月別アーカイブ: 2022年9月

ランサーズ、中小企業に照準を

クラウドソーシング大手のランサーズが新たな収益源を模索している。かつて主力だった大企業向けサービスは新型コロナウイルス禍で需要が縮小し、事業撤退を決めた。足元の株価は上場来高値に比べ8割ほど安い。投資家の期待を取り戻すには、改めて注力する中小企業向けサービスの成長が急務になる。ランサーズは2008年に創業し、インターネット上で仕事の受発注を仲介するクラウドソーシングの草分けとして知られる。運営サイトでは登録人材を実名で紹介し、実績や過去の仕事ぶりに基づいて信頼度を4段階で表示する仕組みを取り入れた。ネットで安心して業務を外注できる点が受け、中小企業を中心に需要を取り込んだ。2014年には大企業から営業やプログラミングといった業務を請け負い、必要な人員を一括で集めるサービスを始めた。これが2019年3月期には売上高全体の約4割を稼ぐ主力事業に成長した。しかし、コロナ禍で大企業向けサービスは顧客企業の業績悪化で新規受注が減った。業績回復に向け、手は打ち始めている。コロナ禍でもデジタル化需要が旺盛な中小企業向けサービスを充実させる方針で、まずは2022年6月にデジタル人材の養成事業を始めた。デジタル広告や電子商取引(EC)サイトの運営などを学べる講座を動画で提供し、受講後は案件も紹介する。 ランサーズ――中小企業に再び照準(上場後のリアル) 2022/09/21 日本経済新聞 朝刊 13ページ

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JR東海、「推し旅」で利用者回復目指す

JR東海がアイドルやキャラクターの応援を組み込んだ「推し旅」に力を入れている。推しとは好きなアイドルやキャラクターや、それを熱心に応援することを指す流行語だ。JR東海は2021年11月から「推し旅」を企画して販売してきた。今夏にはアニメ映画「五等分の花嫁」のゆかりの地、名古屋水族館にキャラクターの等身大パネルを使った写真撮影スポットを用意して、人気を集めた。他にも、アイドルグループSKE48の須田亜香里さんのライブも独自に企画し、新幹線や専用バスを組み合わせた旅行も販売した。ニッチな旅行ニーズを掘り起こし、コロナ禍で落ち込んだ利用者の回復を目指す。 2022/09/15 日本経済新聞 7ページ

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アニメ新会社、制作者への還元へ

アニメ制作のCloverWorksとウィットスタジオは5月、集英社とアニプレックスと共同で新会社JOENを設立したことを発表した。目的はこれまで製作委員会が担ってきた役割である企画立案から制作までのプロデュースを制作会社が主体となって行うことである。一般的に12話のアニメを制作するには2億~3億かかるとされ、CGを多用する場合、10億円を超えることもあり、製作委員会を構成する複数社による共同出資がほとんどだ。「鬼滅の刃」のユーフォ―テーブルなど、製作委員会を介さずにアニメを作る例も増えており、新会社はアニメ制作会社が政策の主導権をスポンサーから取り戻そうとする試みといえる。 2022/07/07 日本産業新聞 2ページ

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書評 瀬戸正則(2017)『戦略的経営理念論 人と組織を活かす理念の浸透プロセス』中央経済社

広島大学教授の瀬戸正則は、「企業組織はいかに運営されているのか、いかなる運営が組織を効率的に機能させ、社会にとって有益なものとなり得るのか」といった問題意識を起点に、経営の根幹をなすとされる「経営理念」の浸透研究を開始した。本書は、著者である瀬戸正則の広島大学博士学位論文を加筆修正の上、出版したものである。 第1章 実務・実践的課題からとらえる経営理念 1章では、筆者が今回の研究で、日本の中小企業とミドル層に着眼することが記されている。 本書の目的は、企業における経営活動上の根幹を表現し、経営成果を導くための内部統制や外部適応を図る際に重要な機能を果たすものとして経営理念に着目し、その浸透を図る必要性や有効性および具体的プロセスについて個別企業の事例をもとに論じることである。 対象とする企業は、非組織的な活動の集団的かつ自律的なコントロールが難しいといったミクロ的な視点から、経営組織としての限界が指摘される中小企業とする。 その中でも、組織内で垂直・水平的で網の目のようなコミュニケーションを積極的に促しながら、企業全体の士気向上を図るといった重要な役割が指摘されるミドルに着目する。 第2章 学説からとらえる経営理念 2章では、先行研究から経営理念の概念定義が確認されている。 学術的には一貫した定義づけが明確にされていない経営理念について、筆者は「創業者や経営の承継者の経営に係る思想・哲学をもとに、何のための経営であるかを表明したものであり、経営組織全成員で理解し共有すべき指針を明示した、動機づけおよびコミュニケーションのベース」と概念規定した。 経営理念のもつ潜在的な利点に言及した先行研究では、行動と決断を導く拠りどころとして組織成員を動機づけることが挙げられている。しかし、その浸透がいかなる条件下で、いかなるプロセスを経てなされるのかといった観点からの具体的な知見は得られていない。さらに、そのほとんどは大企業を対象として見いだされた内容である。全企業数の99.7%を占め、非組織的意思決定の役割が相対的に大きい中小企業を対象とした経営理念の研究は未だ多くない。以上から、中小企業の経営理念に着眼する意義が再確認できる。 第3章 経営理念の必要性と有効性 3章では、本書のリサーチ・クエスチョンが設定され、ミドル・アップダウンマネジメントに関する先行研究についてさらなる考察がされている。 3つのリサーチ・クエスチョンを設定する。1つ目は、「非組織的な意思決定や活動が指摘される中小企業において、経営理念の浸透を図ることの必要性や有効性は何か」。2つ目は、「中小企業の経営理念浸透プロセスにおいては、組織内の結節点に位置づけられながら、経営活動上の重要な役割を担う人材として先行研究が指摘するミドルに対し、いかなる機能の発揮が求められるのか」。3つ目は、「経営理念が浸透する様相はいかなるプロセスやフェーズで示されるのか」である。 これらを明らかにするため、ケーススタディを実施する。従来の先行研究では、産業革命に始まる製造業を対象とした内容が多いが、今後はサービス業を含めた研究が必要といった指摘がある。そこで、本書の研究対象の業種は、顧客との直接的な関係を保持しながら、無形かつ提供と消費の同時性が指摘される役務を提供する、サービス業とした。 野中・竹内(1996)が提唱する「ミドル・アップダウンマネジメント」とは、ミドルの果たす役割の重要性を明らかにした研究である。ミドル・マネージャーは、経営トップがもつビジョンとしての理想と、第一線従業員が直面することの多い錯綜した市場の現実や、彼らのもつ現場感覚との矛盾やズレを発展的に解消し、両者をつなぐ戦略的な結節点としての役割を担う存在として位置付けている。加えて、ミドルは、組織において経営トップや一般従業員を巻き込みながら、組織変革を遂行する中心的役割も担っていると主張している。この先行研究から、経営理念の浸透促進に関して、ミドルに着眼する意義が再確認できる。 第4章 経営理念の戦略的活用事例 4章では、調査対象と手法が記され、分析視座が記されている。 研究を進める方法として、個別経営にみられる一貫性に焦点を当てた研究に対し有効な方法と考えられる個別事例研究法(ケーススタディ)を用いる。具体的手法としては半構造化面接法を採用する。会社法の規定を援用し中小企業の概念定義を行い、面接調査対象は広島の地元企業2社となった。ベンチャー型の中小製造業である(株)パールスターと、冠婚葬祭業を営む同族経営A社である。 調査結果を分析するにあたり、3つの視座を構築する。1つ目は、非組織的経営活動が、経営理念の浸透プロセスにどのような影響を及ぼしているのか。2つ目は、経営理念浸透プロセスにおいて、どのようにミドルが一般従業員に対する理念浸透を働きかけているか。3つ目は、経営理念の浸透促進に向けた取り組みを評価し、次のステップへつなげていく相互作用のプロセスがいかに形成されているかである。 第5章 理念が戦略的に活きる経営の本質 5章では、2社の調査結果が報告されている。 最初に、経営理念に対する考え方として、A社トップは、「経営者が交代しても、会社運営の基軸や提供サービスの質も不変で、平然と経営がなされていることが、顧客の信頼を得て、企業価値の向上を図る大きな要因となる。経営理念はそのためのツールである。」と考え、創業以来の経営理念を徹底している。一方で、(株)パールスタートップは、「組織経営の本質は、経営トップ自身が学習し、自身の精神を成長させることにある」と考え、「トップの姿勢が経営理念」という共通言語を組織内外に伝播している企業である。 インタビュー調査を通して、経営トップの経営理念の捉え方として、「経営理念とは、経営者の人生観そのものを表現したものであり、企業業績悪化などの非常時に従業員の一体化をもたらし組織力を高める有効性があるもの」ということが明らかになった。経営理念の浸透を図る目的は好業績の確保ではなく、会社の非常時・緊急時における人心掌握にあるようだ。 前章で記した視座に基づいて調査結果を分析する。一点目は、同族者への経営権の継承といった非組織的活動が、組織成員の士気低下といった悪影響は見られず、経営トップの理念に依拠する高い倫理性に基づいた日々の姿勢が、組織成員に信頼性や安心感を知覚されながら強く支持されていた。二点目は、ミドルに求められる資質として、素直さに代表される人間性と、自立性が挙げられた。経営トップの考え方を自身へ内在化させ、一般従業員には言葉を変えてわかりやすく伝える社内コミュニケーションの促進を補完する役割が求められる。三点目は、経営理念の浸透を図る手法として、経営理念の具現化に向けた具体的行動目標をスローガンとして毎年設定することが挙げられる。しかし、組織成員の心にまで落とし込むには、人格を尊重しながらの対話を反復継続していく必要があるようだ。すべての企業に共通する経営理念の浸透に有効な直接的な制度はないが、企業それぞれの理念を基軸とした戦略経営に強くこだわっていく特長のあるビジネスモデルは、簡単な手段による他社の模倣が困難となることは明らかだ。 第6章 経営トップと中核人材が戦略的に導く理念経営 6章では、調査結果がアイデンティティの面から考察され、概念関係図を完成させた。 組織成員の個人的アイデンティティを尊重しながら、同一化を強制しないことが原点となり、経営トップの個人的アイデンティティが経営理念とほぼ同一化している時、経営理念の浸透プロセスが機能すれば、組織成員が知覚し受容するアイデンティティを活用した協働体制の構築にもつながるとして、組織成員のアイデンティティを活かした経営理念浸透プロセスについて、諸概念の関係性を示すモデル図を完成させた。 第7章 戦略的経営理念の構築に向けて 7章では、今回の研究が総括されている。 経営理念とは、とくに意思決定時における自らの判断のぶれに対し、その検証や是正を図る唯一の指針と捉えることが出来る。今回調査対象にしたサービス業においては、従業員と顧客がコミュニケーションをとるなかでお互いの感情が直接的に深く見えてしまう。マニュアルワークでは補いきれない、従業員と顧客の相互作用による不確実性に経営理念の浸透を図る有効性が見えてくる。 組織成員が、組織統合力の強化をもたらす個人や集団としての、アイデンティティの知覚や高揚感を自覚することが、組織内外との相互作用を通じてアイデンティティの知覚に至るプロセスの存在が明らかになった。   経営理念に関する研究は、各経営組織の特異性が強く、個別事例を見ていくしかない研究が多い特徴がある。全体を俯瞰し、経営理念の浸透に有効とされる確実な理論は見つかっていないのが現状だ。 本著において、経営理念を企業文化ではなく戦略として捉える点が興味深かった。営利組織として、経営理念や組織文化、福利厚生などは直接的な利益につながらないと敬遠されることもあるが、経営理念の浸透が「企業業績悪化などの非常時に従業員の一体化をもたらし組織力を高める有効性がある」との見解が新たな知見として得られた。 まだ経営理念のどのような側面に注目して研究したいかが明確ではないが、経営理念の浸透は各企業のユニークな施策に託されるとして、勤続年数と経営理念の関係など、採用の側面から経営理念を紐解いても面白いのではないかと感じた。 中央経済社 『戦略的経営理念論 人と組織を活かす理念の浸透プロセス』 2017年7月20日発行 著者 瀬戸正則

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書評「アニメプロデューサーになろう!アニメ「製作」の仕組み」

本書ではアニメーションプロデューサーに必要な「今現在の常識」を一気に学べることを目標に書かれた本である。アニメプロデューサーにはアニメを「商品」として見る立場の「製作」とアニメを「作品」として見る立場の「制作」の2つがあり、役割が違ってくる。コンテンツ産業のアニメは海外でも人気が高く、クリエイティブの面でもレベルが高いが、ビジネス面の「製作」では発展途上の段階であると主張されており、「この先」を作るためにアニメ業界のビジネスモデルやアニメ製作の大枠について詳しく解説されている。著者は福原慶匡で、ヤオヨロズ株式会社取締役兼プロデューサーである。彼は、もともとは音楽業界で働いていたが、後にアニメに興味を持ち、アニメ製作の仕事に携わり続け、「直球表題ロボットアニメ」やヒット作「けものフレンズ」などを担当した。第一章 「自己紹介」 一章では著者の福原慶匡の自己紹介と共に音楽のプロモーターであった著者が「けものフレンズ」に至るまでの軌跡について述べられている。著者が担当した「直球表題ロボットアニメ」「みならいディーバ」「てさぐれ!部活もの」「けものフレンズ」の製作の中で実際に苦労したことなども書かれている。第二章 「問題設定」 二章ではアニメ業界で問題になっているアニメ制作会社の貧しさを中心に述べられている。アニメ制作会社の貧しさの要因として製作委員会が挙げられ、製作委員会のリスクヘッジによる作品への投資の分散、製作委員会の著作権所持がアニメ制作会社を貧しくさせていると説明している。また、アニメ業界が前の広告収入方式のビジネスモデルから製作委員会方式のビジネスモデルになった経緯を紹介するとともに製作委員会方式のビジネスモデルがアニメ制作会社を貧しくさせていった経緯も紹介されている。そこでアニメ制作会社を儲かるようにするには委員会に入る企業が「クリエイターにお金を払うべき」という理念で委員会運営を行うことでクリエイターに印税を発生させること、オリジナルアニメで原作の権利を持ち二次利用できるようにすること、予めライセンスアウトをすることが決まっている企業と最低保証金額を約束し、保証金を前払いしてもらうことが挙げられていた。加えて、このような問題を解決していくにはプロデューサーはアニメ制作会社の現状を知るべきであり、ビジネスのみではなく、アニメ製作の基礎知識も学ぶ必要があるとも論じられている。第三章 「アニメ制作の流れ」 三章では「アニメ製作」の流れの中でプロデューサーが関わってくる部分を詳しく紹介している。まず、資金調達と人材確保に注目している。資金調達の面では、製作委員会以外の資金調達の仕方を紹介し、メリットやデメリットを上げている。人材確保の面では、予算の管理から人材をどの程度導入するのかを例を挙げ、紹介したり、人材確保による地方アニメスタジオのメリットを説明したりしている。そして、プロデューサーが関わるアニメ制作の流れとして、設定やキャラクターデザインのチェックや脚本に関しての「本読み」、録音やアフレコ、ダビング、V編のアニメ制作の後半の部分を詳しく紹介されている。特に、声優の部分は詳細に紹介されており、キャスティングやアフレコ、給料がどのように決まるのかが述べられている。また、アニメの宣伝やイベントについてもそれにかかる費用と関連付けて紹介されている。第四章 「知っておきたい関連業界のビジネスモデル」 四章ではアニメの製作に関連する様々な業界、映画や出版、配信サービス、音楽についての詳細を著作権や印税と絡めて紹介している。例えば、音楽であれば、著作権には二種類あり、作詞家や作曲家に付随する著作権と原盤の作り手に付随する著作隣接権があり、それぞれに印税が支払われるなどと説明されている。そして、製作委員会には音楽や出版などに関連した会社が参加しており、それぞれの会社がそのジャンルの作品の著作権を所持し、ビジネスを展開していくため、製作委員会でもそれぞれ違うビジネス戦略を考えなくてはならないと論じられている。また、時代が変化していくうえでアニメの関連業界も変化していくため、アニメ製作もそれに合わせて変化させていかなくてはならないと述べられている。 第五章 「知っておきたい著作権と契約の骨格」 五章ではアニメ製作プロデューサーが知っておくべき著作権の基礎知識と契約の中での落とし穴などが開設されている。アニメプロデューサーはコンテンツビジネスにおいて著作権法の基礎知識は必要不可欠であり、トラブルを避けるために必須な知識であると論じられている。加えて、クリエイター側にもパクリやトレース問題などの問題を引き起こさないためにも最低限の権利の知識は必要であると述べられている。契約に関しても、あいまいな表現を使い、相手がこちら側よりも有利な立場に立とうとする契約もあるため契約書の確認の重要性を主張している。 第六章 「アニメーションプロデューサーになるには?」 六章ではアニメーションプロデューサーと製作プロデューサーのなり方とアニメーションプロデューサーの一日の仕事を著者の経験をもとに紹介されている。そして、著者が考えるプロデューサーに必要なことも書かれており、人間にしか生み出せない価値を創造する「Creative」、大切なものを見抜き、物事の中心を見極める「Core」、好きなことに偏る「Challenge」、腹を割って話し合い、意見を調整する「Communication」、作品をヒットさせるために一番考える必要がある「Customer」の5つのCが重要であることを論じている。本書を読んで、自分が知る知識以外の製作の部分の製作の資金の面や制作の後半の作業、プロデューサーのアニメ業界に関連する他の業界との関わりについて深く知ることができた。自分では、アニメ業界での問題の認識はしていたが、なぜその問題が解決されないのかは知らなかったため、この本を通じてもう少し深くビジネスの面も含め、考えなければならないと再認識した。今回の本は、アニメーションプロデューサーの基礎知識が大半であり、アニメ業界の問題についてはわずかであったため、今後はアニメ業界が解決すべき問題に関する書籍を読みたいと思った。

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日本病 なぜ給料と物価は安いままなの

筆者の永濱利廣は第一生命経済研究所経済調査部において、主席エコノミストとして日々研究に励んでいる。彼は本書において、日本の現状を示す「低所得、低物価、低金利、低成長」の四低を「日本病」と名付け、日本経済の変遷と未来について記述している。 第一章 日本病  低所得・低物価・低金利・低成長 第一章では「ビックマック指数」や「100均指数」を用いることで、日本が他国に比して経済的な強さの面で大きく劣っていることが説明されている。また日本病の本質はデフレであると説明したうえで、日本のデフレ対応の遅れについて細かく説明している。バブル崩壊後、日本ではゼロ金利政策を打ち出すまで約10年経過している。またリーマンショックの際も2013年の黒田日銀総裁の「量的・質的金融緩和」まで大きな戦略は取られなかった。この政策までのラグが日本のデフレを長期化させているのだという。これと比較してアメリカではリーマンショックの際、即座に大規模な「量的・質的金融緩和」が行われた。これにより経済は無事に回復しており、むしろ成長につながっているのだ。この章で説明されたデフレ対策の早さがいかに重要であるということは以下の章においても何度も紹介されるものであるため、当書のテーマであるといえる。 第二章 「低所得」ニッポン 第二章では日本の賃金が上がらない理由と、その対策について言及している。本章では三つの理由が挙げられていた。一つ目は労働分配率が低い。二つ目は労働者の流動性が低い。三つめは非正規雇用の賃金が低い、である。筆者はこれらの対策として「失業の考え方を改める」ことを提案した。企業側も労働者に待遇が悪いと辞めるという社会になれば、必然的に多くの賃金を払うことになるし、労働者側もポストが空きやすいので再就職もしやすくなるのだ。 第三章 「低物価」ニッポン 第三章ではインフレとデフレの説明をしながら、日本で発生した物価に関する事例について説明している。初めは2013年のアベノミクス後に起こった消費者物価指数の緩やかな上昇である。これは筆者によるとデフレ脱却を意味したものではなく、悪いインフレの象徴であるという。2013年以降に物価が上がっている項目は食料と光熱・水道である。これは輸入品の物価上昇という海外の恩恵を受けたが故の物価上昇である。これを筆者は悪いインフレと形容しているのだ。逆にその他日本国内で生産するものは物価が減少しているのだ。したがってアベノミクスの物価上昇は自身の力によるものではないと筆者は指摘している。また家計と企業の過剰貯蓄問題についても触れている。デフレの影響により家計も企業も内向的でリスクを未然に防ぐやり方がスタンダードになってしまったことにより、デフレスパイラルをさらに促進しているという。 第四章 「低金利」ニッポン 第四章では前章で述べた過剰貯蓄問題を踏まえて、日本の低金利の理由と対策について述べている。その理由とは、「中立金利」の低さにあるという。「中立金利」とは需給バランスからはじき出される金利のことであり、需要と比例して上昇するものだ。政府はこの中立金利を基準に金利を政策に合わせ変動させることで、経済活動を適切な方向へ誘導するのだ。しかし現在の日本の中立金利は大幅なマイナスとなっている。それはひとえに家計や企業が過剰に貯蓄することで需要が少ないからである。だが金融緩和として金利を下げようにもすでに大幅なマイナスとなっている中立金利からさらに下げるとなると、金融機関への打撃も大きく成るだろう。だからこそ今現在の低金利で落ち着いているということなのだ。また対策として筆者は需要を増加させることを第一に挙げている。その為に政府による財政政策と一時的な増税と金融引き締めの我慢が必要と説明している。さらに人々の将来への期待を生み出し、お金を貯蓄に回させないことも必要となってくる。つまり人々の購買意欲を刺激するように政府が働きかけるのが、金利を上げるための第一歩であると筆者は説明しているのだ。 第五章 「低成長」ニッポン 第五章では、世界と比較した日本の成長率と日本の低成長の理由について述べている。ここでも低成長の理由において、財政政策の不十分さと金融政策の遅れを挙げている。また少子化は低成長の理由にはならないとも述べている。ここでは2011年まで人口減少を続けていたドイツを反例として挙げて説明している。この章は今までの内容の確認的な内容となっていた。 第六章 スクリューフレーションの脅威 第六章では今現在目下の問題であるスクリューフレーションの内容とその影響について説明している。スクリューフレーションとは「締め付け」と「インフレ」を掛け合わせた造語であり、中低所得者が苦しむインフレのことを指す。発生の理由としては生活必需品の大幅な値上がりが挙げられる。これにより、先進国に住む支出に占める生活必需品の割合が高い中低所得者が大きな被害を被っているのである。このスクリューフレーションは高所得者には影響が少ないものなので、世界では経済格差が広がる大きな要因として問題視されている。しかし、日本では経済成長して無いが故に高所得者も中低所得者と同様にスクリューフレーションの影響を受けている。これこそが日本が総貧困化に向かっている理由の一つなのだと筆者は主張している。 第七章 日本の未来 第七章では先に述べた財政政策の重要性について今の日本と重ね合わせて説明している。特に今現在世界と比べて政府債務は少ない状況であり、GDPを増やすために政府債務を積極的に増やしていくことが必要であると強く述べられている。また日本が今後成長していくための方法として筆者の意見を述べている。筆者は日本の第一次産業に大きな可能性があると考えており、近年農林水産物・食料輸出額が目標である1兆円を達成したことを踏まえて日本の食品品質水準の高さに言及している。 本著は日本がバブル崩壊後に衰退し、成長できずにデフレスパイラルに陥る過程を事細かに記している。著書内で一度述べたことをほかの説明で何度も利用したり、実際の出来事に基づいた例示を行ったりと、初めて日本経済について触れる人にもわかりやすく易しい内容になっていた。さらに政府批評の際にもただ批判するだけではなく、当時の内情や政府側の立場に立って説明している点も俯瞰的な視点で読み進めることができ、深い理解を得ることができた。今回の書評では日本の世界より劣っている面について詳細に知ることができたので、次は逆に強みがどこにあるのかに焦点を当てて理解を深めていきたいと思う。 講談社現代新書 2022年5月18日発行 「日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか」   著:永濱利廣  

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書評「EVシフトの危険な未来」

筆者の藤村敏夫はTouson自動車戦略研究所代表、そして自動車・環境技術戦略アナリストである。本著で扱っている内容の大枠は電気自動車(EV)に偏った電動化を推進する政策の根本的な間違いを技術の面から証明していくことだ。EVへの傾注が苦境に陥る道である理由を紐解いていく。   1章 EVシフトは本物か 1章では2050年カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)に向け、過去に何度も膨らんでははじけている電気自動車(EV)シフトは今度こそ本物であるのかに焦点を当てる。2019年に開催された国連気候変動サミットの「2030年に2010年比で二酸化炭素(CO₂)45%減、2050年にCO₂ゼロ」という目標に向け、米国のカリフォルニア州は2035年に、日本は2030年半ばにエンジン車の販売を禁止する宣言がなされEV普及を後押しする政策を挙げている。一方でこのような政策の中EVは世間一般に思っているほどクリーンなものではないと紹介している。走行中のCO₂排出量はゼロだが電池製造時のCO₂の排出がかなり多く、エンジン車やハイブリッド車(HEV)製造時に比べて二倍程度のCO₂を排出する。航続距離の短さや充電時間の長さといった使い勝手の悪さや、必要な電池容量の多さ、補助金なしでは車両価格が高くなってしまって売れないことなどが紹介されている。そのためEVブームの勢いは補助金の打ち切りとともにしぼみ、過去と同じ轍を踏む可能性が高いと予想している。   2章 EVが今後の主流になる? 2章ではEVやEVを含むⅹEV(電動車)についてまとめられている。EVについては、移動体として重要な航続距離や質量、コスト、インフラなどの面で問題があり、完成度が未熟であると主張している。EVに傾注してCO₂の削減目標を達成できる根拠がないため、燃料のグリーン化(水素だけではなく、微細藻類バイオ燃料や再生可能電力を利用し水素と大気中のCO₂から製造する合成燃料であるe-fuel)の検討も含めてエンジン車からHEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、EV、燃料電池車(FCV)までのすべての車種を開発する「全方位開発」が必要となる。その中でもHEVはEVに比べてエネルギー製造から輸送、車の走行にわたる全てのCO₂排出量が少ないため、HEVの導入の拡大を優先する必要があると述べている。   3章 EVはCO₂削減の切り札ではない 3章ではEVに限らず既販車のCO₂削減にも効果のあるグリーン燃料の導入とCO₂削減の政策について触れている。米国のカリフォルニア州のZEV(Zero Emission Vehicle;無公害車)規制や中国のNEV(New Energy Vehicle;新エネルギー車)規制などのエンジン車を廃止しEV販売に焦点を当てた政策を紹介しているが、それらは適正な技術の評価を行わずに自国の自動車業界の擁護のためにEVよりも環境によいHEVを除外する愚策であると主張している。HEVがZEVの対象から外れた背景には、米国のEV専業メーカーであるTesla(テスラ)やGMといった自国の自動車メーカーを優遇しようとするカリフォルニア州政府の思惑があった。中国は技術で太刀打ちできないという理由で日本の自動車メーカーに対してHEV外しを行った。グリーン燃料については、脱化石燃料のためにエンジン車の燃料を石油系燃料であるガソリンと軽油からバイオ燃料や合成液体燃料(e-fuel)などのカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量ゼロ)燃料やカーボンフリー燃料である水素に転換する必要があるとまとめられている。   4章 エンジンの潜在需要は高い 4章では、自動車の先進技術を俯瞰しつつ、エンジン(内燃機関)の改良技術について取り上げている。車両改良として車の動力源であるパワートレーン、燃料電池などのエネルギーソース、ボディー・シャシーの大幅な改良と、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)技術の確立が必要になる。その一例としてガソリンエンジンの最大熱効率(以下、熱効率)と熱マネジメントについて紹介している。現在の熱効率は約41%で燃焼エネルギーの六割近くが熱損失となっているため、熱損失の低減技術と廃熱を電気変換する廃熱回収の新技術などを組み合わせることで、2050年までに大形舶用ディーゼルエンジン並みの熱効率である55%となることを目標としている。またエンジン車の燃費改善や電動車の電費改善の観点から、エンジンやモーターの効率改善が進めば進むほど、暖房などに使っていた熱エネルギーが減少するため、車両空調システムのエネルギーの最小化に着目した熱マネジメントとシステム効率の向上を検討するべきである。   5章 将来の自動車販売台数を予測する 5章では、将来の自動車販売台数の予測を取り上げている。2015年時点における世界の新車販売台数は0.9億台で、保有台数は12.6億台、総CO₂排出量は約60億トンだった。以降、新車販売台数は堅調に拡大してきたが、2017年からの米中貿易摩擦や新興国におけるGDPの伸び率によって頭打ちとなった。そして、2020年は新型コロナ禍で販売台数は大きく落ち込み、7797万代にまで減った。著者は世界の自動車の販売台数が2040年に1.1億(下振れ)~1.3億台(上振れ)と見積もっているが、CO₂の削減に向け努力しても、すぐに温暖化の抑制効果が表れず、自然災害の多発や新たなパンデミックの発生は容易に想像でき、新型コロナ禍以前の販売拡大に戻るには3~4年を要すると予想しているため、1億1000万台を想定することが現実的であると主張している。   6章 自動車の全方位開発と燃料/エネルギーのグリーン化を同時進行で加速すべし 6章では前章で取り上げた新車販売台数予測の下で、2010年比で2030年にCO₂を45%削減できるシナリオとグリーン燃料(微細藻類バイオ燃料や合成液体燃料e-fuel)の必要量についてまとめられている。xEV(電動車)は技術の完成度(航続距離や質量、コスト)と、LCA(原材料の採取から最終的に廃棄またはリサイクルするまで、製品のライフサイクル全体を通じた環境負荷の評価のこと)を踏まえたCO₂の低減率、インフラ整備の状況などを総合的に鑑みて、HEV,PHEV,EV,FCVの優先順位で導入しCO₂の低減を図る。車両の軽量化ではハイテン材からホットスタンプ材、金属から複合樹脂や複合セラミックなどへの材料置換を考慮しCO₂の削減を図る。エンジン車では各種の技術改良や環境性能の良い48V電源部品を使った簡易ハイブリッドシステム(48Vマイルドハイブリッドシステム)を全車に搭載することで30%のCO₂削減を図る。エンジン用の燃料は2030年までに2020年時点での石油消費量である21.5億トンの23%に相当するカーボンニュートラル燃料をガソリンあるいは軽油に混合し、既販車のCO₂の削減を図る。   7章 やはりHEVが「現実解」 7章では、HEVに関する事例を紹介している。2030年までにトヨタ自動車は単独で保有する2万3740件の特許の無料提供を行った。背景には技術的な問題で日本以外の自動車メーカーはHEVを造れないためHEVの普及を加速させるというという考えである。また世界の排出ガス規制においてのHEV外しをやめさせる狙いもあるようだ。   8章 自動車業界を震撼させたディーゼルゲート 8章では2015年にドイツのVolkswagen(フォルクスワーゲン)が起こした排出ガス不正問題であるディーゼルゲート事件についてまとめている。不正が起きた背景としてガソリン車と同様にディーゼル車も排出ガス規制が強化される中で、規制に対応するには技術的に難易度が高く、ここに排出ガス浄化システムの開発費や部品コストが上乗せされ車体価格が高くなってしまうことや燃費の経済性が良くても元が取れないことを挙げている。筆者は、今回の事件は世界一の販売台数を達成するという利益優先の目標となってしまったことが最大の要因であったと考え、自動車を売るうえで本来企業が目指すべき顧客のため、社会のために貢献するという部分をおろそかにしてはいけないと主張している。   本書を通して、EVは環境にやさしいからと上辺だけで判断しEV一辺倒の政策を行うのではなく、技術的な問題などについてより踏み込んで考えなければならないと感じた。EVにシフトチェンジしなくてもHEVを導入することや、グリーン燃料を使うことの方がよりCO₂を削減していくことができるため、EVに傾注しすぎるのはよくないと理解できた。次は自動車関連以外の脱炭素などのエネルギー問題についても理解を深めていきたいと思う。

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『国際エネエルギー情勢と日本』

本著は日本エネルギー経済研究所・戦略研究ユニットの融資メンバーが集まり、それぞれの専門研究分野を活かして各賞を執筆されている。それを小山堅と久谷一郎が編集する形で取りまとめられている。 本著で扱っている内容は、世界のエネルギー情勢の全体像をつかみ、それを踏まえて日本がどのように向き合うべきかエネルギー安全保障の視点から考察されている。 第1章「日本のエネルギー安全保障の現状と課題」 1章では本書のテーマである「エネルギー安全保障」について解説されている。 戦後の復興期から1970年代の石油危機、福島第一原子力発電所の事故に至るまでのエネルギー安全保障の変遷が記述されている。 日本は石油危機以降、「エネルギーの多様化」をキーワードにエネルギー安全保障の強化を務めているが、化石エネルギーは海外に依存していて自給率は低いままである。また、原子力発電所の事故により化石エネルギーへの依存度が高まったことでエネルギー安全保障が揺らいでいることが課題となっている。 第2章「原油価格急落の背景と今後の国際石油情勢」 2章では2014年後半以降の原油価格急落についての原因とそれが引き起こす影響について書かれている。 原油価格の急落の要因を上げている。1つは需給バランスに大きな影響を与えた米国シェールオイル大増産。2つはサウジアラビアの石油政策転換である。 第3章「シェール革命とアメリカの変化」 3章ではアメリカのエネルギー安全保障の歴史や、何が起きたのかが書かれている。 ニクソン政権からオバマ政権まで細かな違いはあるが自給率を高めるために原子力発電や再生可能エネルギーを利用しようとしていることがわかる。 2000年代になるとシェール開発の技術革新が進み、開発のカギを握る技術が確立されシェールオイル、シェールガスの開発・生産が爆発的に増えた。しかし、シェールオイルを軽質原油であり、重質原油の輸入量はほとんど変わっていないので中東地域の重要性は今の所変わっていない。シェール革命はエネルギー輸出国、輸入国ともに影響がある。 第4章「急変するアジアと日本」 3章では高い経済成長と大きな人口という要因を背景に世界最大のエネルギー消費国となった中国、またそれに次ぐ東南アジアについてエネルギー問題の焦点を当てている。 膨大な人口と市場を抱える中国はエネルギー需要の急増により世界の注目を集めてきた。中国の石油・天然ガスは需要の増賀に生産ペースがついていけず、全ての化石燃料で純輸入国となっている。この自給率低下と対外依存度は国際市場にも影響を与える問題になっている。 東南アジア諸国も様々な要因を背景として、エネルギー需要が増えている。人口増加、経済、自動車保有台数と利用が増加している。その拡大に対して生産が追いつかず、自給率が低下する傾向がある。それに対し東南アジア諸国は石油・天然ガスの増産に加え代替となる国産エネルギーの生産量を増やす取り組みをおこなっている。 第5章「中東の古い顔と新しい顔」 5章では中東の新旧両面の側面について解説されている。 中東は世界の石油や天然ガスにとって重要な地域だが、不安定な状態が今も続いている。中東地域の安定化は日本のエネルギー安全保障にとって重要な問題であり、安定化に向けて支援が必要である。そのひとつの例が日本にある原油タンクの共同利用だ。中東産油国にとってのエネルギー安全保障とは「石油の輸出先を確保すること」、つまり国家収入の道を確保することだ。 ふたつ目の例はホルムズ海峡をバイパスするパイプラインだ。時折世界で生産する20%の原油が通過するホルムズ海峡は封鎖の危機に晒されるが、バイオパスパイプラインはそのような状況でも輸出を継続する手段であり、産油国・輸入国双方のエネルギー安全保障に貢献しているといえる。 今後の中東は人口増加、経済成長が見込まれていて、エネルギー消費が拡大すると見られている。さらにエネルギーを輸入しなければならなくなったりする可能性がある。そのようなリスクを避けるために省エネによってエネルギーの消費を抑制する、代替エネルギー0を開発することによって1次エネルギー構造を変えることが重要になっている。 第6章「欧州から学べること」 6章では日本のエネルギー補償にとって参考になることが多い欧州の政策を紐解かれている。 欧州、特に中心となっているEUのエネルギー政策は日本と共通する点が多い。域内を賄うエネルギー資源は無く、多くを輸入に依存している点だ。また、EUは温室効果ガス削減目標を掲げて、対策に積極的に取り組んでいる。この2つを両立するために3つの法維新を立てている。「エネルギー自給率の向上と安定供給の確保」、「新しいエネルギー・経済システムの構築」、「環境と成長の調和」だ。 第7章「日本の歩むべき道」 第7章では第2から6章の内容を踏まえて、日本はエネルギー安全保障の確保に向けて取り組める方策や注目すべき点がまとめられている。 最初に述べたように本著は世界のエネルギーに対する取り組みや課題が記述されていた。それぞれ環境が異なる中でのエネルギー安全保障があり、日本にも通ずるところがあるなと感じた。しかし本著は7年前のものなので今とは状況が違うこともあるのでニュースや他の本でもっと理解を深めたいと思う。 エネルギーフォーラム新書 『国際エネエルギー情勢と日本』 2015年9月11日 発行 著者 小山堅・久谷一郎

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書評「DXで会社が変わる」

本書の著者は竹本雄一で、NEC、リコーでの勤務を経て、2015年、アジア合会社を設立し、2021年にアジア株式会社に改組している。同社の代表として自治体、民間のDX業務に携わっている。本書では主にコロナ禍により露呈した日本の技術不足から始まる諸問題を挙げ、DXにより解決していく策を述べている。 第1章「私の流儀(チャレンジ)」では著者の生い立ちから現在に至るまでが書かれている。少年時代にハマったガンプラを契機にメカニックなものへ興味を持ちプログラミングを勉強し始めた。様々なものに関心があった為、社会人になってから、営業やSE(システムエンジニア)を経験し、自分のやりたい事と今の日本に不足している事を考えるようになった。この章で述べていた営業ノウハウは大きく2点ある。1点目はコミュニケーションの基本は悩みごとを聞くこと。2点目はそこで顧客のニーズを把握する事。要するに相手が何を必要としていて、それを解決する為にはどういった対策をすれば良いのか考えること。筆者は営業で培ってきたノウハウを活かし、自分の事業として展開したいという強い思いから、NECから転職後10年間在職したリコーを退社し、2015年6月独立起業。幅広く事業展開していくことをテーマとし、アジア合同会社と名付けた。リコーの営業で、システムの保守・管理契約をしていた大学などと信頼関係が築けていた為、業務を引き継ぐ事ができた。その後も、学校へのデジタル教材販売や企業のICT化(ICTとはInternet&communication technologyの略称で、情報通信技術のこと)を推進する事業を展開。ちょうどこの頃、2019年12月は文部科学省でGIGAスクール構想に向けた動きがあった。GIGAとはGlobal and Innovation Gateway for allの略称で全ての児童・生徒のための世界につながる革新的な扉という意味。児童・生徒向けに1人1台の端末と高速大容量の通信ネットワークを整備しようという試みだ。筆者は学校のICT環境の脆弱さとデジタル機器の使用時間がOECD加盟国で最下位だった事に目をつけ、GIGAスクール構想に参入した。この参画により、2020年度の売上が前年の1億3千万から35億円に伸びた。その後、M&Aで経営権を売却し、大手ICT企業傘下に入ったという経緯がある。 第2章「DXが会社を変える原動力となる」そもそもDXとは何か。DXとはデジタルトランスフォーメーションの略称でデジタル技術の変革を指す。この章では、PayPayや楽天ペイなどの電子決済という身近なデジタル化の成功例や、対照にコロナ禍で一律給付がなかなか進まなかった件を取り上げ、今後デジタル化が国や企業に浸透していく為に必要なことを主張している。デジタル化による成長を阻害してきた要因(具体的にはITリテラシーの低さから生じるデジタル化への不安など)や既得権益を排除するよう、国や行政が規制を見直して、企業が働きやすい環境をつくり、労働生産性を向上させて成長につなげる事が本来のDXの意義であり、国がデジタル庁を立ち上げた目的と筆者は考える。だが国の力だけでは変革は起こりそうに無い為、私たち企業側から積極的にアクションを起こしていこうと考えている。変革に必要なものとして、大きく3点挙げている。1点目はzoomやteamsなどのオンラインミーティングの導入。2点目はサイバー攻撃を防ぐセキュリティ対策。セキュリティを軽視すると致命傷になり兼ねない為、万が一のリスクも考え、セキュリティサービスを専門業者に依頼したり、サイバー保険に入ることで、デジタル化が普及する契機になる。3点目はデジタル化にはトップダウン思考を用いる。会社は予算という枠組みの中で各部署が動いている。社員は決められた予算を維持したいと考える。しかし、業務の効率化やコスト削減につながるデジタル化は予算を減らされる要因。デジタル化を好まない人がいる場合は企業のトップにプレゼンテーションをするのが理想的だと筆者は述べている。 第3章「業界という壁を超える」デジタルは業種を横断するツールということで、この章では著者が実際に行っているITを用いた事業展開が述べられています。具体的には、サイバーセキュリティに関する損害保険の代理店、企業向けのIT支援員の人材派遣、学校へのICT支援員の人材派遣。そして学習塾へのIT導入の可能性だ。筆者は、アナログとデジタルを融合したニッチなアイデアで既存事業の再構築を図ることが大切と主張している。 第4章「どう中国と付き合うべきか」この章では低迷し続ける日本経済の改善策と中国とのつきあい方が述べられている。我々が取り組むべきことは労働生産性を上げること。OECDによる2020年度の「国民一人当たりのGDP」に目を移すと38国中23位。要は日本は少ない労力でより多くの経済的成果を生み出しきれていない事がわかる。各企業の経営者は積極的にデジタル化による業務効率を上げ労働生産性を高めるべきだと主張する。次に日中のビジネスを比較しており、日本は中国に合理的思考、スピード感、貪欲さやパワフル面で劣っている点を挙げている。中国企業を敵対視する企業もあるが、積極的に中国人を雇用したり、仕事を依頼する際も遠慮せずに対等な立場で要求し、彼らの要求にも合理的に答える姿勢が必要と主張している。つきあい方として中国の良い部分を取り入れて、合理的な会社の構築を目指していくべきと主張する。 私自身、日本がIT後進国であるとは思っていませんでしたが、本書を読み、今の日本にはデジタル化が急務であることを痛感しました。社員が受動的でなく能動的に働いてくれる環境づくり、新たなことに挑戦する貪欲さ、ITリテラシーを高め、デジタル化への抵抗を減らすことなど。本書は世界で見た日本経済の低迷とデジタル化の重要性を学んだ。今後は海外企業の実践するデジタル化への取り組みを学んでいきたい。  

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卒論アウトライン

①主張 今日、ゲーム業界の躍進は著しい。 ビックテックと呼ばれる巨大IT企業が、次々にゲーム業界へ参入するなど、多くのプラットフォーム、サブスクリプションサービス、ゲームサイトが運営されている。加えて任天堂やSONY等家庭用ゲーム機メーカーも自身のゲームプラットフォームを築いている。 ゲームを作るほとんどの会社はこれらのプラットフォームを経由してゲームを販売し、ゲームをプレイするほとんどのユーザーはこれらのプラットフォームを経由してゲームを購入している。また、ゲームジャンルだけでなく、クラウドゲームやソーシャルゲームなど、そのプレイの方法も多様になった。数多くのインディーゲーム制作会社が設立され、ゲーム業界は真新しさに事欠かない。 しかし、手数料を巡る問題やeスポーツにおける汚職など新たな問題が生じ、自由なゲーム制作や運営が行えないといった現状もある。 少人数あるいは個人でゲームを作る・作れる時代、私は『プラットフォームを提供する側が、その利用者について寛容であるべき』という主張を行っていく。更なる成長や多様化のためには、より自由な場が必要であると考えるからだ。 ②調査の方向性 それぞれのプラットフォームの特徴を理解する。そして、その影響、発展を調査する。 それに対し、販売手数料や表現規制などのゲーム業界における縛りに目を向け、例としてEpic GamesとAppleの手数料を巡る抗争を調査。 他の業界においてのプラットフォームとも比較を行い、尊大なプラットフォームによる損失・失敗を調査。その損失を忌避するべく何が必要か、あるべきプラットフォームの姿を考察する。 現状では、手数料や規制緩和が今後の成長においてプラットフォームとしてのあるべき姿だと考えている。

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