本著は日本エネルギー経済研究所・戦略研究ユニットの融資メンバーが集まり、それぞれの専門研究分野を活かして各賞を執筆されている。それを小山堅と久谷一郎が編集する形で取りまとめられている。
本著で扱っている内容は、世界のエネルギー情勢の全体像をつかみ、それを踏まえて日本がどのように向き合うべきかエネルギー安全保障の視点から考察されている。
第1章「日本のエネルギー安全保障の現状と課題」
1章では本書のテーマである「エネルギー安全保障」について解説されている。
戦後の復興期から1970年代の石油危機、福島第一原子力発電所の事故に至るまでのエネルギー安全保障の変遷が記述されている。
日本は石油危機以降、「エネルギーの多様化」をキーワードにエネルギー安全保障の強化を務めているが、化石エネルギーは海外に依存していて自給率は低いままである。また、原子力発電所の事故により化石エネルギーへの依存度が高まったことでエネルギー安全保障が揺らいでいることが課題となっている。
第2章「原油価格急落の背景と今後の国際石油情勢」
2章では2014年後半以降の原油価格急落についての原因とそれが引き起こす影響について書かれている。
原油価格の急落の要因を上げている。1つは需給バランスに大きな影響を与えた米国シェールオイル大増産。2つはサウジアラビアの石油政策転換である。
第3章「シェール革命とアメリカの変化」
3章ではアメリカのエネルギー安全保障の歴史や、何が起きたのかが書かれている。
ニクソン政権からオバマ政権まで細かな違いはあるが自給率を高めるために原子力発電や再生可能エネルギーを利用しようとしていることがわかる。
2000年代になるとシェール開発の技術革新が進み、開発のカギを握る技術が確立されシェールオイル、シェールガスの開発・生産が爆発的に増えた。しかし、シェールオイルを軽質原油であり、重質原油の輸入量はほとんど変わっていないので中東地域の重要性は今の所変わっていない。シェール革命はエネルギー輸出国、輸入国ともに影響がある。
第4章「急変するアジアと日本」
3章では高い経済成長と大きな人口という要因を背景に世界最大のエネルギー消費国となった中国、またそれに次ぐ東南アジアについてエネルギー問題の焦点を当てている。
膨大な人口と市場を抱える中国はエネルギー需要の急増により世界の注目を集めてきた。中国の石油・天然ガスは需要の増賀に生産ペースがついていけず、全ての化石燃料で純輸入国となっている。この自給率低下と対外依存度は国際市場にも影響を与える問題になっている。
東南アジア諸国も様々な要因を背景として、エネルギー需要が増えている。人口増加、経済、自動車保有台数と利用が増加している。その拡大に対して生産が追いつかず、自給率が低下する傾向がある。それに対し東南アジア諸国は石油・天然ガスの増産に加え代替となる国産エネルギーの生産量を増やす取り組みをおこなっている。
第5章「中東の古い顔と新しい顔」
5章では中東の新旧両面の側面について解説されている。
中東は世界の石油や天然ガスにとって重要な地域だが、不安定な状態が今も続いている。中東地域の安定化は日本のエネルギー安全保障にとって重要な問題であり、安定化に向けて支援が必要である。そのひとつの例が日本にある原油タンクの共同利用だ。中東産油国にとってのエネルギー安全保障とは「石油の輸出先を確保すること」、つまり国家収入の道を確保することだ。
ふたつ目の例はホルムズ海峡をバイパスするパイプラインだ。時折世界で生産する20%の原油が通過するホルムズ海峡は封鎖の危機に晒されるが、バイオパスパイプラインはそのような状況でも輸出を継続する手段であり、産油国・輸入国双方のエネルギー安全保障に貢献しているといえる。
今後の中東は人口増加、経済成長が見込まれていて、エネルギー消費が拡大すると見られている。さらにエネルギーを輸入しなければならなくなったりする可能性がある。そのようなリスクを避けるために省エネによってエネルギーの消費を抑制する、代替エネルギー0を開発することによって1次エネルギー構造を変えることが重要になっている。
第6章「欧州から学べること」
6章では日本のエネルギー補償にとって参考になることが多い欧州の政策を紐解かれている。
欧州、特に中心となっているEUのエネルギー政策は日本と共通する点が多い。域内を賄うエネルギー資源は無く、多くを輸入に依存している点だ。また、EUは温室効果ガス削減目標を掲げて、対策に積極的に取り組んでいる。この2つを両立するために3つの法維新を立てている。「エネルギー自給率の向上と安定供給の確保」、「新しいエネルギー・経済システムの構築」、「環境と成長の調和」だ。
第7章「日本の歩むべき道」
第7章では第2から6章の内容を踏まえて、日本はエネルギー安全保障の確保に向けて取り組める方策や注目すべき点がまとめられている。
最初に述べたように本著は世界のエネルギーに対する取り組みや課題が記述されていた。それぞれ環境が異なる中でのエネルギー安全保障があり、日本にも通ずるところがあるなと感じた。しかし本著は7年前のものなので今とは状況が違うこともあるのでニュースや他の本でもっと理解を深めたいと思う。
エネルギーフォーラム新書
『国際エネエルギー情勢と日本』
2015年9月11日 発行
著者 小山堅・久谷一郎