第三章 海外の博士学生支援制度に関して

第三章 海外の博士学生支援制度に関して

前章では日本の博士課程に関する支援制度に関して記述したが、本章では海外の博士課程学生に対する支援制度に関して記述する。

前章で紹介した博士号取得率の国際比較において、上位三カ国であったアメリカ合衆国、イギリス、ドイツについて特に記述する。

まずはアメリカに関してだが、アメリカの特徴として最も大きい要素が、大学が運営する資金援助制度が充実しているということだ。大学によるが、基本的に博士課程に進学した学生は、大学にTA(Teaching Assistant)、もしくはRA(Research Assistant)という形で雇用されるということになる。Teaching Assistantとは学部生や低学年生向けの講義や実験などの教育補助業務を行わせることで、大学教育の充実と大学院学生のトレーニング、手当の支給による大学院生の処遇の改善を図るものである。またResearch Assistantとは、教授が行う研究を円滑に実施するために必要な業務を行うことで、TAと同じ効果をもたらすものである。そこでTAやRAを行うことで報酬として授業料、生活費、社会保険料が全額負担されるという制度となっている。実際ケンブリッジに位置するマサチューセッツ工科大学(MIT)では、博士後期課程のRAで月額平均3,995ドル、年間平均47,936ドル、博士後期課程のTAでは月額平均4,088ドル、年間平均49,062ドルを受け取っているという。このように高額な給与となっている理由としては、MITがあるケンブリッジの物価が高いため、学生が困窮することなく生活できるようにと設定された金額だからである。またこの給与は大学が卒業生や一般の方々から集めた寄付金を基に学生に給付されている。MITでは集まった給付金を基に運用も行っており、学生を支援するために努力がなされていることがうかがえる。

次にイギリスの事例である。イギリスではUK research and innovationが主催する博士学生の支援制度が存在する。これは日本のSPRINGなどと同じように優秀な人材に対し、生活費と授業料を支給するというものである。金額的には生活費として年間最低18,622ポンド、授業料として年間最低4,712ユーロが支給される。具体的な人数に関しては記載がなかったが、イギリスの大学院生の約20%はカバーしているという。またイギリスでは日本の奨学金制度とは異なる特異なローン制度が存在する。それは所得連動返済型学資ローンである。このローンは日本の奨学金と異なり、生活費ローンと授業料ローンの二つに分かれて貸与される。そして卒業した翌年の4月にこの二つを統合して返済が開始される。返済に当たっては、可変方式の利子が割り当てられ、利用者本人の所得に応じて返済金額が算出される。その利子は小売物価指数(RPI)に3%を上限として所得に応じて設定された金利を足したものとなる。小売物価指数(RPI)とは、物価の変動を表した数値のことで、これのみが賦課されている場合は実質的な無利子としてイギリスでは扱う。この方式の重要な点として、返済が開始される卒業翌年の4月に所得が、国が定める一定基準である年収21,000ポンドを超えていなかった場合、返済を猶予し、超えた場合に返済させるというものである。これにより、生活に苦しむ人の負担を軽減することに成功している。さらに返済額も所得によって決定される。税引き前の所得から国に定められている閾値(前述した国が定めた一定基準の値)を引き、出た値の9%がその月の返済額となる。

しかし、このような定額所得者が少しずつ収めることしかできない制度では永遠に返済が終わらないのではないだろうか。ロンドン政府はそのような国民に対しての救済措置として返済開始から30年が経過した場合返済を免除するようにしている。以上のような形態をとることで学生側も借りやすく、返しやすい制度となっているのである。

次にドイツの事例について記述していく。まずドイツの教育制度として2014年に採択された国公立であれば小学校から大学院まで授業料が免除されるという制度が存在する(私立は有料)。これは国内の学生だけでなく、留学生であっても学費は免除される。しかし入学時や新学期前には共済費を払う必要がある。共済費の額は大学によって異なり、100~300ユーロほどで、スポーツ施設料や互助会の費用に充てられている。この共済費を支払う上で大きなメリットも存在し、それはセメスターチケットを手に入れられることだ。セメスターチケットとは、大学のある州の公共交通機関を無料で利用できるというものであり、大学によっては家族込みのセメスターチケットを手に入れられるところもある。生活費のみで博士課程を取得できる大学が多いため、他の国々と比べ取得に対するハードルが低いといえる。

本章では海外における博士号取得を支援する制度に対して記述してきた。しかし、2章で記述したように博士への進学を決定するのは金銭的な問題だけではない。次章では博士人材の卒業後の進路や経済力について日本と海外を比較しながら記述したいと思う。

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