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第三章 事例③

③変わった人の採用 1982年にJTに入社し2015年末に退社するまで、採用担当者・採用チームリーダー・人事部長とJTの採用に関わってきた米田靖之氏は、自身の経験から採用や人材育成の環境づくりについてまとめている。「いい人材を取るには多くの学生と浅く広く会うより、少ない学生と深く接するほうがいい」と述べる「日本たばこ産業株式会社社」(以下、JT)の事例を取り上げる。   〈1〉採用とは   〈2〉事例 JT イノベーションを起こす人材とは、まったく新しい観点から新しいことを考え出すことができる人材だ。JTには「変な人」を許容する文化がある。他の人と違う視点で物事を捉え、周りの人を巻き込んで行動できる人こそがイノベーションを起こすキーマンである。採用で重視することは能力と成長度の2つだ。能力は、成長度予測のため10段階で評価する場合6が好まれる。本人がやる気になって自分の頭で考えて仕事をするかどうか、成長度を左右する一番大きな要素は「社風に合うかどうか」だ。入社5年目以上の社員3人と会うことで社風は感じ取ることが出来る。採用側は社風を重要視して、必要であれば改善していく努力が求められる。 「変な人」がのびのびと仕事をするためには「変な人が育つ環境」が大切だ。「1+1=2」が保証された職場とは、正しいことが当たり前に通る職場だ。会社が話し合える場であることで、社員と将来のことを話し合える関係をつくることができる。仕事がおもしろい会社になるために4ステップを意識することが出来る。1つ目は上司が想いを伝える、2つ目は部下に仕事を任せる、3つ目はチームで創造的な雑談をする、4つ目は他部署の2割の人と気軽に話せるようになることだ。1つ目と2つ目は個人のポテンシャルを発揮させるために上司が意識することで、3つ目と4つ目はチーム力をアップさせるために意識することである。上司は部下に「理解」「共感」「納得」の3つのレベルで信頼される必要がある。そのためにはビジョンを明示し、チームのミッションを掲げ、年度末には達成していたいストレッチ目標の設定、その実現のための行動目標を決め、これら4つの思いについて自分の言葉で繰り返し話すことが求められる。部下の主体的な行動を促すには、「管理するマネジメント」ではなく部下の行動を見守り背中を押す「任せるマネジメント」が有効だ。チーム力をアップさせるにはコミュニケーションの質と量が求められる。創造的な駄話はチーム内の連携力を高くする。会社の規模が大きくなると部門間の関係が希薄になるため、積極的に社内の交流を活発にすることが大切だ。

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書評「脱炭素」が世界を救うの大嘘

この本の編著者の杉山大志はキャノングローバル戦略研究所研究主幹であり、温暖化問題およびエネルギー政策を専門としている。著者は杉山のほか、川口マーン恵美や掛谷栄紀、有馬純などがいる。この本はSDGSと脱炭素の実態について、複数の著者たちがそれぞれの切り口からレポートしたものである。 第1章 世界的「脱炭素」で中国が一人勝ちの構図 1章では世界的「脱炭素」で中国が一人勝ちの構図について取り上げている。 米国が主催した2021年4月22~23日の気候サミットにおいて、先進国はいずれも2030年までにCO2をおおむね半減すると約束したのに対して、中国等は「途上国は経済開発の権利があり、先進国は過去のCO2排出の責任を負って率先してCO2を減らすべきだ」というポジションを取っていたため、米国が求めた目標の深堀にまったく応じなかった。このように今回のサミットで先進国は自滅的に経済を痛めつける約束をした一方で、中国は相変わらず、事実上まったくCO2削減に縛られないことになった。その結果の一例として、先進国はCO2排出を理由に途上国の火力発電事業から撤退するが、それによって中国がこの市場を独占できる。そして先進国が石油消費を減らし、石油産業が大打撃を受ける一方で、中国は産油国からの調達が容易となり、中国に優位に影響していると述べている。また太陽光発電や風力発電の設備に必要なレアアースも中国に依存する形になっている。レアアースは世界中に存在するが、先進国はどこも環境規制が厳しくなる傾向にあるため、いま世界全体の70%以上が中国国内、中国企業によって採掘されており、中国による独占的な供給状態であると述べている。 第2章 正義なきグリーンバブル 2章では欧州メーカーのEV戦略についてまとめられている。 欧州メーカーの戦略については、ドイツを中心とする欧州自動車メーカーがエンジン車やハイブリッド車を締め出しEVを推進し、国家、あるいは地域ぐるみのゲームチェンジによって覇権を握ろうとする戦略として説明している。しかしEVシフトにもっとも前のめりなフォルクスワーゲンですら、2020年の西ヨーロッパにおけるEV販売比率は5~6%にすぎない。そんな中でフォルクスワーゲンCEOのヘルベルト・ディース氏はESG投資(環境、社会、企業統治といった、社会的な要請に配慮した投資をすべき、という考え方)を呼び込むために、ことあるごとにEVの輝かしい未来と、エンジン車を貶めるツイートをし始めた。その結果、フォルクスワーゲンの株価はCEOの一連のツイートを開始した2021年1月末から2か月あまりで50%も跳ね上がった。筆者はこのようなESG投資の実態に合理性も正義も見つけられないと述べている。またESG投資は環境を利用した金融セクターの新たな金儲けの手段と化していると述べている。 第3章「地球温暖化」の暗部 3章では環境原理主義について取り上げている。 環境原理主義とは温暖化防止をすべての課題に優先させる考えである。いまは単なるイデオロギーではなく、「気候産業複合体」という一大利益共同体を形成している。気候産業複合体は、政治家や官僚、学者、環境活動家、ロビイスト、メディアなどからなり、その人的ネットワークを通じて政府の施策に影響力を及ぼしている組織である。政界や学会、活動家、再生可能エネルギー産業、メディア、金融が、それぞれ環境原理主義的な風潮から利益を受けるなかで、気候産業複合体は、各国の政策を左右する存在になっていると述べている。筆者は、環境原理主義は、世界を幸福にするどころか、かえって不幸にすると主張している。環境原理主義者の求める施策は安価なエネルギーへのアクセスを制約し、世界の貧困層に重い負担をもたらす。そしてエネルギーコストが上昇すれば、低所得層は他の用途への支出を減らさねばならない一方、経済的便益を受けるのは富裕層であると述べている。環境原理主義者は、「科学に求める絶対主義」を体現し、自分たちの意見に異を唱える人々を「温暖化懐疑論者・否定論者」として徹底的に排除しており、中世の異端審問やイスラム原理主義などを例に挙げ、古来、異端を排除する原理主義が人間を幸福にしたためしはないとして批判している。 第4章 国民を幸せにしない脱炭素政策 4章では脱炭素政策の中の水素エネルギーの実態についてまとめている。水素がどのように作られているかについて2つの方法を紹介している。 1つ目は天然ガス中のメタンを「水蒸気改質」という方法で処理するものである。水蒸気改質とはメタンや石炭から水蒸気を用いて水素を製造する方法である。しかしながらメタンを水蒸気改質して水素を製造するときには、炭素を含む物質から水素を製造するため、含まれる炭素はほぼ必ずCO2として排出されてしまうと述べている。 2つ目に水の電気分解で水素を製造する方法である。これは水を原料として水素を製造するため、製造過程でCO2が発生しない水素を指す。しかし、電力は2次エネルギーであるから、これを用いて作る水素は「3次」エネルギーとし、作る過程で必ず目減りするため元の電力より価格の高いエネルギーになると述べている。とくに水素を最も効率的に使う方法は燃料電池を用いることであるが、その産物は電力であるから、元の電力を再生可能エネルギーから得るとしても、再エネ電力→水素→燃料電池→電力となり、1段階ごとに目減りするので、電力の無駄遣いでしかないと述べている。 日本政府による水素政策の概要は2021年3月に発表されたが、エネルギーロスやコストの問題点にはほとんど触れておらず、何が何でも水素を普及させ脱炭素を実現させることが目的になってしまっていると筆者は批判している。   本書を通して、世界的な脱炭素が各国に与える影響や、欧州メーカーのEV戦略の動向や水素エネルギーの問題点など、脱炭素の実態についておおまかに理解することができた。そして世界的に歩調を合わせて脱炭素に取り組むことは難しいことであると感じた。自分の研究分野であるEVについてはあまり詳しくは書かれていなかったため、次はEVに特化した本を読んで理解を深めていきたいと思う。 宝島社新書 「脱炭素」が世界を救うの大嘘 編著者 杉山大志  著者 川口マーン恵美、掛谷英紀、有馬純ほか 2023年4月24日発行

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書評『火山の熱システム -九重火山の熱システムと火山エネルギーの利用-』

本著は江原幸雄が九州大学教授時代に「九重硫黄山」で「噴火予知に代表される火山防災」と「地熱発電に代表される熱エネルギー利用」の研究の成果がまとめられている。 題材は九重火山であるが、火山の熱学的研究の基本的な考えは他の火山にも適用可能である。 1 「はじめに」 この章では九重火山と筆者の火山研究について説明されている。 九重火山は大分県南西部に位置し、九州大学九重地熱・火山研究観測ステーションという教区研究施設があり、九重火山は熱的理解の最も進んだ火山の一つと言われている。 また、筆者は火山を理解し、その成果を人間生活に役立てる研究をしている。 2 「九重火山の地学的背景」 この章では九重火山とプレートの関係について解説してある。 九重火山はプレートの沈み込みに伴って形成された火山というよりも、プレート沈み込み地域背後の地溝帯中に形成されたと考えられている。そして、九重火山周辺の地殻・上部マントルは周囲と比べ高温になっている。 3 「九重火山の形成」 この章では九重火山の地質学的な発達史について解説されている。 九重火山は長期的に見ると最近数万年は大規模な火砕流が発生しておらず、短く見ると最近1700年はドーム状火山体を形成するようなマグマ活動は行われていない。 4 「九重火山のいま」 この章ではデータを元に九重火山の現在の状態が解説されている。 九重火山は約5万年前の火砕流噴火発生以後、地殻上部にあるマグマ溜まりは熱伝導的な冷却が続き、溶融部分は現在、7km程度まで後退している。 また、マグマから分離したマグマ性流体は、深さ2km以浅で、周辺の岩体内に含まれる地表起源の水を加熱、上昇し、気液2相状態および中心部では加熱状態となり、最終的には過熱蒸気として地表から放出され、一部は温泉となっている。 5「1995年噴火」 この章では九重火山の高温蒸気溜まりの消滅の理由が解説されている。 九重火山は1995年水蒸気爆発起きたが、これは1990年から活動を開始していた。その1990年に起きた水蒸気爆発後に大量の地下水が火山体中心部に流入し、火山体内部を冷却させ、蒸気溜りから熱水溜りへと変化した。噴火が発生したことで火山体が冷却されるという奇妙な現象が発生した。 6「火山エネルギー利用を目指して」 この章は火山エネルギーの利用、特に地熱エネルギーについて書かれている。 人類にとって意味のあるエネルギーとは技術的に利用可能で、利用するために妥当な価格であることが最低条件である。その一番典型的なものが地熱エネルギーである。地熱発電は他の発電システムと比較し、ほとんど安定的に発電することが可能である。また、同じ発電設備容量で比較した場合、他の発電システムの数倍多くの電力を発電している。 現在、世界の各国はエネルギー安全保障、地球環境問題から地熱エネルギー利用に積極的だが、日本においては地熱開発の促進が遅れている。また、火山エネルギーの利用は火山活動の制御に貢献できる可能性があり、十分に検討する必要がある。 7「次の噴火に備えて」 この章では九重火山の次の水蒸気爆発活動の発生について解説されている。 8「九重火山における未解決の課題」 この章では九重火山の重要で未解決の問題について書かれている。 九重火山に特有な課題だけでなく、他の火山に共通する課題も記述されている。 この著書であるように日本は火山エネルギー、特に地熱エネルギーについて、潜在能力が高いにもかかわらず、促進が他の国より遅れている様に感じる。なので、他の本で海外の地熱の政策について理解を深め、日本との比較に役立てたいと思う。 櫂歌書房 『火山の熱システム -九重火山の熱システムと火山エネルギーの利用-』 2007年6月1日 発行 著者 江原幸雄

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女性差別撤廃条約 日本未だ批准せず

G7男女共同参画・女性活躍担当相会合が6月下旬に開かれた。男女間の賃金格差をはじめ、ジェンダー平等への取り組みを加速することで各国が一致した。一方日本は20年以上女性差別撤廃条約の「選択議定書」の批准を見送り続けている。6月公表された各国の男女格差を数値化したジェンダーギャップ報告書で、日本は146カ国中125位。男女間の賃金格差は22.1%、無償労働時間は女性が男性の5.5倍長く、男女の差はG7では最も大きいという統計もある。こうした状況を受け、市民団体が男女共同参画相らに対し日本がG7広島サミットまでに批准を表明するよう要望した。共同代表の朝倉名誉教授は「現在の日本は国際社会の人権問題をリードしているとは言えず一刻も早く批准してほしい」と話している。 23/07/04 朝日新聞 19ページ

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ジェンダーレストイレ論争

今年4月東急歌舞伎町タワーがオールジェンダートイレを導入したが、開設当初からSNSなどで「女性にとって危険で不安」「性犯罪が起こる」など激しい反発を呼んだ。男性からも「女性と鉢合わせると気まずい」「悪いことをしているような気になる」などの声があった。一方で成功した事例もあり、国際基督教大学のオールジェンダートイレは誰にとっても使いやすく安心できる空間の設計を進め、設置1年後のアンケートでは回答者の90パーセント以上が大変満足/満足/普通と回答した。トイレ先進国といわれる日本でオールジェンダートイレを巡る議論が混迷しているが、多様性が強調される現代で、今議論しなければならない課題である。 23/06/26 朝日新聞 62ページ

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書評 『製作委員会は悪なのか?アニメビジネス完全ガイド』

2016年に市場規模が2兆円を突破したアニメ産業。売上の右肩上がりが続き、アニメが世に浸透する一方で、「製作委員会がアニメスタジオを搾取している」「アニメーターは不当な低賃金で働かされている」といったアニメ業界のブラックな噂も囁かれている。本書はアニメビジネスにおけるお金の流れ、諸悪の根源と叫ばれる「製作委員会」の成立背景、アニメーターの労働環境を実際のデータから丹念に読み解くことで、アニメ産業・アニメ業界の実像に迫る。著者は増田弘道で、現在は株式会社ビデオマーケットに所属している。彼は1997年にキティ・レコードに入社し、2年目に「うる星やつら」を製作。それから映像・アニメ製作を担当し始め、やがて出版社を経てアニメ制作会社マッドハウスの代表取締役を務める。第一章 「アニメビジネスは成長しているのか?」 一章では「テレビ」、「映画」、「ビデオ」、「配信」などアニメビジネスジャンルについて、ビジネスモデルや今後の動向などについて詳しく紹介されている。例えば、現在、アニメ産業市場ジャンルでトップの売上の「配信」については、初めてアニメ配信のデータが出た2002年では映像流通売上は0.1%しかなかったものの14年後には16.0%と拮抗していると述べられている。さらに日本での動画配信サービスはU-NEXT、Abema TVなどのIT・独立事業者系の一群、NTTドコモを中心とするキャリア系、日本テレビやフジテレビといったテレビ局系、Netflix、Amazonなどの外資系があるが、今後、配信サービスがテレビアニメの位置を占める中でオリジナル作品で優っている外資系企業があらゆる配信サービスの中で有利な立場に立つであろうと説明されている。そして、どのビジネスジャンルにおいても次第にキッズ・ファミリーアニメではなく、オトナ向け作品が売上を牽引するようになるであろうということも過去のアニメの歴史から説明されている。第二章 『「アニメ」は成長し続けるのか?』 二章では、前章で説明していたアニメ産業を成立させているアニメ作品自体の成長についてアニメの制作現場の現状やアニメ産業の新たな動きを参考に説明している。近年のアニメの総制作分数の増加により、アニメ制作現場は制作キャパシティが満杯で「2年先までスケジュールがいっぱい」というスタジオが多い。しかし、「人材不足により制作効率が悪い」や「クリエイター人材不足。育成はしているが足りない状況」など人材不足という現場からの声が多く、現場は人材確保に四苦八苦していると述べている。そして、現在のアニメ産業の急成長には中国などの海外売上が影響しているが、中国の厳しい政府情勢によって長く続かない可能性も十分にあり得ると説明されている。また、他業界もアニメビジネスに対して興味を示しており、非鉄金属メーカーや弁護士事務所などが製作委員会に参加しており、アニメビジネスを拡大する企業が増えてきていることも紹介されている。第三章 「アニメはどのように作られるのか?」 三章では、アニメを企画するのは誰なのか、作られたアニメはどのように運用されて、資金が回収されるのかなどのアニメ製作の構造や機能について紹介されている。アニメビジネスには制作、製作、流通という機能があり、今回は「製作」の部分に焦点を当て、製作委員会方式や製作を担うプロデューサーの役割について触れられていた。そして、「製作」という立場からアニメがどのように作られるのかアニメ製作の全体も説明されており、企画段階であるプロジェクトの企画立案、企画開発・調整、製作委員会発足からアニメ自体を作る段階の制作、完成・納品、作品をビジネス運用していく段階の宣伝・マーケティング、作品運用・回収、分配まで各段階を事細かに説明している。加えて、制作、製作、流通を1社で行っている企業の例としてディズニーを挙げており、日本のアニメ企業もディズニーのような世界に通用する総合メディア&エンターテイメント企業を目指すべきであると述べられている。第四章 「製作委員会は悪なのか?」 四章はなぜ日本だけが映画やアニメを制作する際に製作委員会方式をとるのか、製作委員会が生れて普及した経緯を用いて紹介していると同時に世間で言及されている「製作委員会悪人論」は正しいのかということについても述べられている。製作委員会の雛形を形成したのは映画では1991年の「天河伝説殺人事件」という角川映画でアニメでは1988年に製作された「AKIRA」という劇場アニメであった。その後、当たる確率が低いという理由から量産主義の日本のアニメ産業に合う製作委員会方式が普及していったと紹介されている。そして、その製作委員会方式が現在問題となっているアニメ制作現場やアニメーターの低賃金問題の原因になっているとネット上で叫ばれているが、著者は製作委員会方式が普及する以前は放送局から支払われる制作費が実行製作費に満たなかったという点とそもそも著作権は原作者や脚本家、音楽家にあるという点から製作委員会方式が日本に合っていると述べている。第五章 「アニメーターは低賃金なのか?」 五章ではアニメ制作職、特にアニメーターはなぜ低賃金と叫ばれているのかということについてアニメ制作の各職種を民間給与平均と比較して説明していると共に無責任なマスコミの「アニメ業界ブラック説」発言について言及している。「アニメーター労働白書2009」「アニメーション制作者実態調査報告書2015」によるとアニメ制作職の中でも監督、キャラクターデザイン、プロデューサーなど人気やクリエイティブにダイレクトに影響する職種は民間給与平均414万円を上回っているが、第二原画、動画といった付加価値が付与しづらい職種は約110万円と大きく民間給与平均を下回っており、この部分がピックアップされ、マスコミなどで「アニメ業界ブラック説」と叫ばれるようになったと述べられている。そして、近年「アニメ業界ブラック説」がテレビ局を中心にマスコミ全般でクローズアップされているが、そもそもテレビ局は50年以上にわたって、「製作品に発意と責任を有する」アニメ製作者であり続けているため、自らの立場を忘却し、アニメの制作現場を告発するのは明らかに矛盾しているということも述べられている。第六章 「アニメに携わる仕事とは?」 六章ではアニメに携わる仕事を紹介している。アニメに直接携わる制作、アニメの企画や販売に携わる製作・流通に分けて説明されており、アニメ制作会社の各職種、声優業、映画会社やビデオ・レコード会社など流通系プロデュース会社それぞれの詳細や主な入社方法について詳しく紹介されている。本書を読んでなんとなく認識していた制作会社の低賃金問題、製作委員会の売上搾取などのアニメ業界の問題を実際の根拠に基づいて詳しく学ぶことができた。実際、アニメ制作の歴史を見てみるとアニメ制作のどの部分でも働く環境や待遇は改善されていることは明らかであるので、今後、日本のアニメ制作現場が海外のディズニーのような環境になり、強力なコンテンツを作り出してほしいと期待している。次は、アニメビジネスの未来に関する書籍を読み、さらにアニメ業界についての知識を深めたいと思った。星海社新書132 「製作委員会は悪なのか?アニメビジネス完全ガイド」2018年5月25日発行 著者:増田弘道

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