最終章 「さいごに」

これまで欧州や日本のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みや、EVに関連する問題点について触れてきた。この章ではこれまで論じてきたことを整理し、カーボンニュートラル実現のために自動車業界において取り組むべきことについて考察する。

第一に、欧州ではカーボンニュートラルの実現に向け、電気自動車(EV)の普及に向けた取り組みが進んでいる。この動きはガソリン車やディーゼル車、ハイブリッド車の新車販売禁止や、補助金の支給など、EV化を推進するというものである。この積極的なEVを普及させる取り組みにより、EU全体の新車販売におけるEVのシェアは10%を超え、100万台を超える規模にまで成長している。

欧州の中のドイツは、EVの先進国であり、充電ポイントの数も上昇傾向にあるが、それでもまだ、EVのさらなる普及を図るには不十分な数である。特に所得水準が低い南欧や東欧の国々では、充電ポイントの建設はさらに遅れており、EVの普及が進みにくいのが現状である。また、政府の補助金削減により、約二週間にわたりEVの生産が減少し、従業員の雇用の整理も始まっている。車体価格が高いEVは、富裕層にしか手に届かない高級品になりつつある。

第二に、日本では、世界的なカーボンニュートラルの実現に向けた動きが始まる前から、自動車業界では二酸化炭素を減らす取り組みが進んでおり、1997年からハイブリッド車を製造している。多くの企業が環境へ配慮し、先駆的な環境にやさしい車としてハイブリッド車に力を入れてきた。また、日本は世界のカーボンニュートラルの実現の動きに追随し、2030年半ばまでに新車販売をEVやPHEVに重点を置くことを目標に掲げた。EVの普及を促進するため、CEV補助金のようなEVの支援制度も充実している。

日本は欧州と同様に、EVの普及に向けた制度や目標立てがされている一方で、充電ポイントの不足など、インフラの整備が不十分な状況である。また、EVの充電に使う電力の発電源の化石燃料の割合が70%近くあり環境に配慮されていなく、そして、今の発電量のままでは全EV化に移行する際に電力不足が懸念される。また、EV化が促進されたことにより、日本の自動車産業の強みであり、古くから環境に優しい車として生産されてきたハイブリッド車が廃れてしまう恐れがある。

EVのメリットは、走行時に排気ガスを出さず、環境に配慮されたところである。デメリットは、EVの価格が高く、補助金なしでは一般の人には手が届きづらい車であること、電池製造時に二酸化炭素が排出されること、バッテリーの原材料の供給が不安定であること、採掘や精製の工程で環境汚染を引き起こす物質であること、電気の生産に化石燃料が使われていることなどと、多くの問題を抱えている。また、EVは走行時に排気ガスを出さないと言われているが、EVのライフサイクル全体でみると二酸化炭素が排出されている。

EVの普及を100%にするには、充分な充電インフラの整備が必要であり、そのために時間と多額の費用が必要である。また、再生可能エネルギーの増強や原発の再稼働によって、EVの充電に必要な電力を賄う必要がある。さらに、バッテリーの原材料不足も解決しなければならない。コバルトフリーやリチウム以外を使ったバッテリーなども開発されているが、実用化して現在のリチウムイオンバッテリーとの置き換えには相当な時間がかかる。これらの課題が存在するため、EVを100%普及させることは容易ではないと言える。

ハイブリッド車は、ガソリンを使わなければ走行時はEVと同様に二酸化炭素を排出しない。実はハイブリッドにもEVと同じ部品が搭載されているため、根本的に抱える問題は同じである。ただしバッテリーの搭載量がEVの10分の1程度と少ないため、1台あたりの環境負荷は格段に少なくなる。

以上の欧州や日本におけるEV化に伴う課題やEVの問題点から、EVだけではなく、ハイブリッド車にも注目する必要があると考える。カーボンニュートラルを実現するには、最終的にはEVを100%にする必要があるかもしれないが、現時点では上記のような多くの問題が存在するため、一方的にEVを推進するのは良くない。私はハイブリッド車もEVと同様に環境に優しい車だと考えている。そのため、今後はハイブリッド車の活用を増やし、EV化に伴う課題やEVの問題点を解決しながら、段階的にEV化を推し進めていくべきだと考える。

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