主な主張(全体要約)
地方型統合型リゾート(IR)を導入する際には、従来の都市型IRとは異なる地域主体の戦略が必要である。単なるカジノ誘致ではなく、地域文化や郷土料理などの地方資源を活かしながら、持続可能な地域社会(サスティナブルな地域)を構築することが重要であり、その中心戦略として「フードツーリズム(食を通じた観光)」が鍵を握ると述べている。
主要ポイント
1. 現行制度の課題
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現行のIR制度は大規模施設(6施設)を義務づけており、地方には不向き。
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黒字化のハードルが高く、企業が参入をためらう。
2. 成功のカギは「地域主導モデル」
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「何のために観光をするのか?」という目的志向が重要。
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湯布院の事例のように、地元住民・専門家・自治体が協力し「地域をどうしたいか?」からスタートする。
3. 湯布院モデルに学ぶ
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湯布院は「観光を使ってまちづくりをする」モデル。
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自然・経済・人間関係の3要素を柱に「サスティナブルな地域」を実現。
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地元の知識や文化を形式知・暗黙知として活用(SECIモデル)。
4. フードツーリズムの重要性
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郷土料理やご当地グルメはその地域のアイデンティティ。
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食は毎日の行為でありながら観光資源として非常に強力。
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食を通じて「人と自然」「人と文化」のつながりを創出できる。
5. 地方型IRの理想像
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フードツーリズムを中心に、地域色を活かした小規模IR。
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画一的なカジノではなく、地域資源を組み合わせた体験型施設。
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IRを「観光地」ではなく「地域を豊かにする手段」として捉える。
結論
地方型IRを成功させるには、観光を“目的”ではなく“手段”と捉え、地域住民が主体となって地域の文化や生活と調和した開発を行うことが不可欠である。カジノだけに頼らず、「食」という誰もが関わる文化を中核に据えることで、観光と地域の共存が可能となる。
考察
本稿を読んで、日本型IRの一つのあり方が提示されていると感じました。特に「フードツーリズム」に着目する視点は、日本人の性質や観光客のニーズを的確にとらえており、非常に日本らしいアプローチだと思います。食や文化、建築など、文化的要素に価値を見出す観光スタイルは、世界に対して日本の独自性を発信する手段として有効だと感じました。
一方で、IRの中核にあるはずのカジノの存在感がやや希薄になっている印象も受けました。地域住民への配慮や、ギャンブル依存症への対策といった観点は当然重要ですが、経済発展というIR本来の目的に立ち返ったとき、フードツーリズムに力を入れすぎると本末転倒になりかねないのではないか、とも思います。
文化や食を軸に据えることで地域の魅力を高めつつも、カジノが経済的なエンジンとして機能するためのバランスをどう取るかが、今後の日本型IRの課題になると感じました。
参考文献
サスティナブルな地方を創る 地方型統合型カジノ 中條 辰哉 2024サスティナブルな地方を創る地方型統合型カジノ (1)