本書の著者は竹本雄一で、NEC、リコーでの勤務を経て、2015年、アジア合会社を設立し、2021年にアジア株式会社に改組している。同社の代表として自治体、民間のDX業務に携わっている。本書では主にコロナ禍により露呈した日本の技術不足から始まる諸問題を挙げ、DXにより解決していく策を述べている。
第1章「私の流儀(チャレンジ)」では著者の生い立ちから現在に至るまでが書かれている。少年時代にハマったガンプラを契機にメカニックなものへ興味を持ちプログラミングを勉強し始めた。様々なものに関心があった為、社会人になってから、営業やSE(システムエンジニア)を経験し、自分のやりたい事と今の日本に不足している事を考えるようになった。この章で述べていた営業ノウハウは大きく2点ある。1点目はコミュニケーションの基本は悩みごとを聞くこと。2点目はそこで顧客のニーズを把握する事。要するに相手が何を必要としていて、それを解決する為にはどういった対策をすれば良いのか考えること。筆者は営業で培ってきたノウハウを活かし、自分の事業として展開したいという強い思いから、NECから転職後10年間在職したリコーを退社し、2015年6月独立起業。幅広く事業展開していくことをテーマとし、アジア合同会社と名付けた。リコーの営業で、システムの保守・管理契約をしていた大学などと信頼関係が築けていた為、業務を引き継ぐ事ができた。その後も、学校へのデジタル教材販売や企業のICT化(ICTとはInternet&communication technologyの略称で、情報通信技術のこと)を推進する事業を展開。ちょうどこの頃、2019年12月は文部科学省でGIGAスクール構想に向けた動きがあった。GIGAとはGlobal and Innovation Gateway for allの略称で全ての児童・生徒のための世界につながる革新的な扉という意味。児童・生徒向けに1人1台の端末と高速大容量の通信ネットワークを整備しようという試みだ。筆者は学校のICT環境の脆弱さとデジタル機器の使用時間がOECD加盟国で最下位だった事に目をつけ、GIGAスクール構想に参入した。この参画により、2020年度の売上が前年の1億3千万から35億円に伸びた。その後、M&Aで経営権を売却し、大手ICT企業傘下に入ったという経緯がある。
第2章「DXが会社を変える原動力となる」そもそもDXとは何か。DXとはデジタルトランスフォーメーションの略称でデジタル技術の変革を指す。この章では、PayPayや楽天ペイなどの電子決済という身近なデジタル化の成功例や、対照にコロナ禍で一律給付がなかなか進まなかった件を取り上げ、今後デジタル化が国や企業に浸透していく為に必要なことを主張している。デジタル化による成長を阻害してきた要因(具体的にはITリテラシーの低さから生じるデジタル化への不安など)や既得権益を排除するよう、国や行政が規制を見直して、企業が働きやすい環境をつくり、労働生産性を向上させて成長につなげる事が本来のDXの意義であり、国がデジタル庁を立ち上げた目的と筆者は考える。だが国の力だけでは変革は起こりそうに無い為、私たち企業側から積極的にアクションを起こしていこうと考えている。変革に必要なものとして、大きく3点挙げている。1点目はzoomやteamsなどのオンラインミーティングの導入。2点目はサイバー攻撃を防ぐセキュリティ対策。セキュリティを軽視すると致命傷になり兼ねない為、万が一のリスクも考え、セキュリティサービスを専門業者に依頼したり、サイバー保険に入ることで、デジタル化が普及する契機になる。3点目はデジタル化にはトップダウン思考を用いる。会社は予算という枠組みの中で各部署が動いている。社員は決められた予算を維持したいと考える。しかし、業務の効率化やコスト削減につながるデジタル化は予算を減らされる要因。デジタル化を好まない人がいる場合は企業のトップにプレゼンテーションをするのが理想的だと筆者は述べている。
第3章「業界という壁を超える」デジタルは業種を横断するツールということで、この章では著者が実際に行っているITを用いた事業展開が述べられています。具体的には、サイバーセキュリティに関する損害保険の代理店、企業向けのIT支援員の人材派遣、学校へのICT支援員の人材派遣。そして学習塾へのIT導入の可能性だ。筆者は、アナログとデジタルを融合したニッチなアイデアで既存事業の再構築を図ることが大切と主張している。
第4章「どう中国と付き合うべきか」この章では低迷し続ける日本経済の改善策と中国とのつきあい方が述べられている。我々が取り組むべきことは労働生産性を上げること。OECDによる2020年度の「国民一人当たりのGDP」に目を移すと38国中23位。要は日本は少ない労力でより多くの経済的成果を生み出しきれていない事がわかる。各企業の経営者は積極的にデジタル化による業務効率を上げ労働生産性を高めるべきだと主張する。次に日中のビジネスを比較しており、日本は中国に合理的思考、スピード感、貪欲さやパワフル面で劣っている点を挙げている。中国企業を敵対視する企業もあるが、積極的に中国人を雇用したり、仕事を依頼する際も遠慮せずに対等な立場で要求し、彼らの要求にも合理的に答える姿勢が必要と主張している。つきあい方として中国の良い部分を取り入れて、合理的な会社の構築を目指していくべきと主張する。
私自身、日本がIT後進国であるとは思っていませんでしたが、本書を読み、今の日本にはデジタル化が急務であることを痛感しました。社員が受動的でなく能動的に働いてくれる環境づくり、新たなことに挑戦する貪欲さ、ITリテラシーを高め、デジタル化への抵抗を減らすことなど。本書は世界で見た日本経済の低迷とデジタル化の重要性を学んだ。今後は海外企業の実践するデジタル化への取り組みを学んでいきたい。