論文要約とその感想

結論

IRは、カジノを駆動部としつつも、観光振興・地域活性化・MICE・イノベーション・消費拡大など複合的なベネフィットをもたらす存在であり、ホスピタリティ観点から見ても導入の価値があると結論づけられる。

主な論点と結論

1. 観光政策としての意義

  • 日本の人口減少による国内消費の縮小を補うために、訪日観光客の一人当たり消費単価の向上が必要。

  • IRはカジノ収益を原資として、MICE施設(国際会議・展示場など)など「コト消費」の器を整備できる。

  • これにより、観光客の支出額増加 ➡ 経済効果の最大化が期待される。

2. 情報とイノベーションの源としてのIR

  • 対面での一次情報(暗黙知)の獲得は、質の高い意思決定とイノベーション創出に不可欠

  • MICEなどリアル交流の場を提供するIRは、情報の質向上に貢献し、オンラインでは得られない価値を生む。

3. ギャンブル依存症のリスクと対策

  • シンガポールは、IR開業前から法制度を整備し依存症割合の減少に成功。

  • 日本でもIR実施法の前に「ギャンブル等依存症対策基本法」を整備済み。依存症対策は進行中で、社会的コストの増加は抑えられると予想。

4. ギャンブルの経済効果(余剰分析)

  • 新設されるカジノゲームは、既存の日本のギャンブル(競馬・パチンコ等)よりも控除率が低く、消費者へのリターンが高い

  • IR導入によりギャンブルの選択肢が増える ➡ 社会的余剰(=経済的ベネフィット)が約1兆円増加すると試算。

 

自分の意見

IRの導入による経済効果や観光振興の意義は理解できるものの、既存のギャンブル市場への影響には慎重な検討が必要だと考えます。たとえば、パチンコは年間約19兆円、競馬は約3兆円の市場規模を有しており、これらは長年にわたり地域経済や雇用を支えてきました。こうした既存市場に対して、IRが新たなギャンブル機会として参入すれば、市場の拡大ではなく、顧客の移動によるカニバリゼーション(共食い)が発生する可能性があります。

さらに、ギャンブル依存症や治安悪化といった社会的コストも無視できません。収益性を優先するあまり、依存症対策や地域との共生が後回しになるような事態は避けなければなりません。

こうした背景を踏まえると、カジノに過度に依存するのではなく、観光・エンターテインメント・食文化などを中核とした“日本型IR”の構築を目指すべきではないかと考えます。IRを単なる収益施設としてではなく、都市再開発や地域ブランディングの手段として活用することで、持続可能かつ社会的に受容されるモデルの実現が可能になるのではないでしょうか。

参考文献

カジノを含む統合型リゾートのコストとベネフィット -生産者余剰と消費者余剰をも加味したホスピタリテ ィ観点から-

東洋大学 佐々木 一彰⑨佐々木一彰【カジノを含む統合型リゾートのコストとベネフィット-生産者余剰と消費者余剰をも加味したホスピタリティ観点から-】

カテゴリー: 新聞要約   パーマリンク

コメントを残す