2章と3章(仮)

2章「リキッド消費の特性」

リキッド消費とは、2017年にマーケティング学者であるBardhi and Eckhartの論文で示された概念であり、社会学者であるBaumanのリキッド・モダニティ論から着想を得たものとされている。端的には「短命性、アクセスベース、脱物質的」という3つの性質を持つ消費のことである。

短命性とは、我々消費者の価値観が流動的になった結果、社会構造そのものが変化する速度が早まったり、技術革新などの要因によって製品ライフサイクルが短くなったりすることで、消費者と消費対象との関係性や、それらから得られる価値が、一時的で持続せず、特定の文脈で固有となる、という性質のことである。

アクセスベースとは、消費者がレンタルやシェアなどの方法で消費対象を利用し、取引の後でも対象の所有権の移転は行われない、という性質のことを表す。あくまで消費者は一時的な利用者に過ぎない。

脱物質的とは、同じレベルの機能を得るのに、より少ない物質を使うこと、もしくは全く物質を使わない、という性質のことを表す。これには情報製品やサービス、経験の消費も含まれている。

また、リキッド消費が選好される時の特徴も存在する。対象の製品およびサービスについて、自己関連性が低い場合。SNSでの投稿やアフィリエイトなど、打算的で商品化された社会関係を持つ場合。状況的に、モビリティ・システムが充実しており、移動手段などに簡単にアクセス出来る場合。偶発性に左右されるクリエイティブ産業などに従事する人の場合。以上の場合、従来のような所有ベースの消費ではなく、アクセスベースのリキッド消費が選ばれるとされている。

数々のリキッド消費に関する議論において、一側面が強調されたり、解釈に幅はあったりするものの、基本的な性質は以上のようなものである。

3章「研究目的および先行研究の整理」

研究目的と背景

前章までは、近年世界的に広がりを見せているリキッド消費に関しての紹介と説明を行ってきたが、ここで本論文の目的と、その背景について説明する。

昨今、「推し活」や「ぬい活」というワードが社会の中でも大きな話題となっている。かつてはそう一般的に知られるような概念ではなかったかもしれないが、どちらも近年の新語・流行語大賞としてノミネートされ認知されるなど、若年層を中心とした社会に浸透していると考えて相違ないだろう。公的機関の調査結果こそ出ていないものの、民間の調査機関によれば、2021年の「推し活」の市場規模は約7000億円と推定されていたのが、2025年3月時点での市場規模は約3.8兆円に達すると推計されており、推し活を行う人口そのものはもちろん、これに着目する組織や製品・サービスも増加傾向にあると見受けられる。

推し活の内容はコンテンツビジネスに限定したとしても多岐に渡るが、その中でも直近で話題になっている「ぬい活」は、リキッド消費が広まる現代社会の中にあって、それとは対照的な、いわゆるソリッド消費に明確に分類される消費形態であると考えられる。一方で、ライブや聖地巡礼、イベント参加など、どちらかと言えばリキッド消費の側面を持つような推し活の存在も無論根強い。

つまるところ、推し活というのはスペクトラムの対極に位置する概念であるリキッド消費とソリッド消費が、同じ瞬間に成立・もしくはその狭間にあるような消費が行われている文化なのである。

そこから、今後のコンテンツおよびキャラクタービジネスにおけるソリッド消費の再評価傾向や、リキッド消費とソリッド消費の側面を併せ持つ、より特殊な消費形態についても考察しつつ、今後パブリッシャーはどのように消費者のことを捉え、どのようなモノを商品として提供していくべきなのか、具体的に提案したいと考えている。

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