシステムがどう変化したのかはとても気になる。次回の書評ではその点に重点をおいて学習を行いたい。

 

筑摩書房 イノベーションはなぜ途絶ええたか ―科学立国日本の危機―

著者 山口栄一 2016年12月22日 初版発行

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書評

本書では先行する各企業の具体的戦略から、来るべきメタバース経済圏の姿を描いている。

第1章「誰が政権を握るのか」

そもそもメタバースとは何か。メタバースが定着しつつある現在の状況を解説。

メタバースが流行した経緯。

メタバースとはインターネット上に構築された仮想空間のこと。2021年10月、メタバースという単語が全世界で急激にバズワード化した。GAFAMの一角であるフェイスブックがメタへと社名変更したことが理由だ。マークザッカーバーグCEOは「メタバースは私たちが最重視しているテーマの多くに関わっている。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)のようなもので『センスオブプレゼンス』を作り出し、次世代のコンピュータプラットフォームを構築したい。フェイスブックとの連携がうまくいけば、今後5年ほどの間に当社を主にソーシャルメディアと見ていた人たちに、効率的にメタバースの会社になったと思わせることができると考えている」と述べている。ここでのキーワードが「センスオブプレゼンス」という言葉。意味は没入感や実在感と訳されるが、バーチャルリアリティの最大の強みと言われてきた。メタバースは主にゲームのためのものだと考えられてきたが、ザッカーバーグ氏はメタバースを他のユーザーとのソーシャル体験の環境として提示しようとしていると考えている。

ビジネスチャンスはどこにあるか

これを考えるうえで、ベンチャーキャピタルであるベンチャーリアリティファンドのティパタット・チェーンナワーシン氏が作成した資料を参考にする。ナワーシン氏はデジタルの生活圏を遊び、生活、仕事に分類している。重要な点はそれぞれの分野が重なるところに新しいビジネスが生まれてきていることだ。遊びと生活が重なる部分では、バーチャルコンサート、アバターを利用したファッションショーがすでに展開されている。生活と仕事が重なる部分では、YouTubeやInstagramなどのプラットフォームを通じて広告収入を得たり、グッズ販売したりしている。遊びと仕事が重なる部分ではビットコインに使われるブロックチェーン技術とゲームを組み合わせることでplay to earnという仕組みも広まっている。ナワーシン氏は今後メタバースが成長していくうえで、3つの環境が整う必要があると述べている。それは「持続的な仮想世界」「機能する経済」「相互運用性」である。「持続的な仮想世界」はメタバースがサービスとして持続できるようなコンピューティング環境が必要であるということ。「機能する経済」はメタバースが独自の経済圏として自立的に機能するための仕組みを指す。ここで一番難しいとされているのが「相互運用性」だ。メタバースは一社単独のサービスではなく、さまざまな企業が提供するサービスをストレスなく行き来できるようになってこそ真価を発揮すると考えられている。あるサービスを利用しているのと同じアバターで別のサービスを利用したいが、それぞれのサービスは独自に開発していることが多いため、フォーマットデータの違いをどのように統合するかが問題である。今後どのようにサービス間で共通のファイルフォーマット規格がつくれるかが重要であると筆者は述べている。

第2章「先駆者としてのゲーム企業」

ここではメタバースの源泉にもなった小説「スノウクラッシュ」から影響を受けたサービス「セカンドライフ」について説明されている。メタバースという言葉は1992年にニール・スティーヴンズが書いたSF小説「スノウクラッシュ」が初出とされている。この小説は1980年代に流行したサイバーコンピューティングと呼ばれる分野の小説。人間は現実世界に生きるだけでなく、自分の代わりとなる化身(アバター)を使い、コンピュータネットワーク上につくられた仮想空間(メタバース)でも暮らす二重生活を送っている。この当時には考えられなかった未来のコンピュータやテクノロジーの姿は多くの人の想像力を強く揺さぶったと言われている。この小説のメタバースに直接的に影響を受けた革新的サービスが2003年に始まる。それが米リンデンラボの「セカンドライフ」である。これは従来のゲームと異なり、目的がなく、コミュニティプラットフォームのようなサービスであった。ユーザーはサービス内の開発ツールを利用して、独自のコンテンツを作成することやアバターを作成し、髪型や服装も自由に変えることができた。さらにサービス内で登場する建物などの3Dオブジェクトさえも作成できた。ここでは仮想通貨「リンデンドル」というものも使われて他のユーザーと取引できるサービスも備わっていた。2007年にiPhoneが登場し、スマートフォンの時代になるとFacebookやInstagram、Twitter等のSNSにとって代わられ、一度セカンドライフの存在は忘れられてしまうが、これが後のフォートナイト、ロブロックスといった大人気ゲームやメタバースの源泉となっている。

第3章「メタ・プラットフォームズの野望」

ここではメタバース分野を牽引するメタ・プラットフォームズの戦略について分析。没入感あるいは実在感と訳されるセンスオブプレゼンスはVRやARといった技術革新の重要な要素としてザッカーバーグ氏が繰り返し強調してきた。メタ社が他の企業と大きく異なる点はVRやARといったXR(クロスリアリティ)を事業の中心としてメタバースの展開を進めていることだ。

独自のサービス「ホライズンワールド」

ホライズンワールドはVRゴーグル、クエスト2向けに展開されているサービス。2021年12月から北米で正式サービスを開始しており、ゲームなどのアプリと並ぶ、今後のメタの主力事業として位置付けられている。ユーザーはVR空間内に用意されている独自ツールを使って、オブジェクトを作成したり、配置したり自分専用のバーチャル空間(ワールド)を持ち、カスタマイズできる。自由に3Dモデルをデザインできるツールが組み込まれているので、それを利用して建物や小物などを作成し、配置することもできる。ただ2022年6月時点ではサービスがアメリカ、カナダ、イギリスに限られており、同年2月のアクティブユーザーも30万人程度なので、数多くのユーザーが常時使うまでには程遠い状態だ。今後はfacebookやInstagramと連携を深めて集客を測る予定だ。メタ社はこれまで独自でハードウエア製品を持っておらず、アップル社が保有するスマートフォン上ではアップルの条件を受け入れながらビジネスを展開するしかなかった。この経験を通して、ザッカーバーグ氏は次世代の主流になるハードウエアを自社で持つという野望を強めたと考えられている。

第4章「猛追するマイクロソフトと、その他GAFA」

ここではメタ社以外のGAFAMのメタバースに関連する各社戦略について解説。マイクロソフトは最短で2023年に新型MR(mixed reality)デバイスを発売予定。自社のXboxや同社が持つさまざまなサービスをリアルタイム3Dを使い、統合する環境を整備していくと考えられている。 2022年1月、ゲーム業界に衝撃が走る。マイクロソフトがゲーム会社大手のアクティビジョン・ブリザードを約7兆8,000億円で買収した。この買収でゲームが同社のメタバース戦略の中核となることをアピールした。マイクロソフトは他にもマインクラフトの開発企業であるスウェーデンのインディーズガー会社モヤンを約2680億円で買収している。家庭用ゲーム機市場で優位に立つという目的以外に、取得した技術を公開することで、メタバースを誰もが作りやすくするという目的がある。スマートフォンの分野ではAppleやGoogleに敗北しているが、既存のサービスのクラウド化を進めることでビジネスモデル転換に成功している(マイクロソフト365)。ゲーム事業への投資拡大は好調な事業の業績を受けての戦略的拡大である。

Googleは技術への投資を通して、単発の製品やサービスでは目を見張る成功事例を挙げてはいるものの、それら技術をひとつなぎに し、大きな世界観を作り出すことはあまり得意ではない。成功しているアプリとしてはVR分野だとYouTube VRやGoogle Earth VRといった3D立体動画や360度映像がある。しかしほぼ無料でサービス提供されていたため、ビジネスモデルの確立には至らなかった。Googleはメタバースのような包括的なサービスを展開するよりも、要素技術の拡張を通して、AR機能を強化し、スマートフォンのAndroid OSをコントロールできる強みを活かした戦略を取っていくことが考えられる。

Appleはソフトウェアサービスを自ら展開するより、ハードウェア販売に徹し、ソフトはプラットフォーム上で展開する企業により実現されれば良いという考え方だ。アプリ経済圏を維持したまま、VRデバイスでも現状のハード中心の戦略を目指している。

クラウドゲームがメタバースの主戦場になる傾向がある。そのためメタ社は巨大なデータセンターを世界中に12ヶ所ももつAmazonと提携した。今後はメタが開発したAIの基盤をAWSで動かせるようにするといった研究開発用途や、買収した企業がAWSを使っていた場合にそのまま利用できるようにすることが考えられる。

第5章「新興企業に勝ち目はあるか」

この章では新興勢力として登場してきたAR技術中心のメタバースを作ろうとしているポケモンgoで知られるナイアンティック社やブロックチェーン技術を中心に展開するザ・サンドボックス等の実情が紹介されている。ポケモンGOはリリース直後100万人近くの月間利用者数がいたが、今は30〜40万人程度で横ばいになっている。それでもヘビーユーザーが多くいるのが現状。ゲームを有利に進めるためのアイテムや限定ポケモンをゲットするために必要な参加チケットの販売を通して売り上げを出している。ザ・サンドボックスはplay to Earnと呼ばれる稼ぐために遊ぶゲーム。自らが所有する土地にボクセル調と呼ばれるブロックで作られた3Dオブジェクトを配置して自由にゲームを作ることができる。そこで使うオブジェクトや土地はNFT化して取引所に売り出すことで、暗号資産に交換可能。各ゲームはさまざまな企業とのコラボで信頼や人気を高めるが、メタバースに参入する際にいくつかの難点がある。1つは暗号資産に応じてNFTの価値も変動してしまうこと。2つ目は国によってはギャンブル行為とみなされ、処罰される対象となる可能性があること。この要因がメタバース参入への難しさだと筆者は述べている。

第6章「2026年のメタバースビジネス」はこの章でメタバースが近い将来どういったものになっているのか筆者の持論と共に紹介されている。2021年米サンダス映画祭で発表された映画「We Met in Virtual Reality(私たちはVRで会った)」という作品がある。2人の主人公は遠距離恋愛をしており、女の子の親がコロナで亡くなってしまったということを受け、たくさんのランタンが仮想空間の空へと解き放たれる様子が描写される。現実世界での悲しみや孤独を抱えた少女の避難場所としてVR空間が機能している側面が見えてくる。現実と仮想の融合は短期的には人間がお互いを支え合う世界を広げていけるかどうかが普及するうえでの鍵。長期的には人間が時間や空間の制限を超えて存在するための方法として広がっていくのではと筆者は考える。メタバースに外見も反応も自分そっくりの存在がいるのだとしたら、私とは、自分とは何であるか。メタバースという技術はデジタル上で不死を生み出すことに最終的には向かっていくと筆者は考える。

ここまでGAFA各社の戦略やメタバース人口を増やすための取り組みや弊害などを学んだ。今後はメタバースに止まらず、NFTやチャットGPTといったAIについても理解を深めていきたい。

「メタバースビジネス覇権戦争」2022年8月10日  著者:新 清士

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第三章 事例③

③変わった人の採用

1982年にJTに入社し2015年末に退社するまで、採用担当者・採用チームリーダー・人事部長とJTの採用に関わってきた米田靖之氏は、自身の経験から採用や人材育成の環境づくりについてまとめている。「いい人材を取るには多くの学生と浅く広く会うより、少ない学生と深く接するほうがいい」と述べる「日本たばこ産業株式会社社」(以下、JT)の事例を取り上げる。

 

〈1〉採用とは

 

〈2〉事例 JT

イノベーションを起こす人材とは、まったく新しい観点から新しいことを考え出すことができる人材だ。JTには「変な人」を許容する文化がある。他の人と違う視点で物事を捉え、周りの人を巻き込んで行動できる人こそがイノベーションを起こすキーマンである。採用で重視することは能力と成長度の2つだ。能力は、成長度予測のため10段階で評価する場合6が好まれる。本人がやる気になって自分の頭で考えて仕事をするかどうか、成長度を左右する一番大きな要素は「社風に合うかどうか」だ。入社5年目以上の社員3人と会うことで社風は感じ取ることが出来る。採用側は社風を重要視して、必要であれば改善していく努力が求められる。

「変な人」がのびのびと仕事をするためには「変な人が育つ環境」が大切だ。「1+1=2」が保証された職場とは、正しいことが当たり前に通る職場だ。会社が話し合える場であることで、社員と将来のことを話し合える関係をつくることができる。仕事がおもしろい会社になるために4ステップを意識することが出来る。1つ目は上司が想いを伝える、2つ目は部下に仕事を任せる、3つ目はチームで創造的な雑談をする、4つ目は他部署の2割の人と気軽に話せるようになることだ。1つ目と2つ目は個人のポテンシャルを発揮させるために上司が意識することで、3つ目と4つ目はチーム力をアップさせるために意識することである。上司は部下に「理解」「共感」「納得」の3つのレベルで信頼される必要がある。そのためにはビジョンを明示し、チームのミッションを掲げ、年度末には達成していたいストレッチ目標の設定、その実現のための行動目標を決め、これら4つの思いについて自分の言葉で繰り返し話すことが求められる。部下の主体的な行動を促すには、「管理するマネジメント」ではなく部下の行動を見守り背中を押す「任せるマネジメント」が有効だ。チーム力をアップさせるにはコミュニケーションの質と量が求められる。創造的な駄話はチーム内の連携力を高くする。会社の規模が大きくなると部門間の関係が希薄になるため、積極的に社内の交流を活発にすることが大切だ。

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書評「脱炭素」が世界を救うの大嘘

この本の編著者の杉山大志はキャノングローバル戦略研究所研究主幹であり、温暖化問題およびエネルギー政策を専門としている。著者は杉山のほか、川口マーン恵美や掛谷栄紀、有馬純などがいる。この本はSDGSと脱炭素の実態について、複数の著者たちがそれぞれの切り口からレポートしたものである。

第1章 世界的「脱炭素」で中国が一人勝ちの構図

1章では世界的「脱炭素」で中国が一人勝ちの構図について取り上げている。

米国が主催した2021年4月22~23日の気候サミットにおいて、先進国はいずれも2030年までにCO2をおおむね半減すると約束したのに対して、中国等は「途上国は経済開発の権利があり、先進国は過去のCO2排出の責任を負って率先してCO2を減らすべきだ」というポジションを取っていたため、米国が求めた目標の深堀にまったく応じなかった。このように今回のサミットで先進国は自滅的に経済を痛めつける約束をした一方で、中国は相変わらず、事実上まったくCO2削減に縛られないことになった。その結果の一例として、先進国はCO2排出を理由に途上国の火力発電事業から撤退するが、それによって中国がこの市場を独占できる。そして先進国が石油消費を減らし、石油産業が大打撃を受ける一方で、中国は産油国からの調達が容易となり、中国に優位に影響していると述べている。また太陽光発電や風力発電の設備に必要なレアアースも中国に依存する形になっている。レアアースは世界中に存在するが、先進国はどこも環境規制が厳しくなる傾向にあるため、いま世界全体の70%以上が中国国内、中国企業によって採掘されており、中国による独占的な供給状態であると述べている。

第2章 正義なきグリーンバブル

2章では欧州メーカーのEV戦略についてまとめられている。

欧州メーカーの戦略については、ドイツを中心とする欧州自動車メーカーがエンジン車やハイブリッド車を締め出しEVを推進し、国家、あるいは地域ぐるみのゲームチェンジによって覇権を握ろうとする戦略として説明している。しかしEVシフトにもっとも前のめりなフォルクスワーゲンですら、2020年の西ヨーロッパにおけるEV販売比率は5~6%にすぎない。そんな中でフォルクスワーゲンCEOのヘルベルト・ディース氏はESG投資(環境、社会、企業統治といった、社会的な要請に配慮した投資をすべき、という考え方)を呼び込むために、ことあるごとにEVの輝かしい未来と、エンジン車を貶めるツイートをし始めた。その結果、フォルクスワーゲンの株価はCEOの一連のツイートを開始した2021年1月末から2か月あまりで50%も跳ね上がった。筆者はこのようなESG投資の実態に合理性も正義も見つけられないと述べている。またESG投資は環境を利用した金融セクターの新たな金儲けの手段と化していると述べている。

第3章「地球温暖化」の暗部

3章では環境原理主義について取り上げている。

環境原理主義とは温暖化防止をすべての課題に優先させる考えである。いまは単なるイデオロギーではなく、「気候産業複合体」という一大利益共同体を形成している。気候産業複合体は、政治家や官僚、学者、環境活動家、ロビイスト、メディアなどからなり、その人的ネットワークを通じて政府の施策に影響力を及ぼしている組織である。政界や学会、活動家、再生可能エネルギー産業、メディア、金融が、それぞれ環境原理主義的な風潮から利益を受けるなかで、気候産業複合体は、各国の政策を左右する存在になっていると述べている。筆者は、環境原理主義は、世界を幸福にするどころか、かえって不幸にすると主張している。環境原理主義者の求める施策は安価なエネルギーへのアクセスを制約し、世界の貧困層に重い負担をもたらす。そしてエネルギーコストが上昇すれば、低所得層は他の用途への支出を減らさねばならない一方、経済的便益を受けるのは富裕層であると述べている。環境原理主義者は、「科学に求める絶対主義」を体現し、自分たちの意見に異を唱える人々を「温暖化懐疑論者・否定論者」として徹底的に排除しており、中世の異端審問やイスラム原理主義などを例に挙げ、古来、異端を排除する原理主義が人間を幸福にしたためしはないとして批判している。

第4章 国民を幸せにしない脱炭素政策

4章では脱炭素政策の中の水素エネルギーの実態についてまとめている。水素がどのように作られているかについて2つの方法を紹介している。

1つ目は天然ガス中のメタンを「水蒸気改質」という方法で処理するものである。水蒸気改質とはメタンや石炭から水蒸気を用いて水素を製造する方法である。しかしながらメタンを水蒸気改質して水素を製造するときには、炭素を含む物質から水素を製造するため、含まれる炭素はほぼ必ずCO2として排出されてしまうと述べている。

2つ目に水の電気分解で水素を製造する方法である。これは水を原料として水素を製造するため、製造過程でCO2が発生しない水素を指す。しかし、電力は2次エネルギーであるから、これを用いて作る水素は「3次」エネルギーとし、作る過程で必ず目減りするため元の電力より価格の高いエネルギーになると述べている。とくに水素を最も効率的に使う方法は燃料電池を用いることであるが、その産物は電力であるから、元の電力を再生可能エネルギーから得るとしても、再エネ電力→水素→燃料電池→電力となり、1段階ごとに目減りするので、電力の無駄遣いでしかないと述べている。

日本政府による水素政策の概要は2021年3月に発表されたが、エネルギーロスやコストの問題点にはほとんど触れておらず、何が何でも水素を普及させ脱炭素を実現させることが目的になってしまっていると筆者は批判している。

 

本書を通して、世界的な脱炭素が各国に与える影響や、欧州メーカーのEV戦略の動向や水素エネルギーの問題点など、脱炭素の実態についておおまかに理解することができた。そして世界的に歩調を合わせて脱炭素に取り組むことは難しいことであると感じた。自分の研究分野であるEVについてはあまり詳しくは書かれていなかったため、次はEVに特化した本を読んで理解を深めていきたいと思う。

宝島社新書

「脱炭素」が世界を救うの大嘘

編著者 杉山大志  著者 川口マーン恵美、掛谷英紀、有馬純ほか

2023年4月24日発行

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書評『火山の熱システム -九重火山の熱システムと火山エネルギーの利用-』

本著は江原幸雄が九州大学教授時代に「九重硫黄山」で「噴火予知に代表される火山防災」と「地熱発電に代表される熱エネルギー利用」の研究の成果がまとめられている。
題材は九重火山であるが、火山の熱学的研究の基本的な考えは他の火山にも適用可能である。

1 「はじめに」

この章では九重火山と筆者の火山研究について説明されている。
九重火山は大分県南西部に位置し、九州大学九重地熱・火山研究観測ステーションという教区研究施設があり、九重火山は熱的理解の最も進んだ火山の一つと言われている。
また、筆者は火山を理解し、その成果を人間生活に役立てる研究をしている。

2 「九重火山の地学的背景」

この章では九重火山とプレートの関係について解説してある。
九重火山はプレートの沈み込みに伴って形成された火山というよりも、プレート沈み込み地域背後の地溝帯中に形成されたと考えられている。そして、九重火山周辺の地殻・上部マントルは周囲と比べ高温になっている。

3 「九重火山の形成」

この章では九重火山の地質学的な発達史について解説されている。
九重火山は長期的に見ると最近数万年は大規模な火砕流が発生しておらず、短く見ると最近1700年はドーム状火山体を形成するようなマグマ活動は行われていない。

4 「九重火山のいま」

この章ではデータを元に九重火山の現在の状態が解説されている。
九重火山は約5万年前の火砕流噴火発生以後、地殻上部にあるマグマ溜まりは熱伝導的な冷却が続き、溶融部分は現在、7km程度まで後退している。
また、マグマから分離したマグマ性流体は、深さ2km以浅で、周辺の岩体内に含まれる地表起源の水を加熱、上昇し、気液2相状態および中心部では加熱状態となり、最終的には過熱蒸気として地表から放出され、一部は温泉となっている。

5「1995年噴火」

この章では九重火山の高温蒸気溜まりの消滅の理由が解説されている。
九重火山は1995年水蒸気爆発起きたが、これは1990年から活動を開始していた。その1990年に起きた水蒸気爆発後に大量の地下水が火山体中心部に流入し、火山体内部を冷却させ、蒸気溜りから熱水溜りへと変化した。噴火が発生したことで火山体が冷却されるという奇妙な現象が発生した。

6「火山エネルギー利用を目指して」

この章は火山エネルギーの利用、特に地熱エネルギーについて書かれている。
人類にとって意味のあるエネルギーとは技術的に利用可能で、利用するために妥当な価格であることが最低条件である。その一番典型的なものが地熱エネルギーである。地熱発電は他の発電システムと比較し、ほとんど安定的に発電することが可能である。また、同じ発電設備容量で比較した場合、他の発電システムの数倍多くの電力を発電している。
現在、世界の各国はエネルギー安全保障、地球環境問題から地熱エネルギー利用に積極的だが、日本においては地熱開発の促進が遅れている。また、火山エネルギーの利用は火山活動の制御に貢献できる可能性があり、十分に検討する必要がある。

7「次の噴火に備えて」

この章では九重火山の次の水蒸気爆発活動の発生について解説されている。

8「九重火山における未解決の課題」

この章では九重火山の重要で未解決の問題について書かれている。
九重火山に特有な課題だけでなく、他の火山に共通する課題も記述されている。

この著書であるように日本は火山エネルギー、特に地熱エネルギーについて、潜在能力が高いにもかかわらず、促進が他の国より遅れている様に感じる。なので、他の本で海外の地熱の政策について理解を深め、日本との比較に役立てたいと思う。

櫂歌書房

『火山の熱システム -九重火山の熱システムと火山エネルギーの利用-』
2007年6月1日 発行
著者 江原幸雄

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女性差別撤廃条約 日本未だ批准せず

G7男女共同参画・女性活躍担当相会合が6月下旬に開かれた。男女間の賃金格差をはじめ、ジェンダー平等への取り組みを加速することで各国が一致した。一方日本は20年以上女性差別撤廃条約の「選択議定書」の批准を見送り続けている。6月公表された各国の男女格差を数値化したジェンダーギャップ報告書で、日本は146カ国中125位。男女間の賃金格差は22.1%、無償労働時間は女性が男性の5.5倍長く、男女の差はG7では最も大きいという統計もある。こうした状況を受け、市民団体が男女共同参画相らに対し日本がG7広島サミットまでに批准を表明するよう要望した。共同代表の朝倉名誉教授は「現在の日本は国際社会の人権問題をリードしているとは言えず一刻も早く批准してほしい」と話している。

23/07/04 朝日新聞 19ページ

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ジェンダーレストイレ論争

今年4月東急歌舞伎町タワーがオールジェンダートイレを導入したが、開設当初からSNSなどで「女性にとって危険で不安」「性犯罪が起こる」など激しい反発を呼んだ。男性からも「女性と鉢合わせると気まずい」「悪いことをしているような気になる」などの声があった。一方で成功した事例もあり、国際基督教大学のオールジェンダートイレは誰にとっても使いやすく安心できる空間の設計を進め、設置1年後のアンケートでは回答者の90パーセント以上が大変満足/満足/普通と回答した。トイレ先進国といわれる日本でオールジェンダートイレを巡る議論が混迷しているが、多様性が強調される現代で、今議論しなければならない課題である。

23/06/26 朝日新聞 62ページ

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書評 『製作委員会は悪なのか?アニメビジネス完全ガイド』

2016年に市場規模が2兆円を突破したアニメ産業。売上の右肩上がりが続き、アニメが世に浸透する一方で、「製作委員会がアニメスタジオを搾取している」「アニメーターは不当な低賃金で働かされている」といったアニメ業界のブラックな噂も囁かれている。本書はアニメビジネスにおけるお金の流れ、諸悪の根源と叫ばれる「製作委員会」の成立背景、アニメーターの労働環境を実際のデータから丹念に読み解くことで、アニメ産業・アニメ業界の実像に迫る。著者は増田弘道で、現在は株式会社ビデオマーケットに所属している。彼は1997年にキティ・レコードに入社し、2年目に「うる星やつら」を製作。それから映像・アニメ製作を担当し始め、やがて出版社を経てアニメ制作会社マッドハウスの代表取締役を務める。第一章 「アニメビジネスは成長しているのか?」 一章では「テレビ」、「映画」、「ビデオ」、「配信」などアニメビジネスジャンルについて、ビジネスモデルや今後の動向などについて詳しく紹介されている。例えば、現在、アニメ産業市場ジャンルでトップの売上の「配信」については、初めてアニメ配信のデータが出た2002年では映像流通売上は0.1%しかなかったものの14年後には16.0%と拮抗していると述べられている。さらに日本での動画配信サービスはU-NEXT、Abema TVなどのIT・独立事業者系の一群、NTTドコモを中心とするキャリア系、日本テレビやフジテレビといったテレビ局系、Netflix、Amazonなどの外資系があるが、今後、配信サービスがテレビアニメの位置を占める中でオリジナル作品で優っている外資系企業があらゆる配信サービスの中で有利な立場に立つであろうと説明されている。そして、どのビジネスジャンルにおいても次第にキッズ・ファミリーアニメではなく、オトナ向け作品が売上を牽引するようになるであろうということも過去のアニメの歴史から説明されている。第二章 『「アニメ」は成長し続けるのか?』 二章では、前章で説明していたアニメ産業を成立させているアニメ作品自体の成長についてアニメの制作現場の現状やアニメ産業の新たな動きを参考に説明している。近年のアニメの総制作分数の増加により、アニメ制作現場は制作キャパシティが満杯で「2年先までスケジュールがいっぱい」というスタジオが多い。しかし、「人材不足により制作効率が悪い」や「クリエイター人材不足。育成はしているが足りない状況」など人材不足という現場からの声が多く、現場は人材確保に四苦八苦していると述べている。そして、現在のアニメ産業の急成長には中国などの海外売上が影響しているが、中国の厳しい政府情勢によって長く続かない可能性も十分にあり得ると説明されている。また、他業界もアニメビジネスに対して興味を示しており、非鉄金属メーカーや弁護士事務所などが製作委員会に参加しており、アニメビジネスを拡大する企業が増えてきていることも紹介されている。第三章 「アニメはどのように作られるのか?」 三章では、アニメを企画するのは誰なのか、作られたアニメはどのように運用されて、資金が回収されるのかなどのアニメ製作の構造や機能について紹介されている。アニメビジネスには制作、製作、流通という機能があり、今回は「製作」の部分に焦点を当て、製作委員会方式や製作を担うプロデューサーの役割について触れられていた。そして、「製作」という立場からアニメがどのように作られるのかアニメ製作の全体も説明されており、企画段階であるプロジェクトの企画立案、企画開発・調整、製作委員会発足からアニメ自体を作る段階の制作、完成・納品、作品をビジネス運用していく段階の宣伝・マーケティング、作品運用・回収、分配まで各段階を事細かに説明している。加えて、制作、製作、流通を1社で行っている企業の例としてディズニーを挙げており、日本のアニメ企業もディズニーのような世界に通用する総合メディア&エンターテイメント企業を目指すべきであると述べられている。第四章 「製作委員会は悪なのか?」 四章はなぜ日本だけが映画やアニメを制作する際に製作委員会方式をとるのか、製作委員会が生れて普及した経緯を用いて紹介していると同時に世間で言及されている「製作委員会悪人論」は正しいのかということについても述べられている。製作委員会の雛形を形成したのは映画では1991年の「天河伝説殺人事件」という角川映画でアニメでは1988年に製作された「AKIRA」という劇場アニメであった。その後、当たる確率が低いという理由から量産主義の日本のアニメ産業に合う製作委員会方式が普及していったと紹介されている。そして、その製作委員会方式が現在問題となっているアニメ制作現場やアニメーターの低賃金問題の原因になっているとネット上で叫ばれているが、著者は製作委員会方式が普及する以前は放送局から支払われる制作費が実行製作費に満たなかったという点とそもそも著作権は原作者や脚本家、音楽家にあるという点から製作委員会方式が日本に合っていると述べている。第五章 「アニメーターは低賃金なのか?」 五章ではアニメ制作職、特にアニメーターはなぜ低賃金と叫ばれているのかということについてアニメ制作の各職種を民間給与平均と比較して説明していると共に無責任なマスコミの「アニメ業界ブラック説」発言について言及している。「アニメーター労働白書2009」「アニメーション制作者実態調査報告書2015」によるとアニメ制作職の中でも監督、キャラクターデザイン、プロデューサーなど人気やクリエイティブにダイレクトに影響する職種は民間給与平均414万円を上回っているが、第二原画、動画といった付加価値が付与しづらい職種は約110万円と大きく民間給与平均を下回っており、この部分がピックアップされ、マスコミなどで「アニメ業界ブラック説」と叫ばれるようになったと述べられている。そして、近年「アニメ業界ブラック説」がテレビ局を中心にマスコミ全般でクローズアップされているが、そもそもテレビ局は50年以上にわたって、「製作品に発意と責任を有する」アニメ製作者であり続けているため、自らの立場を忘却し、アニメの制作現場を告発するのは明らかに矛盾しているということも述べられている。第六章 「アニメに携わる仕事とは?」 六章ではアニメに携わる仕事を紹介している。アニメに直接携わる制作、アニメの企画や販売に携わる製作・流通に分けて説明されており、アニメ制作会社の各職種、声優業、映画会社やビデオ・レコード会社など流通系プロデュース会社それぞれの詳細や主な入社方法について詳しく紹介されている。本書を読んでなんとなく認識していた制作会社の低賃金問題、製作委員会の売上搾取などのアニメ業界の問題を実際の根拠に基づいて詳しく学ぶことができた。実際、アニメ制作の歴史を見てみるとアニメ制作のどの部分でも働く環境や待遇は改善されていることは明らかであるので、今後、日本のアニメ制作現場が海外のディズニーのような環境になり、強力なコンテンツを作り出してほしいと期待している。次は、アニメビジネスの未来に関する書籍を読み、さらにアニメ業界についての知識を深めたいと思った。星海社新書132 「製作委員会は悪なのか?アニメビジネス完全ガイド」2018年5月25日発行 著者:増田弘道

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