書評『アメリカ合衆国における再生可能エネルギーの普及促進に関する近時の動向と法的課題(2)』

本論文は小林寛がアメリカ合衆国の再生可能エネルギー事業の動向と法的課題を考察し、日本への示唆を行っている。第1章から第5章までそれぞれ太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス・バイオ燃料について述べているが、地熱のみをピックアップして書評を書く。

第4章
第1節 アメリカ合衆国
1 近時の動向
ここではアメリカの地熱に対する動向が記述されている。
アメリカは地熱賦存量が世界1位であり、地熱発電設備容量においても世界最大とされている。1978年の公益事業規制法により設備容量は大幅に増加したが、1990年台の電力自由化により地熱発電の建設は鈍化した。しかし、2009年のオバマ政権時にアメリカ再生・再投資法により税額控除や148の地熱発電事業に投資したとされている。トランプ政権に交代後、エネルギー省の2018年度会計年度予算要求によると、地熱は7100万ドルから1250万ドルへと減額されたが地熱開発に係る連邦政府による支援は依然として存在している。

2 法規制の概要
ここではアメリカの法規制、特に地熱資源の所有権が誰に帰属するのかが記述されている。
地熱資源は連邦政府に規則する場合、私人に帰属する場合、州に帰属する場合の3つがある。地熱蒸気法は、連邦政府に帰属する地熱資源を鉱物として管理し、リースプログラムを通じて私人による開発が許されている。また、地表における権利が私人に譲渡された場合でも、鉱物に対する留保により地熱資源はアメリカに帰属する。さらに土地の所有権が私人に帰属している場合でも地熱開発の際には一定の規制がかかる。
地熱開発における経済的支援策は税額控除、交付税、エネルギー省による債務保証などがあるが、最も地熱開発を後押ししたのはオバマ政権時に成立したアメリカ再生・再投資法だ。現政権下(トランプ政権)では同胞に匹敵する経済的支援策は望めないが、低炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの普及促進に向けた支援策の策定・実行が期待されている。

3 課題
ここでは地熱開発の際の課題について3つ記述されている。
1つ目は環境汚染の懸念だ。環境上の課題として「大気質」、「水質」、「水資源の枯渇」、「生物の生息地や文化資源の衝突」の問題が挙げられる。地熱流体には少量のメタンや硫化水素。アンモニアが含まれているため大気環境に悪影響を与えうるとされているが、大気浄化法によって具体的な数値を出して規制されている。また水質汚濁についても一定基準のもとで規制されている。
2つ目は歴史的文化資源との関係だ。地熱発電所の敷地が温泉と関係しており、「しばしば歴史的文化資源であったり貴重な生物種の生息地であり、その様な式地上での問題は共存できない」との指摘がある。アメリカでは日本と異なり自然公園法や温泉権の問題よりも、国家歴史保存法などの連邦法及び先住民族に対する忠実義務との関係が大きい。
3つ目は手続面だ。地熱発電に係るリースは競売の手続を経て発行されているが、「競売の手続は、地熱資源について集中的に行う開発者のインセンティブを大幅に弱化させてしまう」という問題点が指摘されている。さらに土地管理局だけでなく、農務省林野部、野生生物部、国家海洋大気管理局および国立公園局といった多くの機関が関与している。1つの事柄について様々な機関が手続に関与することによりリースに係る手続が遅滞してしまうことも考えられる。

第2節 日本
1 近時の動向
ここでは日本の地熱発電の現状が書かれている。
日本の地熱資源量は、アメリカ。インドネシアに次いで世界第3位とされているが資源量に対する利用率は約2%の53万kWにすぎない。また、2012年に施行された電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法に基づく固定買取制度のもとでも、導入量は認定容量の7.9万kWに対し1万kWと著しく少ない。

2 法規制
ここでは地熱発電事業に適用される法律のうち、日本特有の自然公園方と温泉法について記述してある。
(1)自然公園法
自然公園法は、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的とする。同法により、国立・国定公園内における地熱発電事業は規制を受ける。しかし、東日本大震災の発生後、再生可能エネルギーの利用を促進するために、2012年通知により開発規制は緩和されることになった。さらに2015年通知が発出され2012年通知は廃止された。2012年通知においては、特別保護地区と第1種特別地区においても傾斜掘削が認められていなかったが、2015年通知においては第1種特別地区において一部、傾斜掘削が認められることになった。
(2)温泉法
温泉法によると、温泉をゆう出させる目的で土地を掘削しようとする者は、都道府県知事の許可を得なければならないとされている。地熱開発を行う際の掘削も「温泉」を「ゆう出させる目的」であれば都道府県知事の許可が必要になる。2012年3月に定められた環境省の「温泉資源の保護に関するガイドライン」は2014年に改正され許可が不要な掘削の類型化がなされた。これは例示的に列挙されたものであり、個別具体的な事情に基づいて判断することが必要だ。

3 課題
ここでは日本の温泉権についての課題が詳しく記述されている。
一般的な課題は「掘削成功率が低く、開発コストが高い」、「リードタイムが長い」、環境アセスメントや地元調整などに時間がかかる」などがあげられ、これはアメリカに共通するところがある。日本特有の課題は「国立公園問題、温泉問題」が挙げられる。
いかなる場合に、地熱開発が温泉権の侵害となるかだ。福岡高判昭和27年10月25日は、いかなる場合に権利の濫用として掘削行為の差止めを求めることができるのか、その判断基準は必ずしも明らかにしていない。しかし、湯口における湯の直接採取・管理に支障が生じるのは、温泉の湯量の減少または温度もしくは成分への影響によってである。つまり、地熱開発を行うにあたり、源泉や湯だまりに向けた掘削によって、客観的に温泉の油量、温度または成分に看過できない影響を与えたことにより、湯口における湯の採取、管理または利用に支障をきたすと認められる場合には、温泉権の侵害と評価するものと考えられる。そこで温泉権の侵害にならないためには、都道府県知事の許可に加え、適切な地盤調査、湯口から一定の距離を空ける、温泉の採取量に一定の限定を設けることなどが必要になる。

アメリカと日本の現状、課題が比較できたと思う。日米で似ているところもあれば違うところもあったので、良いところはどの様に取り入れるのか、悪いところはどの様にしたらその様にならないのかを考えることが必要だと感じた。

紀要論文
アメリカ合衆国における再生可能エネルギーの普及促進に関する近時の動向と法的課題(2)
2018年11月9日 公開
著者 小林寛

カテゴリー: 新聞要約   パーマリンク

コメントを残す