第一章

本論文は、企業組織を多様性の面から捉えることを目的とする。第一章では、企業組織を形成する概念としての「経営理念」と、「多様性」について確認し、本稿における「企業組織における多様性」を定義する。

 

1.経営理念とは

社会には様々な組織が存在している。政府機関や教育機関、企業や非営利団体、宗教団体から学生団体まで、共通の目標を掲げその達成のために活動する集団は一般的に組織と呼ばれる。マックス・ウェーバー(1922)は組織を「目的を達成するために人々が互いに協力し、特定のルールに基づいて行動する形式的な社会的構造である」と定義している[1]。ウェーバーが提唱する「特定のルール」とは組織の理念を指す。組織の構成員には行動指針があり、目的達成のためにはどんな手段をとってもいいのではなく、共通したルールに基づいた手段を選択する必要がある。

経営目的を達成するために集まっている企業組織に共有されている「特定のルール」として経営理念が挙げられる。中小企業庁が公開している東京商工リサーチが実施した「中小企業の経営理念・経営戦略に関するアンケート」によると、現在経営理念・ビジョンを明文化している企業は5293社のうち87.1%に上る。(図1)経営理念には明確な定義は存在していないが、近年ビジョン経営が注目される中で多くの研究がされている。Collins・Porras(1995)によると、経営理念・ビジョンとは「経営者および組織体の明確な信念・価値観・行動規範」であり、コアバリュー・パーパス・ミッションの3つの要素で構成され、明確さと共有が重要であると説明されている[2]。本稿では経営理念や企業理念、ビジョンを区別せず、組織の将来像を表すものとして「組織が業務を通して、または通り越して実現したい社会・組織の理想像」と定義する。経営理念は企業組織全体に「特定のルール」として共有され、構成員は経営理念に基づく行動を選択していることを確認する。

図1 経営理念・ビジョンの明文化の状況

(出典:中小企業庁中小企業庁:2022年版「中小企業白書」 第3節 中小企業経営者の経営力を高める取組 (meti.go.jp)

 

2.多様性とは

多様とは、文字通り「さまざまなようすをしたものがあること」を表す言葉であり[3]、英語でダイバーシティと訳される多様性は「幅広く性質の異なる郡が存在すること」と定義されている。単にいろいろあることとは違い、性質に類似性のある群が形成される点が特徴とされる[4]。多様性とは多くの側面を持つ言葉であり、自然科学や社会科学・人文学においても使われるためその定義が曖昧になりやすい。はじめにで記した通り生物多様性とは『生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。(中略)生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きている』ことであり[5]、社会的多様性の側面では近年DEIの概念が注目されている。DEIとはダイバーシティ・エクイティ・インクルーションの略称で、差別をなくし平等な社会を目指すSDGsの一環となる考え方だ。ダイバーシティとは年齢、性別、民族、宗教、疾病、性自認、性的指向、教育、国籍等の違いを尊重することで、エクイティは公平性を表す言葉である。情報、機会、リソースへアクセスする権利を保証するもので不均衡を是正する。インクルーションは包摂を意味し、どのような個人や集団であっても、歓迎され、尊重され、支援され、評価され、参加できるような環境を作る必要性を表している[6]

ここで、社会的多様性の理解を深めるため、登山の公募隊から政治運動、文化人類学まで、集団としての組織と多様性について書かれたマシュー・サイドの著書を参考にする。

一般に性別、人種、年齢、信仰などの多様性は「人口統計的多様性」と呼ばれ、ものの見方や考え方の違いは「認知的多様性」と区別される。(本の要点を簡潔にまとめる)

 

3.企業組織における多様性とは

企業経営における多様性として、近年ダイバーシティ経営が注目されている。ダイバーシティ経営とは、経済産業省が2017年から進める政策で「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」を目指す動きのことである。「多様な人材」には、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含まれる。それぞれの持つ潜在的な能力や特性などを活かし、生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性の向上、自社の競争力強化につなげることを目的としている[7]。経済産業省が進めるダイバーシティ経営は、企業組織における人口統計的多様性を高める施策である一方、本稿では企業組織における認知的多様性について検討する。

以上より、本論文では企業組織における多様性を「経営理念に対する共感度が様々な段階の人が組織にいること」と定義する。

[1] マックス・ウェーバー(1922)『官僚主義論』

[2]

[3]三省堂国語辞典

[4] 多様性 – Wikipedia

[5] 生物多様性とはなにか | 生物多様性 -Biodiversity- (biodic.go.jp)

[6] DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)とは・何か | Sustainable Japan

[7] ダイバーシティ経営の推進 (METI/経済産業省)

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