月別アーカイブ: 2024年9月

三井不動産などが低温物流網に大型投資

三井不動産や日本GLPなどが、2030年までに冷凍・冷蔵物流網に5000億円以上を投資する計画を発表した。人手不足が深刻な外食業などで冷凍食品の利用が増加していることや、トラック運転手の残業規制により長距離輸送の中間地点に倉庫が必要になっていることが影響する。日本ではコールドチェーンが小売や食品産業の競争力の鍵となっており、各社が倉庫の新設や省人化を進めている。 2024/09/18 日本経済新聞 朝刊 1ページ

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文科省、図書館と書店の連携支援

文部科学省は読書推進と地域活性化を図るため、図書館と書店の連携支援に取り組む予定だ。具体的には、2025年度予算に4100万円を計上し、6自治体を公募で選定し、モデル事業を全国に普及させる方針である。背景には、読書離れや書店数の減少があり、既に各地で図書館と書店の連携事例がある。鳥取県立図書館では、地元の書店で購入した本の貸し出しを行っている。活動拡大のために、文科省は事例調査、課題分析を進める。 2024,9,24 日本経済新聞 社会

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自民党総裁候補者ら、東京一極集中の是正を議論

自民党総裁選の候補者らは22日、NHK番組内で東京一極集中の是正について議論した。小泉氏、河野氏、高市氏らは大学進学などを機とした地方からの若年人口の流出を問題視し、中央省庁や国立大学の移転などの提案を行った。一方で、地方の人口を増やす施策案も出た。加藤氏は地方にかかわる「関係人口」を増加させる必要性を強調した。林氏の代理で番組に出演した田村氏は、地方移住にふれ、移住前の地方住民との交流が重要だとした。 2024、9,23 日本経済新聞 総合・政治  

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書評 2040年全ビジネスモデル崩壊

1971年に日本にやってきたマクドナルド、1983年に日本にやってきたディズニーランド。今ではどちらも日本人にとって馴染み深いものだろう。しかし、実はマクドナルドが業績低迷に苦しむ一方で、ディズニーは業績を伸ばし続けるというような時期があった。それは正に、両社のビジネスモデルの違いがもたらした結果と言える。とはいえ本書は、そんなマクドナルドとディズニーの経営分析を細かく行うものではない。不動産業界まで話の風呂敷を広げつつ、日本社会の価値観が一体どういうふうに推移してきたのか、これからはどうなっていくのか、ということについてを考え、記しているものである。 第一章では、日本上陸当初のマクドナルドが顧客の「量的充足」を目指し、どのように日本社会へとアプローチしていったのか、結果日本社会の中でどのようなポジショニングとなったのか、というのを骨子として話が展開されていく。当時の日本社会の雰囲気や人々の様子などにも触れられている。当時はまだ高度経済成長期で、「頑張れば成長出来る」という成功の未来を誰しもが思い描き、未知のアメリカ文化にも、明るい未来や豊かな生活を夢見ていたという。また、この頃にはニュータウンが誕生し、都市に流入する人々の為に多くの宅地も造成されたようだ。一方、マクドナルドはと言えば、日本上陸から10年足らずで現在のマクドナルドとほぼ同じような知名度と信頼を得て、日本の外食産業にしっかりとした根を張っていた。少なくともこの1970年代には、より多くの店舗を用意し、より多くの顧客にハンバーガーを届けるという「量的充足」を目指すビジネスモデルは成功していた訳である。時が進み、バブルが崩壊して不動産価格も暴落したりする中でも、マクドナルドはデフレすら低価格戦略の1つとして取り込み、この時代を乗り切るが、その先の日本はさらに不安定な時代へと突入する。 第二章では、アメリカのディズニーランドがどのように日本へやってきたのか、ディズニーランドがお客さんを惹き付け、現実の世界を忘れさせるという点において、いかに当時のレジャー施設とは一線を画すものだったのかということが語られている。当時先進国の後追いに過ぎず、あまり良い印象の持たれなかった日本にディズニーを誘致する苦労から、ディズニーの予想外とも言える成功のストーリーが、そこには示されている。その背景として、ある程度のゆとりが出来た国民が海外に目を向け始め、また物ばかりを求める「量的充足」ではなく、いわゆる「コト消費」と称されるような「質的充足」を求め始めたことなどにも触れており、ディズニーはそうした「質的充足」を追い求めたカンパニーとして紹介される。その一方で、マクドナルドや不動産業界は尚も、国民の生活を量的に満たすことに心血を注いでいたようだ。デフレ社会から抜け出せなくなり、言わば「失われた時代」が始まる1996年には、マクドナルドとディズニーは明らかに異なる道を辿り始めるのだという。 第三章ではマクドナルドはなぜ行き詰ったのか、というタイトルから、まずは1996年前後の日本に立ち込めた暗雲の数々を、日本社会の大転換点として紹介している。阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件といった天災や大事件の勃発、生産年齢人口(いわゆる働き手の人口)の減少が始まったり、超円高に突入して国内企業が呻き声を上げたり、不動産業界ではバブル時代の不良債権(6.4兆円相当)が明るみになったり、はたまた「金融危機」が到来したりといった感じだ。これらがバブル崩壊後の人々にどれだけの不安を振り撒き、その意識を萎縮させたかは想像に難くない。各経済指標から見てみても、1996年前後は国力が衰退した時期として紹介されており、人々のライフスタイルや不動産事情なんかも大きな転換を迎えたそうだ。例えば、専業主婦世帯と共働き世帯数の逆転、大都市法が改正された結果、超高層マンションが多く建設されたことによる、都市部への人口回帰現象などである。そんな中、これまで成功の一途を辿っていたマクドナルドは、創業以来初の赤字に転落する。その理由は、当時の社長がデフレを一過性のものとして捉え、問題を正しく理解していなかったからだ。商品価格を下げ続けて尚、当時は買ってくれる人がいなかったのである。1996年前後に国民の間で流れる雰囲気が、前までの何処か明るげなものではなく、悲観的なものにシフトし、人々が生活防衛にまわり始めたというのが、その要因として挙げることが出来よう。その証拠、という訳ではないが、1992年には『清貧の思想』という本が大ベストセラーになっている。華美ではなく、常に清貧であることを説いた本である。この時期の日本の人々は、それに倣うように常に倹約し、次に訪れる何かに備えて暮らすようになった。そうして、身をすくめて不安定な時代を乗り切ろうとする日本人にとって、マクドナルドの明るい店舗で提供される、アメリカ資本主義の象徴であったハンバーガーは、何とも場違いなものに成り果てていたのだ。著者は、清貧の思想がマクドナルドを駆逐したとさえ語る。その後、マクドナルドは経営者が交代し、フランチャイズを増やしたり、それに伴い直営店を売却したりして、一時業績回復に成功する。しかしそれは、あくまで一時的なものに過ぎず、その後急速なコモディティ化に苦しむことになり、だからこそ、さらなる量的な拡大を続けた。やがて、マクドナルド=チープというイメージを払拭する為の改革も始めるマクドナルドだったが、アメリカ本部から求められる方針とは反りが合わず、結局は中途半端なものに終わる。その後も、量的充足を求めた元来のスタンスが限界を迎えたのを機に、顧客の趣味嗜好を考えるなど、初めて日本マクドナルドは質的充足に向き合うこととなるが、これをきっかけにターゲットとする顧客層が拡散し、事業コンセプトが曖昧になるなど、迷走の時代が始まった。その後のマクドナルドの施策について、ある種的外れなものであったと著者は評価している。 第4章は、ディズニーランドはなぜ3年連続で値上げ出来るのか、というタイトルから始まる。デフレにひたすら値下げすることで適応しようとしたマクドナルドとは対照的に、ディズニーランドはデフレ下であろうと3年連続の値上げを行った。これはいかなる時でも自らが提供する価値を高めることに余念がなかったのと、そうした姿勢から来る自信があってこそのものだった。デフレ社会になっているのをわかった上で、「最高のものをお届けしますから是非見に来てください」と堂々と宣言していた訳である。ここでマクドナルドハンバーガーの価格とディズニーの入園料(一日フリーパス)の推移を指数化して比べてみると、ディズニーが全く値下がりせず、値上げ続きなのに対して、マクドナルドのハンバーガーは1度下落した所から中々上がってこないことが分かる。ここに、両社が採った戦略の違いが、業績に「明暗」をもたらしたことを読み取ることができる。ここで著者は、日本人の誰に聞いてもマクドナルドについては批判的なコメントが多いが、ディズニーについては期待感のあるコメントが多いということも記している。続いて、マクドナルドが顧客に媚びようとして迷走しだしたことに対比させて、ディズニーは一切顧客に媚びることはないということにも触れている。何にせよ、ディズニーは価値創造ビジネスを通じて、安定した信頼や顧客を得続けたという訳だ。そんなディズニーは、現代においては馴染み深いコンテンツビジネスの草分けだと、著者は語る。例えば、ゲームによって展開される世界は、リアルから逃れ、自分だけが幸せになれる「質的充足」だが、ディズニーはその世界を1940年代から提供してきたのだ。今後、リアルの世界がどんどん厳しいものになるにつれ、仮想の世界(VR)に遊ぼうとする。そんな世界においては、ディズニーランドが提供する「夢と魔法の国」ビジネスは、今後のビジネスの「本命」になるかもしれないという。 第5章では、マクドナルド型ビジネスモデルから、今後の価値下落について考えていく。始めに触れられるのは、マクドナルドと同じく量的に規模を拡大していった不動産のコモディティ化についてである。大都市圏ですら人口が減り始める昨今では、新たな顧客は見込めず、また多くの人に行き渡り、あって当たり前になってしまったことから「マクドナルド型不動産」はその価値を急速に失い始めているという訳だ。空き家の増加などがその象徴だという。また、相続対策アパートや投資目的のワンルームマンション、郊外戸建てなどの不動産の未来についても触れられ、いずれも、不動産という、昔は確かに財産であったものが、今では消費財に近しいものとして捉えられ、利用が難しく維持費ばかりかかるものについては、負債にすらなり得るようだ。不動産業界でも、「量的充足」から「質的充足」への価値軸の転換が起こっているのである。かつての、ハコさえあれば誰かが入居したりテナントとして利用したりということは少なくなり、今では皆が中身を吟味して不動産を選ぶようになった。不動産が中々気軽に撤退できないものという性質から、著者は都心部の中古不動産の放出が始まるということや、中小ビルマーケットの大崩壊が起こるということを予想している。最後に、著者はこれからのビジネスで問われるのは「ハコの中身」だとし、時代はハンバーガーを手にするだけで幸せを享受できていた時代から、ディズニーランドというハコの中で毎日行われている、「生き物」が演じるステージに人は集まり感動する時代へ移り変っているのだと締めくくる。 第6章では、一転してディズニー型ビジネスモデルによる価値創造という視点から話が始まる。例えば、ホテルなどのオペレーショナルアセットと呼ばれる不動産(自ら建物を用意し、その中で商売をする)であるとか、価値を演出する不動産がこれからは勝ち組になるだとか、逆に「形にすること」を最優先として失敗した豊洲新市場はマクドナルド型ビジネスモデルの遺物であるとか、時代の移り変わりを踏まえた不動産評価が、ここでは逐一なされている。その上で、「体験、ライブ、共感」がキーワードなのだと著者は語っている。日本では最近、若者の物欲がなくなっただのなんだの言うが、一方で他人との絆や共感、刹那の喜びや感動をこれまで以上に求める傾向があるようだ。それはディズニーが常々訴えかけてきた「その場限り」のライブによる満足の提供であるという。それに付随するような形で、著者は統合型リゾートこそが究極の不動産であると述べ、これからは超高級リゾート時代というのが到来するだろうと予期している。一部の金持ちが夢を演出し、一般庶民はその夢に酔いしれる。そんなビジネスモデルが莫大な収益を生み出し、またこれからの世の中を支配していくという。それはいつまで続くのか、果たして夢が覚めることはないのだろうか、という問いかけから、著者はこの先の見通し難い未来へと目を向ける。 第7章は、ディズニーの夢から醒めた時、というタイトルで始まる。この世界で現実と夢が占める割合というのは、やはり前者の方が圧倒的に多い。そして現状、日本にはあまり良い現実が広がっているとは言えない。だからこそ、夢と魔法で現実を忘れさせることにも、いずれ現実が苦境に陥ることで限界が来るのではないかと著者は予想する。不動産についても、前述のリゾート施設のように富裕層を相手するものか、あるいはコモディティ化が進み暴落するものかで二極化していくものと予想している。2040年の日本について、著者は移民社会が日本を壊すのだということや、超高齢社会が進みながらも、ある程度高齢者がいなくなることで、平均年齢的には回復する地方が出てきたりという予想を立てている。 2040年全ビジネスモデル(文春新書)2016

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卒論アウトライン

世界的に化石燃料から脱却し、地球温暖化を抑止するために再生可能エネルギーの利用が進められている。 日本でも同様に再生可能エネルギーの利用を促進している。 しかし、他の主要国と再エネ比率を比較すると、日本は16%で最も高いカナダとは50%近く離れている状態である。 この様な現状を改善するためには、地熱の発電量を増やすべきだと考える。 日本は世界第3位の地熱資源量を持っていて地熱発電のポテンシャルも十分に秘めているにもかかわらず、発電所を建設するには問題点が多くあり、地熱の発電量は再生可能エネルギーの中でもかなり低く、日本の地熱発電の割合は0.25%であり、地熱発電の設備容量が資源量に対してかなり少ない。 そこで、世界の成功した地熱発電を参考にして、日本の地熱発電における課題を解決し、地熱発電量を増やし、再エネ比率を高くすることが重要である。  調査の方向性 日本が直面している地熱発電の課題点の確認と建設できている地域とそうでない地域を比較。その後、世界の地熱発電と比較し、どの様にその課題点を克服したのか、もしくは失敗したのかを調査する。そこから日本が地熱発電で発展するための方法を考察。

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書評 「生成AIスキルとしての言語学」

書評 「生成AIスキルとしての言語学」 本書の著者である佐野大樹はオーストラリアで言語学の博士号を取得したのち、国立国語研究所という日本語や社会における言葉の実態を科学的・総合的に研究する機関に、言語学者として所属していた。現在は機械と人のコミュニケーションのスペシャリストとして、生成AIの開発に従事している。本書では、著者が専門としている言語学という視点から生成AIをとらえ、その能力を自分の目的に合わせて引き出し、生成AIとの対話を広く、深くするための一手段として、「生成AIスキルとしての言語学」が紹介されている。 第一章 生成AIとは何か。人同士の対話と生成AIと人との対話の相違点は何か。 第一章では、そもそも生成AIとはどのようなものなのか、生成AIとのやり取りは人同士の対話とどこが異なるのかについて取り上げている。 人工知能の歴史が1950年代に始まって以来、レントゲン写真やMRI画像、Siriといったさまざまシステムが人工知能を利用して開発されてきた。しかし、人と同じようなレベルでテキストや画像を生成できたものはこれまでなかった。さらに、これまでの人工知能は専門知識やプログラミングスキル、データなしでは自分の目的に応じた活動を人工知能に実行させることができなかったのに対し、生成AIとのコミュニケーションではそれらが必要とされることがなく、我々人間が日常生活で使っている自然言語を使用する。生成AIの特徴の一つは、専門的な知識がなくとも、自然言語を使って、情報を処理したり、アイディアを表現したりとさまざまな用途に活用できることである。 生成AI は、入力されたテキストを深く理解し、それに基づいた新しいテキストを生成する能力を持つ。このシステムはトランスフォーマーと呼ばれ、それを根幹として大量のデータから言葉の使われ方を学習し、回答を生成している。 人が対話の目的として言葉を選択している一方で、生成AIはデータから学んだパターンに基づいて会話を生成しているという違いがある。それに加え、人とのコミュニケーションでは頻出する個人間で共有されている経験によって特別な意味を持つような表現が、生成AIとのやり取りには存在しない。 第二章 言語学とは。なぜ言語学が生成AIと対話するのに活用できるのか。 第二章では言語学がどのようなものか、そして言語学が生成AIとの対話に生かすことができる理由について触れられている。 言語学では元来、人と人とのコミュニケーション手段として言葉についての研究を行ってきた。言葉の機能、構造、意味、語彙、文法、語用、習得過程などさまざまな側面から、言葉の本質について思考するのが言語学という分野である。言語学が生成AIとの対話に活用できるのは、第一章でも触れられていたように、生成AIとのコミュニケーションが形式言語でなく自然言語で行われるから、また、どのように指示や質問を表現するかによって、生成AIの知識やスキルをどこまで生かせるかが変わってくるからである。 主にイギリスやオーストラリアを中心に発展してきた言語理論であるSFLでは、言葉の機能には、経験を解釈する機能、対人関係を築く機能、情報・考えを整理して会話や文章として形成する機能の三つがあるとされている。この考え方が、指示や質問を生成AIに伝えるうえでの言語機能、生成AIが作成した回答を解釈する上での言語機能、生成AIと共同作業で作成したものを人に伝えるうえでの言語機能、これらを考慮するのに利用できると述べている。 第三章 生成AIとの対話の目的。プロンプトの構造。 第三章では生成AIとの対話の目的と、生成AIに指示や質問をする場合、プロンプトはどのような構造をしているのかが説明されている。 生成AIとの対話の目的には、大きく分けて、情報やアイディアを理解する、情報やアイディアを表現する、考えを分析・整理するといったものがある。 指示や質問を生成AIにする場合、プロンプトに含める必須の要素が指示や質問の説明である。また、対話の目的に応じて指示や質問以外にも、状況設定や様式の選択、例の提示をプロンプトの構成要素として選択する。 第四章 状況設定。 第四章では、第三章で挙げられたプロントの構成要素のうち、状況設定に焦点を当て、状況設定をプロンプトに入れ込むことで、生成AIの知識やスキルをどのように引き出すことができるかが概説されている。 状況設定は言語学でコンテクストとして扱われる。コンテクストを説明する概念の一つに、状況のコンテクストと呼ばれるアプローチがあり、このアプローチでは、会話や文章に影響を与えるコンテクストの要素として、フィールド、テナー、モードの三つがある。                一つ目のフィールドは、コンテクストで何が起こっているのか。どのような出来事が起き、どんな人・物が出来事に関与しているかを表す要素。フィールドを説明することで、生成AIとの対話の内容を、より自分の目的に合致したものにすることができる。二つ目のテナーは、コンテクストにおいて、だれがどのような立場・役割を持っているか、立場・役割は当該のコンテクストに限定されるものか、それとも、それ以外でも役立つ役割かを表す要素。テナーを説明することで、生成AIとの対話の専門性、視点などをコントロールすることができる。三つ目のモードは、コンテクストにおいて、言葉がどのような役割を果たすのか。役割に応じて、どのような言葉が形成されるのかを表す要素。モードを説明することで、生成AIに目的に合ったかたちで回答を構成させることができる。 第五章 指示/質問の説明 第五章では、指示/質問の説明は、生成AIがどのように回答を生成するかを誘導するうえで重要になるということを、発話機能と論理‐意味関係という知見を使って説明している。 指示や質問は、言語学では発話機能の種類として扱われる。発話機能の知見に基づくと、指示は「物・サービスを要求する発話」、質問は「情報を要求するための発話」と定義できる。自らが求める回答を生成AIに導き出してもらうために、指示・質問の説明が重要になってくるわけだが、そこで活用できる考え方が論理‐意味関係である。論理‐意味関係は、指示や質問の一文だけからなるものではなく、指示や質問を主部として、それを補足する従属部との関連性を分析することに利用できる。論理‐意味関係には、主部と従属部の関係として、大きく分けて詳細化、増補、拡張の三つがあると考えられている。 詳細化の関係は、従属部が主部の指示や質問を言い換えたり、明確化したりするときに成り立つ。詳細化によって指示や質問を補足することで、生成AIが回答を作成する際に具体的に何を実行するかを誘導できる。 増補の関係は、従属部が主語に表された指示や質問を行う手段、条件、原因、時間や場所などを提示する場合に成り立つ。増補によって指示や質問を補足することで、生成AIがどのように、もしくは、どのような条件を考慮して回答を生成できるかを誘導できる。 拡張の関係は、主部の指示や質問に対して、従属部が何か追加したり代替案を提示したりするときに成り立つ。拡張によって指示や質問を補足することで、生成AIが回答を生成する際に、指示や質問をどのような手順で実行するかを誘導できる。 第六章 様式の選択。例の提示。複数のやり取りからなる生成AIとの対話。 第六章では、プロンプトの構成要素である「様式の選択」と「例の提示」が生成AIの回答にどう影響を与えるのか。また、生成AIとの対話を、一度のやり取りだけでなく、複数回続けることによる効果が記されている。 文体、会話や文章の形式、媒体、ジャンルといった様式の選択肢を生成AIに伝えることで、生成AIの表現、構成能力を引き出すことができる。例えば、ある料理のレシピを生成AIに質問する場合、食材や分量などを表形式で記してもらった方が、一つなぎの文章よりも見やすく、必要なものがすぐにわかるようになる。 また、例の提示をすることで、生成AIに状況設定や指示/質問の説明の内容をどう回答に反映したら良いかを伝えられる。例を一つだけ見しても回答が変わらない場合や、生成AIにさまざまなバリエーションを作成させたい場合は、複数の例を提示するなどの工夫によって違った回答を引き出すことができる。 しかし、指示や質問の説明や補足を行っても満足のいく回答を得られないときがある。そういった場合には、追加のプロンプトを送って、回答をより詳細化、増補、もしくは、拡張することが効果的である。 第七章 アプレイザル理論。言い換え。 第七章では、これまで紹介されてきた知見を組み合わせて、生成AIの使い方をさらに広げ、深めるような、少し発展的な用途が二つ紹介されていた。 一つは、評価をほかの人に伝える前に、自分の評価の表し方を見直すという用法である。ここでは、言語学で機能言語主義的立場から提案されたアプレイザル理論の考え方が用いられる。アプレイザル理論では、評価について特に次の四つを考える。①どの表現が肯定的な評価、もしくは、否定的な評価を表すか。②何を対象とした評価か。③直接的な表現を使っているか、間接的な表現か。④どのような評価基準を示す表現が使われているか。この分析方法を活用して、聞き手・読み手に自分の評価を伝える前に、自分の評価の表し方を生成AIと一度整理することで、伝えたいことをちゃんと表すことができているのか、相手にどう伝わる可能性があるのか、他により効果的な評価の表し方はないかなど、第三者の立場で見直すことができる。 もう一つは、自分の評価の表し方を見直すのとは逆に、評価やフィードバックを誰かから自分が受け取る場合に、生成AIを活用する用法である。評価やフィードバックの中には、現状を改善していくために有用なものもあれば、逆に否定的な批判のみで、モチベーションを下げてしまうようなものもある。そこで、生成AIを使って、否定的な批判を建設的なフィードバックに言い換えてしまう方法が紹介されている。言語学で言い換えを扱うとき、含意という概念を使って考える場合がある。含意という考え方の便利なところは、与えられた文章や発話から、言外の意味まで推測できるようになることである。例えば、自分が提出した企画書に対し上司から否定的な批判を受けたとき、直接的に伝えられたことだけを解釈した場合、ネガティブな気持ちになってしまうことが予測される。そこで、生成AIにこの批判を「建設的なアドバイスに言い換えて」と伝えることで、未来志向なものに言い換えてくれる。 このように、生成AIとの対話を介して、自分が評価するときには、評価の表し方を見直し、評価を受け取るときには、建設的なフィードバックに言い換えることで、対人関係を良好なものにしたり、改善したり、モチベーションを取り戻したり、高めたりするのに活用できる。 本書を通して、言語学的知見を活用して生成AIと対話することで、生成AIの知識やスキルを引き出し、自分の目的に合った回答を引き出すテクニックについて学ぶことができた。また、身近な言葉を使って、日常的な場面から教育的な場面、ビジネスの場面など幅広い分野で、さまざま使い方ができるのが生成AIのすばらしい部分だと感じた。しかし、生成AIを使用する上で気を付けなければいけないことも多数あると思った。一つは、生成AIが作成する回答は、常に正確だとは限らないこと。もう一つは、生成AIに入力したデータがどのように利用されるのか確認すること。これらは人と人の対話にも当てはまることである。生成AIが何でも知っていると過信することなく、生成AIはあくまで我々のサポートをしてくれるパートナーであり、我々が対話における主導者であるという認識を持つ必要があると感じた。パートナーといっても、生成AIは、対話者の背景や目的を自ら察してくれるわけではないため、質問や指示の仕方を工夫する必要があり、その具体的な用法が本書では紹介されていた。私は、それではせっかく人工知能を利用しているのに逆に大変なのではないかという感想を最初は持った。しかし、生成AIと複雑なタスクを一緒に行う際、質問や指示をどう構成するのがよいかをプロンプトとして表現することも、自分の考えや目的を整理し、それを生成AIと一緒に達成する上で、重要なプロセスだと気づくことができた。生成AIを扱うときは生成AIの特徴や危うさを理解し、今回新たに得た言語学的知見を活かして、自らの目的に合致した対話をしたいと思う。

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書評 「生成aiで世界はこう変わる」

著者である今井翔太氏は、東京大学松尾研究室に所属し、AI、特に生成AIのコア技術である強化学習を専門に研究しています。本書では、これまでの研究によって得られた知見を基に、研究者としての著者が生成AIの登場初期からその発展を追ってきた視点を加え、生成AI革命において知っておくべき技術、影響、未来について説明しています。 第一章では、生成AIとは一体何か、生成AIで何ができるのか、生成AI革命をもたらしたChatGPTなどについて説明しています。さらに、第一章では著者が本書の目的を、生成AI時代における生き方を読者に提供することだと述べています。また、著者が強調したい点として、生成AIが単なる便利なツールではなく、初めて登場した人間と同等、またはそれ以上の知的存在であることが挙げられます。 第二章では、現代の主要な生成AI技術について説明しています。 ChatGPTのような言語モデルを「大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)」と呼びます。言語モデルを一言で説明すると、「生成される単語や文章に確率を割り当てるモデル」です。また、人間が英語や国語のドリルで行っていたような文章の「穴埋め問題」をAIに解かせることで、高性能なAIを実現できることを説明しています。このような単純な学習法でも、高度な文書生成AIを作ることができるのです。 第三章では、生成AIが仕事や我々の暮らしにどのように影響を与えるかについて説明しています。 過去とは逆に、現在では「高学歴で高いスキルを身につけている者が就くような高賃金の仕事ほど、コンピュータ/AIによる自動化の影響を受ける可能性が高い」とされています。研究者の間でも意見が分かれますが、生成AIは労働の置換ではなく、労働の補完を目指す技術とされ、既存の労働をより生産的で快適なものにするという意見が多いです。ただし、現在の雇用が完全に維持されるという楽観的な見解は少ないです。 第四章では、生成AIにおける創作の文化と芸術的価値について話しています。著者は生成AIが単なる創作ツールに過ぎないのか、それとも創作者であるのかについて問いかけます。特に、AIが作成した作品に価値があるのかというテーマについて議論します。ある実験では、人間とAIが作成した画像を比較し評価してもらいましたが、人間が作成したとラベル付けされた画像の方が、すべての項目でAIより高く評価されました。これは、人間がコンテンツを鑑賞する際に、その作品に付与される背景情報に大きな影響を受けているためです。将来、ai画像の不自然な部分を克服し、aiと人間の画像の見分けがつかないレベルになっても、「人間が生み出したものに高い評価を与えたい」というある種の本能的な価値観がある限り、評価は変わらない思われます。 第五章では、長期的な視点から生成AIの未来について話しています。この話題に関しては、AI研究者の間でも意見が分かれていますが、著者の予想する未来について述べています。未来には、Google検索や現在のChatGPTが強化され、AIに聞けば何でも解決できる世界が来ると考えられます。言語生成AIなどを日常業務に組み込むことで、今まで人間が行っていた多くのことが自動化され、より短時間で処理できるようになります。本来は人間が行っていた作業がなくなり、人間は別の活動に時間を割けるようになります。業務であれば、ルーチン的な事務作業や資料作成ではなく、根本的な事業改革のアイデアを生み出したり、社会や人類の未来にどのように貢献すべきかを再考することなどの変化が訪れると予想されます。 2024 今井翔太 生成aiで世界はこう変わる

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書評『未婚と少子化この国で子どもを産みにくい理由』

本書は、日本の少子化問題について従来の誤解を正し、根本的な解決策を探るために、社会全体の構造を再考する必要性を訴えている。著者は、少子化を単なる「出生率の低下」と捉えるのではなく、より複雑な社会現象として理解する重要性を指摘し、さまざまな角度からこの問題にアプローチしている。これまでの施策が効果を上げられなかった理由を再考し、今後の日本が向き合うべき課題を明らかにしている内容だ。 従来の少子化対策は、保育所の増設や育児手当の拡充など、主に育児支援を中心としたものであった。しかし、著者はこのアプローチが、結婚や出産そのものを選択しない人々が増加している現実を見落としていることを強く指摘する。日本社会では晩婚化や未婚化が急速に進んでおり、これが少子化の主要な要因であるとされている。育児支援だけに焦点を当てるのではなく、結婚や出産が遠ざかる理由に迫る必要があるという主張だ。特に、経済的な不安定さや長時間労働の厳しさが、若者に結婚や子育てをためらわせていることが指摘されている。日本の労働環境が厳しく、ワークライフバランスの向上がなければ、安定した家庭生活を築くことが難しいと著者は述べている。現代の日本では、結婚や子どもを持つことが「リスク」として認識されており、この状況では育児支援策だけで少子化に歯止めをかけるのは難しいと論じている。労働環境の改善や経済的安定の提供が、少子化対策に欠かせない要素であることが強調されている。 欧米諸国との比較も本書の重要なテーマの一つである。特にフランスやスウェーデンといった出生率の高い国々の政策が、日本でも参考にされることが多いが、著者はその模倣が日本に適応できるかどうかについて慎重な姿勢を示している。フランスでは婚外子が多いことが出生率向上の一因とされるが、実際には事実婚や同棲しているカップルの子どもが多く、安定した関係のもとで育てられている。一方、日本では婚外子に対する社会的な偏見が強く、法的支援も不十分なため、同じ政策を導入しても効果は期待できないとされている。スウェーデンについても、子育てと仕事の両立を支援する福祉制度が出生率向上に寄与していることが紹介されている。スウェーデンでは育児休暇の取得が男女ともに義務付けられており、父親も育児に積極的に参加できる仕組みが整えられている。著者は、日本にもこうした制度の導入が求められるとしつつ、文化的な違いを無視して同じ施策を導入することの難しさも指摘している。少子化対策として移民の受け入れが議論されることがあるが、この関係は単純ではない。著者は少子化と移民の複雑な関係について、各国の事例や背景を踏まえて詳述している。移民女性の出生率はしばしば受け入れ国の出生率を押し上げると考えられるが、その影響は限定的である。フランスやアメリカでは、移民女性の出生率が高いものの、国全体の出生率に大きな影響を与えていない。移民の割合が大きくない限り、移民による出生率の上昇効果は限定的であり、少子化問題を解決するには他の施策が必要だ。また、移民の出生率は移住後に低下する傾向があり、出身国での出生率と比べて変動することがある。日本においても、外国人女性の出生率は日本人女性と同様に低下傾向にあり、移民が日本の出生率を大きく押し上げることは期待できない。移民は労働力不足を補う重要な手段ではあるが、少子化そのものの解決策としては限界がある。出生率の低下に対処するためには、国内の育児支援やワークライフバランスの改善など、より広範な施策が必要だとされる。 本書では、地方自治体が取り組んでいる少子化対策の成功例も紹介されている。例えば、島根県や富山県などでは、地域特有の育児支援策や婚活支援プログラムが効果を上げ、出生率が全国平均を上回る地域もある。しかし、著者はこうした成功事例が地方の特性に依存していることを指摘し、同じ施策を都市部に適用するのは難しいとの見解を示している。例えば、富山県では地域社会全体が若者の結婚と子育てを支援する体制が整っており、親世代のサポートや地域企業との連携が功を奏しているが、都市部では住居費や育児コストの高さが依然として大きな障害となっている。また、地方の出生率が高い理由は、出産適齢期の若者が地域から移住しているためであり、全体で出生数が増えているわけではない。こうした地方の成功事例を全国に拡大することは、現実的には困難であり、限界があるとされる。 著者は、少子化問題に関するメディアや政治の扱いについても批判的な視点を提供している。メディアや政治家はしばしば少子化対策を「予算の問題」として単純化するが、少子化の根本的な原因である「結婚しない」「子どもを持たない」という個人の選択には十分に対応していないと指摘している。また、女性の社会進出やキャリア重視が少子化を加速させるという議論についても、偏った意見であり、女性が働きやすい環境を整えることがむしろ少子化対策に貢献する可能性があると論じている。 少子化がすぐに解消する見通しが立たない現状において、著者は人口減少を前提とした社会の再設計が必要であると提案している。人口減少に伴う経済や社会の構造変化に適応するためには、単に出生率を引き上げるだけではなく、少子高齢化社会でも持続可能な仕組みを構築する必要があるとされる。  このように、本書は少子化問題を単純化せず、その複雑な背景に目を向けている。著者は、少子化が単なる出生率の低下や人口減少にとどまらず、日本社会全体の構造や文化、経済的背景、若者のライフスタイルや価値観の変化に根ざした問題であることを強調している。少子化問題を根本的に解決するためには、その背後にある多様な要因を理解し、多角的なアプローチを取ることが不可欠であると論じている。これは、単純な経済支援や育児環境の整備だけでは解決できない問題であり、社会全体の価値観や生活の基盤を見直す必要がある。 本書は、少子化問題をこれまで以上に多角的に捉え直す重要な視点を提供しており、多くの新しい考えを提示している。しかし、著者が未婚化や晩婚化を少子化の主要な原因と強調する一方で、若者支援についての具体的な提案が不足している印象を受ける。経済的安定や労働環境の改善は確かに必要だが、雇用の安定化や教育費の負担軽減など、結婚や出産に踏み切るための具体的な経済的支援策について、より詳細な議論が期待される。また、欧米社会での婚外子の多さに触れつつ、日本での政策的な現実性について疑問を投げかける一方で、婚外子や事実婚の社会的受容度を高めるための具体的な提案や、社会文化的な壁に対するアプローチが不足しているとも感じられる。本書は、日本の少子化問題に関する新しい視点を提供する一冊だ。単なる政策提言にとどまらず、文化的背景や社会構造に切り込んでいる点は興味深い。しかし、現実的に社会がどのように変革すべきかについての具体的な提案が不足している点は、今後の議論でさらに掘り下げるべき課題だ。少子化という複雑な問題に対して多角的なアプローチを取る重要性を理解する一方で、社会全体がどのように協力し合い、具体的なステップを踏み出すのかが、今後の焦点となるだろう。 未婚と少子化この国で子どもを産みにくい理由 筒井淳也 2023年12月19日初版発行

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書評「エリアマネジメント 効果と財源」

人口成長が続く成長都市の時代では、市街地の拡大や経済成長のために道路や公園などの社会インフラが必要である。これには、財政資金が活用されてきた。一方で、都市が成熟した社会では、そのような社会インフラに代わって、さらに地域の価値を向上させ経済活性化を図るための仕組みが生まれた。これがエリアマネジメントである。本書では、エリアマネジメントを財源確保の仕組み、活動効果の伝え方、組織や公民連携の在り方の3視点を海外や日本の事例を交えながらまとめている。本書の著者は、大手町・丸の内・有楽町の大丸有地区のエリアマネジメントを手掛けた一般社団法人森記念財団の理事長、小林重敬氏とその研究員らである。 第一章「エリアマネジメント制度の仕組みと財源・課税」では、エリアマネジメント団体が抱える財源問題を解決するための仕組みとそれに伴う課税問題について紹介されている。近年では、エリアマネジメント活動における財源問題解決のために、エリマネ団体の活動が多様化している。エリアマネジメント広告事業やオープンカフェ事業に加えて、公開空地活用事業やイベント運営事業、駐輪場・駐車場事業などから得られた収益を街づくりに還元するケースも多いという。一方で、海外のエリアマネジメント(BID)制度ではどのように財源確保が行われているのか。海外では、主に行政の介入により財源確保が行われているという。地権者や事業者が元来、行政に支払っている既存の税金に上乗せして、課税される。これがBID団体へ交付される。本制度は、行政とBID団体の役割分担の考え方が基本となっている。海外では、BID団体は、本来行政が行う基本的なサービスを行政の代わりに行うのではなく、行政サービスの付加的な部分を担当すると考えられているそうだ。そのため、制度は単なる課税ではなく、エリアの関係者自身が行政の最低限のサービスに満足することなく、納得してまちを磨く制度なのだという。このような欧米の制度を参考にして、日本でも活動資金をエリマネ団体へ交付する制度が導入された。大阪市では、2014年に大阪市エリアマネジメント活動促進条例を制定した。これは、都市利便増進施設の一体的な整備や管理にかかる活動資金を大阪市が徴収し、エリマネ団体に交付する仕組みを制度化したものである。計画時点において対象エリアを定めたうえで、エリア内において指定を受けたエリマネ団体と地権者および道路管理者が都市利便増進協定を締結する。合意した協定に基づいて、大阪市が地権者から分担金を徴収したうえで、エリマネ団体へ補助金として資金を交付する制度だという。法的な位置づけを持つことで、税金ではないが税金と同程度の強制力があり、フリーライダーを許さない仕組みになっている。2018年には地域再生エリアマネジメント負担金制度が施行されたことで、大阪市内に限らず、エリマネ活動により地域の事業者が受益すると見込まれれば、制度が活用できることになった。以上のように、エリマネ団体や行政は財源拡大を目指した努力を行っている。エリマネ団体は、確保した財源を活動経費に充てているが、全体収支を見ると赤字やトントンの団体が多いそうだ。しかし、法人税法上では公益的な活動を行っている団体であっても、一定の場合であれば税が課される。例えば、エリマネ団体に多い公益法人等の区分では、収益事業のみに税が課されることとなっている。つまり、エリマネ団体が活動資金を得るために収益事業を行い、これを元手としてエリマネ活動を行ったとしても、収益事業部分のみに着目され課税される仕組みである。組織全体としては経営が苦しくても、収益事業を行っている場合には税を支払う必要があるという。そこで、この問題を解消するために様々な制度が取り入れられている。株式会社等の普通法人の場合には、収益と見なされ課税対象である寄付金をエリマネ団体では、非課税とみなす寄付金の優遇措置や、収益事業から公益事業目的に資金等を移動し、公益目的の資金不足を補う際に移動した資金を非課税とするみなし寄付金制度等がある。 第一章で述べられていたように、エリア関係者から資金を得て寄付金として受領するためには、エリア関係者の合意が必要である。そのため、エリマネ団体は、活動に関して地権者や事業者からの理解と納得を得る必要がある。第二章「エリアマネジメント活動の効果をどう伝えるのか」では、エリマネ活動の効果を評価・伝達する方法がまとめられている。本書によると、エリマネの効果は3つの側面に分けられる。「互酬性」と「公共性」、「地域価値増加性」である。「互酬性」は、エリマネ活動におけるステークホルダーが活動により生まれる報酬を互いに受けることである。「公共性」とは、ステークホルダー以外にも活動の利益が及ぶ外向けの性質である。「地域価値増加性」は、まちが良くなった結果として、売上や地価などが上昇することである。小林氏は、これらのエリマネ活動の効果を見るために4つの重要な視点があるという。「短期的な視点ではなく長期的な視点の重要性」「公民連携の視点の必要性」「エリマネ活動の強制力」「エリアの多様性と活動評価」である。海外の事例では、エリマネ活動の効果をわかりやすく伝えるための工夫が施されている。英国BIDの事例を見る。英国のBIDは5年ごとに更新される仕組みである。活動を継続するためには、投票で過半数の賛成を得る必要があるという。ステークホルダーの支持を得るために、充実した年次報告書の発行が試みられている。具体的には、賛成への投票を促す内容やBIDを評価する現場の声が盛り込まれているなど、活動内容の詳細な記述に重きを置いている。また米国BIDの例では、ボストン市やミネアポリス市が取り上げられている。これらの報告書は、写真や図表を用いて視覚的に分かりやすく、必要な情報をコンパクトにまとめているのが特徴であった。海外の報告書と日本のエリマネ団体が発行する年次報告書を比較してみる。日本のエリマネ団体が発行する報告書の内容は、団体の情報や活動内容に踏みとどまっている。今後、エリマネ負担金制度を広く取り入れるためには、より具体的なデータや外部の専門家・研究員が評価に加わる必要性があるという。とはいえ、エリマネ活動の効果測定に関する調査や研究は、日本でも行われてきた。社会実験における調査事例や、アンケート調査を用いて人々に支払意思額等を尋ねることで市場では取引されていない価値を推定する方法のCVM法などがあるとまとめた。 第三章「効果を生みだす組織と公民連携の在り方」では、エリアマネジメント活動の効率化や充実化を図るための組織構築や公民連携の在り方がまとめられている。エリマネ団体は柔軟な組織であり、日本のエリマネ団体には法人格のない任意組織も多いという。しかし、行政からの補助金を受け取ったり契約を締結したりするために、一般社団法人を設ける例も増加している。現状では、寄付者に税制の優遇措置と見なし寄付制度の適用がある認定NPO法人か、優遇措置はないものの団体が寄付金を受けても原則として課税対象にならない非営利型の一般社団法人を指向するのが一般的だという。また、従来のエリマネ活動は民間が行うものという認識が強かったが、近年では行政がかかわり支援する事例が多くみられるようになった。大阪市でのエリアマネジメント担当局の設置や横浜市の公共空間活用委員会は、その例である。エリマネ団体と行政の公民連携は欠かすことができないものであると指摘する。人口減少や少子高齢化にあたって、空き地・空き家問題、介護・子育て支援など、いずれの課題も単に公共施設を整備すればよい時代ではなく、公民連携で運営管理を行わなければ成り立たないとまとめた。 本書を通して、現在、エリマネ団体が抱えている課題を解決するためにはエリア関係者からの理解と行政からの適切な支援が欠かせないことが分かった。本書で取り上げられていた事例は、大丸有地区や大阪市など比較的、都会だったように思う。しかしながら、エリアマネジメント活動による街づくりが必要なのは東京や大阪のような大都市だけではない。過疎化や高齢化が進む地方都市の方が、むしろエリアマネジメントによる受益が必要のように思える。地方都市におけるエリアマネジメントでは、今回の事例と比較して財源問題がより深刻に影響すると考えられる。一方で地方都市の豊富な人付き合いは、地権者や事業者の理解を得る必要があるエリマネ活動において、メリットになり得るとも考察できる。これらを鑑みれば、大都市と地方都市では行政の支援の範囲や種類も変わるだろう。今後、卒論を執筆するにあたりこの点を考慮しつつ、エリアマネジメントに関する理解を深めたい。

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書評「悪い円安良い円安」

本書は、2022年初頭から急速に進行した円安について、現状を把握し、なぜ「悪い円安」と言われるようになっているのかについてわかりやすく分析したうえで、円安を好機とする望ましい政策について提案する。   第一章『為替相場が貿易収支に与える影響』 為替レート(円ドルレート)は輸出入価格そして輸出入量の両面から日本の貿易収支に影響することが予想できる。輸出品あるいは輸入品の生産国での価格が一定である場合、円安は日本の輸出品の外貨建て価格を下げる一方で、輸出品の円建て価格を上げる効果を持つ。したがって、そのほかの条件が一定であれば、円安は日本の輸出財の外貨建て価格の下落を通じて外国における需要量を増やす一方、輸入材の円建て価格の上昇を通じて日本における需要量を減らす効果を持つ。こうして輸出額が増加し、輸入額が減少すれば、貿易黒字になる。貿易黒字になると、日本の企業が輸出で受け取るドルが輸入で支払うドルよりも多いので、その差額分為替相場では輸出企業のドル売りが多くなる。その結果、今度は円高・ドル安になる。そうなると、今度はドル建ての輸出財価格が上昇し、円建ての輸入材価格が下落する。こうして、輸出額の減少と輸入額の増加が起こり、貿易赤字になる。   第二章『日本経済の現状把握』 2022年前半の日本経済は、貿易赤字の拡大と、ロシア・ウクライナの危機などでの資源価格高騰によるインフレ圧力の高まりに加え、円安の進行により貿易赤字の拡大が続いているが、日銀は金融緩和継続のためにこの円安を食い止める手段が当面ないのが現状である。これまで円安が進行した際には原油価格が低下していたため、さほど問題にはならなかったが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で円安とともに原油価格の高騰が急激に進んだことが今回の円安が「悪い円安」といわれる大きな要因である。2021年後半からの資源価格高騰により、輸入額が輸出額をしのいでいる時期が多くなりその差額が徐々に拡大している。2022年7月時点での輸出額の伸び率は19.0%に対して、輸入額の伸び率は47.2%と二倍以上になっている。このような状況で円安になれば、デメリットが顕著になるのはあたりまえである。日本の主な輸入材である原油などは輸入価格が上がってもそれに従って輸入量が減少しないため、円安になった場合輸出額が輸入額を上回り円安=貿易赤字が増えるという構図になっている。   第三章『円安と為替リスク管理』 企業は様々な為替リスクに直面している。ここで定義する為替リスクとは、為替相場変動により外貨建て資産や外貨建て負債の自国通貨換算額が変化し、予想しなかった利益や損失が生じる不確実性のことである。企業が抱える為替リスクは、輸出入にかかわることのみならず、原材料の調達や資金調達方法、どこで何を製造するかなど立地選択も含めて、さまざまな分野に及んでおり、リスクへエッジの観点から、為替リスク、為替換算リスク、為替経済性リスクの3つに大別される。為替相場の変動によって決済時に自国通貨建ての換算金額が変動する為替取引リスク、企業の財務諸表に計上された外貨建て資産・負債の評価額が、為替相場の変動によって増減する為替換算リスク、為替相場の変化によって価格競争力に影響がでる、あるいは企業の生産構造に変化が生じるなど、企業の経営全般からとらえる為替経済性リスクである。それぞれのリスクに対して企業がとる代表的な手法としてファイナンシャル・ヘッジとオペレーショナル・ヘッジがあげられる。ファイナンシャル・ヘッジは、為替市場における金融商品(デリバティブ)を利用して、為替換算リスクをヘッジする手法である。例えばタイで工場を作る際に、タイでその費用を調達するバーツ建ての債務を持つことによって為替換算リスクを相殺する手法である。オペレーショナル・ヘッジの手法は業態によってさまざまであるが、代表的なものは海外に生産拠点を移転することによって輸出の際に生じる為替リスクそのものを解消するというものである。今回の円安が「良い円安」にならないのは、日本企業がリーマンショック以降の約4年にわたって80円台の超円高を経験し、特に日本の輸出企業が為替に影響されない生産体制を作っていくことに腐心してきたことが背景としてある。リーマンショック後の円高は、もともと存在していた日本と海外(特にアジア諸国)との間の生産コストの格差をさらに広げたことにより、海外に生産拠点を移すオペレーショナル・ヘッジが一層加速した。海外に生産拠点を移転し、本社との海外現地法人との企業内貿易を通じて中間財輸出と完成品輸入で外貨建てエクスポージャーを縮小するのだ。ひいては、日本からは輸出せずに、中間財などもすべて現地で調達し、完成品を製造し、現地で販売するという企業も現れた。このように、日本企業は海外生産比率を上昇させる中で、特に円高に対する為替リスクの耐性を強めてきた。円高による為替リスクを避けて海外に進出し、為替変動に影響されない体質になった日本企業は、円高による悪影響を避けるという目的で始めた自己改造により、今回のような円安による恩恵を享受できない体質になってしまったのだ。   第四章『ドル建てに偏った日本の貿易建値通貨選択』 為替相場の変動が輸出入価格に与える影響は、日本企業の貿易建値通貨(貿易の決済通貨)選択によって異なる。仮に円建て輸出であれば、円安が急激に進むと輸出相手国にとっては現地通貨建ての輸出価格が低下し、それによって日本製品は安いということから輸出が増える効果が期待できる。一方で、ドル建て(あるいは輸出相手国通貨建て)で輸出している場合は、ドル建て輸出価格×円ドル為替レートという計算で円換算額としての収入が増加し、企業業績には好影響を与える。しかし、企業が円安による収入増を一時的なものとして内部留保とし、労働者の賃上げや国内投資などに結び付けなければ、円安による好業績が日本経済にもたらす波及効果は小さい。輸入については、輸入価格(ドル建て)×為替レートに従って輸入代金が円安分増大することから、それが消費者価格に転嫁され、現在われわれが直面しているコストプッシュのインフレとして問題となる。日本は他国と比較して自国通貨建て比率が輸出、輸入ともにかなり低く、ドル建て比率が高いという特徴がある。相手国通貨建てで貿易し、為替の変動で苦労してきた結果、為替に左右さえない体制を築いたことが、今回の円安のメリットを享受できずに「悪い円安」となった背景といえるだろう。日本企業の輸出でドル建てが多い理由としては、以下の2点が指摘される。第1に、海外現地法人とのサプライチェーンが拡大する中で、企業内貿易をドル建てに統一し、本社財務部がまとめて為替リスク管理を行うという為替リスク管理上の理由である。第2に、できるだけ現地の販売価格を安定化させるPTM行動である。PTM行動では、為替変動時よりも製品のモデルチェンジの際に価格を改定することが多い。以上のような日本企業の為替リスク管理を考慮すると、今回の円安が輸出価格の低下を通じて輸出増につながるにはまだもう少し時間を要するだろう。(PTM行動とは現地の通貨建てで輸出し、現地の販売価格を安定化させる行動)   第五章『いろいろな形で見る現在の円安』 為替相場には市場で取引されている名目の円ドル為替レートの他にも実効為替レートと呼ばれる、通貨がものを購入する力を比較した指標がある。実効為替レートとは特定の2通貨間の為替レートを見ているだけではとらえられない相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標である。具体的には、対象となるすべての通貨と日本円との間の2通貨間為替レートを、貿易額などで計った相対的な重要度でウェイト付けして集計・算出する。実質実効為替レートは、単に名目の為替レートの動きだけではなく、各国の製品価格の変動を考慮に入れている。グローバル市場全体での競争関係を見るためには、単一通貨だけではなく、複数通貨の動きを同時にとらえた実効為替レートを用いる必要がある。実効為替レートは当該国の輸出競争力を測る指標として用いられるが実際には輸出競争力は産業別に異なりうる。日本の主要な4業種について、競合国と産業別実質実効為替ルートの推移を比較してみた。産業別に比較すると、今回の円安が実効為替ルートに与える影響は業種ごとに異なることがわかる。輸送用機器や一般機器はドイツや米国に比べて日本の競争力が強まっていることが確認できたが、電気機器や光学機器については、現在の日本の競争相手が韓国や台湾などアジア新興国であり、韓国がまだ日本よりも有利であることがわかった。企業側ではおのおのの生産体制に合わせたコスト削減と新製品開発の努力を継続することが必要であるとともに、政府も円安が対外競争力に与える影響の業種ごとの違いを確認しながら政策対応することが重要となろう。   第六章『円安はつづくのか』   これまで述べてきたように、2021年後半から驚くべきペースで円安は進行した。2022年初めから半年余りで20円以上下落するとは、当初はだれも予想していなかっただろう。円安の背景は、大きく分けて2つある。第一に、日米金融政策の方向性の違いを起因とする日米金利差の拡大である。そもそも金利の引き締めを開始していた米国と金融緩和継続のスタンスを固持する日本という構図はだれの目にも明らかであった。世界の主要国がインフレ圧力の高まりを受けて一斉に金融引き締めを強化するなか、日銀の緩和スタンスは変わらず、円やそのほかの通貨に対しても売られ、実質実効為替ベースで歴史的な円安水準まで下落した。第2に、日本の貿易赤字の継続・拡大である。これは2021年後半から明確になった原油価格をはじめとする資源価格の上昇トレンドが2月以降のロシアのウクライナ侵攻でさらに強まり、円安と資源価格の高騰のダブルパンチという交易条件の悪化で、スパイラル的に円安が進んでしまったものだ。こうした状況は2022年9月初め時点において大きな変化は見られない。2022年3月後半に円ドル相場が120円台に乗ってから、日銀の黒田東彦総裁が非常に苦しい立場に置かれている。世界規模で進む歴史的な物価高騰の中、異例の金融緩和策を維持し、他の中央銀行とは異なる独自路線を邁進する日銀の金融政策が、「悪い円安」を助長している、との批判的な見方も国内では徐々に強まっていった。黒田総裁は当初は「円安は全体としては日本経済にプラス」との発言を繰り返していたが、原油高など物価高の弊害を強く感じている政府、産業界、国民はこの見方に違和感を持ち、円安を容認する日銀への批判を潜在的に高めてきた。しかし日銀がたとえ金融緩和政策を変更したとしても、日米金利差がすぐに縮小するとは限らない。日銀が利上げするとしても、その幅は極めて小さいものであると予想されるし、もしそれよりも米国の利上げ幅が大きければ、日米金利差が拡大することもありうる。現在の金利差がすぐに解消することは望めず、そうなると円安傾向は当面続く可能性が高い。日本の金利が将来上昇する場合には、国債金利の利払いが肥大することも懸念されている。これに関しては、金利水準がまだ低いことに加え、金利上げ局面になったときは慎重にアナウンスメントをしながら徐々に上げていけば、利払い費の拡大が短期的に財務悪化をもたらすには至らないと考える。またもし利上げによって日本国債に金利が少しでもつくとなると、金融商品としての魅力が増す。現在のような円安の下で、実は世界の投資家は日本の債券・証券の買い場がいつ来るのかを探っているともいわれている。その点では内外の投資家による日本国債の買い需要が喚起される可能性もある。他にも、利上げにより、預金生活者である高齢者の消費が喚起されることも期待されるかもしれない。「利上げ」が日本経済にもたらす様々な副次的な効果についても検討すべきだろう。   第7章『為替介入の効果はあるのか』 各国の通貨当局は、為替市場メカニズムを通じて為替レートに影響を与えることを目的に為替介入を行う。一般的に、固定相場制を採用する国は、外国の為替市場における需給ギャップを埋め、固定相場を維持するために為替介入を行う。一方、日本のような変動相場制採用国は、原則として為替レートを為替市場の需給関係に任せて決定することになっているが、過度な為替変動を避けるための為替相場安定化のため、あるいは為替レートをある目標に誘導するために為替介入を行う場合がある。これまで日本では、過度な円高ドル安の場合には、円売り・ドル買い介入が、過度な円安ドル高の場合は、円買い・ドル売り介入が行われてきた。2022年9月22日、前日の米国市場では米FRBが0.75%の利上げをし、スイス中央銀行も利上げに追随さなか、黒田日銀総裁は日本の金融政策に変更がないとの記者会見を行い、円ドル相場は1ドル146円手前まで円安が進行した直後、日本政府は24年ぶりにドル売り円買い介入に踏み切った。2022年以降の円安に対しては、これまで円安をけん制する発言が繰り返されていたが、実際に市場介入に踏み切ったかどうかは疑問の声もあっただけに、突然の介入実施のインパクトは大きく、円相場は140円前半まで買い戻されたのちに142円台でもみ合いが続いた。しかし、その後は徐々に円安方向に値を戻しており、為替介入効果は一時的なものに終わった。日本以外の先進国では米国の利上げに追随する動きがみられ、金融緩和を継続している国は日本以外にはない。単独介入での効果は、さらなる円安進行防止にはなるものの、相場の反転までは期待できないだろう。円安トレンドを修正するためには、為替介入といった一時しのぎの手段ではなく、一日も早くインバウンドの正常化を図り、少なくともサービス収支の赤字の減少→黒字化を目指すなど、貿易収支赤字を減らす具体的な提示をすべきだろう。   第8章『円安を好機とする好ましい政策は何か』 今回の円安のデメリットが大きかったのは、貿易取引の決済通貨で円の割合が低いためである。特に、輸入サイドで貿易額の大きい米国や産油国との建値通貨がほぼドル建てで行われている点については何らかの改善が必要となるかもしれない。日本は中東諸国向けの輸出では円建てを使っている割合が高い。ということは、輸入相手は日本に支払う分の円が必要となるわけだから、その文を日本が中東から原油を輸入する際に円建てで支払ってもいいのではないか。日本と欧州間の貿易はお互いに輸出時に相手国建てを使っている。これと同じように、日本と米国間の貿易でももう少し円建てを増やす手立てはないのだろうか。日本でも、半導体製造装置を手がける東京エレクトロンが、輸出取引をほぼすべて円建て決済にしている。費用のかかる研究・開発を日本で行っており、為替リスクを回避するためであり、貿易を始める際に円建てを主張したそうだ。貿易建値通貨選択の先行研究によれば、競争力のある差別化された財であるほど、自国通貨建てを選択できるという。国内回帰を進めている企業の一部は、競争力のある財、メイド・イン・ジャパンが付加価値となるような財の国内生産回帰を進めているという。それならば、それらを日本から輸出する際にはぜひ円建てでの輸出を交渉していただきたい。今はアジア通貨を含む日本の貿易相手国ほぼすべてに対して円安が進んでいる。言い換えると、彼らにとって円を調達することは従来よりもコストがかからない。少なくとも輸出で円建てをお願いしても、彼らにとってはさほど悪い条件ではないはずである。長期的に見れば今後また円高になる可能性もある。そういった為替変動リスクを避ける点でも、現在のような円安で、相手国が円を安く入手でき、円建て輸出を交渉しやすい時期に円建てを増やしておくことは、将来の円高対策としても重要だ。特にアジア各国においては、アジアの現地通貨建て取引の促進を手伝うとともに、そのバーターとして円建てのシェアを増やすことは、アジアにおける過度なドル依存を緩和させることにもつながるだろう。   著者 清水順子 2022年11月8日   授業の際に日本と海外の金利政策や円安ドル高について要約することが多く、そもそも何が原因でこれから日本はどうなっていくのか、どういう政策をとるべきかなど詳しく知りたいと考えていたので、この本を選んだ。日本経済の現状を知り、なぜ現在の円安が悪いと言われているかを知ることができ、これからどんな政策をとりどのような方向に日本の経済や世界の経済が動いていくかにより一層興味をもつことができた。今後記事を読むうえで、世界の動向に対して日本がどう対応していくかを、その理由と目指す形を考えていきたいと感じた。  

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