第四章 事例研究の考察

第三章では、企業組織において認知的多様性を高めた結果成功した事例を3社取り上げた。第四章では3つの事例を考察し、「経営理念に対する共感度が様々な段階の人が組織に関わることで経営組織における認知的多様性が高まり、その維持には組織の流動性が重要である」ことを主張する。

 

セイコーインスツルは社外取締役によって、経営から創業家の圧力を弱めることが出来た。W・L・ゴア・アンド・アソシエーツ社はプロジェクトごとのチームで開発を行い、積極的に外部の意見も取り入れる流動的な組織づくりを行った。日本たばこ産業株式会社では「変な人」を採用することで、変化を恐れずに挑戦していく組織風土を作り出している。3つの事例の共通点として「一時的なつながり」であることが挙げられる。マシュー・サイドの著書の中で「最初は多様性豊かな集団でも、そのうち集団の主流派や多数派に引っ張られて(同化して)結局みな画一的な考え方になってしまうことがある。(中略)同じ組織に長い間いると、みな代わり映えしない考え方になってくる。」[1]という文章が印象的だった。認知的多様性を高めるために「同じようなものの見方や考え方の枠組みが似ている集団では集合知を発揮することが出来ない」ことは3章でも確認したが、その維持のためには流動性が重要である。3つの事例を再び確認すると、社内の利害関係にとらわれずに株主の視点から経営に関与する社外取締役の任期は、平均6年程度である。会社によっては任期を1年または2年に設定することもあり、数年で新しい人が就任することになる。プロジェクト・ベースの組織編成では、プロジェクトごとにチームが作られ、プロジェクトの新設・改廃・解散に伴ってかなりの人材、資源、知識が流動している。日本企業において通常一年周期で行われる採用は、違う価値観を持つ人材を組織に受け入れ、組織文化を見直す重要な機会である。同じように3章で確認した「社交性」が認知的多様性において重要であることは、社交性の中に流動的な要素が含まれているからである。

[1] p93

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