岡田 書評

タイトル:経済産業省 DXレポート「2025年の崖」の参考書

著者:佐藤 元輝(キリハレ株式会社)

出版:2023年10月

内容構成の特徴

まず、本書のおおまかな構成と、内容の見せ方について整理する。

各章構成(第1章:検討の背景と議論のスコープ/第2章:DXの推進に関する現状と課題/第3章:対応策の検討/第4章:今後の検討の方向性/第5章:おわりに/第6章:あとがき)というシンプルで論理的な展開になっている。

第1章ではDXレポートが作成された背景と検討範囲を明らかにし、第2章ではレガシーシステム(古くから使われている情報システムやソフトウェアで、現在の技術や業務ニーズに合わなくなっているもの)の老朽化、ブラックボックス化(内部の仕組みや処理内容が分からない=改善や運用ができない)、人材不足などの現状と課題を整理する。第3章では、それらを克服するための対応策として、経営層の意識改革、システム刷新の集中期間設定、DX人材育成、組織体制の整備などが紹介される。第4章では将来に向けた検討の方向性として、データ活用やビジネスモデル変革の必要性が強調される。最後に第5章・第6章でまとめと著者自身の考察が述べられている。

また、特徴として経済産業省レポートに書かれている用語の説明が非常に丁寧である。読者が、DXに関するシステムの知識がなくても理解しやすい構成であった。

また、レポートの問題点・背景を整理しつつ、具体的に「なぜその課題が生じているか」「どのような対応策が提案されているか」を読みやすくまとめている。たとえば、ブラックボックス化・過剰カスタマイズ・データ活用の困難さなど、実務者にとって身近な問題を取り上げて紹介している。

 

長所・良い点

この参考書には、次のような良い点があった。

①理解のハードルを下げている
もとのDXレポート自体は政策文書・官庁レポートであり、やや読みごたえがある。用語が専門的だったり、想定読者が専門・政策関係者であったりするため、実務者やこれからDXを学ぶ人にはとっつきにくい部分もあるが、本書はその “ギャップ” を埋める働きをしており、用語解説や背景説明に時間を割いているのが評価できる。

②構造的・論理的に整理されている
章立てがクリアで、「背景→問題点→対応策→将来方向性」という流れで、一連の議論を追いやすい。読者がどこに焦点を当てて読み進めればよいか分かりやすく設計されている。

③実務者の視点を持っている
単に政策や理論を解説するだけでなく、「企業の組織体制」「経営層の意識」「業務プロセス改革」「要件定義」「責任体制」など、実際に働く人々が直面しやすい課題に踏み込んでいる点が読者にとって有益である。

④読み直し・確認用として優れている
レポートを一度読んだけれども内容を復習したい人にも、レポートを読まずにDXの議論の概要・要点を把握したい人にも適している。章ごとに整理されており、部分的に読み飛ばしたいテーマから読める構成であった。

改善が望まれる点

一方で、「参考書」であるがゆえに、いくつか課題や改善の余地も感じられた。

①深堀りが限定的な部分
本書はあくまでレポートの “説明・整理” を目的としているため、オリジナルレポートの提案内容に対する批判的分析や、事例による実践的教訓などはあまり豊かではなかった。たとえば、「本当にこの対応策は中小企業で機能するのか」や「失敗例・成功例からの学び」は読者によってはもっと知りたいと思われそうな内容だが、それらの深堀りは少ないように思われる。

②事例の具体性・適用性の不足
用語解説・理論構造の整理が丁寧な半面、実際の企業がどのように対応策を具体的に設計・実行したか、またそれに伴う困難と克服スキルなど、より“手を動かす”ためのガイドの性格が薄い場合がある。

③対象読者の前提知識の差
DXやITシステム、経営戦略の基礎知識が少ない読者には、バックグラウンドやITシステムの基礎的な技術的論点(インフラ、クラウド、モダナイゼーションなど)の説明がもう少し補完されていると、より親切であると感じた。特に私のような学生には少し理解が難しかった箇所があった。

 

総評

佐藤元輝氏の『経済産業省 DXレポート「2025年の崖」の参考書』は、DXを学びはじめた人、政策レポートを実務に活かしたいビジネスパーソン、経営層やIT部門でDXの議論を共有したい立場の人などにとって、とても有用な入門・キャッチアップ資料であると感じた。

特に、「何が問題なのか」「どこが論点か」「どのような言葉が使われているのか」を丁寧に整理してくれているので、DXの議論を始める際の共通言語を作るための素材として価値があると感じた。

ただし、この本だけで実践フェーズに入るには限界があるようにも思える。実践の設計・実行にあたり、中小企業や業界特性の違いを踏まえた事例、最新技術の動向・ベストプラクティス、失敗例などを別途参照することが望ましいだろう。

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