「AIネイティブマーケティング 人、企業、AIの幸せな関係をつくる」並河進 著
本書は、AIの進化によって人々の生活や企業活動、マーケティングがどのように変化していくのかについて書かれた本である。AIが急速に発展している現在において、マーケティングにAIをどのように取り入れていくべきなのかを考えることが、本書の大きなテーマである。
本書は全6章で構成されている。第1章では、AIを「知能のように振る舞うもの」と定義し、AIには「道具としてのAI」「仲間としてのAI」「人々をつなぐAI」という3つの役割があると説明している。第2章では、機械学習、ディープラーニング、生成AIへと発展してきたAIの歴史や仕組みを取り上げている。現在のAIは高い能力を持っている一方で、その能力をまだ十分に活用できておらず、今後さらに進化する可能性があることが示されている。さらに、考えるだけでなく実際に行動するAIエージェントについても説明されている。第3章では、本書の中心となるAIネイティブマーケティングについて詳しく述べている。Research、Planning、Creative、Execution、Optimizationというマーケティングの5つのプロセスにおいて、AIを活用することで、顧客理解や商品企画、コンテンツ制作、効果分析などを効率化・高度化できるとしている。また、AIエージェントの登場によって、今後はマーケターの仕事そのものも変化していくと述べている。第4章では、AIエージェントが人々に寄り添う存在となることで、顧客体験やブランドとの関係が変化することを説明している。特に、顧客が信頼するAIエージェントから推薦されるブランドになることが重要になるとしている。第5章ではAIが社会に与える正の影響と負の影響を取り上げ、AIネイティブ社会について考察している。第6章では、AIネイティブマーケティングの本質を、人と企業の関係から、人・AI・企業の三者による関係への変化として捉えている。
本書を読んで特に印象に残ったのは、AIを人間の代替としてではなく、人間の能力を拡張する存在として捉えている点である。AIが発達すると、マーケティングに関する仕事の多くがAIに置き換えられるのではないかとも考えられる。しかし、本書ではAIにすべてを任せるのではなく、人間とAIが協働することを基本としている。例えば、コピーライターがAIを壁打ち相手として利用することで、より質の高いものを生み出していることが紹介されている。このような例からも、AIの役割は人間の仕事を単純に奪うことではなく、人間の知識や経験、創造性を引き出すことにあると考えられる。また、AIを活用して大量の情報を処理したり、複数の案を短時間で検討したりすることで、人間は最終的な判断や、本当に顧客にとって価値があるのかを考えることにより多くの時間を使えるようになるのではないかと感じた。一方で、本書を読んでいて気になったのは、AIを活用したマーケティングによって実際にどのような成果が生まれたのかという点である。本書では、AIによってマーケティングプロセスがどのように変化するのかについて詳しく説明されており、その点は理解しやすかった。しかし、実際にAIを活用したことで売上や認知度、顧客満足度などがどの程度変化したのかといった、具体的な成果を示す事例は書かれていなかった。例えば、AIを活用した広告によってどの程度効果が高まったのかなどを比較する事例があれば、AIネイティブマーケティングの有効性を具体的に評価できたのではないかと思う。ただし、この点は本書がAIを活用したマーケティングの成果よりもプロセスの変化に重点を置いていることによるものだとも考えられる。
以上のことから、本書はAIによってマーケティングのプロセスや人間の役割がどのように変化するのかを理解する上で有用な本であると評価できる。特に、AIを人間の代替ではなく協働する存在として捉え、「人と企業」の関係が「人・AI・企業」の関係へ変化していくという視点は、今後のマーケティングを考える上で重要である。一方で、AIを活用することで実際にどの程度のマーケティング成果が生まれるのかについては、今後さらに具体的な事例や数値による検証が必要だと感じた。本書を読んだことで、AIを使って何ができるのかだけではなく、人間がAIをどのように活用し、その結果としてどのような価値を生み出すのかを考えることが、これからのマーケティングにおいて重要になると考えた。