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第四章 事例研究の考察

第三章では、企業組織において認知的多様性を高めた結果成功した事例を3社取り上げた。第四章では3つの事例を考察し、「経営理念に対する共感度が様々な段階の人が組織に関わることで経営組織における認知的多様性が高まり、その維持には組織の流動性が重要である」ことを主張する。   セイコーインスツルは社外取締役によって、経営から創業家の圧力を弱めることが出来た。W・L・ゴア・アンド・アソシエーツ社はプロジェクトごとのチームで開発を行い、積極的に外部の意見も取り入れる流動的な組織づくりを行った。日本たばこ産業株式会社では「変な人」を採用することで、変化を恐れずに挑戦していく組織風土を作り出している。3つの事例の共通点として「一時的なつながり」であることが挙げられる。マシュー・サイドの著書の中で「最初は多様性豊かな集団でも、そのうち集団の主流派や多数派に引っ張られて(同化して)結局みな画一的な考え方になってしまうことがある。(中略)同じ組織に長い間いると、みな代わり映えしない考え方になってくる。」[1]という文章が印象的だった。認知的多様性を高めるために「同じようなものの見方や考え方の枠組みが似ている集団では集合知を発揮することが出来ない」ことは3章でも確認したが、その維持のためには流動性が重要である。3つの事例を再び確認すると、社内の利害関係にとらわれずに株主の視点から経営に関与する社外取締役の任期は、平均6年程度である。会社によっては任期を1年または2年に設定することもあり、数年で新しい人が就任することになる。プロジェクト・ベースの組織編成では、プロジェクトごとにチームが作られ、プロジェクトの新設・改廃・解散に伴ってかなりの人材、資源、知識が流動している。日本企業において通常一年周期で行われる採用は、違う価値観を持つ人材を組織に受け入れ、組織文化を見直す重要な機会である。同じように3章で確認した「社交性」が認知的多様性において重要であることは、社交性の中に流動的な要素が含まれているからである。 [1] p93

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第三章 事例③

③変わった人の採用 1982年にJTに入社し2015年末に退社するまで、採用担当者・採用チームリーダー・人事部長とJTの採用に関わってきた米田靖之氏は、自身の経験から採用や人材育成の環境づくりについてまとめている。「いい人材を取るには多くの学生と浅く広く会うより、少ない学生と深く接するほうがいい」と述べる「日本たばこ産業株式会社社」(以下、JT)の事例を取り上げる。   〈1〉採用とは   〈2〉事例 JT イノベーションを起こす人材とは、まったく新しい観点から新しいことを考え出すことができる人材だ。JTには「変な人」を許容する文化がある。他の人と違う視点で物事を捉え、周りの人を巻き込んで行動できる人こそがイノベーションを起こすキーマンである。採用で重視することは能力と成長度の2つだ。能力は、成長度予測のため10段階で評価する場合6が好まれる。本人がやる気になって自分の頭で考えて仕事をするかどうか、成長度を左右する一番大きな要素は「社風に合うかどうか」だ。入社5年目以上の社員3人と会うことで社風は感じ取ることが出来る。採用側は社風を重要視して、必要であれば改善していく努力が求められる。 「変な人」がのびのびと仕事をするためには「変な人が育つ環境」が大切だ。「1+1=2」が保証された職場とは、正しいことが当たり前に通る職場だ。会社が話し合える場であることで、社員と将来のことを話し合える関係をつくることができる。仕事がおもしろい会社になるために4ステップを意識することが出来る。1つ目は上司が想いを伝える、2つ目は部下に仕事を任せる、3つ目はチームで創造的な雑談をする、4つ目は他部署の2割の人と気軽に話せるようになることだ。1つ目と2つ目は個人のポテンシャルを発揮させるために上司が意識することで、3つ目と4つ目はチーム力をアップさせるために意識することである。上司は部下に「理解」「共感」「納得」の3つのレベルで信頼される必要がある。そのためにはビジョンを明示し、チームのミッションを掲げ、年度末には達成していたいストレッチ目標の設定、その実現のための行動目標を決め、これら4つの思いについて自分の言葉で繰り返し話すことが求められる。部下の主体的な行動を促すには、「管理するマネジメント」ではなく部下の行動を見守り背中を押す「任せるマネジメント」が有効だ。チーム力をアップさせるにはコミュニケーションの質と量が求められる。創造的な駄話はチーム内の連携力を高くする。会社の規模が大きくなると部門間の関係が希薄になるため、積極的に社内の交流を活発にすることが大切だ。

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第三章

第一章、第二章でそれぞれ経営理念と多様性について確認した。第三章では、企業組織における認知的多様性に注目し、企業活動の事例を3つ取り上げる。 1.企業組織における多様性とは  社会的多様性は「人口統計的多様性」と「認知的多様性」に分けられる。企業経営における多様性として、近年注目されている「ダイバーシティ経営」は人口統計的多様性に分類される。 ダイバーシティ経営とは、経済産業省が2017年から進める政策で「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」を目指す動きのことだ。経済産業省のHPでは、『「多様な人材」には、性別・年齢・人種や国籍・障がいの有無・性的指向・宗教や信条・価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験・働き方などの多様性も含まれる。それぞれの持つ潜在的な能力や特性などを活かし、生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性の向上、自社の競争力強化につなげることを目的とする』と書かれている[1]。   一方、本稿では企業組織における認知的多様性について検討することを目的とする。マシュー・サイドは「肌の色や性別が異なるからといって、認知的多様性が高まるわけではない。(中略)成功するチームは多様性に富んでいるが、その多様性には根拠がある」と述べていた。人種や性別などの人口統計的多様性が豊かな企業組織でも、考え方や価値観が同じであれば、事業に対する意見も似通ってしまう。企業組織における認知的多様性の定義として、第一章で確認した経営理念の概念を用いて「経営理念に対する共感度が様々な段階の人が組織にか関わること」とする。 2.事例研究 認知的多様性を創出するための企業活動として3つの事例を取り上げる。本稿では企業組織における認知的多様性を「経営理念に対する共感度が様々な段階の人が組織に関わること」と定義したため、経営理念に対する共感度が違う段階の社員と交流している事例や、組織外部とのつながりを積極的に取り上げる。  ①社外取締役[2] 自社の論理や経営に捉われず、経営理念を株主の視点から捉える役割として社外取締役が挙げられる。社外取締役の役割について、腕時計やそこから派生した精密機器事業で知られるセイコーインスツル(以下、SII)で起きた経営陣の解任例を取り上げる。  社外取締役は株式会社のコーポレートガバナンスにおいて重要な役割を担う。内部取締役による経営監視を外部者の客観的な視点から補強する役割だ。株式会社が大規模化し所有と経営が分離すると、株主と経営者の間の利害の不一致に伴うエージェンシー問題が起きる。株主の利害に沿って経営者を行動させるためのコーポレート・ガバナンスの重要な機関の一つが取締役会である。一般的に業務の執行に関与している内部取締役と、経営者などからも独立な他の企業の経営者や有識者などの社外取締役で構成され、重要事項の決定、代表取締役の選定及び解職などの権限が与えられている。取締役会の議案の中で、通常の業務に直接関わる事項は経営会議・常務会などの社内機関を経て社内取締役には共有されていることが多い。彼らが自社の論理のみに立脚し目先の利益に目を奪われてしまったような場合に、社外取締役には株主の理論や中長期的な視点で異論を唱える役割がある。また、経営理念が形骸化していないか、ひとつの経営判断・意思決定がその会社の理念に合致しているかどうかを判断し、意見を対立させ、議論することは企業統治に重要な意味をもたらす。そのためには、当該企業や経営陣としがらみがないことが必要だ。社内の利害関係にとらわれないことで、社外取締役は経営の透明性・健全性を図るための重要な役割を果たすことができる。社外取締役になるための条件は会社法に定められている通りで、近年は女性の登用が相次いでいる。 2006年11月16日、SIIの代表取締役会長兼社長代行の席にあった服部純市氏を解任する旨の緊急動議が提出された。解任の理由とされたのは「独断的な経営手法によって合理的な経営執行を怠り、会社に多大な不利益をもたらす可能性が高まった。同時に従業員の著しい不信感を招いた」ことであった。この解任劇でキャスティング・ボードを握ったのは、二人の社外取締役である。当初、内部での混乱は世間に公にされていなかったため、社外取締役に対して解任の考えがすんなり受け入れられることはなかった。 純市氏はMBAを取得後、1999年に41歳で社長に就任。業績が悪化していたSIIの経営改善計画「SII21構想」を掲げ、一定の評価がなされる手腕を発揮した。しかし2005年からのトップ人事は混乱し、短い期間で退任・就任の変更が繰り返された。さらに、2006年の夏以降純市氏の「独断」が横行し、反対意見を持つ幹部に退職を迫ったり、実際に退職させるなどしていた。これらを見兼ねた取締役常務執行役員の加藤精彦は純市に退任を迫られながらも、社外取締役2人に根回しを試みた。この二人は純市が招いた取締役で、ミドル層である部長級幹部五十人の請願書を受けて「従業員の著しい不信感を招いている」との判断に至った。 これは社外取締役が経営者の監視役として機能し、社外の視点が生かされた例だ。  ②プロジェクトごとの社外チーム 社外の相談役など、経営理念に対しての捉え方が違う社外の人と一緒にプロジェクトを行う例として、プロジェクト・ベースで組織編成をしている米国のフッ素ポリマーの研究開発企業「W・L・ゴア・アンド・アソシエーツ社」(以下、ゴア社)の事例を取り上げる。  プロジェクト・チームとは、特定の問題解決を図るために必要な人材と経営資源を集めて、期間を区切って一時的に形成される集団である。既存の製品やサービスを継続的に供給する常設の組織単位とは別に、研究や新規の開発・問題解決を図るために複数のプロジェクト・チームを常時設置し、必要に応じて新設・改廃しながら、組織活動を展開していく。問題が解決すると解散され、プロジェクトの新設・改廃に伴って、かなりの人材、資源、知識が流動する構造になっているのが特徴だ。  ゴア社は1958年にアメリカデラウェア州ニューアークで創立され、スキーウェアに用いられる「ゴアテックス」でよく知られている。現在5大陸に12000人を超える社員を擁し、年間売り上げは45億ドルに上る[3]。ゴア社は開発に重点を置いた会社であり、自社の製品技術やその事業領域は技術の変化が著しく、対応速度の速さが求められる。部や課など、ピラミッド型の階層組織ではなく、プロジェクト・チーム中心の水平的な組織編成を採用し、社長以外社員は肩書を持っていないことで有名だ。 プロジェクトはアイデアを持つメンバーが起案し、他の社員に参加を呼び掛ける。10人程度が集まるとリーダーを中心にプロジェクトが結成される。他のプロジェクトから勧誘したり、社外からの人材を採用するなどして事業として発展すれば、メンバーは200人を超えて、独立した事業所を形成する場合もある。基本的に、プロジェクトに対して上司はおらず、スポンサーと言われる有力な商談相手を持つことが義務付けられている。賛同者や協力者が得られない場合やうまく組織できない場合には、プロジェクトは消滅する。  若林直樹(2009)はゴア社の基本的な組織原則として、6つの特徴を挙げている。①直接的なコミュニケーション関係を中心とし、②権限関係を固定せず、③上司ではなく相談相手としてのスポンサーを持つ。④プロジェクト参加者の自発的なリーダーシップ、⑤明確な目標、⑥実質的にコミットされている職能だけの編成という特徴だ[4]。 ゴア社について、(株)ヒューマンバリューの川口大輔氏は「ゴア社では、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を通して役割が与えられるのではなく、自ら自分のコミットメントを明らかにして仕事をします。そして、仕事やプロジェクトは、コミットメントの高い一人ひとりが自然につながったスモールチームによって進められます。(中略)ゴア社が目指しているのは、「人は主体性、情熱を持った存在であり、それを解き放つことで最高の価値を生み出せる」という、上記とは対極にある哲学にあるように思います。そして、この哲学をとことん信じ、追求し、具現化し、必要のない管理構造を手放していった結果、今のような経営の在り方が生み出されたのではないかと感じました。」と述べられている。[5] ③変わった人の採用 JT [1] ダイバーシティ経営の推進 (METI/経済産業省) [2] 会社法では社外取締役は「当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人ではなく、かつ、過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人になったことがないもの」と定められている。(会社法2条15号及び16号) [3] ゴアについて | History and Information | 日本ゴア (gore.co.jp) [4]若林直樹(2009)『ネットワーク組織』有斐閣pp70~73 [5] Web労政時報 第3回:個人の主体性・情熱を最大限に高めるチーム・組織づくり~ゴア社から学ぶこと~(全12回)|インサイトレポート|リサーチ|WHAT WE … 続きを読む

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第二章 多様性について

第二章では、多様性の定義を明確にし、集団における多様性の重要性を確認する。 1.多様性とは 多様性とは多くの側面を持つ言葉であり、その定義が曖昧になりやすい。現代社会で注目されている多様性には大きく分けて2つあり、「生物多様性」と「社会的多様性」である。 はじめにで記した通り、生物多様性とは『生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。(中略)生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きている』ことである[1]。 社会的多様性の側面では、近年「DEI」の概念が注目されている[2]。DEIとは、ダイバーシティ・エクイティ&インクルーションの略称で、差別をなくし平等な社会を目指すSDGsの一環となる考え方だ。「ダイバーシティ」とは年齢・性別・民族・宗教・疾病・性自認・性的指向・教育・国籍等の違いを尊重することで、「インクルーション」は包摂を意味し、どのような個人や集団であっても、歓迎され、尊重され、支援され、評価され、参加できるような環境を作る必要性を表している。以前はダイバーシティ&インクルーションと呼ばれていたが、近年「エクイティ」の重要性が注目されている。エクイティとは公平性を表す言葉であり、情報、機会、リソースへアクセスする権利を保証するもので、マイノリティ格差の不均衡を是正することを目指している。   2.集団における多様性の重要性 ここで社会的多様性の重要さについて理解を深めるため、登山の公募隊からCIAまで、集団としての組織と多様性の重要性について書かれたマシュー・サイドの著書を参考にする[3]。まず集団における多様性の定義と条件を明確にし、次にその重要性を3つの観点から述べ、最後に実生活に活かすための3つのポイントをまとめる。 ①集団における多様性の定義と条件 考え方が異なる人々の集団は大きな力をもたらす。大勢の人々話を聞くと人それぞれ多様性の使われ方が違っていたが、一般的に性別・人種・年齢・信仰などの多様性は「人口統計的多様性」と呼ばれ、ものの見方や考え方の違いは「認知的多様性」と区別される。 高い集団知を生む認知的多様性には2つの条件がある。「問題が複雑であること」と「問題空間をできるだけ広く覆える根拠のある多様性であること」の2つである。直線的ではない何層にも折り重なった複雑な問題の解決には、違う見方をする者同士が共有し合うことでより高い集合知を得ることが出来る。さらに、集合知を得るためには多様性だけでなく賢い個人も必要となる。対処する問題と密接に関連し、かつ相乗効果を生み出す視点を持った人々が集まることが求められる。 ②集団における多様性の重要性 集団における多様性の重要性は3つの観点にまとめられる。1つ目は画一的な組織では健全性が低くなる点、2つ目は支配型のヒエラルキーでは情報が共有されにくくなる点、3つ目はイノベーションには集団の社交性が求められる点の3つである。 画一的な集団には盲点が生まれ、集団の健全性が損なわれる危険性がある。一見すると集団の人数の多さと多様性は比例すると思われるが、人は大きなコミュニティに属すると自分の考えと似ている人を選り好む選択肢が増え、より狭いネットワークを構築する傾向がある。同じ背景を持つ者ばかりで意思決定集団を形成すると盲目になりやすい(集団のクローン化)。同じ意見のもの同士でコミュニケーションを繰り返すと特定の信念が強化される危険性がある(エコーチェンバー現象)。似たような現象として挙げられる「フィルターバブル」は、反対意見を遮断し社会から孤立する分、いったん外部の意見に晒されると信念が揺らぎやすいカルト集団などを指す。対して、エコーチェンバー現象では反対意見に触れることでいっそう狂信的になる。誰を権威とし何が信頼できる情報か、の「信頼のフィルター」を重ね、フェイクニュースとして反対派の人物の信憑性まで攻撃する。 例え個人個人はどれだけ優秀な集団でも、同じような枠組みで物事を考える集団では盲点も共通する可能性が高い。異なる視点を持つ人々を集めることは、多様な視点で自分の盲点に気づかせ合えることができるようになる効果があるのだ。集団の健全性を確認するには、信条に沿わない部外者に対し、その人の信頼度を貶める行為を積極的に行っていないかを考える必要がある。政治的信条などの二項対立を招きやすい問題において有意義な話し合いをするには、正しいコミュニケーションを取れる信頼を築くことが欠かせない。   組織においてヒエラルキーは欠かせないが、複雑な状況下でリーダーが賢明な判断を下すには、その集団内で多様な視点が共有されていることが大切だ。無意識のうちにヒエラルキーは効果的なコミュニケーショの邪魔をする(権威の急勾配)。複数の人数で会議をする場合を例に挙げても、数人だけが発話の主導権を握る傾向や(不均衡なコミュニケーショ問題)、集団の構成員が特定の意見に同調して一方向になだれ込む傾向(情報カスケード)、同調行動(バンドワゴン効果)は日常的に見られる現象だ。 ヒエラルキーの形には「支配型のヒエラルキー」と「尊敬型のヒエラルキー」の2種類ある。決定事案遂行するだけの場合には、指揮系統が明確なため前者がふさわしい。従属者は恐怖で支配され、リーダーを真似る傾向がある。集団の支配者が異議を自分の地位に対する脅威と捉える環境では多様な意見が出にくくなる。新たなアイデアを出したり、アイデアを考え直す際には後者が有効だ。従属者は、ロールモデルとしてのリーダーに自主的に敬意を抱き、集団全体が協力的な体制を築いていく。心理的安全性が保障されている環境では、有益な情報や視点が共有されやすい。ヒエラルキーと多様性の両方のメリットを得るためには、ヒエラルキーのあらゆる層から意見やアイデアを引き出し、共有可能な関連の知識を持つ人全員から学ぶ環境を作る必要がある。   イノベーションにおいて最も重要なのは組織の社交性である。イノベーションも2つの種類に分けられる。改良など特定の方向に向かって一歩ずつ前進しでいく「漸進的イノベーション」と、これまで関連のなかった異分野のアイデアを融合する「融合のイノベーション」の2つである。後者はそれまで関連のなかったアイデア同士を掛け合わせることで、問題空間を広くカバーできる手法だ。世界的に有名な起業家に共通する要素として移民であることや芸術思考が挙げられるのは、特定の思考の枠組みから抜け出して別の角度からあらためて物事をとらえる力として「概念的距離」や「第三者のマインドセット」を持っているからである。 新たな組み合わせが生まれるたびに、さらに新たな組み合わせが見つかる可能性は広がっていく(隣接可能性)。アイデアは人と共有することで、さらに新たなアイデアが見つかる可能性が広がるのだ(情報のスピルオーバー効果)。イノベーションはある偉人個人の知力によって生まれるのではなく、知的想像力は人とのつながりの連鎖の中で強まる。高い社交性によって築かれた社会的ネットワークでは集団的知性が生まれる。創造のエネルギーはこうしたコミュニティの中で高まり、長期的な競争優位性をもたらす。   ③多様性を実生活に活かすための3つのポイント チーム作りやチームワーク、コラボレーションにける多様性の必要性を理解することで組織や社会はより活性化できる。同じようなものの見方や考え方の枠組みが似ている集団では集合知を発揮することが出来ない。集合知を得るには個人個人の「違い」も大切だ。一人一人の意見のエラーは問題ではなく、「反逆者のアイデア」をきっかけに視点が広がることが重要である。 多様性を活かすための3つのポイントとして、無意識のバイアスを取り除くこと、陰の理事会を活用すること、与える姿勢を意識することの3つが挙げられる。無意識のバイアスとは、自分では気づかないうちに持っている偏見や固定観念のことだ。知識のネットワークを拡大し集合知を高めるためには、才能ある人々が理不尽にチャンスを奪われるケースを少なくする必要がある。判断に不必要な情報を隠して審査をすることなど、歴史的に積み重なった構造的なバイアスを解体しマイノリティ格差のない公平な社会を築くことが求められる。陰の理事会とは、重要な戦略や決断について若い人材が上層部に意見を言える場のことで、ヒエラルキーが効果的なコミュニケーションを邪魔するのを防ぐ効果がある。年功序列の壁を壊し、予想外の角度から問題に取り組む若い層とコミュニケーションを図る方法だ。多様な社会で他者とのコラボレーションを成功させるには、自分の考えや知恵を相手と共有しようとする「ギバー」の心構えが求められる。「与える人」は多様性豊かなネットワークを構築でき、視野の広い、反逆者のアイデアを数多く得られる。 [1] 生物多様性とはなにか | 生物多様性 -Biodiversity- (biodic.go.jp) [2] DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)とは・何か | Sustainable Japan [3]

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第一章

本論文は、企業組織を多様性の面から捉えることを目的とする。第一章では、企業組織を形成する概念としての「経営理念」と、「多様性」について確認し、本稿における「企業組織における多様性」を定義する。   1.経営理念とは 社会には様々な組織が存在している。政府機関や教育機関、企業や非営利団体、宗教団体から学生団体まで、共通の目標を掲げその達成のために活動する集団は一般的に組織と呼ばれる。マックス・ウェーバー(1922)は組織を「目的を達成するために人々が互いに協力し、特定のルールに基づいて行動する形式的な社会的構造である」と定義している[1]。ウェーバーが提唱する「特定のルール」とは組織の理念を指す。組織の構成員には行動指針があり、目的達成のためにはどんな手段をとってもいいのではなく、共通したルールに基づいた手段を選択する必要がある。 経営目的を達成するために集まっている企業組織に共有されている「特定のルール」として経営理念が挙げられる。中小企業庁が公開している東京商工リサーチが実施した「中小企業の経営理念・経営戦略に関するアンケート」によると、現在経営理念・ビジョンを明文化している企業は5293社のうち87.1%に上る。(図1)経営理念には明確な定義は存在していないが、近年ビジョン経営が注目される中で多くの研究がされている。Collins・Porras(1995)によると、経営理念・ビジョンとは「経営者および組織体の明確な信念・価値観・行動規範」であり、コアバリュー・パーパス・ミッションの3つの要素で構成され、明確さと共有が重要であると説明されている[2]。本稿では経営理念や企業理念、ビジョンを区別せず、組織の将来像を表すものとして「組織が業務を通して、または通り越して実現したい社会・組織の理想像」と定義する。経営理念は企業組織全体に「特定のルール」として共有され、構成員は経営理念に基づく行動を選択していることを確認する。 図1 経営理念・ビジョンの明文化の状況 (出典:中小企業庁中小企業庁:2022年版「中小企業白書」 第3節 中小企業経営者の経営力を高める取組 (meti.go.jp))   2.多様性とは 多様とは、文字通り「さまざまなようすをしたものがあること」を表す言葉であり[3]、英語でダイバーシティと訳される多様性は「幅広く性質の異なる郡が存在すること」と定義されている。単にいろいろあることとは違い、性質に類似性のある群が形成される点が特徴とされる[4]。多様性とは多くの側面を持つ言葉であり、自然科学や社会科学・人文学においても使われるためその定義が曖昧になりやすい。はじめにで記した通り生物多様性とは『生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。(中略)生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きている』ことであり[5]、社会的多様性の側面では近年DEIの概念が注目されている。DEIとはダイバーシティ・エクイティ・インクルーションの略称で、差別をなくし平等な社会を目指すSDGsの一環となる考え方だ。ダイバーシティとは年齢、性別、民族、宗教、疾病、性自認、性的指向、教育、国籍等の違いを尊重することで、エクイティは公平性を表す言葉である。情報、機会、リソースへアクセスする権利を保証するもので不均衡を是正する。インクルーションは包摂を意味し、どのような個人や集団であっても、歓迎され、尊重され、支援され、評価され、参加できるような環境を作る必要性を表している[6]。 ここで、社会的多様性の理解を深めるため、登山の公募隊から政治運動、文化人類学まで、集団としての組織と多様性について書かれたマシュー・サイドの著書を参考にする。 一般に性別、人種、年齢、信仰などの多様性は「人口統計的多様性」と呼ばれ、ものの見方や考え方の違いは「認知的多様性」と区別される。(本の要点を簡潔にまとめる)   3.企業組織における多様性とは 企業経営における多様性として、近年ダイバーシティ経営が注目されている。ダイバーシティ経営とは、経済産業省が2017年から進める政策で「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」を目指す動きのことである。「多様な人材」には、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含まれる。それぞれの持つ潜在的な能力や特性などを活かし、生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性の向上、自社の競争力強化につなげることを目的としている[7]。経済産業省が進めるダイバーシティ経営は、企業組織における人口統計的多様性を高める施策である一方、本稿では企業組織における認知的多様性について検討する。 以上より、本論文では企業組織における多様性を「経営理念に対する共感度が様々な段階の人が組織にいること」と定義する。 [1] マックス・ウェーバー(1922)『官僚主義論』 [2] [3]三省堂国語辞典 [4] 多様性 – Wikipedia [5] 生物多様性とはなにか | 生物多様性 -Biodiversity- (biodic.go.jp) [6] DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)とは・何か | Sustainable Japan [7] ダイバーシティ経営の推進 (METI/経済産業省)

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要約 1冊目 後半

第4章 イノベーション 4章では、革新的な組織の特徴、経済発展への多様性の活かし方など、イノベーションと多様性との関係について掘り下げている。 イノベーションも2種類に分けられる。改良など特定の方向に向かって一歩ずつ前進しでいく「漸進的イノベーション」と、これまで関連のなかった異分野のアイデアを融合する「融合のイノベーション」である。生物の進化の過程に例えると前者は自然淘汰、後者は有性生殖のようなものだ。一つの個体に起こる突然変異が、遺伝子のやりとりによりほかの個体に起こる突然変異と組み合わされることで劇的に進化が進んでいく。後者はそれまで関連のなかったアイデア同士を掛け合わせることで、問題空間を広くカバーできる手法である。世界的に有名な起業家に共通する要素として移民であることや芸術思考が挙げられるのは、特定の思考の枠組みから抜け出して、別の角度からあらためて物事をとらえる力として「概念的距離」や「第三者のマインドセット」を持っているからだ。(もちろん、専門的な知識や概念を深く理解しているからこそ、距離を取ることに意味が出てくる。) ケロッグ経営大学院のブライアン・ウッツィ教授はここ70年間に執筆されたほぼすべてにあたる1790万本の論文を分析したところ、極めて反響の大きかった論文は、どれも「標準的とは言えない組み合わせ」をしていたことが明らかになった。こうした融合のイノベーションが増える傾向は、コンピューター時代とも言える現代において、巨大なネットワークの広がりとともに加速している。新たな組み合わせが生まれるたびに、さらに新たな組み合わせが見つかる可能性が広がることは「隣接可能性」といい、アイデアは物理的なものと違って、新たなアイデアは人と共有すると可能性がどんどん広がっていく。これは「情報のスピルオーバー効果」と呼ばれ、イノベーションはある偉人個人の知力によって生まれるのではなく、知的想像力は人とのつながりの連鎖の中で強まる。これは、自立型の経営で孤立したルート128より、パブで活発にエンジニア同士の水平的な情報伝達が行われたシリコンバレーの方が多くのイノベーションを起こした事例からも見て取れる。高い社交性によって築かれた社会的ネットワークでは集団的知性が生まれ、創造のエネルギーはこうしたコミュニティの中で高まり、長期的な競争優位性をもたらす。 第5章 エコーチェンバー現象 5章では、社会的ネットワークが形成される過程について考察されている。 一見すると集団の人数の多さと多様性は比例すると思われるが、人は大きなコミュニティに属すると自分の考えと似ている人を選り好む選択肢が増え、より狭いネットワークを構築する傾向がある。インターネット上でも同じことが起き、多様性が豊かな環境がもたらすこうした矛盾した現象は「エコーチェンバー現象」と呼ばれ、同じ意見のもの同士でコミュニケーションを繰り返すため、特定の信念が強化される。専門的な趣味のコミュニティでは問題にならないが、政治問題など複雑な話題について情報を探す場合、集団の健全性に関わる。似たような現象として、「フィルターバブル」が挙げられる。反対意見を遮断し社会から孤立する分、いったん外部の意見に晒されると信念が揺らいでしまうカルト集団などを指す。対して、エコーチェンバー現象では反対意見に触れることでいっそう狂信的になる。誰を権威とし何が信頼できる情報かの「信頼のフィルター」を重ね、フェイクニュースとして、反対派の人物の信憑性まで攻撃していく。集団の健全性を確認するには、信条に沿わない部外者に対し、その人の信頼度を貶める行為を積極的に行っていないかを考える必要がある。政治的信条などの二項対立を招きやすい問題において、有意義な話し合いをするには、相手が間違ったことをしていないのにただ自分と反対の意見だからという理由で攻撃することや、自分の信念に沿わないものを悪として論じる人身攻撃は自身の信用をも失うということを公人が理解し、正しいコミュニケーションを取れる信頼を築くことが欠かせない。   第6章 平均値の落とし穴 6章では、多様性を活かすための標準化から個人化への転換事例がまとめられている。 「マルチモーダル分布」とは、集団の平均値を出したところで平均値にぴったり当てはまる個体が存在するわけではない状態を指す言葉だ。標準規格化され硬直した制度やデザイン、思考のパターンを押し付けると、平均値に惑わされて多様性を見過ごし、そのメリットを得ることが出来なくなる。多様性のメリットとは、正しい情報と間違った情報が豊富に蓄積されると、正しい情報が一方向を向いているのに対し、間違った情報はそれぞれ違った方向を指し、互いを相殺し正しい情報が残っていく統合性だ。有益な違いを組織や社会は考慮するべきである。 様々な状況を踏まえたマニュアルは、もっとも効率的だと認められたベストプラクティスだが、労働経済学者のマイケル・ハウスマンが行った5万人のコールセンター従業員に関する調査によると、自分できちんと考えた上でマニュアルから離れた対応をした従業員が、問題の解決や売り上げに高い業績を上げていた。一人ひとりの従業員の柔軟性を加味する柔軟なシステムや環境が組織や社会に進化をもたらす。 エクセクター大学の心理学者クレイグ・ナイトがアレックス・ハスラムと共同で行った研究では、オフィス環境と従業員の生産性について調査し、生産性が向上した原因を2点挙げた。権威あるいは自律性があること、と個人的な空間にカスタマイズできることの2点だ。教育現場における、生徒一人ひとりのニーズに適応した学習指導を行う「適応学習」から、腸内細菌マイクロバイオームの違いから血糖値の上昇をもたらす食材は各人で異なり、万人に共通した健康法は存在しないことに至るまで、多様性のバランスを科学的に検証し、効果的な部分において個人化に転換していく必要がある。   第7章 対局を見る 7章では、多様性をより広い角度から見つめ、人類の進化の視点で本書を締めくくっている。 人類がここまで繁栄したのは、個人の脳を超えた集団脳によってもたらされた。人類の祖先をたどると、ホモ・サピエンスの脳はネアンデルタール人の脳より小さかった可能性がある。しかし、社会性があったホモ・サピエンスは密な社会的集団を築き、学習が進み知恵が積み重ねられ、やがて融合のイノベーションが起きた。個人知から集合知への進化の結果として生まれた優れた知恵やアイデアが、脳を大きくした。一方ネアンデルタール人はイノベーションが集団で共有されることはなく、一代で新たなアイデアは消えていった。他者(の脳)と繋がりあいながら遺伝的と文化的の「二重相続」を得られた人類は、世代を超えて高度な知能を備えることが出来るようになった。テクノロジーや知恵やアイデアは識字能力など生理的な変化をももたらしている。 多様性を実生活に活かすためには3つのポイントがある。1つ目は、自分では気づかないうちに持っている偏見や固定観念である「無意識のバイアス」を取り除くことだ。我々の人生に付きまとう審査において、才能ある人々が理不尽にチャンスを奪われるケースを少なくすることで、歴史的に積み重なった構造的なバイアスを解体し、マイノリティ格差のない公平な社会を築くことができる。同時に知識のネットワークを拡大し、集合知を高めることにもつながる。具体的には、判断に不必要な情報を隠して審査をすることなどが挙げられる。2つ目は、「陰の理事会」だ。重要な戦略や決断について若い社員が上層部に意見を言える場で、年功序列の壁を壊し、予想外の角度から問題に取り組む若い層とコミュニケーションを図る方法だ。3つ目は与える姿勢だ。多様な社会で他者とのコラボレーションを成功させるには、自分の考えや知恵を相手と共有しようとする「ギバー」の心構えが必要だ。「与える人」は多様性豊かなネットワークを構築でき、視野の広い、反逆者のアイデアを数多く得られる。 チーム作りやチームワーク、コラボレーションにける多様性の必要性を理解することで組織や社会はより活性化できる。  

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要約 1冊目前半

書評 マシュー・サイド(2021)株式会社トランネット訳『多様性の科学』株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン 元卓球選手でイギリスのジャーナリストであるマシュー・サイドは2016年、サッカー英国代表の技術諮問委員会に呼ばれ、起業家や陸軍士官とイングランド代表監督らへの助言を話し合った。認知的多様性に溢れた体験に感銘を受けたマシューは、どうすれば多様性の力を上手く発揮できるのか考え始める。一般的に性別、人種、年齢、信仰などの多様性は「人口統計的多様性」として分類されるが、本書ではものの見方や考え方が違う「認知的多様性」についても検討されている。 第1章 画一的集団の「死角」 1章では、本書のテーマは多様性であり、考え方が異なる人々の集団がもたらす大きな力を様々な角度から検討していくことが記されている。 長い間「能力の高さと多様性は両立しない」という考え方が主流だったが、2001年のニスベットらの実験により人の世界の捉え方についての普遍主義が覆され、文化に基づく違いが明らかになった。直線的ではない何層にも折り重なった複雑な問題の解決には、違う見方をする者同士が協力し合い、共有し合うことでより高い集合知を得ることが出来る。個人個人はどれだけ頭脳明晰でも、同じ背景を持つ者ばかりで意思決定集団を形成すると盲目になりやすいことは「集団のクローン化」と呼ばれる。どれだけ優秀な集団でも、同じような枠組みで物事を考える集団では「盲点」も共通している可能性が高い。しかもその傾向を互いに強化してしまうミラーリングが起きる。異なる視点を持つ人々を集めることは、多様な視点で、自分の盲点に気づかせ合えることができるようになる効果もある。 (CIAが9.11アメリカ同時多発テロを未然に防げなかったのは、CIA職員の画一性が、イスラム過激派による数々の兆候を脅威としてつなげる視点に欠けていたからだ。当時CIAの採用には偏りがあり、プロテスタント系の白人のエリート男性ばかりの組織では、自分達こそがアメリカの理念を守る存在であるという強い愛国心が育っていた。ビンラディンの聖戦布告映像はイスラム文化に合わせた原始的な映像で、優秀なCIAの分析官はそのメッセージを時代錯誤で無知な連中としか捉えることが出来なかった。この例からも、画一的な集団は重大な過ちを過剰な自信で見過ごしそのまま判断を下してしまう危険が確認できる。) <画一的な集団の思想は鋭くなってく>   第2章 クローン対反逆者 2章では、筆者が多様性に興味を持った経緯と、多様性の定義を明確にするため事例を科学的に考察している。 異なる視点やモデルを組み合わせることで全体像をより正確に捉えることが出来る。デューク大学のソル教授は、エコノミストによる経済予測を分析し、個人でトップだったエコノミストの予測と、上位6人のエコノミストによる予測の平均正解率を比較した。結果として後者の方が15%も高い正解率となった。仮にトップだったエコノミストのクローン6人がアイデアを出し合ったとしても、同じアイデアばかりが重なりアイデアの合計数は少なくなるミラーリングが起きてしまう。同じようなものの見方や考え方の枠組みが似ている集団では集合知を発揮することが出来ないのだ。頭のいい人材を集めれば頭のいい集団が出来るのではなく、集合知を得るには個人個人の「違い」も大切である。一人一人の意見のエラーは問題ではなく、「反逆者のアイデア」をきっかけに視点が広がることが重要だ。 高い集団知を生む認知的多様性には2つの条件がある。「問題が複雑であること」と「問題空間をできるだけ広く覆える根拠のある多様性であること」だ。製造業や短距離走など単純なタスクの場合、多様性は邪魔になり得る。正解と間違いの二極しかない直線的な課題で重要視されるのは能力の高さだ。また、集合知を得るには多様性だけでなく、賢い個人も必要となる。対処する問題と密接に関連し、かつ相乗効果を生み出す視点を持った人々が集まることが重要だ。 <最初は多様性に富む集団でも、そのうち主流となる考え方に「同化」してしまう。 多様性は評価されないと同化していく、一時的なものつながりがいい> 第3章 不均衡なコミュニケーショ 3章では、これまでのコンセプトから実践された、重要な情報や視点の「共有」へと話が進められている。 人間の頭や心は序列が定められた集団の中で生きるよう設計されている。集団の秩序は「順位制」によって決められ、集団の支配者が異議を自分の地位に対する脅威と捉える環境では多様な意見が出にくくなる。無意識のうちにヒエラルキーが効果的なコミュニケーショの邪魔をすることは「権威の急勾配」と呼ばれる。複雑な状況下では、多様な視点や意見が押しつぶされ重要な情報が共有されていない限り、いかに団結力があるチームでさえ適切な意思決定はされない。複数の人数で会議をする場合を例に挙げても、数人だけが発話の主導権を握る傾向がある「不均衡なコミュニケーショ問題」や、集団の構成員が特定の意見に同調して一方向になだれ込む「情報カスケード」、同調行動の「バンドワゴン効果」は日常的に見られる現象だ。 組織においてヒエラルキーは欠かせないが、リーダーが賢明な判断を下すには、その集団内で多様な視点が共有されている必要がある。ヒエラルキーの形には2種類あり、支配型のヒエラルキーでは、従属者は恐怖で支配された結果リーダーを真似る。決定事案遂行するだけの場合には指揮系統が明確なためうまくいく。一方尊敬型のヒエラルキーでは、ロールモデルとしてのリーダーに対し、自主的に敬意を抱き、集団全体が協力的な体制を築いていく。これは新たなアイデアを出したり、考え直す際に有効だ。両者の決定的な違いは「心理的安全性」である。集団の感情を読む共感力のあるリーダーは、メンバーの声によく耳を傾け信頼の絆が高まる。ヒエラルキーと多様性の両方のメリットを得るためには、ヒエラルキーのあらゆる層から意見やアイデアを引き出すこと、共有可能な関連の知識を持つ人全員から学ぶことが欠かせない。 <社長一強な会社はみんなが間違いを指摘できないからダメなのか。>   多様性を創出するための企業活動の事例 ①社外取締役 ②プロジェクトごとの社外チーム ③変わった人の採用 ④フォーカスグループ→政界や起業の権力構造を変えずに政策の妥当性を問う聴聞会 ⑤会議の場における多様性 アマゾンの黄金の沈黙、ブレインライティングとブレインストーミング

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卒論アウトライン(仮)

テーマ「個が重視される時代の繋がりを考える~経営組織の多様性について~」 ①主張 近年、「多様性」という言葉をよく耳にするようになった。教育現場や集団において、それぞれの個性を認めるという意図のスローガン使われるように感じられるが、本来は生物学において生物多様性とは「繋がり」を表す言葉である。環境省では生物多様性について「生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。(中略)生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きている」と書かれている[1]。 一方、会社組織では個人の能力主義という傾向が見られるようになった。これまでの日本的経営の特徴であった経営組織の私的なつながりが薄れ、雇用形態の多様化、様々な規制の強化、業務のIT化によるオンラインでのコミュニケーションの増加など、組織のつながり希薄化することは、経営組織における理念浸透の統制が図れなくなるということに他ならない。 経営理念とその組織を考えるとき、様々な問題が思い浮かぶ。理念を体現する人は組織の中の人だけがなれるのか、ビジョンに反する人は組織にいられないのか。本論文では、参考文献をもとに、「経営理念に対する共感度が様々な段階の人が組織にいることが経営組織における多様性であり、その中からイノベーションは生まれるのではないか」という主張を展開していくことを目的とする。 [1] 生物多様性とはなにか | 生物多様性 -Biodiversity- (biodic.go.jp) ②参考文献 1マシュー・サイド(2021)株式会社トランネット訳『多様性の科学』株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン 2若林直樹(2009)『ネットワーク組織』有斐閣

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エネルギーと食料の「継戦能力」

キャノングローバル研究所の杉山氏は、日本の輸入が滞った際の継戦能力を問題視している。エネルギーの蓄えは数カ月で尽き、食料供給が滞り、1カ月で屈服する。そうならないために、原子力による継続的な発電、エネルギー欠乏時に向けた食料供給体制の検討が求められると主張する。 杉山氏は「平和のために戦争に備える」と訴えているが、戦争状態と平和は真反対に位置するものだ。また「1年以上持ちこたえることで、国際的な非難が侵略者に対して高まり援軍がやってくる」としているが、ウクライナ侵攻を例に挙げても、世界は他国の戦争に傍観者の立場をとることが多い。全体として、杉山氏の世界観は大日本帝国時代の泥臭さが否めず、侵略国という表現も西側の見方で在り、固執した意見は敵を作りやすいことを認識するべきではないか。 2023.04.11

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ダイキン井上会長、多様性の維持には「ほったらかし」

ダイキン工業が2022年3月期に4期ぶりに最高益を更新した。海外展開を推し進め170以上の国や地域で事業展開している。ダイキンは『人を基軸におく経営』を経営理念に掲げ、離職率が低。大企業製造業の平均より大幅に低い3%ほどだ。また大企業に珍しく派閥がない。グローバルグループ代表である井上礼之会長はこの二つの特徴は関係していると語る。「前社長の時から多様な価値観を是とし、組織の中でバラバラの個性の人が定着してくれている。多様性の維持にはほったらかしにするのが一番良い。忍耐力、待つということが重要かもしれない」。 ダイキン井上会長「桁違いの発展期」 「人基軸」を継承 2022/10/19 02:00 日経速報ニュースアーカイブ  4044文字

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