卒論 第二章 (訂正版)

第二章 製作委員会の歴史とメリット、デメリット

 

第二章では前章で紹介したアニメを作る際の主なビジネスモデルである「製作委員会方式」の歴史やメリット、デメリットについて確認していく。

 

現在ではアニメの出資元のほとんどが製作委員会となっているが、それはここ十数年ほどのことである。1990年代後半から次第に製作委員会方式が増え始める以前は、映画会社や製作会社が単独で製作、もしくはテレビ局などの共同製作という形をとっていた。また、海外のハリウッドでは日本と違い、現在でも製作会社一社に著作権を集中させるのが主流である。

 

日本に製作委員会が生れたのは日本映画の衰退化と大きな関係がある。60年前の日本映画は絶頂期であり、大いに儲かっていた映画会社が100%出資で映画を製作していた。しかし、1970年代に入ると経営が苦しくなった映画会社は制作部門をリストラするなど資金力不足に陥っていた。そんな中、映画会社は作品に興味を示した他の映画会社に声をかけ、製作委員会を組成して映画製作の資金を集めていた。その代表が、1970年代中盤から大ヒットを生み出した角川映画であり、1991年の「天河伝説殺人事件」という映画には角川書店の他に「日本テレビ放送網、近鉄百貨店、奈良交通、電通、東京佐川急便、バンダイ」などが共同製作として名を連ねており、これが製作委員会の雛形となった。その後、その年代の劇場アニメ「AKIRA」や1995年に放送が開始されたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』などで製作委員会が組成され、その際に作られた製作委員会が後のテレビアニメのアニメ製作委員会の雛形に引き継がれていった。それ以来、複数の企業が出資を行う製作委員会方式でのアニメ作りが業界で定着し、現在のオタク向けや漫画・ライトノベルなどの紙媒体の原作からなるアニメも製作委員会方式で作られるようになった。

 

次に製作委員会方式のメリット・デメリットについて整理する。

製作委員会方式により大きく変化した部分は制作費が全額支払われるようになったことと著作権が製作委員会に移ったことであり、まず、この変化に伴うメリット、デメリットを説明する。

製作委員会方式以前の製作方式であった「広告収入方式」ではテレビ局が制作会社に支払う「制作費」は実際に制作する金額よりも少ないことが商習慣になっていたが、著作権は制作スタジオに帰属しており、制作会社はライセンスによる二次利用で収支を合わせなければならなかった。一方、製作委員会方式になってからは全額、製作委員会から制作スタジオに制作費が支払われるようになったが、著作権は製作委員会に移り、二次利用の収益が全くなくなってしまった。これにより、製作委員会方式に伴う制作費の増額と著作権の移動が作品がヒットしなかった時にはメリットに、作品がヒットした時にはデメリットになる。作品がヒットしなかった場合は、二次利用での利益は得られないものの、全額支払われる制作費により大幅な赤字を免れることができ、製作委員会方式による制作費と著作権の変化がメリットになる。しかし、作品がヒットした場合、制作費の全額は支払われるものの、ヒットした作品の二次利用での莫大な利益は全くもらうことができないため、製作委員会方式による制作費と著作権の変化がデメリットになってしまう。

このように、製作委員会方式による制作費が全額賄われるようになったものの著作権は製作委員会に移動してしまったことは作品のヒットの具合によってメリットやデメリットになりうる。

次に製作委員会方式だから生じるメリット、デメリットについて説明する。

製作委員会方式のメリットとして「資金リスクの分散」がある。

現在、日本のアニメ作品はクオリティが高い作品が数多く製作されており、競争力が高まっている。それに伴い、アニメ制作に投入されるコストも以前よりも増加しているが、アニメは放送するまでヒットするかが分からないのが実情である。その点、複数企業が出資を行う製作委員会方式であれば、出資リスクが分散されることが可能であると共に大口のスポンサーの撤退・倒産により制作が続けられなくなるリスクも防止することができる。また、複数の企業が関わることで広範な広告宣伝や、多種多様なメディアミックス・二次展開にも期待できる。製作委員会に参加する企業は、それぞれのネットワークやリソースを利用して、様々な宣伝やプロモーションを行うことができるため、出版社が参加していれば小説やマンガでの展開、レコード会社が参加していればキャラクターソングやライブ、ゲーム会社が参加していれば関連ゲームの製作販売など、多種多様な収益源を作り上げることができ、プロジェクト全体の成功確率を上げることが可能だ。

一方、デメリットは複数企業からなる団体から起こる「方向性の不一致によるトラブル」だ。製作委員会では多様なバックグラウンドを持つ出資企業が参加するため、意見の違いが表面化しやすくなり、全体としての方向性を見失ったり、作品のクオリティが低くなったりしてしまう可能性がある。さらに製作委員会方式では制作費用を抑えるためにクリエイターの報酬が低く抑えられることが多々あったり、締め切りに間に合わせるために過酷なスケジュールが組まれることがあったりし、長時間労働や過労が常態化している現状である。また、製作委員会方式は出資企業が主導権を握ることが多く、作品のクリエイティブな側面が犠牲になることもあり、出資企業の収益性や商業的な成功の追求により、アニメ業界の多様性が失われ、新たな才能や革新的なアイデアが育たなくなる危険性がある。

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