書評 EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘

本書は元内閣官房参与の加藤康子が、自動車経済評論家の池田直渡とモータージャーナリストの岡崎五郎との鼎談を元に、言い足りなかった点をそれぞれが加筆して完成したものである。

第一章 ガソリン車からEVへのシフトに乗り遅れてはならないの嘘

一章ではEV化が日本に与える影響についてまとめられている。菅義偉総理が2020年10月の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラルの実現」を掲げ、脱炭素政策の目玉として、自動車産業においては電動化を推進し、2030年代半ばにガソリン車の新車販売を廃止するという方法を打ち出している。そのような動きに対して自工会の豊田章男会長は、 国内の乗用車400万台を全てEV化した場合、原発がプラス10基必要になることや、充電インフラの投資コストが約14兆円から37兆円必要になることや、電池の供給能力が今の30倍以上必要になることを説明している。次世代に向けてe-fuelという合成燃料も使用するべきとしている。e-fuelとは水素を中心にして二酸化炭素と化合させるなど様々な技術で作られる科学的で脱炭素な新世代の合成燃料の一種である。またさまざまな燃料と混ぜて使えるため、技術の進展と新しい燃料のコストダウンに応じて既存の産業と折り合いをつけながら、かつCO2の削減に向かって進んでいける優れものである。脱炭素をするにおいてEVに注力するのではなく、他の選択肢を作ることで柔軟に対応するべきだと主張している。

第二章 EVは環境に優しいの嘘

二章ではEV化したときの問題についてまとめられている。EV化したときの一番の問題点はEVに使われるリチウムイオンバッテリーに様々な課題があるところだと述べている。その一つとして品質に課題があるとしている。リチウムイオン電池は燃えると消化の方法がないため消え終わるまで待つしかなく、品質が低いと発火事故の危険性が懸念される。実際バッテリーが原因でリコールが起きているといい、2021年に現代の「KONA Electric」が15件の出火事故が発生したことを受け、950億円の費用をかけて約8万2000台をリコールするに至った。また原材料が足りないことも課題である。リチウムイオン電池の原材料には、主にコバルト、ニッケル、リチウムが使われているが、コバルトはあと20~30年で枯渇するといわれているため、数年後全車EV化をしたときには、コバルトなどの原材料は枯渇してなくなっている状態になると述べている。

第三章 EV推進は株価のため?

三章ではEV推進によって得をする人について取り上げている。ESG金融商品を販売する金融関係者、ファンドマネージャーや投資家などはこのEV化に旗を振ることによって得をすると説明している。

第四章 中国EV最新事情 「中国製造2025」を読み解く

四章では「中国製造2025」についてまとめられている。中国製造2025とは2015年に中華民族の復興のために発表された国家戦略、製造強国戦略であり、2025年までに製造強国入り、建国100周年(2045年)までに製造強国のトップグループ入りを果たすためのロードマップである。中国製造2025の中の国家戦略10項目では、次世代情報技術(5G、半導体)や省エネ・新エネ自動車、新素材といった自動車産業に密接に関わってくる分野が入っている。そのため中国の自動車販売の影には、中国共産党の惜しみない支援があり、中国自動車メーカーのNIO(ニオ)、BYD(ビーワイディー)、SGSM(上汽通用五菱汽車)は大きな勢いで成長している。そして低価格の超小型EVというジャンルを他国に先駆けて中国が確立しつつあると説明している。

第五章 テスラの何が凄くて何が駄目なのか?

五章ではテスラに焦点をあてている。テスラはEVマーケットを牽引してきた。2008年に発売された最初の車である「テスラロードスター」というスポーツカーは、英ロースターからシャシーの技術供与を受け、そこにバッテリーとモーターを組み込むという、改造車の域を脱しないモデルであった。また「ノートパソコン用のバッテリーを大量に積んでスポーティーに走るEVに仕立てる」というコンセプトであり、EV時代を切り開いた。「EVが次の時代のクルマだ」という印象を作りあげてきたところがテスラのすごさであると説明している。一方でテスラのダメなところとして、日本の主要な急速充電器は「CHAdeMO(チャデモ)」という日本を中心とした規格であるが、テスラの規格とは異なり変換アダプタが必要になるところであると説明している。

第六章 欧州が仕掛けるゲームチェンジの罠

六章では、EVに関するEUの動きを取り上げている。欧州が仕掛けるゲームチェンジとして以下の二つを挙げている。一つ目はガソリン車あるいはハイブリッド車からEVへのシフトである。二つ目は「LCA」という新しい概念の持ち出しである。いままでのEUのCO2規制戦略はCAFEという燃料製造&車両製造時のCO2排出は無視し、クルマが走行時にどれだけCO2を排出するかで評価する手法を取っていた。しかしながらLCAは異なり、「製品のライフサイクル全体を通してCO2をどのぐらい出すか」という評価手法である。これによってEUのメーカーは、CO2の排出量が少ない北欧やフランスでバッテリーを作って、ドイツの工場でEVに積むという作戦を取ることで、トータルの排出量を少なくすることができる。結果として「ドイツのEVは優秀だ」という絵柄を作ることができ、化石燃料を主としてバッテリーを製造している日本、中国、韓国に対抗することができると述べている。EUだけが勝つ仕組みが作られていると説明している。

第七章 トヨタという企業の真実

七章ではトヨタについてまとめられている。トヨタは2020年度に国内約300万台、海外約500万台、トヨタグループでは合計952万台生産しており世界販売台数一位の自動車企業であり、また世界企業番付のトップテンにいる企業でもある。現在トヨタは電気自動車を複数開発している。軽より小さな新規格のクルマ「C+pod」(シーポッド)や、スズキ、ダイハツとの軽EVの共同開発、スバルとのEV共同開発「UX300e」などがある。またウーブン・シティ構造というものを立てている。ウーブン・シティとはトヨタが開発する近未来スマート都市である。そして無人の自動運転のEVによって荷物を搬送するシステムがあらかじめ町に組み込まれていたり、地下道では完全無人運転が走ることができたりなど、街全体がクリーンで全自動化する実験的な街作りを目指していると説明している。

第八章 パリ協定の嘘 実現不可能なCO2削減目標を掲げるのはなぜか?

八章ではパリ協定について取り上げている。パリ協定とは2015に採択された気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定のことであり、産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑える目標を掲げ、加えて平均気温上昇「1.5度未満」を目指すものである。このパリ協定に対して、2017年に日本では経産省が試算した結果「2050年までには温室効果ガスを2013年に対して80%削減する必要がある」という結論に至り、この水準においては農林水産と、2、3の産業しか国内で許容されないことになり、到底達成できないものであると主張している。にもかかわらずメディアなどが「脱炭素」の反対意見を一切掲載せず、「SDGS」や「持続可能社会」など実態が何かわからないまま、どういうインパクトが国民経済、暮らし、雇用に起こりえるのかを国民が理解しないまま、ムードで話が進んでいってしまっていると筆者は批判している。

第九章 日本にEV成長戦略はあるのか

九章では今後の日本のEV成長について取り上げている。自動車産業は、国民にとって日本の経済を支える一番重要な産業であり、基幹産業である。そのため自動車産業が駄目になると日本経済は途上国並みになってしまうと述べている。今後ガソリン車を廃止し、オールEV化するというのは、生産設備・資源・インフラ・電源の面でも時間がかかるとし、その間をつなぐためのもの、補完するものとして、ハイブリッドの重要性は高いものであると説明している。そして段階的なCO2削減にハイブリッドはきわめて有効な現実的手段であるとしており、ハイブリッドこそがEVが成長していくための下支えをする重要な戦略であると主張している。

本書を通して脱炭素の中のEV化の現状や問題点などを深く知ることができた。筆者によって見方が異なってくると思うので、別の人の本を読んでEVについて多角的に見ることができるようにし、卒論を書くためにさらに理解を深めていきたいと思う。

 

ワニブックス

EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘

2021年11月10日発行

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