書評 「TRUST」

本書は「シェア」においてシェアリング・エコノミーの到来を予見し、タイムズ紙の世界を変える10のアイデアに選ばれ、2013年にはWEF(World Economic Forum)のヤング・グローバル・リーダーにも選ばれたレイチェル・ボッツマン氏によって書かれたものである。

著者は信頼とは「結果の予想であり、物事がうまくいく可能性が高いと期待すること」もしくは「既知のもの(確実なもの)と未知のもの(不確実なもの)のすき間を埋めること」と定義している。

第1章から第3章では信頼の変遷について説明している。産業革命が進展し、都市への人口集中が進むにつれて、全ての人と親密な付き合いをすることが物理的に不可能となった。そこで人々は契約や法律といった仕組み、企業ブランドなどの権威などを媒介し相手の信頼性を判断するようになった。このおかげで小さなコミュニティを超えた取引が可能になり「制度への信頼」が確立された。しかし近年金融危機を招いた金融機関やそれを防げなかった政府当局・専門家への不信の高まりや、パナマ文書に代表されるような権力を持つ人々の不正が明らかになってきたことで、制度そのものへの信頼が揺らいでいる。このような状況で生まれたのが多数の個人の経験や評判などの多様な情報を共有し、相互評価することによって、自分にとって未知の相手の信頼性を判断するという「分散された信頼」だ。

第4章から最終章までは「分散された信頼」の課題を2つ指摘している。1つ目は結果に対する責任と損害に対して補償する主体が曖昧な点だ。全くの他人同士が取引しようとする場合、彼らはサービスの提供者とユーザーをマッチングさせる仕組みを利用することが多いだろう。しかし、そうした仕組みを提供する企業は、自分たちはあくまで「場」を提供しているだけであり、そこで提供されるサービスの品質の保証や、そこで生じた損害に対する責任は、提供者が負うべきであると主張する。提供者が個人の場合、企業に比べて発生した損害を補償する能力が限定され、被害者が十分に救済されないことも考えられる。本書はレーティングの高いUberドライバーによって6人が殺害された「カラマズー事件」を例に挙げて、「場」を提供するという仕組みだけでは信頼の確立は不完全であると指摘している。

2つ目は「分散された信頼」を用いたサービスを提供する企業が社会的に影響力を持ちやすい点だ。分散された信頼」は、多数の個人によるレーティングで支えられているが、そのためのプラットフォームを構築できるのは、資金・人的リソースを持つ企業(CAFAやアリババ・テンセント)などの組織に限られる。だがその仕組はブラックボックスで、権力が特定企業に集中している。レーティングの重要性が増す以上、その仕組みがブラックボックス化することは、ユーザーに対して情報の非対称性を引き起こす。その結果特定企業がますます影響力を伸ばすためルール整備が急務であると締めている。

本書を読み、シェアリング・エコノミーの拡大に代表される社会変化に制度が追いついていないことがわかった。エアビーアンドビーに代表される「分散された信頼」をもとにしたサービスは便利であるが危険性の孕んでいる。その中で信用スコアは安全の不完全性を補完するような制度や仕組みになれると感じた。今後はシェアリングエコノミーの急拡大が進むアフリカの事例研究後、信用スコアが果たせる役割について調べる予定だ。

 

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