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2023年度 卒業論文

2023年度卒論 坂元優

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第六章 これからの博士課程学生のために

第六章 これからの博士課程学生のために これまで日本の博士課程をはじめとした日本の理工系の高等教育機関における制度の問題点について海外の事例を交えながら論述してきた。そして日本の革新的な支援制度が新たに始まり、今までの問題を解決することになる大きな転換点となることも記述した。しかし、前章で述べた制度たちも海外の事例と比べると、まだまだ至らない点があるのもまた事実である。そこで本章では今後博士号を取得する学生を増やすために、さらに日本が行うべき施策について考察していく。 初めにTA・RAの処遇の向上である。アメリカにおいてTA・RAの処遇がとても良いのは第三章で述べたとおりだが、それに比べて日本の処遇は大変悪いものになっている。具体的には全体1.3万人いるTAの給与は一人当たり1.0万円/月、9千人いるRAの給与は3.8万円/月である。RAのみで生活できているアメリカの学生とは雲泥の差があることがわかる。日本のJSTが新たに800人のRAに生活費相当額支援を支給する創発的研究支援事業を始めたが、RAの母数を見るに圧倒的に足りていないのが現状である。だからこそ、アメリカの給与水準までは行かないまでも月5~10万円と生活の足しになるレベルまで給与を引き上げることで、TA、RAに対するモチベーションの向上や修士課程から博士課程へ上がってくる学生の金銭面的な不安をさらに軽減することにつながると考える。 次に博士号課程の学生含むすべての研究者が参加できる職能支援の創出である。現在日本における博士学生の高度な就職支援はSPRINGや、科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業に参加している選ばれた学生のみが享受することが出来、すべての学生が等しく享受できるものではない。実際、SPRINGに参加した学生は就職率が87%であるのに対し、全国平均は68.4%と大きな乖離を見せている。だからこそイギリスのVitaeのような非営利組織による職能支援が必要なのである。博士人材が誰でも就職において自身に必要なスキルやほかの研究者と交流する機会を得ることが出来る環境を整備することで、博士人材(ポストドクターを含む)の就職率を向上させ、博士課程へ進学する修士学生の不安をさらに減らすことにつながる。 最後に民間企業の就職において、研究者以外の就職支援も行うことである。現在博士課程を修了した学生の中で就職先が判明している学生の中で、研究者(民間とポストドクター)や医者、大学教員等専門的な職に就職した学生は全体の約8割に上っている。民間企業の研究職になること以外のパイプが整っていない現状は、研究者になるか悩んでいる修士課程の学生に対して、博士課程への進学をあきらめさせる要因になると私は考える。だからこそ、大学が企業と連携してインターンシップや面談の機会をより多く設け、博士学生の選択肢を一つでも多く増やすように画策することが重要であるといえる。 日本はこの30年間、経済の成長が停滞している。しかし新たに始まった革新的な政策たちはこの現状に一石を投じるものであることは確かであり、減少していた博士人材の数を増大させることを大いに予想させる。日本政府はこの政策を行ったことに慢心せず、さらなるブラッシュアップにより、日本の研究力をより力強くよりフレッシュにすることが求められる。日本がこれから新たなイノベーションを多数起こすことで、成長率の復活を見せることを切に願うばかりである。

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第五章 日本の革新的な施策

第五章 日本の革新的な施策 前章まで世界と比較しながら、様々な日本に関する問題点に関して記述してきたが、近年その問題点に対して政府がそれに対する施策を多く打ち出してきた。本章ではその施策に関して記述していく。 まずは博士学生の経済的な負担に対する政府の新たな施策を3つ紹介する。 初めは次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)である。この制度は博士学生が研究に専念するための経済的な支援と産業界含め幅広く活躍するためのキャリアパス整備を行う意欲のある大学を支援するもので、2021年度より国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が行っている。個人で申請する特別研究員制度とは異なり、各大学により選抜された博士学生に対し、生活費相当額及び研究費の支給や、キャリア開発・育成コンテンツをはじめとする様々な支援が提供される。支給額は290万円/年を上限としており、支援対象学生はSPRING全体で最大6,000人となっている。 次に科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業である。同じくJSTが行っているこの制度は、内容的にはほとんどSPRINGと同じであるが研究分野に関して多少異なる点があり、本フェローシップでは、将来を担う博士人材を戦略的に育成していくため、各大学が将来のイノベーション創出などを見据えてボトムアップで提案するボトムアップ型と、国がトップダウンで分野を指定する分野指定型の2タイプが存在している。SPRINGは学生が研究分野を自身で自由に選択できるため大きな違いが存在する。 支給額は生活費相当額である180万円に研究費を足したものに2/3を掛けたものであり、総支援人数は2,000人となっている。(当初は1,000人で始まったが、次年度に2,000人に拡充した。) 最後に創発的研究支援事業である。これは上記二つと同じくJSTが始めた施策であり、約800人分のRA支援経費を新たに措置することで、RAとしての労働対価を年間総額最大240万円支給する。また大学におけるRAなどの雇用・謝金にかかるガイドラインの策定によって国内のRAにおける待遇の改善を目指している。 以上2021年に新たに始まった三つの施策により、もともと博士学生の中の10%程度であった生活費相当額受給者を2021年度は2倍である20%程度に増加させることに成功した。また政府は2025年までにこの割合を30%まで引き上げることを目標にしており、これは修士課程から進学した学生の70%が生活費相当額を受給していることとなる。 次に日本におけるポストドクターに関する問題を解消するために、政府により新たに決定された方針に関して記述する。それは研究力強化・若手研究者支援総合パッケージである。この方針は、前章で述べたポストドクターの高齢化と状況などのネクストキャリアへのステップアップ率の悪さを解消するために設定されたものである。具体的な達成目標としては「将来的に日本の大学本務教員に占める40歳未満の教員が3割以上になることを目指し(2018年時点で23.5%)、2025年度までに40歳未満の大学本務教員を約1割増やす」や「産業界による理工系博士号取得者の採用者数を約65%(約1,000名)増加」などであり、その目標に向けて様々な施策が行われている。いかに記述されているのがその施策である。 ・各国立大学の「中長期的な人事計画」の策定を促し、若手研究者のポスト確保に取り組む大学に運営費交付金を傾斜配分。 ・年間数百件程度の若手研究員を中心とした挑戦的研究に足し、短期的な成果にとらわれず、研究に専念できる環境を確保しつつ最長10年間支援する仕組みを創設 ・若手研究者への重点支援と、研究成果の切れ目ない創出に向けた、各資金配分機関のミッションに応じた競争的研究費の一体的見直し。 ・国立大学等におけるポスドク・大学院生などの育成支援にかかる個人寄付の税額控除の追加。 ・企業と大学による優秀な若手研究者のマッチングの仕組みの創設により、企業での採用を促進。 ・国が率先して博士人材の待遇改善を検討 以上の施策群は我が国の博士人材やポストドクターの数や研究の能率を向上させるうえで革命的なものである。しかし、2022年のデータによると博士課程の進学者の増加という目に見えるデータは見られなかった。これからは新たに始まったこの制度たちの周知と継続に力を注いで、よりよい若手研究者の環境を整えていくべきである。  

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第四章 博士人材の進路

第四章 博士人材の進路 日本の博士人材について、さらに分析を行うために本章では博士人材の卒業後の進路に焦点を当てて記述する。まず日本の博士人材が卒業した後の進路は以下のようになっている。 ポストドクター 10%、高等教育機関 15%、民間企業 35%、その他 40% (その他の中には医師、保健師も含む) 文部科学省が令和5年1月に作成したデータ参照 次に日本の状況と比較するため、世界の各国と国際比較を行う。 ・アメリカ ポストドクター 21%、高等教育機関 15%、民間企業 52%、その他 12% ・イギリス 高等教育機関(ポストドクター含む) 58%、民間企業 38%、その他4% ・韓国 高等教育機関(ポストドクター含む) 12%、民間企業 80%、その他 8% 比較の結果、日本に比べて各国ともに民間企業への就職割合が大きいことが分かった。またアメリカに関してはポストドクターへの就職率が大きく、イギリスは高等教育機関(大学教員など)への就職率が特に大きいことが分かった。 次にこの各職種に関しての待遇や支援状況について記述する。まずはポストドクターについて記述する。 ポストドクターとは、大学院で博士課程を修了したのちに「教授」や「助教」といった正規のポストではなく、任期付きの職についている大学研究員のことを指し「博士研究員」とも呼ばれる。業務としては教授に指定された研究テーマに従い、プロジェクトの一員として研究を行うこと、その内容を論文としてまとめるという二つである。業務内容については日本と欧米で違いはないが、職へのとらえ方や待遇に関しては大きく乖離がみられる。欧米ではポストドクターを「教授」や「助教」などの正規の研究職につくまでのキャリアパスの過程だと考えている。博士号を取得したのちに、平均5年程度ポストドクターとして経験を重ねたのちに大学の正規職員や、企業の研究職に就くのだ。所謂正規の研究者になるためのトレーニング機関としてとらえられている。しかし日本でのポストドクターのとらえ方は後ろ向きに捉えられることが大きい。それは日本のポストドクターは、雇用されたのち助教として採用されることもなく、企業の研究員として就職もできずポストドクターの契約を更新し続けながら年齢を重ねていく場合が多いからである。実際、2015年の文部科学省の調査「ポストドクターなどの雇用・進路に関する調査」によると、ポストドクターの人数は約16,000人で、平均年齢は36.3歳となっている。ポストドクターの前職はポストドクターであった人が3割以上を占め、ポストドクターの契約を何度も繰り返している人が大きいことがわかる。また日本のポストドクターの給与水準は欧米と比べて非常に低い。日本のポストドクターの年収は300~400万円程度が標準であるが、場合によっては200万円を下回ることがある。一方アメリカのポストドクターの年収は500~700万円程度であり、日本の助教の水準とほぼ同程度であり、日本と大きな待遇の違いがあるのがわかる。以上のような状況が日本の学生が進路を決定する際に大学の研究者としての道を選びづらい要因にもなっている。 このような状況を改善するために必要なのはポストドクターの支援策の拡充である。日本にはポストドクターの経済的支援制度は存在しているが、就職や経験を支援する制度は存在しない。しかし、アメリカには全米ポストドクター協会(NPA)による支援が充実している。具体的にはNPAが定義した、ポストドクターが活躍するために必要な要素についてトレーニングするために年に一度のジョブフェアの開催、ポストドクター専用のキャリアセンターの運営といった支援、ポストドクターのスキルの向上やキャリアアップの方法をまとめたガイドブックの発行を行っている。またイギリスではVitaeというThe Careers Research & Advisory Centre Limitedが運営しているポスドクや博士号学生の職能開発トレーニングが存在する。Vitaeはイギリス政府が作成した研究者に必要な要素のフレームワークをより効果的に改善した独自のフレームワークに基づき、様々なプログラムを行っている。具体的には、参加者を6~7人のグループに振り分けたのちメンターを介してワークショップや演習を実施するGradschools 、非常勤のポスドクに他の研究室に所属する研究者と交流する機会を与えるPart-Time Researcher、ポスドクに新たなイノベーションを紹介したのち、企業に関するスキルを与えるDiscovering Innovation and Intrapreneurshipなどが存在する。以上のようなポストドクターが積極的に学べる環境が存在することで、高い評価を受けるポストドクターが増え、助教や企業の研究者へのキャリアアップが見込めるのではないだろうか。 次に民間企業への就職者について記述する。 日本の博士人材が民間企業へ就職する割合は本章で提示したように非常に低い割合になっているが、それに伴い各国の企業研究者に占める博士号取得者の割合が他国に比べて低い水準となっている。具体的には日本は4.4%であるなか、アメリカは約10%、韓国は約7%となっており、学生が民間企業を選ばないだけでなく、企業側も博士号を重視しない姿勢が原因となっておきた結果であるといえる。実際、経済産業省が実施した調査では「採用する人材は、企業が必要とする人材像に合う人材あればよく、必ずしも博士号を持っている必要はない」と考えている企業が調査した企業の約半数を占めていたという。しかし、文部科学省の科学技術・学術政策研究所が行った博士人材の採用後の印象における調査では、博士課程修了者は学士号取得者や修士号取得者と比べ「ほぼ期待通り」や「期待を上回った」と答える割合が高く、「期待を下回った」と答える企業の割合が小さいことが分かった。故に企業側に博士人材の有用性を周知させることが必要であるといえる。 本章では日本における博士人材の進路先の持つ問題について、海外の状況と比較しながら記述した。次章では、現在博士人材の数を増やすために行われている新たな日本の施策について記述するとともに、今まで述べたことを踏まえたうえで今後の日本の博士号学生を増やすために必要な施策に関して考察する。

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第三章 海外の博士学生支援制度に関して

第三章 海外の博士学生支援制度に関して 前章では日本の博士課程に関する支援制度に関して記述したが、本章では海外の博士課程学生に対する支援制度に関して記述する。 前章で紹介した博士号取得率の国際比較において、上位三カ国であったアメリカ合衆国、イギリス、ドイツについて特に記述する。 まずはアメリカに関してだが、アメリカの特徴として最も大きい要素が、大学が運営する資金援助制度が充実しているということだ。大学によるが、基本的に博士課程に進学した学生は、大学にTA(Teaching Assistant)、もしくはRA(Research Assistant)という形で雇用されるということになる。Teaching Assistantとは学部生や低学年生向けの講義や実験などの教育補助業務を行わせることで、大学教育の充実と大学院学生のトレーニング、手当の支給による大学院生の処遇の改善を図るものである。またResearch Assistantとは、教授が行う研究を円滑に実施するために必要な業務を行うことで、TAと同じ効果をもたらすものである。そこでTAやRAを行うことで報酬として授業料、生活費、社会保険料が全額負担されるという制度となっている。実際ケンブリッジに位置するマサチューセッツ工科大学(MIT)では、博士後期課程のRAで月額平均3,995ドル、年間平均47,936ドル、博士後期課程のTAでは月額平均4,088ドル、年間平均49,062ドルを受け取っているという。このように高額な給与となっている理由としては、MITがあるケンブリッジの物価が高いため、学生が困窮することなく生活できるようにと設定された金額だからである。またこの給与は大学が卒業生や一般の方々から集めた寄付金を基に学生に給付されている。MITでは集まった給付金を基に運用も行っており、学生を支援するために努力がなされていることがうかがえる。 次にイギリスの事例である。イギリスではUK research and innovationが主催する博士学生の支援制度が存在する。これは日本のSPRINGなどと同じように優秀な人材に対し、生活費と授業料を支給するというものである。金額的には生活費として年間最低18,622ポンド、授業料として年間最低4,712ユーロが支給される。具体的な人数に関しては記載がなかったが、イギリスの大学院生の約20%はカバーしているという。またイギリスでは日本の奨学金制度とは異なる特異なローン制度が存在する。それは所得連動返済型学資ローンである。このローンは日本の奨学金と異なり、生活費ローンと授業料ローンの二つに分かれて貸与される。そして卒業した翌年の4月にこの二つを統合して返済が開始される。返済に当たっては、可変方式の利子が割り当てられ、利用者本人の所得に応じて返済金額が算出される。その利子は小売物価指数(RPI)に3%を上限として所得に応じて設定された金利を足したものとなる。小売物価指数(RPI)とは、物価の変動を表した数値のことで、これのみが賦課されている場合は実質的な無利子としてイギリスでは扱う。この方式の重要な点として、返済が開始される卒業翌年の4月に所得が、国が定める一定基準である年収21,000ポンドを超えていなかった場合、返済を猶予し、超えた場合に返済させるというものである。これにより、生活に苦しむ人の負担を軽減することに成功している。さらに返済額も所得によって決定される。税引き前の所得から国に定められている閾値(前述した国が定めた一定基準の値)を引き、出た値の9%がその月の返済額となる。 しかし、このような定額所得者が少しずつ収めることしかできない制度では永遠に返済が終わらないのではないだろうか。ロンドン政府はそのような国民に対しての救済措置として返済開始から30年が経過した場合返済を免除するようにしている。以上のような形態をとることで学生側も借りやすく、返しやすい制度となっているのである。 次にドイツの事例について記述していく。まずドイツの教育制度として2014年に採択された国公立であれば小学校から大学院まで授業料が免除されるという制度が存在する(私立は有料)。これは国内の学生だけでなく、留学生であっても学費は免除される。しかし入学時や新学期前には共済費を払う必要がある。共済費の額は大学によって異なり、100~300ユーロほどで、スポーツ施設料や互助会の費用に充てられている。この共済費を支払う上で大きなメリットも存在し、それはセメスターチケットを手に入れられることだ。セメスターチケットとは、大学のある州の公共交通機関を無料で利用できるというものであり、大学によっては家族込みのセメスターチケットを手に入れられるところもある。生活費のみで博士課程を取得できる大学が多いため、他の国々と比べ取得に対するハードルが低いといえる。 本章では海外における博士号取得を支援する制度に対して記述してきた。しかし、2章で記述したように博士への進学を決定するのは金銭的な問題だけではない。次章では博士人材の卒業後の進路や経済力について日本と海外を比較しながら記述したいと思う。

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卒論 第二章

第二章 博士人材の必要性と日本での現状 前章では経済の発展にはイノベーションが必要だと記述したが、そのイノベーションを増やす方法の一つとして博士号を取得した学生の採用が挙げられる。その論拠として文部科学省の科学技術・学術政策研究所の池田と乾が2018年に行った博士号保持者とイノベーションの関係に関する論文を参照する。この論文では2015年に同じく文部科学省の科学技術・学術政策研究所によって行われた全国イノベーション調査のデータを基に、企業における博士号保持者の有無がプロダクト・イノベーションやプロセス・イノベーションの実現に及ぼす影響に関して分析している。分析結果によれば博士号保持者が在籍している企業はそれ以外の企業に比べて、プロダクト・イノベーションの実現確率が11ポイント高く、プロセス・イノベーションの実現確率については7~8ポイント高いことが分かったという。 以上のことから、博士号保持者がイノベーションに対して大きな影響をもたらすことがよくわかる。しかし、現在日本での博士号を取得しようとする学生は年々減少しており、博士号取得者の割合も世界に比べても低い水準であるという。   文部科学省が2021年4月28日の科学技術・学術審議会人材委員会のために作成した資料(以下資料①とする)によると、修士課程修了者の進学者数・進学率が減少傾向にあり、2000年から2020年で2,377人(7.3ポイント)減少したという。また資料①に掲載されている博士号取得者の国際比較では主要7カ国(日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、中国、韓国)の中で、日本のみ人口100万人当たりの博士号取得者数の減少傾向が続いている。アメリカと韓国は2000年度時点で日本と同程度であったが、その後順調な伸びを見せ、最新値では日本の約2倍と大きな乖離が存在する。では、今の日本の博士号取得者が減少しているこの現状はどのような原因で起きているのだろうか。   その理由を解明するために、科学技術・学術政策研究所,が平成21年3月に作成した、「日本の理工系修士学生の進路決定に関する意識調査」を参照する。この意識調査で博士課程に進学したいが結果断念した原因として、二つの要素が挙げられていた。それが「博士課程に進学すると終了後の就職が心配である」と「博士課程に進学すると生活の経済的見通しが立たない」であった。確かに資料①に掲載されている情報では博士後期課程修了者の就職率は70%程度で停滞しており、経済的支援も国が定めた生活費相当額である180万円以上を受給している学生(貸与奨学金は除く)は全体の一割となっていて、挙げられていた二つの要素と現状が合致している。したがって、博士号課程進学を阻害する主な要因は博士課程在籍中の経済的不安と、博士課程修了後のキャリアパスの不安と考えられる。   次に以上で述べた日本の現状を生み出してきた政策・施策の具体例について記述する。 日本の経済的な支援では前述したように2021年時点で博士学生全体の一割しか生活費相当額を受け取れていないが、その一割が受け取っていたものが特別研究員制度による支援金である。特別研究員制度とは日本学術振興会(JSPS)が行っている支援制度であり、優れた若手研究者に自由な発想のもと主体的に研究活動を行う機会を与えることで、創造性に富んだ研究者の養成・確保を図る制度のことである。この制度では優れた研究能力を持つ博士人材を特別研究員に採用し、研究奨励金の支給及び科研費を交付する(研究奨励金240万円/年、科研費150万円/年)。また支援総数は約4200人となっている。   次に2021年度より新たに始まった博士号学生の支援制度を二つ記述する。初めは次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)である。この制度は博士学生が研究に専念するための経済的な支援と産業界含め幅広く活躍するためのキャリアパス整備を行う意欲のある大学を支援するもので、2021年度より国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が行っている。個人で申請する特別研究員制度とは異なり、各大学により選抜された博士学生に対し、生活費相当額及び研究費の支給や、キャリア開発・育成コンテンツをはじめとする様々な支援が提供される。 次に科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業である。同じくJSTが行っているこの制度は、内容的にはほとんどSPRINGと同じであるが研究分野に関して多少異なる点があり、本フェローシップでは、将来を担う博士人材を戦略的に育成していくため、各大学が将来のイノベーション創出などを見据えてボトムアップで提案するボトムアップ型と、国がトップダウンで分野を指定する分野指定型の2タイプが存在している。SPRINGは学生が研究分野を自身で自由に選択できるため大きな違いが存在する。 以上の二つは生活費180万円と研究費が支給される。   日本も博士人材が減少している現状を打破するために2021年から新たな活動を始めたものの、2022年度の博士後期課程進学者数は2021年に比べて減少している。この減少を止める方法を探すために海外が行っている施策の具体例について次章では記述する。 博士号保持者と企業のイノベーション:全国イノベーション調査を用いた分析[DISCUSSION PAPER No.158]の公表について – 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP) 【資料2】科学技術・学術分野における人材の育成・確保をめぐる現状と課題 (mext.go.jp) 博士後期課程学生の経済的支援|博士後期課程学生支援について|次世代研究者挑戦的研究プログラム|JST

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卒論 第一章

現在、日本経済は長期の停滞の真っただ中にある。 日本経済は1990年代初頭にバブルが崩壊し、2000年代初頭までの期間は「失われた10年」といわれ経済成長率は低迷した。バブル経済崩壊の影響が薄れた2000年代に入り、緩やかに景気の回復が続いた期間もあったが、リーマン・ショックの影響による大きな落ち込みにより成長率はまたしても低い値にとどまった。その後アベノミクスによる大規模な金融政策や民間投資が行われたが、結果一時的な成長にとどまり経済の停滞を脱出するまでは至らなかった。IMF(国際通貨基金)が発表している実質GDPの成長率で日本はここ30年マイナスの年次が多く、毎年2%前後の成長を遂げているアメリカとは大きな違いがあるといえる。 今の状況を脱却するために私はイノベーションが必要であると考える。イノベーションとは1911年にヨーゼフ・シュンペーターによって定義された、「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」を指す。このイノベーションには5種類の分類があり、以下の5種類である ・プロダクト・イノベーション 市場において全く新しい製品、あるいは新しい品質の製品の生産のこと ・プロセス・イノベーション 新しい生産方法や労働方法の導入のこと ・マーケット・イノベーション 新しい市場の開拓などで販路を拡大すること ・サプライチェーン・イノベーション 原料あるいは半製品の新しい供給源を獲得すること ・オーガニゼーション・イノベーション 全く新しい形の組織を生み出すこと   本論文ではこの5種類の中でも特にプロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションを扱う。 日本経済の停滞を脱却するためにイノベーションが必要な理由は、GDPを上昇させるのに必要な企業の成長にイノベーションが寄与するからである。その論拠としてケーススタディを二つ紹介させていただく。 一つ目は特許権がもたらす経済効果について記述する。特許権はイノベーションの中でも重要なプロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーションを生み出した結果取得できるもので、どちらかのイノベーションの証明的な役割を持つ。この特許権が経営指標に対する影響を調べるため、2021年にJETRO(日本貿易振興機構)が行った特許権に関する調査を取り上げる。その調査とは上場食品企業のなかでB to C事業が売り上げの過半を占める8社を抽出し製品に関する特許権(プロダクト・イノベーション)の数と経営状況にまつわるものである。結果、これらの企業では保有特許権数の増大に従って、売上高営業利益率が増大する傾向がみられ、ROA (総資産利益率)も同じく正の相関がみられた。結果として、事業利回りが改善したといえる。 また上記食品企業から一社除いた7社を対象に、生産技術関連の特許(プロセス・イノベーション)のみに絞って同じ調査が行われた。その結果、同じく売上高営業利益率に正の相関がみられた。また総資産回転率というどれだけその製品が売れたかを指す指標に対しても正の相関がみられた。プロセス・イノベーションはコストカットのイノベーションのため、取引量の向上につながったことがよくわかる結果であるといえる。   次にイノベーションの影響で経済成長を成し遂げた具体例として日伸工業株式会社を挙げる。 滋賀県大津市の日伸工業株式会社は、小物精密金属プレス加工を行う中小企業である。1959年の創業以降、テレビ用ブラウン管部品の製造を主力として成長してきた。1990年ごろには国内家電メーカーの海外進出とともに、海外に工場を展開しシェアを拡大し続けた。しかし、2000年ごろからブラウン管テレビの需要減少と共に大きな売り上げの落ち込みを見せ、厳しい経営状況に陥った。しかし、2008年に自動車業界の部品製造事業に参入。元来のプレス技術力と自動車部品に合わせた新たな成型方法の開発というイノベーションを合わせることで、ブレーキ部門の世界シェア20%という自動車部品製造で確立した地位を築き上げた。ABSブレーキの義務化が2014年にあったのも、彼らの追い風になったといえる。自動車部品部門参入以後は右肩上がりの成長を続けているという。 以上から日伸工業株式会社は新たな市場へのチャレンジというマーケット・イノベーションと新たな成型方法の開発というプロセス・イノベーションの二つのイノベーションを活用し、経済成長を遂げた企業といえる 以上の二つのケーススタディから、イノベーションは企業の成長に大きく寄与しており、実質GDPの向上に必要な要素であるということが分かった。 ではこのイノベーションを増やすにはどうすればよいのだろうか。その方法の一つとして博士号を取得した学生の採用が挙げられる。その論拠として文部科学省の科学技術・学術政策研究所の池田と乾が2018年に行った博士号保持者とイノベーションの関係に関する論文を参照する。この論文では2015年に同じく文部科学省の科学技術・学術政策研究所によって行われた全国イノベーション調査のデータを基に、企業における博士号保持者の有無がプロダクト・イノベーションやプロセス・イノベーションの実現に及ぼす影響に関して分析している。分析結果によれば博士号保持者が在籍している企業はそれ以外の企業に比べて、プロダクト・イノベーションの実現確率が11ポイント高く、プロセス・イノベーションの実現確率については7~8ポイント高いことが分かったという。 以上のことから、博士号保持者がイノベーションに対して大きな影響をもたらすことがよくわかる。しかし、現在日本での博士号取得者は年々減少しており、世界に比べても低い水準であるという。 次章では、日本と世界における博士号にまつわる理系人材の育成状況に関して記述する。  

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イノベーションが起こす経済効果 ケーススタディ②

次にイノベーションの影響で経済成長を成し遂げた具体例として日伸工業株式会社を挙げる。 滋賀県大津市の日伸工業株式会社は、小物精密金属プレス加工を行う中小企業である。1959年の創業以降、テレビ用ブラウン管部品の製造を主力として成長してきた。1990年ごろには国内家電メーカーの海外進出とともに、海外に工場を展開しシェアを拡大し続けた。しかし、2000年ごろからブラウン管テレビの需要減少と共に大きな売り上げの落ち込みを見せ、厳しい経営状況に陥った。しかし、2008年に自動車業界の部品製造事業に参入。元来のプレス技術力と自動車部品に合わせた新たな成型方法の開発というイノベーションを合わせることで、ブレーキ部門の世界シェア20%という自動車部品製造で確立した地位を築き上げた。自動車部品部門参入以後は右肩上がりの成長を続けているという。 以上から日伸工業株式会社は新たな市場へのチャレンジというマーケット・イノベーションと新たな成型方法の開発というプロセス・イノベーションの二つのイノベーションを活用し、経済成長を遂げた企業といえる。   03Hakusyo_part1_chap4_web.pdf (meti.go.jp)

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イノベーションが起こす経済効果 ケーススタディ①

特許権はイノベーションの中でも重要なプロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーションを生み出した結果取得できるもので、どちらかのイノベーションの証明的な役割を持つ。この特許権が経営指標に対する影響を調べるため、上場食品企業のなかでB to C事業が売り上げの過半を占める8社を抽出し製品に関する特許権(プロダクト・イノベーション)に関して調査を行った。結果、これらの企業では保有特許権数の増大に従って、売上高営業利益率が増大する傾向がみられ、ROA(総資産利益率)も同じく正の相関がみられた。しかし、総資産回転率に関しては減少する傾向が見られた。製品の特許権は独占権としての側面を持つ。したがって製品価格を高めに設定できるため、売上高営業利益率は増大しやすい。また製品の価格上昇は取引量の減少にもつながるため、総資産回転率が減少したというわけだ。しかし、ROAは利益率に関する指標であるため、特許数が事業利回りを改善した証明であるといえる。 また上記食品企業から一社除いた7社を対象に、生産技術関連の特許(プロセス・イノベーション)のみに絞って同じ調査を行った。結果、同じく売上高営業利益率に正の相関がみられた。また総資産回転率に関しては前者の調査と異なり減少傾向はみられなかった。プロセス・イノベーションはコストカットのイノベーションのため、取引量の向上につながった結果であるといえる。 以上のことからプロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションの二つともに企業の経営指標を向上させる効果があることが分かった。 プロセス・イノベーションが上場企業の経営指標に及ぼす影響とは(世界、米国、日本) | 地域・分析レポート – 海外ビジネス情報 – ジェトロ (jetro.go.jp)

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日本のイノベーションの衰退に関して

~日本のイノベーションに関するデータの推移に関して、文部科学省の科学技術・学術政策研究所が作成した「全国イノベーション調査」を基に調査を行った。 結果としては、日本のイノベーション能力はここ20年間の間で衰退はしていないが、世界の先進国の中でも低い水準にあることが分かった。 以下は日本全国の中でイノベーションを行った企業の割合の推移である。 1999~2001:22% 2006~2008:34% 2012~2014:40% 2015~2017:38% 2017~2019:27% 2019~2021:32% このように衰退しているわけではなく、ある程度の値の中で安定しているという結果になった。この値を先進国の似た時期のデータと比較してみる。 2002~2004 フランス:31.6% スウェーデン:47.6% ドイツ:56.2% 2015~2017 アメリカ:43.2% 2018~2020(アメリカのみ2017~2019) フランス:54.8% スウェーデン:65.2% ドイツ:68.8% アメリカ:25.3% このデータによるとEU諸国は元々高い値な上、年々イノベーションを行う企業数が増加している。またアメリカはイメージとは裏腹にここ数年で大きく割合を減少させている。しかし、アメリカ以外の欧米諸国と比較すると日本のイノベーション能力は他の先進国に劣っていることがわかる。 したがって、日本のイノベーション能力は一部を除く他の先進国と比べて劣っており、ここ20年間の間で大きな成長を遂げていないことが分かった。 参考文献①:全国イノベーション調査 – 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP) 参考文献②:国際比較を通じた我が国のイノベーションの現状(236662807.pdf (core.ac.uk)) 参考文献③:Community Innovation Survey 2020 – key indicators – Statistics Explained (europa.eu) 参考文献④:Innovation Data from the … 続きを読む

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