要約 1冊目 後半

第4章 イノベーション

4章では、革新的な組織の特徴、経済発展への多様性の活かし方など、イノベーションと多様性との関係について掘り下げている。

イノベーションも2種類に分けられる。改良など特定の方向に向かって一歩ずつ前進しでいく「漸進的イノベーション」と、これまで関連のなかった異分野のアイデアを融合する「融合のイノベーション」である。生物の進化の過程に例えると前者は自然淘汰、後者は有性生殖のようなものだ。一つの個体に起こる突然変異が、遺伝子のやりとりによりほかの個体に起こる突然変異と組み合わされることで劇的に進化が進んでいく。後者はそれまで関連のなかったアイデア同士を掛け合わせることで、問題空間を広くカバーできる手法である。世界的に有名な起業家に共通する要素として移民であることや芸術思考が挙げられるのは、特定の思考の枠組みから抜け出して、別の角度からあらためて物事をとらえる力として「概念的距離」や「第三者のマインドセット」を持っているからだ。(もちろん、専門的な知識や概念を深く理解しているからこそ、距離を取ることに意味が出てくる。)

ケロッグ経営大学院のブライアン・ウッツィ教授はここ70年間に執筆されたほぼすべてにあたる1790万本の論文を分析したところ、極めて反響の大きかった論文は、どれも「標準的とは言えない組み合わせ」をしていたことが明らかになった。こうした融合のイノベーションが増える傾向は、コンピューター時代とも言える現代において、巨大なネットワークの広がりとともに加速している。新たな組み合わせが生まれるたびに、さらに新たな組み合わせが見つかる可能性が広がることは「隣接可能性」といい、アイデアは物理的なものと違って、新たなアイデアは人と共有すると可能性がどんどん広がっていく。これは「情報のスピルオーバー効果」と呼ばれ、イノベーションはある偉人個人の知力によって生まれるのではなく、知的想像力は人とのつながりの連鎖の中で強まる。これは、自立型の経営で孤立したルート128より、パブで活発にエンジニア同士の水平的な情報伝達が行われたシリコンバレーの方が多くのイノベーションを起こした事例からも見て取れる。高い社交性によって築かれた社会的ネットワークでは集団的知性が生まれ、創造のエネルギーはこうしたコミュニティの中で高まり、長期的な競争優位性をもたらす。

第5章 エコーチェンバー現象

5章では、社会的ネットワークが形成される過程について考察されている。

一見すると集団の人数の多さと多様性は比例すると思われるが、人は大きなコミュニティに属すると自分の考えと似ている人を選り好む選択肢が増え、より狭いネットワークを構築する傾向がある。インターネット上でも同じことが起き、多様性が豊かな環境がもたらすこうした矛盾した現象は「エコーチェンバー現象」と呼ばれ、同じ意見のもの同士でコミュニケーションを繰り返すため、特定の信念が強化される。専門的な趣味のコミュニティでは問題にならないが、政治問題など複雑な話題について情報を探す場合、集団の健全性に関わる。似たような現象として、「フィルターバブル」が挙げられる。反対意見を遮断し社会から孤立する分、いったん外部の意見に晒されると信念が揺らいでしまうカルト集団などを指す。対して、エコーチェンバー現象では反対意見に触れることでいっそう狂信的になる。誰を権威とし何が信頼できる情報かの「信頼のフィルター」を重ね、フェイクニュースとして、反対派の人物の信憑性まで攻撃していく。集団の健全性を確認するには、信条に沿わない部外者に対し、その人の信頼度を貶める行為を積極的に行っていないかを考える必要がある。政治的信条などの二項対立を招きやすい問題において、有意義な話し合いをするには、相手が間違ったことをしていないのにただ自分と反対の意見だからという理由で攻撃することや、自分の信念に沿わないものを悪として論じる人身攻撃は自身の信用をも失うということを公人が理解し、正しいコミュニケーションを取れる信頼を築くことが欠かせない。

 

第6章 平均値の落とし穴

6章では、多様性を活かすための標準化から個人化への転換事例がまとめられている。

「マルチモーダル分布」とは、集団の平均値を出したところで平均値にぴったり当てはまる個体が存在するわけではない状態を指す言葉だ。標準規格化され硬直した制度やデザイン、思考のパターンを押し付けると、平均値に惑わされて多様性を見過ごし、そのメリットを得ることが出来なくなる。多様性のメリットとは、正しい情報と間違った情報が豊富に蓄積されると、正しい情報が一方向を向いているのに対し、間違った情報はそれぞれ違った方向を指し、互いを相殺し正しい情報が残っていく統合性だ。有益な違いを組織や社会は考慮するべきである。

様々な状況を踏まえたマニュアルは、もっとも効率的だと認められたベストプラクティスだが、労働経済学者のマイケル・ハウスマンが行った5万人のコールセンター従業員に関する調査によると、自分できちんと考えた上でマニュアルから離れた対応をした従業員が、問題の解決や売り上げに高い業績を上げていた。一人ひとりの従業員の柔軟性を加味する柔軟なシステムや環境が組織や社会に進化をもたらす。

エクセクター大学の心理学者クレイグ・ナイトがアレックス・ハスラムと共同で行った研究では、オフィス環境と従業員の生産性について調査し、生産性が向上した原因を2点挙げた。権威あるいは自律性があること、と個人的な空間にカスタマイズできることの2点だ。教育現場における、生徒一人ひとりのニーズに適応した学習指導を行う「適応学習」から、腸内細菌マイクロバイオームの違いから血糖値の上昇をもたらす食材は各人で異なり、万人に共通した健康法は存在しないことに至るまで、多様性のバランスを科学的に検証し、効果的な部分において個人化に転換していく必要がある。

 

第7章 対局を見る

7章では、多様性をより広い角度から見つめ、人類の進化の視点で本書を締めくくっている。

人類がここまで繁栄したのは、個人の脳を超えた集団脳によってもたらされた。人類の祖先をたどると、ホモ・サピエンスの脳はネアンデルタール人の脳より小さかった可能性がある。しかし、社会性があったホモ・サピエンスは密な社会的集団を築き、学習が進み知恵が積み重ねられ、やがて融合のイノベーションが起きた。個人知から集合知への進化の結果として生まれた優れた知恵やアイデアが、脳を大きくした。一方ネアンデルタール人はイノベーションが集団で共有されることはなく、一代で新たなアイデアは消えていった。他者(の脳)と繋がりあいながら遺伝的と文化的の「二重相続」を得られた人類は、世代を超えて高度な知能を備えることが出来るようになった。テクノロジーや知恵やアイデアは識字能力など生理的な変化をももたらしている。

多様性を実生活に活かすためには3つのポイントがある。1つ目は、自分では気づかないうちに持っている偏見や固定観念である「無意識のバイアス」を取り除くことだ。我々の人生に付きまとう審査において、才能ある人々が理不尽にチャンスを奪われるケースを少なくすることで、歴史的に積み重なった構造的なバイアスを解体し、マイノリティ格差のない公平な社会を築くことができる。同時に知識のネットワークを拡大し、集合知を高めることにもつながる。具体的には、判断に不必要な情報を隠して審査をすることなどが挙げられる。2つ目は、「陰の理事会」だ。重要な戦略や決断について若い社員が上層部に意見を言える場で、年功序列の壁を壊し、予想外の角度から問題に取り組む若い層とコミュニケーションを図る方法だ。3つ目は与える姿勢だ。多様な社会で他者とのコラボレーションを成功させるには、自分の考えや知恵を相手と共有しようとする「ギバー」の心構えが必要だ。「与える人」は多様性豊かなネットワークを構築でき、視野の広い、反逆者のアイデアを数多く得られる。

チーム作りやチームワーク、コラボレーションにける多様性の必要性を理解することで組織や社会はより活性化できる。

 

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