川上清一著『図解入門業界研究 最新教育ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本』
本書は、学校教育から民間教育、EdTech(教育×テクノロジー)まで、幅広い教育産業の仕組みと課題を分かりやすく解説した一冊だ。
第1章では、教育産業の現場と最新トピックスについて取り扱っている。教育産業は国や地方公共団体が設置・運営する教育、または公共の目的を持つ公教育とは異なる教育ビジネス関連業種・業界を指す。その業界の最新トピックスをいくつか取り上げている。この本はコロナ禍に出版されたことも相まって、オンライン授業やインターネットを通した授業やサービスに関する話題が多く扱われている。コロナの影響で学習塾の売り上げが減ったなどのネガティブな一面がある一方で、オンラインでの授業を余儀なくされたことでICT教育やインターネット上で気軽に学習ができる環境の整備が進んだというポジティブな一面もあると紹介されている。続いて第2章では、教育サービス業界が産業としてそのように位置付けられているのかを詳しく解説している。日本標準産業分類で、教育は大分類で「教育、学習支援業」に位置付けられておりこの大分類は中分類2、小分類16、細分類は25の項目に分かれている。中分類は「学校教育」と「その他の教育、学習支援業」の2つで、教育サービス業界は主に後者に分類される。「その他の教育、学習支援業」のなかでも代表的なものは学習塾や予備校で、学習塾は通塾者の目的によって補修塾、受験塾、進学塾の3つに分類できる。また、予備校は一般的に大学進学のためのものと位置付けられていたが、近年は成績上昇や維持を目的に高校入学と同時に予備校に入学する学生が増えており予備校も学習塾的な一面を持ち始めた。学習塾や予備校以外にも資格取得学校や専門資格を取るための予備校なども取り上げている。第3章では、第2章での内容を踏まえて学習塾・予備校に焦点を合わせてその中でも市場規模を中心に取り扱っている。ここでは、学校現場のICT化の遅れや、学習塾が地域や個人に合わせて柔軟にサービスを展開してきた歴史が紹介されている。著者は、教育の質を高めるには公教育と民間教育の連携が鍵になると述べており、教育を一元的に捉えない姿勢が共感できる。第4章では、語学・資格・企業研修など「社会人教育ビジネス」の展開が描かれる。グローバル化や働き方改革により、個人のスキルアップを支援するサービスが急拡大しているという分析が興味深い。学び直しや自己投資が社会的に重視される今、教育が「人生100年時代の基盤」として位置づけられていることを実感した。そして、第5章は教育業界の今後の課題と展望についてである。少子高齢化社会でどんどん学生が減っていくことが予測される今、学生だけではなくすでに学習課程を修了している社会人などにも目線を向けていく必要があると述べられている。私は塾講師として指導にあたる中で、生徒一人ひとりに合わせた学習支援の重要性を感じており、また自身の勉強不足も多々感じるためこの章の内容には強く共感した。
ただし、著者も述べているように、教育のビジネス化には課題も多い。利益追求が過剰になれば、教育の公平性や人間的成長といった本質が損なわれかねない。経済的合理性と教育の公共性を両立する仕組みづくりが今後の鍵になると感じた。
本書を通じて、教育は「学びを提供する場」から「学びを支える社会的ネットワーク」へと変化していることを学んだ。教育ビジネスを経営の視点から理解することは、教育の未来を考えるうえで不可欠である。