書評『火山の熱システム -九重火山の熱システムと火山エネルギーの利用-』

本著は江原幸雄が九州大学教授時代に「九重硫黄山」で「噴火予知に代表される火山防災」と「地熱発電に代表される熱エネルギー利用」の研究の成果がまとめられている。
題材は九重火山であるが、火山の熱学的研究の基本的な考えは他の火山にも適用可能である。

1 「はじめに」

この章では九重火山と筆者の火山研究について説明されている。
九重火山は大分県南西部に位置し、九州大学九重地熱・火山研究観測ステーションという教区研究施設があり、九重火山は熱的理解の最も進んだ火山の一つと言われている。
また、筆者は火山を理解し、その成果を人間生活に役立てる研究をしている。

2 「九重火山の地学的背景」

この章では九重火山とプレートの関係について解説してある。
九重火山はプレートの沈み込みに伴って形成された火山というよりも、プレート沈み込み地域背後の地溝帯中に形成されたと考えられている。そして、九重火山周辺の地殻・上部マントルは周囲と比べ高温になっている。

3 「九重火山の形成」

この章では九重火山の地質学的な発達史について解説されている。
九重火山は長期的に見ると最近数万年は大規模な火砕流が発生しておらず、短く見ると最近1700年はドーム状火山体を形成するようなマグマ活動は行われていない。

4 「九重火山のいま」

この章ではデータを元に九重火山の現在の状態が解説されている。
九重火山は約5万年前の火砕流噴火発生以後、地殻上部にあるマグマ溜まりは熱伝導的な冷却が続き、溶融部分は現在、7km程度まで後退している。
また、マグマから分離したマグマ性流体は、深さ2km以浅で、周辺の岩体内に含まれる地表起源の水を加熱、上昇し、気液2相状態および中心部では加熱状態となり、最終的には過熱蒸気として地表から放出され、一部は温泉となっている。

5「1995年噴火」

この章では九重火山の高温蒸気溜まりの消滅の理由が解説されている。
九重火山は1995年水蒸気爆発起きたが、これは1990年から活動を開始していた。その1990年に起きた水蒸気爆発後に大量の地下水が火山体中心部に流入し、火山体内部を冷却させ、蒸気溜りから熱水溜りへと変化した。噴火が発生したことで火山体が冷却されるという奇妙な現象が発生した。

6「火山エネルギー利用を目指して」

この章は火山エネルギーの利用、特に地熱エネルギーについて書かれている。
人類にとって意味のあるエネルギーとは技術的に利用可能で、利用するために妥当な価格であることが最低条件である。その一番典型的なものが地熱エネルギーである。地熱発電は他の発電システムと比較し、ほとんど安定的に発電することが可能である。また、同じ発電設備容量で比較した場合、他の発電システムの数倍多くの電力を発電している。
現在、世界の各国はエネルギー安全保障、地球環境問題から地熱エネルギー利用に積極的だが、日本においては地熱開発の促進が遅れている。また、火山エネルギーの利用は火山活動の制御に貢献できる可能性があり、十分に検討する必要がある。

7「次の噴火に備えて」

この章では九重火山の次の水蒸気爆発活動の発生について解説されている。

8「九重火山における未解決の課題」

この章では九重火山の重要で未解決の問題について書かれている。
九重火山に特有な課題だけでなく、他の火山に共通する課題も記述されている。

この著書であるように日本は火山エネルギー、特に地熱エネルギーについて、潜在能力が高いにもかかわらず、促進が他の国より遅れている様に感じる。なので、他の本で海外の地熱の政策について理解を深め、日本との比較に役立てたいと思う。

櫂歌書房

『火山の熱システム -九重火山の熱システムと火山エネルギーの利用-』
2007年6月1日 発行
著者 江原幸雄

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