書評 週刊東洋経済 2023年5月27日号 アニメ 熱狂のカラクリ

アニメは過去10年で市場規模が2倍以上に拡大した日本の急成長産業である。映画では興行収入100億円超えの作品が続々登場したり、動画配信サービスの普及で海外ファンも急増したりするなど、今やアニメは国民的カルチャーになり、大企業はアニメへの投資にアクセルを踏んでいる。一方で、アニメ制作現場が利益を得にくい構造や、横行するセクハラなどの根深い問題は依然として残っている。本書は長年の課題を抱えながらも、熱狂が渦巻くアニメビジネスの最前線を徹底取材した本である。

 

1 「熱狂アニメマネーの全貌」

 

このパートでは現在のアニメ産業についての全貌を世界でのアニメビジネスの動向、製作委員会の儲けのカラクリ、出版社のIPバブル、アニメーター賃金の「二極化」を中心に紹介している。

日本のアニメは世界で混沌すら巻き起こすムーブメントになっており、中国では3月に公開された「すずめの戸締り」が現地で興行収入150億円、アニメ映画「SLAM DANK」は同120億円を突破した。「すずめの戸締り」のワールドツアーに訪れ、現地のファンの多さを目にしたコミックス・ウェーブ・フィルムの角南一城常務は「もはや日本アニメはサブカルチャーではない。世界のメインカルチャーになったんだ」と述べている。また、国を挙げて関与しているサウジアラビアでは石油依存型社会からの脱却を課題に、エンタメ産業を成長分野の一つに選定しており、日本アニメの大ファンである皇太子を筆頭に政府系ファンドが東映や任天堂など日本のエンタメ企業に相次ぎ出資している。

また製作委員会に関しても製作委員会の参加企業や出資比率が複雑になっていることに加えて、ヒットに繋がりやすい有名原作のアニメ化権を取得しようと争奪戦になっており、企業間での衝突が激しいと紹介されている。

出版社もアニメ好況での恩恵を受けており、出版大手の集英社は「鬼滅の刃」、「呪術廻戦」などの爆発的ヒットにより、売上を拡大させている。さらに国内外から急増ずるIP需要や儲かるIPビジネスに対応すべく、各出版社は東映アニメーションや電通から中途で人材を引き抜き、ライツ事業の強化を行っていると紹介されている。

アニメーター賃金にも異変が起きている。日本アニメーター・演出協会が昨年行った最新のアンケート調査によれば、アニメーターの平均年収は455万円と4年前の調査から15万円の増加となっている。さらに腕のあるアニメーターに対しては「拘束費」として出来高とは別に一定額を上乗せし、アニメーターを確保する慣行があるが、最近では支払いが常態化しており、よいアニメーターを確保するため、ある制作会社は多額の「拘束費」を提示している。しかし、「動画」や「第二原画」を手掛ける若手アニメーターは月10万も稼げず、生活が厳しいままであるとアニメーターの賃金の「二極化」について説明されている。

 

2 「アニメで攻める日本企業」

 

このパートではアニメコンテンツを取り扱う企業の動向についてソニーやネットフリックスの現在や現代のアーティストとアニソンの関係を中心に紹介されている。

現在、ソニーの子会社であるアニプレックスは日本のアニメ業界における“台風の目”と呼ばれており、「鬼滅の刃」など大人気作品を多く手掛けている。同社は有力な制作スタジオを抱えると同時に社外の有名制作スタジオとのつながりも深く、業界からは「ヒットに対する欲望のスケールが他社のスタッフと違う」や「収益最大化への気概、企画・営業の実力ともに申し分ない」と畏怖の声ばかりだ。さらに近年、日本アニメの配信で世界最大級の米クランチロールを買収しており、さらにアニメ関連のビジネスを拡大していくと述べられている。

「黒船」と呼ばれているネットフリックスは2018年以降、日本の人気アニメ制作スタジオと業務提携を結んだり、既存アニメの配信だけではなくオリジナルアニメの製作にも進出したりとその大盤振る舞いは業界内外で話題となっていた。しかし、2022年4月以降オリジナルアニメや独占配信が会員獲得数に貢献しないことや原作側からの独占配信の不安により、同社は失速したと述べられている。

アニソンの勢いも凄まじく、2023年の「チェンソーマン」の「KICK BACK」(米津玄師)は総合チャートの首位攻防戦を繰り広げ、アニメ関連局のストリーミングチャートで26週連覇を果たした。近年のアニソンは作品と音楽の密接度が増えており、大手レコード会社社員は「ドラマより安定して結果が出る印象があり、作品との寄り添い方が深い程、爆発力につながる」と語る。さらにSpotifyが公開した2022年に海外で聴かれた日本の曲のランキングを見ると10曲中7曲をアニメ関連が占めており、アニメが世界で音楽を認知させる強力なチャネルであるとも紹介されている。

 

3 「アニメを知ろう!生かそう!」

 

このパートでは現在のアニメブームに置いて行かれないよう抑えるべき最新教養アニメや地域活性化などで注目されているアニメの聖地巡礼、AIがもたらすアニメ制作への影響について紹介されている。

昨今の社会で巻き起こっているアニメブームに置いて行かれないよう、読者向けに教養アニメをランキング形式で1位は「鬼滅の刃」、2位は「君の名は。」、3位は「ソードアート・オンライン」と3人の識者の意見を踏まえて紹介されている。特に1位の「鬼滅の刃」はアニメ化によって、原作漫画だけでは到達しえない社会現象を起こしている点や異業種とのコラボがかつてない規模で成功している点から非常に注目すべきアニメであると説明している。

そして、アニメのファンが作品の舞台となった地域を訪問する「聖地巡礼」と呼ばれる行為も地域活性化や観光復興策として注目されており、アニメの聖地が国内だけでなく海外からの誘客が期待できる貴重な観光資源であるとして各地方自治体から重宝されている。しかし、アニメ聖地を復興するうえで抱える課題もあり、「版権元から許諾を得ることに高いハードルを感じる」という意見や「著作権等の権利関係が分かりづらい」という意見が各地域から挙げられていると述べられている。

アニメ制作内でのAIの活用も検討されている。いち早く導入が検討されているのがアニメーターよりも人材不足が深刻な背景美術の制作で業界大手東映アニメーションでは2021年に先端技術を使用し、美術の前処理工程の時間を従来の約6分の1に大幅に短縮できたという事例を紹介している。そこからネットフリックスでAIを使ったショートアニメやキャラクターの動きにAIを用いるなどアニメ制作でのAIの活用を進めているが、著作権関係の問題や制作スタッフからの反発もあり、アニメ制作へのAIの導入には課題が多いと説明されている。

 

本書を読んで最新のアニメ業界の問題やアニメコンテンツを取り扱う企業の動向について深く知ることができた。今回はアニメ業界の踏み込んだ内容についての解説が多く、現在のアニメ業界の知見を深めることができた。そして、今まで読んできた書籍を参考にアニメ業界の問題を解決するための新モデルなどを卒業論文でまとめたいと思う。

東洋経済新報社 週刊東洋経済 2023年5月27日号 アニメ 熱狂のカラクリ 2023年5月22日発売 著者:週刊東洋経済編集部

カテゴリー: 新聞要約   パーマリンク

コメントを残す