第六章 これからの博士課程学生のために

第六章 これからの博士課程学生のために

これまで日本の博士課程をはじめとした日本の理工系の高等教育機関における制度の問題点について海外の事例を交えながら論述してきた。そして日本の革新的な支援制度が新たに始まり、今までの問題を解決することになる大きな転換点となることも記述した。しかし、前章で述べた制度たちも海外の事例と比べると、まだまだ至らない点があるのもまた事実である。そこで本章では今後博士号を取得する学生を増やすために、さらに日本が行うべき施策について考察していく。

初めにTA・RAの処遇の向上である。アメリカにおいてTA・RAの処遇がとても良いのは第三章で述べたとおりだが、それに比べて日本の処遇は大変悪いものになっている。具体的には全体1.3万人いるTAの給与は一人当たり1.0万円/月、9千人いるRAの給与は3.8万円/月である。RAのみで生活できているアメリカの学生とは雲泥の差があることがわかる。日本のJSTが新たに800人のRAに生活費相当額支援を支給する創発的研究支援事業を始めたが、RAの母数を見るに圧倒的に足りていないのが現状である。だからこそ、アメリカの給与水準までは行かないまでも月5~10万円と生活の足しになるレベルまで給与を引き上げることで、TA、RAに対するモチベーションの向上や修士課程から博士課程へ上がってくる学生の金銭面的な不安をさらに軽減することにつながると考える。

次に博士号課程の学生含むすべての研究者が参加できる職能支援の創出である。現在日本における博士学生の高度な就職支援はSPRINGや、科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業に参加している選ばれた学生のみが享受することが出来、すべての学生が等しく享受できるものではない。実際、SPRINGに参加した学生は就職率が87%であるのに対し、全国平均は68.4%と大きな乖離を見せている。だからこそイギリスのVitaeのような非営利組織による職能支援が必要なのである。博士人材が誰でも就職において自身に必要なスキルやほかの研究者と交流する機会を得ることが出来る環境を整備することで、博士人材(ポストドクターを含む)の就職率を向上させ、博士課程へ進学する修士学生の不安をさらに減らすことにつながる。

最後に民間企業の就職において、研究者以外の就職支援も行うことである。現在博士課程を修了した学生の中で就職先が判明している学生の中で、研究者(民間とポストドクター)や医者、大学教員等専門的な職に就職した学生は全体の約8割に上っている。民間企業の研究職になること以外のパイプが整っていない現状は、研究者になるか悩んでいる修士課程の学生に対して、博士課程への進学をあきらめさせる要因になると私は考える。だからこそ、大学が企業と連携してインターンシップや面談の機会をより多く設け、博士学生の選択肢を一つでも多く増やすように画策することが重要であるといえる。

日本はこの30年間、経済の成長が停滞している。しかし新たに始まった革新的な政策たちはこの現状に一石を投じるものであることは確かであり、減少していた博士人材の数を増大させることを大いに予想させる。日本政府はこの政策を行ったことに慢心せず、さらなるブラッシュアップにより、日本の研究力をより力強くよりフレッシュにすることが求められる。日本がこれから新たなイノベーションを多数起こすことで、成長率の復活を見せることを切に願うばかりである。

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