日米豪印の4か国の枠組みQuadは13日、初のエネルギー相会合を開いた。水素やアンモニアの活用に向けた技術開発を進めることで一致した。蓄電池の供給網構築での協力も確認した。水素に関して、米・豪で製造プロジェクトが進み、インドの大規模な設備活用や、日本に安全に運んだりするなど安定的な供給網構築が念頭にある。一方でウクライナに侵攻したロシアへの制裁に関する具体的な言及はなく、ロシア産資源の購入をめぐる立ち位置は4か国で温度差がある。
2022/7/14 日本経済新聞 5面
日米豪印の4か国の枠組みQuadは13日、初のエネルギー相会合を開いた。水素やアンモニアの活用に向けた技術開発を進めることで一致した。蓄電池の供給網構築での協力も確認した。水素に関して、米・豪で製造プロジェクトが進み、インドの大規模な設備活用や、日本に安全に運んだりするなど安定的な供給網構築が念頭にある。一方でウクライナに侵攻したロシアへの制裁に関する具体的な言及はなく、ロシア産資源の購入をめぐる立ち位置は4か国で温度差がある。
2022/7/14 日本経済新聞 5面
日米豪印の4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」は13日、オーストラリアのシドニーで初のエネルギー相会合を開いた。燃料として使う際に二酸化炭素(CO2)が出ない水素やアンモニアの活用に向けた技術開発を進めることで一致した。またクリーンエネルギーに関するサプライチェーンを強化し、エネルギー安全保障を確保することの重要性も確かめた。ロシアへの対応に関しては踏み込んだ議論はなかったが萩生田光一経済産業相は米豪との個別の会談では、液化天然ガス(LNG)の増産や安定供給に向けた協力を求めた。
2022/07/14 日本経済新聞 朝刊 5ページ
岸田文雄首相は14日、首相官邸で記者会見し原子力発電所を今冬に最大で9基稼働すると表明した。国内消費電力のおよそ1割に相当する電力を確保する。電力会社が再稼働を申請した原発は25基あるが現在稼働しているのは5基にとどまっている。首相は再稼働に向け「国が前面に立ち、立地自治体など関係者の理解と協力が得られるよう粘り強く取り組む」と意欲を示した。また再稼働した場合「ピーク時に余裕を持って安定供給を実現できる水準を目指す」と強調した。
2022/07/15 日本経済新聞 朝刊 1ページ
import turtle
import random
t = turtle.Turtle()
t.speed(20)
for k in range (0, 360, 10):
if k <= 360:
t.pencolor(random.choice((‘red’, ‘blue’, ‘yellow’)))
t.circle(50,360)
t.right(10)
turtle.done()
データ解析企業アスタミューゼが11年~20年に出願された水素関連特許を分析した。類似特許として引用された回数、権利の残存期間などから競争力を示す「特許スコア」を算出。日本は国別の総合力で首位となった。水素利用の中核技術である燃料電池の出願数が多いことが強みとなった。また出願企業別に特許の競争力を分析すると、上位20位のうち日本企業が8社を占めた。しかし日本が今後も世界トップを保てるかは不透明だ。日本の特許申請数は01~10年比では3割近く減少したうえに、01~10年の分析で5位だった中国が米韓独を抜き、二位となった。
(2022年7月13日 日本経済新聞 朝刊16ページ)
約14億人の人口を抱えるインドは宗教上の理由などからベジタリアン(菜食主義者)が多い。そんなインド市場で新たに注目を集めているのが代替肉である。政府系調査機関のインド・ブランド・エクイティ基金(IBEF)は「新型コロナの流行で免疫を高める商品として代替肉が認知され、人気が急速に高まった」とみている。インド市場が活況となる中、日本勢も参入を狙う。ネクストミーツ(東京・新宿)は今夏にインドで「ネクスト・ヤキニク」と呼ぶ商品を発売する予定だ。
(2022年7月13日 日本経済新聞 朝刊12ページ)
本著の著者はローランド・リーで、訳者は小浜杳(はるか)。ローランド・リーは、ニューヨークの記者であり、もともとゲーム関連の仕事についていたわけではない。eスポーツとの関わりは自身の純粋なゲーマーとしての情熱・好意だけだったが、ゲーム業界の光と影について取材しているうちに本著の制作に至った。
本著で扱っている内容の大枠は、『eスポーツがいかにして現在の巨大ビジネスへと発展したのか』だ。eスポーツ産業が発展する変遷を記しており、その内容は歴史書に近い。
全9章の構成で、各章ではeスポーツの歴史を語る上で外せないゲームや関連サービスの一つに焦点をあてて、歴史をまとめている。
1章「悪の天才 アレキサンダー・ガーフィールドと北米の台頭」
1章では、ファーストパーソンシューター(FPS)と呼ばれるゲームジャンルに属する『カウンターストライク』というゲームに焦点をあてる。
もともと『カウンターストライク』の競技者であり、とあるプロチームの運営に参加することになるガーフィールドという人物を中心に据え、eスポーツ黎明期におけるゲーミングチームの環境をまとめている。北米地域の内容をメインに資金難をはじめ、スポンサーを取り付ける苦労や選手の移籍をめぐるロビー活動など、スポンサー、チーム、選手それぞれの苦労が紹介されている。
また、『カウンターストライク』コミュニティの発展はテレビによって支えられたと解説している。テレビはリーグの運営・放送に扱われ、それまでアンダーグラウンドな文化であったゲームに対する絶大な熱意や取り組みを、家庭や市場などあらゆる方面に伝えることができた。
2章「ソウルの皇帝 ボクサーと『ブルードウォー』」
2章では、リアルタイムストラテジー(RTS)というゲームジャンルに属する『スタークラフト』というゲームに焦点をあてる。
『スタークラフト』は、通信先進国である韓国で爆発的人気を博したタイトルだ。
その自由度の高さから、勝つ上で多様な戦術をとることができるのが特徴のタイトルだが、そこで皇帝と呼ばれたプロゲーマー‘BoxeR’を中心に歴史を辿る。
まず、韓国での『スタークラフト』コミュニティひいてはeスポーツ発展の要因として2つの要因を挙げている。1つは、日本に対する1945年まで日本の植民地と化していた日本への敵がい心だ。韓国人は任天堂やソニーのいわゆるコンシューマーゲームではなく、『スタークラフト』のようなパソコン上でできるゲームを好んだ。2つめはインフラの整備だ。韓国政府は1998年から2002年にかけて110億ドルを投資し、ネットワークインフラの近代化を推し進めていたことで、広くパソコンゲームが普及する地盤ができていたことも要因のひとつだと紹介している。その上で、『スタークラフト』における‘BoxeR’の栄枯盛衰、ゲームイベントにおけるキャスター(実況者)の存在をまとめている。この章自体は、次章で扱う『スタークラフト2』への伏線的な内容になっている。
3章「核ミサイル発射を検知しました 『スタークラフト2』の爆発的人気」
3章では、2章の『スタークラフト』の続編である『スタークラフト2』を取り扱う。
完成度が高いとされていた初代にたいし、より競技性を高めた続編をつくるための製作者側の奮闘と、同タイトルで活躍したプロゲーマーの紹介が主な内容だ。2章で扱った初代『スタークラフト』のコミュニティから人の移行が上手くいくかが、重要なファクトだった。
結果として『スタークラフト2』は爆発的人気を獲得するが、1章で扱った内容と同じように、ここまでの人気を出すにはテレビの影響は大きかったとしている。
しかし、メリットとして挙げられている内容は1章と3章では異なる。1章で紹介していたテレビの拡散力や幅広い層へのアプローチといったメリットよりも、『スタークラフト2』ではテレビという資本を使うことで、より多くの賞金が集まるという利点が大きかったと紹介している。これにより、選手たちのモチベーションの増進やプロゲーマーが職業であるという認知が進んだ。加えて、初代では韓国人が多くを占めていたゲームシーンに欧米選手も名を連ねるようになり、ゲームのグローバル化が進んだ。2007年頃を中心に、より競技性の高いゲームシーンを醸成することが出来たのである。
著名になったことをコミュニティは喜んでいたが、負の側面も同様に顕在化した。
例えば、プロゲーマーが有名人として広く認識されることで誹謗中傷の的になったことや、ゲームコミュニティに存在する女性蔑視が話題を呼んだことを紹介している。
4章「夢のストリーム Twitch」
4章では、ゲーム配信サイトの『Twitch』の成り立ちと、eスポーツシーンの発展における役割を紹介している。
『Twitch』の起源が、eメールとカレンダーを同期させるという、現行の『Gmail』の機能にもなっている部分から始まったことが紹介され、2015年に『Twitch』の月間視聴者数が一億人を突破するまでの出資者や利用者との交流の様子がまとめられている。
『Twitch』が出てきたことで、誰でも手軽に他人のプレーが見られるようになったことは、トップアスリートの練習メニューを目の当たりにするのに等しく、あらゆるタイトルにおいて競技のレベルが向上した。トップレベルには及ばずとも、自身のキャラクター性を生かして人気を獲得し有名になったプレイヤーもいる。また、『Twitch』にあつまる視聴者データやアフィリエイトの追跡情報によって、選手のユニフォームに印字された各企業のロゴがどの程度企業の露出に繋がったか、実質的な価値を持つようになった。
5章「挑戦者、現る 『リーグ・オブ・レジェンド』」
5章では、『リーグ・オブ・レジェンド』を取り扱う。『スタークラフト2』が隆盛していた時代に現れた、比較的新しいeスポーツタイトルだ。2011年夏に開催される「第1回リーグ・オブ・レジェンド ワールドチャンピオンシップ」は、160万人が観戦し、2009年10月にゲームがリリースされてからのスピード出世だった。
韓国を中心として人気を集め、次第に『スタークラフト2』をも超えたタイトルとなる。2012年の「第2回リーグ・オブ・レジェンド ワールドチャンピオンシップ」では820万人が視聴し、異常なまでの成長具合がわかる。以降は大会の運営も自社で行うようになり、同時にリーグも設立。この章では、それまでの軌跡がまとめられている。
また、『リーグ・オブ・レジェンド』がもたらしたものとして、eスポーツシーンへの安定性と構造を紹介している。
今までのeスポーツは一部のトップ選手に収益が集中する構造であったが、『リーグ・オブ・レジェンド』のプロリーグに参加する選手たちには、安定した収益と住まいが用意された。eスポーツにおけるプロプレイヤーのイメージが、賞金稼ぎから一つの職業へとより鮮明に変わっていった。
中国の巨大ゲーム会社であるテンセントの資本を上手く使い、eスポーツにおけるトップタイトルへとなりあがっていった。
6章「アンバランス 女性と人種とゲーム」
この章では、特定のタイトルに焦点を絞らずにゲーム業界に蔓延る、女性差別と人種差別について取り扱っている。
ゲーム業界では、プロゲーマー界で女性プレイヤーが芳しい成績を残せていないのは、女性の実力が劣るせいだと誹謗中傷される。本著では女性差別が根強くある要因として、文化的な障壁が大きいと分析している。伝統的なスポーツでは基本的な生物学的差異によって、男女は分離されており、ゲームには理論上そのような身体的障壁は存在しないことになっているが、もともとゲームは男性が多くプレイし、男性が結果を出すものだという先入観と、スキルの高さと経験が称賛されるゲーム業界では、新参者への根強い軽視が差別を助長することになっていると言う。
また、人種差別についても言及している。ランダムマッチングのゲームにおいて、英語でコミュニケーションを取れないプレイヤーと同じチームになったときに、外国人嫌悪に火がつく場合があることを紹介している。負けた要因を外国人がまともにコミュニケーションをとれなかったせいだと言うのである。
eスポーツで結果を出した人間は白人とアジア人(中国人、韓国人、アメリカ人、スウェーデン人)に多く限定され、それ以外の人種が国際大会の配信台に写るだけで、差別用語が繰り返し、投稿される。ヒスパニックや黒人のプロゲーマーは非常に少ないが、対戦格闘ゲームでは別だという。『モーダルコンバット』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』、『ストリートファイター』等が属するジャンルで、ゲーミングパソコン、モニター、マウス、キーボードなど多くのガジェットを必要とする他のジャンルのゲームよりも、比較的安価に始められることが要因であるとまとめている。
7章「勝つために生まれてきた 『DOTA2』が掛け金をあげる」
7章では、『DOTA2』を取り扱っている。これまでのeスポーツタイトルとは違い、クラウドファンディングで賞金集めるなど、意欲的な施策を打ち出し、2011年の大会の賞金総額は160万ドルに及んだ。その他は当該タイトルでなを馳せた選手たちが紹介されている。
8章「資金の奔流 eスポーツに再び大金が流れこむ」
この章では、eスポーツと賭博について触れている。賭博によって大量の資本がeスポーツ界隈には流れてきたものの、それによる八百長や賭けに負けた腹いせによる誹謗中傷で選手が自殺を図った例などが挙げられている。それに応じた各国の取り組みも紹介されている。
加えて、世界的エナジードリンクのメーカーであるレッドブルの投資により大量の資本が投じられ、eスポーツシーンの発展に大きく貢献している例を挙げている。
9章「1800万ドルへの道 ザ・インターナショナル第5回大会」
9章では、第1章で登場したガーフィールドが『カウンターストライク』が中心だったチームに新たに『DOTA2』の部門をつくる上での苦悩が描かれている。本章は、事実の列挙といった内容で分析的な内容には乏しい。
最初に述べた通り、本著はeスポーツがいかにして発展してきたのかを史実的に述べている。それぞれジャンルの違うタイトルから多面的にeスポーツについて取り扱っていて、業界の大枠を捉えるためには、かなり理解の助けになると感じた。また、文中では選手の言葉・意見を引用し、第三者視点だけでなく業界内の人間の意見も取り入れることで、単なる事実の列挙にはとどまらない内容になっている。
複数の視点という意味では、先日書評をだしたメーカー・CAPCOM著の書籍よりも、本著はよりユーザー(選手・チーム)側の意見が多く盛り込まれており、先に読んだ書籍と合わせてeスポーツに関わるメーカーとユーザーの立場双方の考えを広く体系的に理解することができた。
本著におけるeスポーツ黎明期からの発展の語りのなかでは、「日本」という言葉はほとんど文中に出てくることはなく、この分野で日本は他国に比べ相当遅れている、またその発展にも大きくは寄与してこなかったことをより鮮明に感じることができた。
次は、eスポーツに限らず、また別の視点でゲーム業界について理解を深めていきたいと思う。
白揚社
『ライズ・オブ・eスポーツ ゲーマーの情熱から生まれた巨大ビジネス』
2021年7月27日 発行
著者 ローランド・リー
訳者 小浜 杳
筆者の天野眞也は製造業にテクノロジーの力を活用し、今までにない新たな価値や仕組みを提供することを「Industry Tech」と定義し、このIndustry Techをコンソーシアム(複数の企業が「共同企業体」を組成して、一つのサービスを共同で行う取引) 「 Team Cross FA(チームクロスエフエー)」として提供している。そしてこのチームクロスエフエーでは「Brand New Japan.」というビジョンを掲げ、製造業の活性化を起点に、日本を再び誇れる国にするべく、日々活動を行っている。
1デジタル技術がもたらす変化
1ではデジタル技術によって我々の日常生活がどのように変化したかがまとめられており、デジタル化が広がることによって経験が言語化され、共有、活用、展開ができるようになってきており、かつては長い経験を積まないと難しいといわれていた職業に多くの人が就くことができ、個々の仕事はおろか社会全体の効率が上がってきている。筆者が長年携わっている製造業の現場でもかつては特定の人しか操作できなかった装置を若手が操作できるようになったり、ベテランしか判断できなかった機械の故障予知をセンサとAIの組み合わせで判定できたりするようになってきているようだ。
2製造業におけるDXとは
2ではデジタル化の現状からデジタル化の必要性やDX実現に必要なことについてまとめられている。デジタル化によって「未来予測」とその予測結果と制御技術を活用した「自律化」が実現できるようになると、製造業の生産性が向上するだけではなく、DXを実現する一歩を踏み出すことができると筆者は主張している。未来予測は例えば過去及び現在の膨大な気象情報の中から天気を予測する天気予報のこと。自律化は速度センサなどのデジタルデータを解析し、車を制御する自動運転を例に出すと分かりやすい。工場においてはこの自律化の実現がデジタル化の大きなメリットであり、逆に言えばデジタル化なしには自律化できないということである。
デジタル化が実現すれば「生産性の向上」や「品質の向上」、「人手不足の対応」「技能伝承」「働き方改革」などの課題が解決される。そして最終的にはデジタル化が、ダイナミック・ケイパビリティ(環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力)の強化や、新事業の創出といった新しい価値の創出をもたらすだろう。
3デジタルファクトリーとそのインパクト
3ではデジタルファクトリーが第四次産業革命をけん引する工場でもあり、製造業のDXを実現するための核となる工場にもなるとし、従来の工場との違いやデジタルファクトリーのメリットについて述べている。
デジタルファクトリーとはデジタルマップとリアルタイムデータ、そしてデータのフィードバックが可能な生産設備や人が連携し、自律制御を実現した工場である。自律制御によってリソースの最適化が行われ、環境変化に合わせて最適化された生産と工場運営を実現するものである。
デジタルファクトリーにおいては人々は自動化が難しい業務に就くことになり、機械や人との役割分担ができるようになる。よく「デジタルファクトリーが進むと仕事が無くなる人がでてくるのでは?」という質問が出てくるが、新たなデジタルファクトリー管理、デジタルファクトリー構築、どうしても自動化できない難易度の高い仕事といった業務にシフトするだけであると筆者は語っている。かつて洗濯機が普及し始めた時に町の洗濯屋さんが無くなると騒がれたらしいが、実際にはクリーニング屋さんとして、現在でも多くの企業が営業を続けており、さらにライフスタイルの変化から大型コインランドリーが繁盛しているという話もあるため、デジタルファクトリーの実現=雇用の減少とはならない。
4デジタルファクトリー構築のステップ
4ではデジタルファクトリー構築のステップをプランニング、シミュレーション、リアルファクトリー構築の3つに分け、それぞれのステップで何をすべきかが解説されている。プランニングで最初に実行するべきなのは「生産戦略」のグランドデザインであるとし、多くの企業では「ビジョン」「ミッション」などは掲げているが、「生産戦略グランドデザイン」までは描けていないと指摘する。将来自社はどの部分を強みとして勝負するのか、そのためにはどんな製品を開発し、どんなコンセプトで生産するのかなどを言語化していく必要がある。
シミュレーションでは実際に設備を作りこむ前にこれらをデジタル上でシミュレーションし、検証、修正していく。例えば自動化シミュレーションでは「自動化・ロボット化構想」に対応するシミュレーションモデルを作り、その自動化が適切なものかを検証していく。
5日本の強みとDXがもたらす未来
5ではなぜ日本が製造業DXを実現できるのかやDXを推進することで新しい産業が生まれるのかなどについて述べられている。残念ながら日本はDX化が遅れているのは事実であり、全社戦略に基づくDX推進の変革を実施する段階への移行がこれから始まるという段階で、着手さえされていない企業が大半というアンケート結果も存在する。しかし製造業である以上「ものづくり」が必ず関係してくるため、「ものづくり」 =「製造技術」と「情報化技術」をいかに連携させるかが重要になってくる。日本は「製造技術」で間違いなく世界トップクラスの実力をもっており、それに「情報化技術」を組み合わせることで製造業DXを強力に推進していくことができると筆者は主張する。製造業DXに通ずるものとして筆者はトヨタの高級車「センチュリー」や人気漫画「ワンピース」を例に挙げている。ストーリー作りとそれを実行する力は、日本文化に根差したものであり、これらに最新技術が組み合わされることで、日本式の「製造業DX」が実現できるのである。
今回は入門編を読んだが、入門編というタイトルからわかるようにこの本には他のシリーズ(実践編とカスタマーサクセス編)がある。実践編では実際にどのようにDXを導入していくか、カスタマーサクセス編では顧客の製造業DXに必要な視点や考え方が解説されている。卒論ではこちらの2冊も参照しながら製造業DXの具体的な方法やそれによって生じる働き方の変化などについて論じていきたい。
天野眞也「製造業DX 入門編」
2020年9月9日
本書ではデジタルトランスフォーメーションを変革の武器として使うことを想定して書かれている。アメリカの二番手としてあぐらをかいている日本の状況に対して危機感を抱いた筆者が世界全体から見たデジタルの変化及びビジネスにおいて必要な視点と行動について解説している。
著者は藤井保文(やすふみ)と尾原和啓(かずひろ)の2人。藤井さんは2011年にビービットという企業にコンサルタントとして入社し、様々な日本企業の幹部に対して中国ビジネス環境視察合宿(チャイナトリップ)を行っていたが、現在は現地の日系クライアントに対し、モノ指向企業からエクスペリエンス指向企業への変革を支援する「エクスペリエンス・デザイン・コンサルティング」を行っている。
もう一方の尾原さんは先述のチャイナトリップに参加し、藤井さんがもっとも意気投合したと話すIT批評家である。NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援やリクルート、Google、楽天などの事業企画、投資、新規事業に従事し、経済産業省対外通商政策委員なども歴任している。
第一章「知らずには生き残れない、デジタル化する世界の本質」
第一章では日本と世界のデジタルトランスフォーメーションの状況について事例を交えて解説されている。膨大に蓄積されたデータを基にサービスが生み出されるのではなく、社会基盤そのものが再構築される=デジタルによる社会システムのアップデートが起きるような時代に備えて企業がやるべきことは何なのかを見出すヒントが書かれている。
第二章「アフターデジタル時代のOMO型ビジネス〜必要な視点転換〜」
第二章ではオンラインに移行した世界でビジネスはどう変化していくのかについてまとめられている。これまでリアルとデジタルの認識は「オフラインのリアル世界が中心で、付加価値的な存在として新たなデジタル領域が広がっている」という図式だったが、IoT、センサーが偏在し、現実世界でもオフラインがなくなるような状況になると、リアル世界がデジタル世界の一部となり、人は常時デジタル環境に接続される状態にさなる。つまり企業側の視点から見てみるとリアル世界は密なコミュニケーションが取れる貴重な場となるため、デジタルが基盤となるという視点に立った上で戦略を組み立てていける思考が必要不可欠になる。
その思考法が「OMO(Online Merges with Office)」である。これまではインターネットをどのようにビジネスに活用していくかが重要であったが、今はオフラインが存在しない状態を前提としてビジネスをどうしていくかを考えていく必要がある。いかにアフターデジタルという考え方を理解し、データを活用できるかが企業の命運を分けるのである。
第三章「アフターデジタル事例による指向訓練」
第三章ではアフターデジタルに切り替わった時の重要な論点を挙げ、アフターデジタルという新しい世界観から従来の価値観を見るという切り口で世界の事例を取り上げている。欧州では個人データとプライバシーの保護は基本的人権の1つとして考えられ、2018年5月からは事業者を対象としてGDPR:General Data Protection Regulation(EU一般データ保護規則)の施工が始まっている。技術的な進歩によってサービスが良くなるとデータが流動化し、そのデータを悪用する人が現れるかもしれないという懸念からGDPRのようなデータ規制が生まれたのである。しかし筆者はデータの保護だけでなく、新しい技術やサービスを生み出す「緩和」にも目を向けなければ、本質的な理解にはならないと警告している。
一方で、中国では「国民はデータを提供し、国が一括管理をして国民のために使う」という考え方が当たり前になってきており、データを提供するという考え方が根付いている。このような中国の2015年からのデジタル発展は規制緩和に支えられており、例えばセグウェイのような新しい乗り物が走ることにしてもまだ決められていないのでokとなる。この緩和を特定の業界において実施したのが「インターネットプラス」という政策で、中国の目覚ましい進歩を生んだ背景として語られている。
第四章「アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革」
第四章では日本が取るべきデジタルトランスフォーメーションの1つの道筋を伝えている。アフターデジタル時代のビジネス原理として1つ目に(1)高頻度接点による行動データとエクスペリエンス品質のループを回すことをあげている。便利かつ信頼できる企業であればデータを提供することに提供はないが、データを提供することで、売りつけてくる企業にはネガティブなイメージを持ち、接点が無くなっていくため、顧客を騙すようなサービスは高頻度接点と高付加価値をもたらすアフターデジタル時代には淘汰されていくだろうと言われている。2つ目は(2)ターゲットだけでなく、最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーション形態で提供することである。高頻度データ把握によって、ユーザーが望むタイミングを知ることが可能になり、どのようなコンテンツが最適なのかを過去の行動と現在の状況から把握でき、その人の性格や特性に適したコミュニケーション方法で提供できるようになると言われている。
本書を通じてデジタルトランスフォーメーションがなかなか進まない日本の状況に改めて危機感を感じたが、来春からデジタルトランスフォーメーション系の部署で働くにあたってのヒントも得られたと感じた。卒論では製造業にピンポイントを当てて書く予定であるため、製造業関連の本も探して今後執筆を進めていきたい。
日経BP「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」
2019年3月25日