2022年11月のChatGPT公開以降、多くの企業が生成AIを導入しましたが、確固たる成果を得た企業は少数にとどまっています。筆者らが2025年8月に実施した調査によれば、上場企業の約半数がAI活用に関するKPIを設定しておらず、設定している場合でも業務時間や工数の削減にとどまるケースが大半です。これは残業削減には寄与するものの、収益の向上には直結せず、単にAI利用のコストを増やす結果を招いている企業も少なくありません。しかし筆者は、AI導入によって現場がAIに触れ、その可能性や企業活動への応用について理解を深めたこと自体に大きな意味があり、これが今後のAIトランスフォーメーションに向けた不可欠な土台と準備になっていると評価しています。さらに2025年はAIエージェント元年とも呼ばれ、AIが情報収集から分析、提案、実行に至る一連の企業活動を自律的に完遂できる技術が登場しました。顧客の要望を聞き、修正すべき取引を見つけ出して合意し、システムに登録するといったプロセスを、人が一切介在せずに実行可能になります。これにより深刻な人手不足の解消が期待される一方で、AIが人の雇用を奪うという懸念もあります。しかし重要なのは、AIエージェントの登場が人の認知限界を解放し、これまで不可能だったことを可能にするという視点です。自律的な実務をAIに任せ、人は自らの創造力を発揮してAIと協働しながら、企業をアップデートする新たな価値創出に注力すべきであり、この目指す姿が定義されて初めて、収益に結実するKPIの設定が可能になります。このようなAIによる変革は、これまでのITを活用した改革とは本質的に異なります。従来のITは、標準化されたプロセスを処理し、オペレーションを自動化・高速化するための処理を支援するインフラでした。一方、AIは人がシステム上で行う思考そのものを代替する思考を支援するインフラです。従来、人はオペレーションを反復することでドメイン知識(専門知識)を習得してきましたが、AIがその実務を代替するようになると、人は全く別の方法で知識を習得し、AIが正しく業務を行えるようマネジメントする新たな役割を担うことになります。思考は人が行うという大前提が崩れるため、それに適応した新たな組織構造が不可欠となります。この人の役割変化は、業務、組織マネジメント、人材戦略に甚大な影響を与えます。業務においてはAIが実務を担い、人がマネジャーになるという新たな関係が構築されます。また、AIとの協働により従業員一人ひとりに生まれた余力は、所属する部署という枠組みを越え、全社的なタスク単位で最適な人員を探して割り当てる形で有効活用される必要があります。このような緻密な動的リソースマネジメントも、AIの活用によって初めて現実的になります。同時に、企業は社員の役割をAI時代に適応したものへ急いで再定義しなければなりません。変革を先送りすれば、求職者からAIに代替される将来性のない仕事と見なされて優秀な人材の獲得が困難になり、企業の存続すら危ぶまれる事態になりつつあります。今後、AIは供給制約の少ない主力リソースとして企業内に深く浸透し、人の役割を根底から変容させるというかつてないインパクトをもたらします。企業はこの激しい外部環境の変化に適応し、AIと協働して新たな価値提供を実現する人機一体の世界へ転換することこそが、今後の生き残りを目指した真のトランスフォーメーションであると結論づけられています。