第二章 多様性について

第二章では、多様性の定義を明確にし、集団における多様性の重要性を確認する。

1.多様性とは

多様性とは多くの側面を持つ言葉であり、その定義が曖昧になりやすい。現代社会で注目されている多様性には大きく分けて2つあり、「生物多様性」と「社会的多様性」である。

はじめにで記した通り、生物多様性とは『生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。(中略)生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きている』ことである[1]

社会的多様性の側面では、近年「DEI」の概念が注目されている[2]。DEIとは、ダイバーシティ・エクイティ&インクルーションの略称で、差別をなくし平等な社会を目指すSDGsの一環となる考え方だ。「ダイバーシティ」とは年齢・性別・民族・宗教・疾病・性自認・性的指向・教育・国籍等の違いを尊重することで、「インクルーション」は包摂を意味し、どのような個人や集団であっても、歓迎され、尊重され、支援され、評価され、参加できるような環境を作る必要性を表している。以前はダイバーシティ&インクルーションと呼ばれていたが、近年「エクイティ」の重要性が注目されている。エクイティとは公平性を表す言葉であり、情報、機会、リソースへアクセスする権利を保証するもので、マイノリティ格差の不均衡を是正することを目指している。

 

2.集団における多様性の重要性

ここで社会的多様性の重要さについて理解を深めるため、登山の公募隊からCIAまで、集団としての組織と多様性の重要性について書かれたマシュー・サイドの著書を参考にする[3]。まず集団における多様性の定義と条件を明確にし、次にその重要性を3つの観点から述べ、最後に実生活に活かすための3つのポイントをまとめる。

①集団における多様性の定義と条件

考え方が異なる人々の集団は大きな力をもたらす。大勢の人々話を聞くと人それぞれ多様性の使われ方が違っていたが、一般的に性別・人種・年齢・信仰などの多様性は「人口統計的多様性」と呼ばれ、ものの見方や考え方の違いは「認知的多様性」と区別される。

高い集団知を生む認知的多様性には2つの条件がある。「問題が複雑であること」と「問題空間をできるだけ広く覆える根拠のある多様性であること」の2つである。直線的ではない何層にも折り重なった複雑な問題の解決には、違う見方をする者同士が共有し合うことでより高い集合知を得ることが出来る。さらに、集合知を得るためには多様性だけでなく賢い個人も必要となる。対処する問題と密接に関連し、かつ相乗効果を生み出す視点を持った人々が集まることが求められる。

②集団における多様性の重要性

集団における多様性の重要性は3つの観点にまとめられる。1つ目は画一的な組織では健全性が低くなる点、2つ目は支配型のヒエラルキーでは情報が共有されにくくなる点、3つ目はイノベーションには集団の社交性が求められる点の3つである。

画一的な集団には盲点が生まれ、集団の健全性が損なわれる危険性がある。一見すると集団の人数の多さと多様性は比例すると思われるが、人は大きなコミュニティに属すると自分の考えと似ている人を選り好む選択肢が増え、より狭いネットワークを構築する傾向がある。同じ背景を持つ者ばかりで意思決定集団を形成すると盲目になりやすい(集団のクローン化)。同じ意見のもの同士でコミュニケーションを繰り返すと特定の信念が強化される危険性がある(エコーチェンバー現象)。似たような現象として挙げられる「フィルターバブル」は、反対意見を遮断し社会から孤立する分、いったん外部の意見に晒されると信念が揺らぎやすいカルト集団などを指す。対して、エコーチェンバー現象では反対意見に触れることでいっそう狂信的になる。誰を権威とし何が信頼できる情報か、の「信頼のフィルター」を重ね、フェイクニュースとして反対派の人物の信憑性まで攻撃する。

例え個人個人はどれだけ優秀な集団でも、同じような枠組みで物事を考える集団では盲点も共通する可能性が高い。異なる視点を持つ人々を集めることは、多様な視点で自分の盲点に気づかせ合えることができるようになる効果があるのだ。集団の健全性を確認するには、信条に沿わない部外者に対し、その人の信頼度を貶める行為を積極的に行っていないかを考える必要がある。政治的信条などの二項対立を招きやすい問題において有意義な話し合いをするには、正しいコミュニケーションを取れる信頼を築くことが欠かせない。

 

組織においてヒエラルキーは欠かせないが、複雑な状況下でリーダーが賢明な判断を下すには、その集団内で多様な視点が共有されていることが大切だ。無意識のうちにヒエラルキーは効果的なコミュニケーショの邪魔をする(権威の急勾配)。複数の人数で会議をする場合を例に挙げても、数人だけが発話の主導権を握る傾向や(不均衡なコミュニケーショ問題)、集団の構成員が特定の意見に同調して一方向になだれ込む傾向(情報カスケード)、同調行動(バンドワゴン効果)は日常的に見られる現象だ。

ヒエラルキーの形には「支配型のヒエラルキー」と「尊敬型のヒエラルキー」の2種類ある。決定事案遂行するだけの場合には、指揮系統が明確なため前者がふさわしい。従属者は恐怖で支配され、リーダーを真似る傾向がある。集団の支配者が異議を自分の地位に対する脅威と捉える環境では多様な意見が出にくくなる。新たなアイデアを出したり、アイデアを考え直す際には後者が有効だ。従属者は、ロールモデルとしてのリーダーに自主的に敬意を抱き、集団全体が協力的な体制を築いていく。心理的安全性が保障されている環境では、有益な情報や視点が共有されやすい。ヒエラルキーと多様性の両方のメリットを得るためには、ヒエラルキーのあらゆる層から意見やアイデアを引き出し、共有可能な関連の知識を持つ人全員から学ぶ環境を作る必要がある。

 

イノベーションにおいて最も重要なのは組織の社交性である。イノベーションも2つの種類に分けられる。改良など特定の方向に向かって一歩ずつ前進しでいく「漸進的イノベーション」と、これまで関連のなかった異分野のアイデアを融合する「融合のイノベーション」の2つである。後者はそれまで関連のなかったアイデア同士を掛け合わせることで、問題空間を広くカバーできる手法だ。世界的に有名な起業家に共通する要素として移民であることや芸術思考が挙げられるのは、特定の思考の枠組みから抜け出して別の角度からあらためて物事をとらえる力として「概念的距離」や「第三者のマインドセット」を持っているからである。

新たな組み合わせが生まれるたびに、さらに新たな組み合わせが見つかる可能性は広がっていく(隣接可能性)。アイデアは人と共有することで、さらに新たなアイデアが見つかる可能性が広がるのだ(情報のスピルオーバー効果)。イノベーションはある偉人個人の知力によって生まれるのではなく、知的想像力は人とのつながりの連鎖の中で強まる。高い社交性によって築かれた社会的ネットワークでは集団的知性が生まれる。創造のエネルギーはこうしたコミュニティの中で高まり、長期的な競争優位性をもたらす。

 

③多様性を実生活に活かすための3つのポイント

チーム作りやチームワーク、コラボレーションにける多様性の必要性を理解することで組織や社会はより活性化できる。同じようなものの見方や考え方の枠組みが似ている集団では集合知を発揮することが出来ない。集合知を得るには個人個人の「違い」も大切だ。一人一人の意見のエラーは問題ではなく、「反逆者のアイデア」をきっかけに視点が広がることが重要である。

多様性を活かすための3つのポイントとして、無意識のバイアスを取り除くこと、陰の理事会を活用すること、与える姿勢を意識することの3つが挙げられる。無意識のバイアスとは、自分では気づかないうちに持っている偏見や固定観念のことだ。知識のネットワークを拡大し集合知を高めるためには、才能ある人々が理不尽にチャンスを奪われるケースを少なくする必要がある。判断に不必要な情報を隠して審査をすることなど、歴史的に積み重なった構造的なバイアスを解体しマイノリティ格差のない公平な社会を築くことが求められる。陰の理事会とは、重要な戦略や決断について若い人材が上層部に意見を言える場のことで、ヒエラルキーが効果的なコミュニケーションを邪魔するのを防ぐ効果がある。年功序列の壁を壊し、予想外の角度から問題に取り組む若い層とコミュニケーションを図る方法だ。多様な社会で他者とのコラボレーションを成功させるには、自分の考えや知恵を相手と共有しようとする「ギバー」の心構えが求められる。「与える人」は多様性豊かなネットワークを構築でき、視野の広い、反逆者のアイデアを数多く得られる。

[1] 生物多様性とはなにか | 生物多様性 -Biodiversity- (biodic.go.jp)

[2] DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)とは・何か | Sustainable Japan

[3]

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