第四章 博士人材の進路

第四章 博士人材の進路

日本の博士人材について、さらに分析を行うために本章では博士人材の卒業後の進路に焦点を当てて記述する。まず日本の博士人材が卒業した後の進路は以下のようになっている。

ポストドクター 10%、高等教育機関 15%、民間企業 35%、その他 40%

(その他の中には医師、保健師も含む)

文部科学省が令和5年1月に作成したデータ参照

次に日本の状況と比較するため、世界の各国と国際比較を行う。

・アメリカ

ポストドクター 21%、高等教育機関 15%、民間企業 52%、その他 12%

・イギリス

高等教育機関(ポストドクター含む) 58%、民間企業 38%、その他4%

・韓国

高等教育機関(ポストドクター含む) 12%、民間企業 80%、その他 8%

比較の結果、日本に比べて各国ともに民間企業への就職割合が大きいことが分かった。またアメリカに関してはポストドクターへの就職率が大きく、イギリスは高等教育機関(大学教員など)への就職率が特に大きいことが分かった。

次にこの各職種に関しての待遇や支援状況について記述する。まずはポストドクターについて記述する。

ポストドクターとは、大学院で博士課程を修了したのちに「教授」や「助教」といった正規のポストではなく、任期付きの職についている大学研究員のことを指し「博士研究員」とも呼ばれる。業務としては教授に指定された研究テーマに従い、プロジェクトの一員として研究を行うこと、その内容を論文としてまとめるという二つである。業務内容については日本と欧米で違いはないが、職へのとらえ方や待遇に関しては大きく乖離がみられる。欧米ではポストドクターを「教授」や「助教」などの正規の研究職につくまでのキャリアパスの過程だと考えている。博士号を取得したのちに、平均5年程度ポストドクターとして経験を重ねたのちに大学の正規職員や、企業の研究職に就くのだ。所謂正規の研究者になるためのトレーニング機関としてとらえられている。しかし日本でのポストドクターのとらえ方は後ろ向きに捉えられることが大きい。それは日本のポストドクターは、雇用されたのち助教として採用されることもなく、企業の研究員として就職もできずポストドクターの契約を更新し続けながら年齢を重ねていく場合が多いからである。実際、2015年の文部科学省の調査「ポストドクターなどの雇用・進路に関する調査」によると、ポストドクターの人数は約16,000人で、平均年齢は36.3歳となっている。ポストドクターの前職はポストドクターであった人が3割以上を占め、ポストドクターの契約を何度も繰り返している人が大きいことがわかる。また日本のポストドクターの給与水準は欧米と比べて非常に低い。日本のポストドクターの年収は300~400万円程度が標準であるが、場合によっては200万円を下回ることがある。一方アメリカのポストドクターの年収は500~700万円程度であり、日本の助教の水準とほぼ同程度であり、日本と大きな待遇の違いがあるのがわかる。以上のような状況が日本の学生が進路を決定する際に大学の研究者としての道を選びづらい要因にもなっている。

このような状況を改善するために必要なのはポストドクターの支援策の拡充である。日本にはポストドクターの経済的支援制度は存在しているが、就職や経験を支援する制度は存在しない。しかし、アメリカには全米ポストドクター協会(NPA)による支援が充実している。具体的にはNPAが定義した、ポストドクターが活躍するために必要な要素についてトレーニングするために年に一度のジョブフェアの開催、ポストドクター専用のキャリアセンターの運営といった支援、ポストドクターのスキルの向上やキャリアアップの方法をまとめたガイドブックの発行を行っている。またイギリスではVitaeというThe Careers Research & Advisory Centre Limitedが運営しているポスドクや博士号学生の職能開発トレーニングが存在する。Vitaeはイギリス政府が作成した研究者に必要な要素のフレームワークをより効果的に改善した独自のフレームワークに基づき、様々なプログラムを行っている。具体的には、参加者を6~7人のグループに振り分けたのちメンターを介してワークショップや演習を実施するGradschools 、非常勤のポスドクに他の研究室に所属する研究者と交流する機会を与えるPart-Time Researcher、ポスドクに新たなイノベーションを紹介したのち、企業に関するスキルを与えるDiscovering Innovation and Intrapreneurshipなどが存在する。以上のようなポストドクターが積極的に学べる環境が存在することで、高い評価を受けるポストドクターが増え、助教や企業の研究者へのキャリアアップが見込めるのではないだろうか。

次に民間企業への就職者について記述する。

日本の博士人材が民間企業へ就職する割合は本章で提示したように非常に低い割合になっているが、それに伴い各国の企業研究者に占める博士号取得者の割合が他国に比べて低い水準となっている。具体的には日本は4.4%であるなか、アメリカは約10%、韓国は約7%となっており、学生が民間企業を選ばないだけでなく、企業側も博士号を重視しない姿勢が原因となっておきた結果であるといえる。実際、経済産業省が実施した調査では「採用する人材は、企業が必要とする人材像に合う人材あればよく、必ずしも博士号を持っている必要はない」と考えている企業が調査した企業の約半数を占めていたという。しかし、文部科学省の科学技術・学術政策研究所が行った博士人材の採用後の印象における調査では、博士課程修了者は学士号取得者や修士号取得者と比べ「ほぼ期待通り」や「期待を上回った」と答える割合が高く、「期待を下回った」と答える企業の割合が小さいことが分かった。故に企業側に博士人材の有用性を周知させることが必要であるといえる。

本章では日本における博士人材の進路先の持つ問題について、海外の状況と比較しながら記述した。次章では、現在博士人材の数を増やすために行われている新たな日本の施策について記述するとともに、今まで述べたことを踏まえたうえで今後の日本の博士号学生を増やすために必要な施策に関して考察する。

カテゴリー: 新聞要約   パーマリンク

コメントを残す