卒論 第五章

第五章 アニメ産業の成長を止めないためには

現在、製作委員会方式によってアニメ作品の本数は増え、日本のアニメ産業は格段に成長しており、市場規模は1.3兆円から2.7兆円と2倍以上に拡大しており、今後も成長していく日本が誇る産業である。しかし、第3章、第4章でまとめたように作り手であるアニメクリエイターの厳しい労働問題は未だに改善されていない状況である。そのため、アニメ産業の成長を止めないためにもクリエイターの労働問題は早急に改善すべきである。具体的にはアニメ制作会社の著作権非所持による追加利益がない問題、クリエイターの短期間のスケジュール設定による過重労働と不十分な制作費による薄給の問題、若手の過酷な労働問題の3つの問題を解決すべきである。そして、現在これらの問題に対して対処しようとしている例もあり、それを含め考察する。

まず、アニメ制作会社の著作権の問題だ。この問題を解決するには制作会社が著作権を有し、著作権の二次利用を行う必要があると考える。現在、製作委員会方式によって著作権は製作委員会が有しており、制作会社は制作費以外の売上がない状態であり、業界全体の4割が赤字経営を強いられている。そこで近年、市場が増加傾向であるキャラクターグッズの販売を制作会社が行うことによって、制作会社の赤字経営を免れることができたり、クリエイターへの十分な給料の支払いができたりする。
この政策を行ったのが株式会社MAPPAである。MAPPAは人気漫画「チェンソーマン」のアニメ化にあたって製作費を100%自社で出資し、著作権を有して2次利用によるビジネスを制作会社のみで行った。結果は成功しており、今後は2次利用のターゲット層を模索していくと今後の単独出資にも前向きな姿勢である。
さらにこの政策の他にもNetflixなどの外資系配信会社がもたらそうとしているビジネスモデルがポスト製作委員会となりうる。このビジネスモデルはNetflixが一部制作費を出す代わりに配信権だけを主張し、著作権は制作会社に留保されるというビジネスモデルであるため、この方法も製作委員会による著作権問題を解決できる。

次に、クリエイターの短期間のスケジュール設定による過重労働と不十分な制作費による薄給の問題だ。この問題を解決するにはアニメ制作会社の著作権の問題の解決策と類似しているが、1社で企画から制作までアニメ制作を一貫して行えるようにする必要があると考える。短期間のスケジュール設定と不十分な制作費の問題は企画側である製作委員会が制作スタジオの事情を無視し、利益の追求によって起こったり、企画側と制作スタジオとの連携不足により起こったりするものである。そのため、企画側と制作側を1社で完結させることによって必要なスケジュールや制作費の理解が容易となり、制作側に必要となる労働環境が整うのではないかと考える。
この体制を導入したのが2022年5月に設立された株式会社JOENだ。この会社はアニメメーカーのアニプレックスと出版社の集英社、制作会社のCloverWorks、ウィットスタジオが共同出資によって設立された会社で有力スタジオであるCloverWorksとウィットスタジオが主体となって連携し、企画立案からすべての工程に関わり、アニメ作品をプロデュースする。現在は目立った成果はないものの制作スタジオ、クリエイターの貢献に合わせて利益を還元し、質の高いアニメーションを継続的に制作する環境を整える新たなアニメの構造の軸を作っていくことを目指している。
また、クリエイターの過重労働を減らすための方法としてアニメの作品数を減らすことが有効であると考える。テレビアニメの製作本数は2010年代前半までは1年間に約200本だったのに対し、現在は1年間に約300本のペースで作られており、アニメクリエイター1人当たりが行う作業量も増えてきている。さらに年々、アニメのクオリティは格段に上がっており、10年前よりも1つの作品を作る際の作業量も増えている。その一方で放送されているテレビアニメの8割は赤字であるのは未だに変わっていない。それならば作品数を減らし、クリエイターに十分なスケジュールを与えるべきであると考える。
実際にテレビアニメ「鬼滅の刃」を手掛けるufotableはクオリティの維持、クリエイターの労働環境の改善を目的とし、受け持つアニメ制作本数を絞っており、その結果として他の制作スタジオに比べ離職率が低くなっている。
不十分な制作費による薄給の問題に関してはクラウドファンディングやクリエイター個人への寄付が方法として挙げられると考える。アニメファンには熱狂的なファンが多く存在しており、過去に高額なクラウドファンディングで数々の作品のテレビアニメ化が決定したり、続編の製作が決定したりしている。また、アニメーター個人を直接支援できるPIXIV FANBOXというサービスもあり、消費者が直接クリエイターに利益還元する方法もこの問題を解決する有効な方法であると考える。

最後に若手の過酷な労働問題だ。この問題を解決するには日本政府が若手アニメーターを支援する政策を行う必要があると考える。アニメは世界に誇る日本の大きな文化であり、今後その文化を担っていくのが若手アニメーターである。日本政府は将来、アニメという日本を代表する文化を維持していくためにも若手アニメーターを支援することは必須である。具体的には給料が低く、生活が厳しい若手アニメーターには給付金を支給したり、制作スタジオ近くに寮を設置し、生活を支援したりし若手アニメーターが生活に困らない環境を作っていく。さらにアニメーターのコミュニティを作り、定期的な講習会を行うことで若手の成長できる環境も整える。日本政府がこのような施策を行うことによって、若手アニメーターの過酷な労働問題は解決されるだろう。

業界の大半は未だにクリエイターの労働問題を放置しているが、問題の解決策として挙げたいくつか事例のように一部では改善しようという動きが見られており、アニメ業界はこのようなクリエイターの労働環境の改善を行う企業に続いて効果的な施策を行ってほしい。

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