書評 『製作委員会は悪なのか?アニメビジネス完全ガイド』

2016年に市場規模が2兆円を突破したアニメ産業。売上の右肩上がりが続き、アニメが世に浸透する一方で、「製作委員会がアニメスタジオを搾取している」「アニメーターは不当な低賃金で働かされている」といったアニメ業界のブラックな噂も囁かれている。本書はアニメビジネスにおけるお金の流れ、諸悪の根源と叫ばれる「製作委員会」の成立背景、アニメーターの労働環境を実際のデータから丹念に読み解くことで、アニメ産業・アニメ業界の実像に迫る。著者は増田弘道で、現在は株式会社ビデオマーケットに所属している。彼は1997年にキティ・レコードに入社し、2年目に「うる星やつら」を製作。それから映像・アニメ製作を担当し始め、やがて出版社を経てアニメ制作会社マッドハウスの代表取締役を務める。第一章 「アニメビジネスは成長しているのか?」 一章では「テレビ」、「映画」、「ビデオ」、「配信」などアニメビジネスジャンルについて、ビジネスモデルや今後の動向などについて詳しく紹介されている。例えば、現在、アニメ産業市場ジャンルでトップの売上の「配信」については、初めてアニメ配信のデータが出た2002年では映像流通売上は0.1%しかなかったものの14年後には16.0%と拮抗していると述べられている。さらに日本での動画配信サービスはU-NEXT、Abema TVなどのIT・独立事業者系の一群、NTTドコモを中心とするキャリア系、日本テレビやフジテレビといったテレビ局系、Netflix、Amazonなどの外資系があるが、今後、配信サービスがテレビアニメの位置を占める中でオリジナル作品で優っている外資系企業があらゆる配信サービスの中で有利な立場に立つであろうと説明されている。そして、どのビジネスジャンルにおいても次第にキッズ・ファミリーアニメではなく、オトナ向け作品が売上を牽引するようになるであろうということも過去のアニメの歴史から説明されている。第二章 『「アニメ」は成長し続けるのか?』 二章では、前章で説明していたアニメ産業を成立させているアニメ作品自体の成長についてアニメの制作現場の現状やアニメ産業の新たな動きを参考に説明している。近年のアニメの総制作分数の増加により、アニメ制作現場は制作キャパシティが満杯で「2年先までスケジュールがいっぱい」というスタジオが多い。しかし、「人材不足により制作効率が悪い」や「クリエイター人材不足。育成はしているが足りない状況」など人材不足という現場からの声が多く、現場は人材確保に四苦八苦していると述べている。そして、現在のアニメ産業の急成長には中国などの海外売上が影響しているが、中国の厳しい政府情勢によって長く続かない可能性も十分にあり得ると説明されている。また、他業界もアニメビジネスに対して興味を示しており、非鉄金属メーカーや弁護士事務所などが製作委員会に参加しており、アニメビジネスを拡大する企業が増えてきていることも紹介されている。第三章 「アニメはどのように作られるのか?」 三章では、アニメを企画するのは誰なのか、作られたアニメはどのように運用されて、資金が回収されるのかなどのアニメ製作の構造や機能について紹介されている。アニメビジネスには制作、製作、流通という機能があり、今回は「製作」の部分に焦点を当て、製作委員会方式や製作を担うプロデューサーの役割について触れられていた。そして、「製作」という立場からアニメがどのように作られるのかアニメ製作の全体も説明されており、企画段階であるプロジェクトの企画立案、企画開発・調整、製作委員会発足からアニメ自体を作る段階の制作、完成・納品、作品をビジネス運用していく段階の宣伝・マーケティング、作品運用・回収、分配まで各段階を事細かに説明している。加えて、制作、製作、流通を1社で行っている企業の例としてディズニーを挙げており、日本のアニメ企業もディズニーのような世界に通用する総合メディア&エンターテイメント企業を目指すべきであると述べられている。第四章 「製作委員会は悪なのか?」 四章はなぜ日本だけが映画やアニメを制作する際に製作委員会方式をとるのか、製作委員会が生れて普及した経緯を用いて紹介していると同時に世間で言及されている「製作委員会悪人論」は正しいのかということについても述べられている。製作委員会の雛形を形成したのは映画では1991年の「天河伝説殺人事件」という角川映画でアニメでは1988年に製作された「AKIRA」という劇場アニメであった。その後、当たる確率が低いという理由から量産主義の日本のアニメ産業に合う製作委員会方式が普及していったと紹介されている。そして、その製作委員会方式が現在問題となっているアニメ制作現場やアニメーターの低賃金問題の原因になっているとネット上で叫ばれているが、著者は製作委員会方式が普及する以前は放送局から支払われる制作費が実行製作費に満たなかったという点とそもそも著作権は原作者や脚本家、音楽家にあるという点から製作委員会方式が日本に合っていると述べている。第五章 「アニメーターは低賃金なのか?」 五章ではアニメ制作職、特にアニメーターはなぜ低賃金と叫ばれているのかということについてアニメ制作の各職種を民間給与平均と比較して説明していると共に無責任なマスコミの「アニメ業界ブラック説」発言について言及している。「アニメーター労働白書2009」「アニメーション制作者実態調査報告書2015」によるとアニメ制作職の中でも監督、キャラクターデザイン、プロデューサーなど人気やクリエイティブにダイレクトに影響する職種は民間給与平均414万円を上回っているが、第二原画、動画といった付加価値が付与しづらい職種は約110万円と大きく民間給与平均を下回っており、この部分がピックアップされ、マスコミなどで「アニメ業界ブラック説」と叫ばれるようになったと述べられている。そして、近年「アニメ業界ブラック説」がテレビ局を中心にマスコミ全般でクローズアップされているが、そもそもテレビ局は50年以上にわたって、「製作品に発意と責任を有する」アニメ製作者であり続けているため、自らの立場を忘却し、アニメの制作現場を告発するのは明らかに矛盾しているということも述べられている。第六章 「アニメに携わる仕事とは?」 六章ではアニメに携わる仕事を紹介している。アニメに直接携わる制作、アニメの企画や販売に携わる製作・流通に分けて説明されており、アニメ制作会社の各職種、声優業、映画会社やビデオ・レコード会社など流通系プロデュース会社それぞれの詳細や主な入社方法について詳しく紹介されている。本書を読んでなんとなく認識していた制作会社の低賃金問題、製作委員会の売上搾取などのアニメ業界の問題を実際の根拠に基づいて詳しく学ぶことができた。実際、アニメ制作の歴史を見てみるとアニメ制作のどの部分でも働く環境や待遇は改善されていることは明らかであるので、今後、日本のアニメ制作現場が海外のディズニーのような環境になり、強力なコンテンツを作り出してほしいと期待している。次は、アニメビジネスの未来に関する書籍を読み、さらにアニメ業界についての知識を深めたいと思った。星海社新書132 「製作委員会は悪なのか?アニメビジネス完全ガイド」2018年5月25日発行 著者:増田弘道

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