本書ではアニメーションプロデューサーに必要な「今現在の常識」を一気に学べることを目標に書かれた本である。アニメプロデューサーにはアニメを「商品」として見る立場の「製作」とアニメを「作品」として見る立場の「制作」の2つがあり、役割が違ってくる。コンテンツ産業のアニメは海外でも人気が高く、クリエイティブの面でもレベルが高いが、ビジネス面の「製作」では発展途上の段階であると主張されており、「この先」を作るためにアニメ業界のビジネスモデルやアニメ製作の大枠について詳しく解説されている。著者は福原慶匡で、ヤオヨロズ株式会社取締役兼プロデューサーである。彼は、もともとは音楽業界で働いていたが、後にアニメに興味を持ち、アニメ製作の仕事に携わり続け、「直球表題ロボットアニメ」やヒット作「けものフレンズ」などを担当した。第一章 「自己紹介」 一章では著者の福原慶匡の自己紹介と共に音楽のプロモーターであった著者が「けものフレンズ」に至るまでの軌跡について述べられている。著者が担当した「直球表題ロボットアニメ」「みならいディーバ」「てさぐれ!部活もの」「けものフレンズ」の製作の中で実際に苦労したことなども書かれている。第二章 「問題設定」 二章ではアニメ業界で問題になっているアニメ制作会社の貧しさを中心に述べられている。アニメ制作会社の貧しさの要因として製作委員会が挙げられ、製作委員会のリスクヘッジによる作品への投資の分散、製作委員会の著作権所持がアニメ制作会社を貧しくさせていると説明している。また、アニメ業界が前の広告収入方式のビジネスモデルから製作委員会方式のビジネスモデルになった経緯を紹介するとともに製作委員会方式のビジネスモデルがアニメ制作会社を貧しくさせていった経緯も紹介されている。そこでアニメ制作会社を儲かるようにするには委員会に入る企業が「クリエイターにお金を払うべき」という理念で委員会運営を行うことでクリエイターに印税を発生させること、オリジナルアニメで原作の権利を持ち二次利用できるようにすること、予めライセンスアウトをすることが決まっている企業と最低保証金額を約束し、保証金を前払いしてもらうことが挙げられていた。加えて、このような問題を解決していくにはプロデューサーはアニメ制作会社の現状を知るべきであり、ビジネスのみではなく、アニメ製作の基礎知識も学ぶ必要があるとも論じられている。第三章 「アニメ制作の流れ」 三章では「アニメ製作」の流れの中でプロデューサーが関わってくる部分を詳しく紹介している。まず、資金調達と人材確保に注目している。資金調達の面では、製作委員会以外の資金調達の仕方を紹介し、メリットやデメリットを上げている。人材確保の面では、予算の管理から人材をどの程度導入するのかを例を挙げ、紹介したり、人材確保による地方アニメスタジオのメリットを説明したりしている。そして、プロデューサーが関わるアニメ制作の流れとして、設定やキャラクターデザインのチェックや脚本に関しての「本読み」、録音やアフレコ、ダビング、V編のアニメ制作の後半の部分を詳しく紹介されている。特に、声優の部分は詳細に紹介されており、キャスティングやアフレコ、給料がどのように決まるのかが述べられている。また、アニメの宣伝やイベントについてもそれにかかる費用と関連付けて紹介されている。第四章 「知っておきたい関連業界のビジネスモデル」 四章ではアニメの製作に関連する様々な業界、映画や出版、配信サービス、音楽についての詳細を著作権や印税と絡めて紹介している。例えば、音楽であれば、著作権には二種類あり、作詞家や作曲家に付随する著作権と原盤の作り手に付随する著作隣接権があり、それぞれに印税が支払われるなどと説明されている。そして、製作委員会には音楽や出版などに関連した会社が参加しており、それぞれの会社がそのジャンルの作品の著作権を所持し、ビジネスを展開していくため、製作委員会でもそれぞれ違うビジネス戦略を考えなくてはならないと論じられている。また、時代が変化していくうえでアニメの関連業界も変化していくため、アニメ製作もそれに合わせて変化させていかなくてはならないと述べられている。 第五章 「知っておきたい著作権と契約の骨格」 五章ではアニメ製作プロデューサーが知っておくべき著作権の基礎知識と契約の中での落とし穴などが開設されている。アニメプロデューサーはコンテンツビジネスにおいて著作権法の基礎知識は必要不可欠であり、トラブルを避けるために必須な知識であると論じられている。加えて、クリエイター側にもパクリやトレース問題などの問題を引き起こさないためにも最低限の権利の知識は必要であると述べられている。契約に関しても、あいまいな表現を使い、相手がこちら側よりも有利な立場に立とうとする契約もあるため契約書の確認の重要性を主張している。 第六章 「アニメーションプロデューサーになるには?」 六章ではアニメーションプロデューサーと製作プロデューサーのなり方とアニメーションプロデューサーの一日の仕事を著者の経験をもとに紹介されている。そして、著者が考えるプロデューサーに必要なことも書かれており、人間にしか生み出せない価値を創造する「Creative」、大切なものを見抜き、物事の中心を見極める「Core」、好きなことに偏る「Challenge」、腹を割って話し合い、意見を調整する「Communication」、作品をヒットさせるために一番考える必要がある「Customer」の5つのCが重要であることを論じている。本書を読んで、自分が知る知識以外の製作の部分の製作の資金の面や制作の後半の作業、プロデューサーのアニメ業界に関連する他の業界との関わりについて深く知ることができた。自分では、アニメ業界での問題の認識はしていたが、なぜその問題が解決されないのかは知らなかったため、この本を通じてもう少し深くビジネスの面も含め、考えなければならないと再認識した。今回の本は、アニメーションプロデューサーの基礎知識が大半であり、アニメ業界の問題についてはわずかであったため、今後はアニメ業界が解決すべき問題に関する書籍を読みたいと思った。
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