【はじめに】
社会学者バウマンの「液状化」概念を引用し、現代社会の不確実性や変化の激しさが、消費行動にも影響を与えていると述べ、従来のモノを所有する消費(ソリッド消費)に代わり、コンテンツ自体を消費したり、モノを消費せず共有する形態の消費(リキッド消費)が広まっていると説明。
本論文では、リキッド消費の概念化の背景や財の特性・消費形態、さらにリキッド消費が他研究領域に与える影響などについて研究展望を行うとしている。
【「リキッド消費」概念が現出する背景】
「社会の変容」
筆者はまず、バウマンの捉えた社会の液状化について説明をする。社会の液状化とは、社会ネットワークの崩壊や個人アイデンティティの多様化、製品ライフサイクルの短命化や時間の無限性への欲求が一過性へシフトすることなどを意味している。
現代社会において、社会ネットワークへの影響を大きく与えているのは2000年代以降のICTの飛躍的な発展(恐らくより平易な言葉として、デジタル化と言い替えてもいい)であるとも触れている。
「アクセスベースの消費」
アクセスベースの消費とは、市場の取引ながら、所有権の移転されない消費のことを指す。カーシェアリングなどが代表例だが、機能的利用価値のみを求めるような消費形態である。比較的、有形財より無形財(特にデジタルなモノ)はシェアリングに移行しやすいとされ、ICTの革新とリキッド消費の繋がりについても説明している。
【リキッド消費に関連する財の定義と分類】
「第3の財としての情報財」
リキッド消費に関連するものとして、財の脱物質化という点ではサービス財、アクセスベースという点では情報財があり、これらがどういうふうに定義されてきたかを語る。
サービス財は「有形部分の所有権が移転しない取引である」という解釈や、「サービスは行為であり、現実世界では純粋な商品やサービスは極稀である」という解釈がなされ、単純に実体のあるなしで語られてきた訳では無く、複合されたモノであるという点で重要な主張がされているということが強調されている。
情報財の定義については、製品の細分化の議論(製品のコア部分、期待部分、拡張部分)に始まり、最終的にはデジタル・コンテンツに焦点を当てた研究へと移行していったとされる。
「情報財の特性」
情報コンテンツそのものは、均質で文脈上の価値を持ち、自由に加工可能な動的なモノとして定義され、不可逆性という独特な特性も持っていることから、サービス財とは同一視すべきでないとしている。
【リキッド消費】
ここで筆者は、リキッド消費は短命、アクセスベース、脱物質的であるのに対して、ソリッド消費は長命、所有ベース、物質的な消費であると再確認している。その上でそれらの消費について具体例を交えつつ、深堀りを行っている。リキッド消費とソリッド消費それぞれが好まれる条件や、リキッド消費とソリッド消費の共存などがその例である。
「財の違いによる消費」
ここでは、物財、サービス財、情報財という3つの分類があり、さらにそれぞれの財は有形部とサービス、情報から成り立っているということを確認した上で、3種類の財がリキッド・ソリッドのどのような消費に結び付くのかを細かく説明している。とはいえ、現在の消費の特徴としては、提供する内容が同じでも提供される形態が異なる財(例えば書籍と電子書籍等)なら複数の消費パターンがあり、財そのものが消費形態を決める訳ではなく、多様な財と消費の組み合わせがあると主張している。
「消費者行動研究へのインプリケーションと今後の展望」
今後の消費者行動研究において、どのような研究が要請されるかについてを、筆者はここでまとめている。
一つは財の特性で、消費者の「所有」の感覚との関連性についてなどだ。情報財などであっても、所有の感覚はあるのかなどの問題である。
次に、物財への愛着がこれまで消費者行動やマーケティング研究の分野(ブランドへの愛着や自己関連性など)を発展させてきたが、サービス財や情報財でそうしたことは起こるのか、という問題だ。
次に、ギフト消費などに代表される、モノのやり取りにおいて、情報財は贈与の対象になるのか、またリキッド性の高い消費が選択されるのかという問題である。
最後に、筆者はリキッド消費という概念を手掛かりに、消費する対象の特性と消費者の認知処理、さらに消費者を取り巻く社会関係との関連という観点から、消費研究の可能性は開いていけるだろうと締めくくる。
出典:神戸大学学術成果リポジトリ