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書評 マシュー・サイド(2021)株式会社トランネット訳『多様性の科学』株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン

元卓球選手でイギリスのジャーナリストであるマシュー・サイドは2016年、サッカー英国代表の技術諮問委員会に呼ばれ、起業家や陸軍士官とイングランド代表監督らへの助言を話し合った。認知的多様性に溢れた体験に感銘を受けたマシューは、どうすれば多様性の力を上手く発揮できるのか考え始める。一般的に性別、人種、年齢、信仰などの多様性は「人口統計的多様性」として分類されるが、本書ではものの見方や考え方が違う「認知的多様性」についても検討されている。

第1章 画一的集団の「死角」

1章では、本書のテーマは多様性であり、考え方が異なる人々の集団がもたらす大きな力を様々な角度から検討していくことが記されている。

長い間「能力の高さと多様性は両立しない」という考え方が主流だったが、2001年のニスベットらの実験により人の世界の捉え方についての普遍主義が覆され、文化に基づく違いが明らかになった。直線的ではない何層にも折り重なった複雑な問題の解決には、違う見方をする者同士が協力し合い、共有し合うことでより高い集合知を得ることが出来る。個人個人はどれだけ頭脳明晰でも、同じ背景を持つ者ばかりで意思決定集団を形成すると盲目になりやすいことは「集団のクローン化」と呼ばれる。どれだけ優秀な集団でも、同じような枠組みで物事を考える集団では「盲点」も共通している可能性が高い。しかもその傾向を互いに強化してしまうミラーリングが起きる。異なる視点を持つ人々を集めることは、多様な視点で、自分の盲点に気づかせ合えることができるようになる効果もある。

(CIAが9.11アメリカ同時多発テロを未然に防げなかったのは、CIA職員の画一性が、イスラム過激派による数々の兆候を脅威としてつなげる視点に欠けていたからだ。当時CIAの採用には偏りがあり、プロテスタント系の白人のエリート男性ばかりの組織では、自分達こそがアメリカの理念を守る存在であるという強い愛国心が育っていた。ビンラディンの聖戦布告映像はイスラム文化に合わせた原始的な映像で、優秀なCIAの分析官はそのメッセージを時代錯誤で無知な連中としか捉えることが出来なかった。この例からも、画一的な集団は重大な過ちを過剰な自信で見過ごしそのまま判断を下してしまう危険が確認できる。)

<画一的な集団の思想は鋭くなってく>

 

第2章 クローン対反逆者

2章では、筆者が多様性に興味を持った経緯と、多様性の定義を明確にするため事例を科学的に考察している。

異なる視点やモデルを組み合わせることで全体像をより正確に捉えることが出来る。デューク大学のソル教授は、エコノミストによる経済予測を分析し、個人でトップだったエコノミストの予測と、上位6人のエコノミストによる予測の平均正解率を比較した。結果として後者の方が15%も高い正解率となった。仮にトップだったエコノミストのクローン6人がアイデアを出し合ったとしても、同じアイデアばかりが重なりアイデアの合計数は少なくなるミラーリングが起きてしまう。同じようなものの見方や考え方の枠組みが似ている集団では集合知を発揮することが出来ないのだ。頭のいい人材を集めれば頭のいい集団が出来るのではなく、集合知を得るには個人個人の「違い」も大切である。一人一人の意見のエラーは問題ではなく、「反逆者のアイデア」をきっかけに視点が広がることが重要だ。

高い集団知を生む認知的多様性には2つの条件がある。「問題が複雑であること」と「問題空間をできるだけ広く覆える根拠のある多様性であること」だ。製造業や短距離走など単純なタスクの場合、多様性は邪魔になり得る。正解と間違いの二極しかない直線的な課題で重要視されるのは能力の高さだ。また、集合知を得るには多様性だけでなく、賢い個人も必要となる。対処する問題と密接に関連し、かつ相乗効果を生み出す視点を持った人々が集まることが重要だ。

<最初は多様性に富む集団でも、そのうち主流となる考え方に「同化」してしまう。

多様性は評価されないと同化していく、一時的なものつながりがいい>

第3章 不均衡なコミュニケーショ

3章では、これまでのコンセプトから実践された、重要な情報や視点の「共有」へと話が進められている。

人間の頭や心は序列が定められた集団の中で生きるよう設計されている。集団の秩序は「順位制」によって決められ、集団の支配者が異議を自分の地位に対する脅威と捉える環境では多様な意見が出にくくなる。無意識のうちにヒエラルキーが効果的なコミュニケーショの邪魔をすることは「権威の急勾配」と呼ばれる。複雑な状況下では、多様な視点や意見が押しつぶされ重要な情報が共有されていない限り、いかに団結力があるチームでさえ適切な意思決定はされない。複数の人数で会議をする場合を例に挙げても、数人だけが発話の主導権を握る傾向がある「不均衡なコミュニケーショ問題」や、集団の構成員が特定の意見に同調して一方向になだれ込む「情報カスケード」、同調行動の「バンドワゴン効果」は日常的に見られる現象だ。

組織においてヒエラルキーは欠かせないが、リーダーが賢明な判断を下すには、その集団内で多様な視点が共有されている必要がある。ヒエラルキーの形には2種類あり、支配型のヒエラルキーでは、従属者は恐怖で支配された結果リーダーを真似る。決定事案遂行するだけの場合には指揮系統が明確なためうまくいく。一方尊敬型のヒエラルキーでは、ロールモデルとしてのリーダーに対し、自主的に敬意を抱き、集団全体が協力的な体制を築いていく。これは新たなアイデアを出したり、考え直す際に有効だ。両者の決定的な違いは「心理的安全性」である。集団の感情を読む共感力のあるリーダーは、メンバーの声によく耳を傾け信頼の絆が高まる。ヒエラルキーと多様性の両方のメリットを得るためには、ヒエラルキーのあらゆる層から意見やアイデアを引き出すこと、共有可能な関連の知識を持つ人全員から学ぶことが欠かせない。

<社長一強な会社はみんなが間違いを指摘できないからダメなのか。>

 

多様性を創出するための企業活動の事例

①社外取締役

②プロジェクトごとの社外チーム

③変わった人の採用

④フォーカスグループ→政界や起業の権力構造を変えずに政策の妥当性を問う聴聞会

⑤会議の場における多様性

アマゾンの黄金の沈黙、ブレインライティングとブレインストーミング

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