月別アーカイブ: 2017年11月

書評「ゲノム解析は私の世界をどう変えるのか」

本書は「ジーンクエスト」という会社を起業しゲノム解析サービスを提供している筆者がテクノロジーを活用するには流れを理解することが大事であるということを様々なテクノロジーを例にあげながら論じている。 1990年からヒトゲノム計画が始まり、2003年にヒトのゲノムの全塩基配列が明らかになり計画が終了した。13年と約3500億円をかけ1人のゲノムを調べることができた。対して、2017年の現在は2週間と10万円を用意すれば調べることができる。このことから、テクノロジーは急激に進歩していることがわかる。一方、社会は一定のスピードでしかテクノロジーを理解できず、また社会はテクノロジーについて議論するため、さらに時間がかかる。このようにして、テクノロジーと社会にギャップが生まれる。この問題を解決するために筆者は流れをみて、将来の先回りをすることが大事であると指摘している。つまり、現在のデメリットだけでなく、過去どうであったか、そして未来のメリットを考え議論することが重要であると述べている。 ゲノム解析だけでは分からないことがあると知ったので、他の技術にも目を向けるべきであると感じた。流れは自分ではあまり意識していなかった視点であったため考え方の参考になった。 高橋祥子著 2017年9月 ディスカヴァー・トゥエンティワン

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書評: 食品ロスの経済学

農林水産省の統計によると、日本で発生している年間食品廃棄物1874万tのうち、可食部である食品ロスは500~800万t発生しているという。そんな中で本書は日本の食品ロスに関する問題について、経済的な面から探っている本である。食品ロスには、期限切れ、売れ残り等の廃棄、食べ残し、過剰除去が含まれる。それらについて、飲食店の中でジャンル分けをしたうえで、どのロスが多いのかを探ったり、その理由についてを述べている。また、その中でも廃棄については、閉店間近の品切れ状態を例に、食品ロスを増やしてでも発注するかどうかについて、安全性と廃棄のコスト関係を中心に述べている。安全性を重視して、廃棄の商品が多くなり、それらにかかった労務費、処分費のコスト、廃棄したことにより、売るチャンスを逃したことによる損失などのコストである。また、食べ残しの持ち帰りを意味するドギーバッグや、まだ食べられるが、安全上店に置けない食糧を難民等に送るフードバンクについても描写が多く、環境問題に関する3Rのreuseについての可能性についても触れている。 様々なグラフや表が多くイメージがしやすい内容だった。単に食品ロスを減らしたほうが良いというよりは、食品ロスがあることによって得る利益もあることがわかり、食品ロスのことについて考えるにはとても良い本であった。ただ、例として出る会社などは匿名となっているものが多く、真実味については少し欠けているのではないかと思った。 著者 小林富雄 農林統計出版株式会社 2015年

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書評 『印象形成における対人情報統合過程』

従来の印象形成研究は、そのプロセスを解明することに主眼が置かれていたため、専ら操作の容易な言語情報を用いて検討が重ねられてきた。しかし筆者は、実生活において人は顔からも他者についての判断材料を得ていることを鑑み、より現実場面に密着した研究を展開するには両情報を同機軸上で扱うことが肝要であると考えた。そこで、顔を認知的観点から捉え直し、両情報の統合・組織化のメカニズムを検討し、図式を提案した。認知者の処理容量に限界があったり、印象を決定するよう動機付けられたり、精緻化された情報処理への状況的要因が無い時は処理の単純化を促進する顔に依拠した処理が行われる。一方、認知者の処理容量に余裕があったり、正確さを動機付けられたり、精緻化された情報処理への状況的要因がある時は、言語情報に依拠した処理が行われやすくなることが示された。これらのことから、情報としての特徴を考えると顔及び言語情報はそれぞれ一長一短があるが、人は常にそのどちらかを偏向せず、様々な社会的要請に応じてうまく使い分けていることが示唆された。いくつか課題もあるが本研究は印象形成における顔の機能を明らかにし、両情報の統合過程に関する枠組みを提供した点で意義があると思われる。この本の形式としては、最初に目的を提示し、実験をして、出た結果から新たな課題を作って、また実験をするという少しずつ結果を積み立てて考察をしていくものだったため内容はつかみやすかった。ただ、表を読み取るのに数学的な見識を求められるため、文系の私には辛いものがあった。また、この本で明かされたことはあくまで対人関係の入り口において両情報の統合過程の一端に過ぎず、印象形成という分野の途方の無さを実感できた一冊であった。 川西千弘 風間書房 2000年12月25日 初版発行  

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【書評】スポーツ都市戦略-2020年後を見すえたまちづくり-

日本は戦後、内需産業で発展して来たが、人口減少に伴い先細りし、新しい成長戦略が必要とされている。一方で世界の外国人旅行者の数は年々増加しており、アジア諸国、特に中国や東南アジアの中間層の伸びは著しい。 その中で、本書では隠れた観光資源であるスポーツを育て、訪日観光客の拡大や地域産業の復興を目指すスポーツツーリズムという考え方を提唱している。日本には隠れたスポーツ観光資源が多く眠っているが、現状では決して有効には活用されていない。プロ野球、Jリーグ、相撲などの観戦型の競技スポーツもあれば、マラソンやサイクリングのような参加型のアクティブスポーツ、スキーやヒルクライム、トライアスロンのような豊かな自然を活用したスポーツもある。 これらの観光資源としてのスポーツを顕在化させ、その都市に合った形で売り出していくための組織として、スポーツコミッションがある。まだ多くの自治体が設置しているとは言えないのが現状ではあるが、さいたま市、新潟市などがいち早く活動を始め、年々数が増えて来ている。 2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されるが、そこでどのように観光文化大国としての立ち位置を確立し、どのようなレガシー(遺産)を残して行くかが日本の重大な課題となる。 スポーツツーリズムの理念やスポーツイベントと都市開発との関係について国内外の様々な事例を用いながら説明されているので、専門知識のない私にも読みやすい内容だった。   著者 原田宗彦  学芸出版社 2016年

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