作成者別アーカイブ: 航也 田口

卒論発表用「信用スコアはシェアリングエコノミーサービスの信用を担保できるのか」

はじめに 近年人々の価値観が所有から利用に変わる中でシェアリングエコノミーサービスは私達の生活に欠かせないものとなってきている。車・衣服・高級品・スペース・スキルなど様々な分野でそのサービスが担う役割が大きくなっている。 このサービスを支えているのがレーティング(評価)制度である。多数の個人の経験や評判などの多様な情報を共有し、相互評価することによって、自分にとって未知の相手のつながりの可能性を広げている。その一方で現状のレーティング(評価)だけでは相手を信頼することができないと示唆する事例も出てきた。悲惨な事件に繫がる事例もあり、社会問題の1つになっている。この問題の解決策として信用スコアが活用できると考える。信用スコアを活用し、より取引相手の能力を可視化することで、取引間でより信頼しあえる状態が構築できると考えるからだ。 本論文はシェアリングエコノミーサービスの現状を第一章で述べ、第二章で信用スコアの特徴・事例を紹介する。第三章では信用スコアがシェアリングエコノミーにおいてどのような役割を担うことができるかを考察していく。 第1章「シェアリングエコノミーサービスの現状と課題」   拡大する市場規模 2019年度の国内シェアリングエコノミーサービス市場規模(事業者売上高ベース)は、前年度比128.2%の1,132億円であった。(図1参照) さらにその市場規模では2024年には1800億円を超えると予測されている。このことからもシェアリングエコノミーサービスは私達の生活に浸透して行くだろうと予測できる。     シェアリングエコノミーサービスの課題 シェアリングエコノミーサービスは登場初期からその利便性の高さに注目が集まってきた。人々の価値観が“所有”から“利用”へと変わりつつあり、それに伴って消費行動も変化し始めている。それに伴って「Airbnb」に代表される場所・空間、「Uber」に代表されるように移動手段、「クラウドワークス」に代表されるスキルや労働力といったあらゆる分野でシェアリングエコノミーサービスが発展している。このような状況を踏まえると市場規模の拡大が示す通り、シェアリングエコノミーサービスはまさに時代に応じたサービスであると言えるだろう。しかし課題も少なくはない。その最たるものとして「利用者が信頼性とトラブル時の対応に不安を抱えている」ことが挙げられる(図2参照)。シェアリングエコノミーサービスは全くの他人同士が取引しようとする場合、サービスの提供者とユーザーをマッチングさせる仕組みを利用することが多い。この仕組を提供する企業はあくまで「場」を提供しているだけであり、そこで提供されるサービスの品質の保証や、そこで生じた損害に対する責任は、提供者が負うべきであると主張する。このようなことが起こっているため結果に対する責任と損害に対して補償する主体が曖昧な点は社会的に大きな問題となりうる危険性を孕んでいる。 (PWC国内シェアリングエコノミーに対する意識調査より作成) 顕在化したサービス利用での「信用」問題 前述した危険性が事件となって表面化した事例を2つ紹介する。1つ目はカラマズー事件だ。2016年アメリカミシガン州のカラマズー郡でウーバーのドライバーによる銃乱射事件が起こった。 この6人が殺害され2人が重症を負った事件後ウーバーはドライバーの適性と安全性の見極めについて厳しく追求をうけることになった。しかしウーバーは「このドライバーのレーティングは5点中4.72点であり経歴照会にも合格していた」と証言し事件の予測は不可能であったとして責任はないと主張した。 2つ目はAirbnbで起きた銃乱射事件だ。2019年米Airbnb経由でレンタルされたカリフォルニア州コントラコスタ郡の閑静な高級住宅街オリンダの邸宅で5人が死亡する銃乱射事件が起きた。この事件によってAirbnbは大人数が集まるパーティハウスの禁止を発表した。これも従来のAirbnbのレーティング制度では適正なホストと判断されたため大きな問題となり、Airbnbはセキュリティ強化の対応に追われることとなった。 この2つの事件についての一連の流れはレーティング制度の限界を示している。レーティングだけでは相手を信頼するには不十分であり、シェアリングエコノミーサービスのようにプラットフォームを介する取引にはより強固な信用を保証する仕組みが必要であるとこの事件は世界に知らしめた。   第2章「信用スコアサービスの特徴と現状」   信用スコアとはそれぞれ個人の持つ信用力(どのくらい契約を確実に履行するか、債務を返済するか、道徳的に正しいとされる行為を選択するかといった要素)を可視化し、一定の数値として示したものだ。 多くの信用スコアサービスはFICOスコアが源流となっている。FICOスコアとはアメリカ・フェア・アイザック社が提供するクレジットスコアである。過去の返済履歴や借入残高などから住宅ローンやクレジットカードなど金融機関などで融資を受ける時の審査基準として使われる。最もウエイトが大きいのは返済履歴(35%)と借入残高・利用率(30%)で、この他に、信用履歴の長さ(15%)、利用しているクレジットの種類・構成と新規クレジットがともに10%である。性別や年齢、住所、収入、勤務先などの個人情報は使われない。クレジットスコアが高い場合カードの種類のランクアップ、金利やポイントが優遇されるといった各種金融サービスが受けられることがメリットである。クレジットスコアが金融機関の融資周りでしか使われないのに対して、これから紹介する信用スコアサービスは社会全体のあらゆる分野を巻き込みサービスを提供している。   芝麻信用(ジーマクレジット)・中国 アリババグループであるアント・フィナンシャル社が提供するサービスでアリペイ付帯機能として2015年に開始した。「1.身分特質(年齢、学歴、職業など)」「2.履行能力(過去の支払い状況や資産など)」「3.信用歴史(クレジットの利用履歴など)」「4.人脈関係(資金のやり取りに基づく交友関係や相手の信用状況など)」「5.行為偏好(消費や購買の傾向など)」の基準により、350~950点のスコア付がされる。このスコアが高いほど低金利で融資を受けることができたり、サービス利用時のデポジット(保証金)が免除になったり、出国手続きが簡素化されたりという優遇を受けられる。   Jスコア・日本 みずほ銀行とソフトバンクの合弁会社であるJ.Socre社が運営するものでAIを使って個人の返済能力を診断し融資を決定するサービスだ。年齢や職業、年収といった信用情報に加え、自分の性格や趣味嗜好、人脈を質問に答える形で回答していく。それがAIスコアとして点数化され、貸付利率や貸付限度額といった融資の条件が提示される仕組みとなっている。そして融資を受けないとしても提携企業のサービス優待を受けることができる。   Aire・ヨーロッパ この信用スコアは既存のクレジットスコアの理不尽さの解消を目的として作られた。オンラインインタビュー形式で、財務状況、ライフスタイル、専門性のデータを取得し、各ユーザーの将来性を予測することで、今まで融資を受けられなかった人にも、融資のチャンスを提供する。クレジットスコアのように単純な取引履歴を見るのではなく、ライフスタイルや専門性から今後その人が稼ぐ能力があるのか・稼ごうとする意志を継続できるのかを予測し評価している。   Tala・アフリカ スマートフォンから1分以内に1万件以上のデータポイントを収集して、その持ち主の返済能力と返済意志を測ることができる信用スコアサービスだ。テキストメッセージ・通話履歴・商業的な取引・アプリの利用履歴といったデータからユーザーの行動面に注目をする。例えばテキストメッセージ・通話履歴から人脈の広さを測ることができる。クレジットヒストリーを持たない人に対してスマートフォンのデータという新たな活路を見出したことによりアフリカで大きな支持を得ている。   社会の反応や現状の課題 事例の通り様々な信用スコアがある一方で、国によって信用スコアの普及度はまちまちである。中国の芝麻信用が社会サービス全体に影響持ち始めている一方で日本やヨーロッパなどは金融関係のみでの活用に留まっている。これはデータ利用に対する国民性が表れている。中国人はプライバシーがないがしろにされる怒りや不安より、芝麻信用に付随したサービスによってもたらされる利便性を重視する傾向にあると言われている。これは長い間共産党の一党独裁政治のもとで生活しているために、自由や平等という概念や民主主義の基本的な価値観であるプライバシーの尊重といった意識が希薄であるといった政治的背景もあるだろう。一方ヨーロッパや日本ではプライバシーに関するデータを企業に使われることに抵抗感を持つのが一般的な考え方である。特にヨーロッパではデジタル時代に対応した個人情報保護法整備が進んでいる。その一例であるGDPR(EU一般データ保護規則)は個人識別につながる情報が保護対象となっている。 上記のような現状から信用スコアの課題はデータ収集面とデータ活用面に分類できる。データ収集面ではプライバシー保護に対する課題だ。ユーザーからするとプライバシーに関するデータを勝手に使われることに対する否定反応がでるのは当然である。 … 続きを読む

カテゴリー: 新聞要約 | コメントをどうぞ

卒論(提出用)

卒論(田口)

カテゴリー: 新聞要約 | コメントをどうぞ

卒論

卒論(田口)

カテゴリー: 新聞要約 | コメントをどうぞ

卒論第二章・三章

卒論(田口)

カテゴリー: 新聞要約 | コメントをどうぞ

卒論第二章・三章

卒論(田口)

カテゴリー: 新聞要約 | コメントをどうぞ

卒論第二章

卒論

カテゴリー: 新聞要約 | コメントをどうぞ

卒論第1章

卒論(田口)

カテゴリー: 新聞要約 | コメントをどうぞ

卒論アウトライン

1. 主張 インターネットやSNSの普及などによって、情報拡散スピードが格段に高まる中、P2PやCtoCなどに代表されるシェアリングエコノミーの関連するサービスの利用が爆発的に広がりつつある。このサービスを支えているのがレーティング(評価)制度である。多数の個人の経験や評判などの多様な情報を共有し、相互評価することによって、自分にとって未知の相手のつながりの可能性を広げている。その一方で現状のレーティング(評価)だけでは相手を信頼することができないと示唆する事例も出てきた。悲惨な事件に繫がる事例もあり、社会問題の1つになりつつある。この問題の解決策として信用スコアが活用できると考える。信用スコアを活用し、より取引相手の能力を可視化することで、取引間でより信頼しあえる状態が構築できると考えるからだ。 2. 調査の方向性 シェアリングエコノミーの拡大 台頭したサービスと取引の問題点 信用スコアの現状の特徴(活用事例) 信用スコアをどう取引に活かすか 3. 参考文献 限界費用ゼロ社会 アント・フィナンシャル TRUST 超加速経済

カテゴリー: 新聞要約 | コメントをどうぞ

書評 「TRUST」

本書は「シェア」においてシェアリング・エコノミーの到来を予見し、タイムズ紙の世界を変える10のアイデアに選ばれ、2013年にはWEF(World Economic Forum)のヤング・グローバル・リーダーにも選ばれたレイチェル・ボッツマン氏によって書かれたものである。 著者は信頼とは「結果の予想であり、物事がうまくいく可能性が高いと期待すること」もしくは「既知のもの(確実なもの)と未知のもの(不確実なもの)のすき間を埋めること」と定義している。 第1章から第3章では信頼の変遷について説明している。産業革命が進展し、都市への人口集中が進むにつれて、全ての人と親密な付き合いをすることが物理的に不可能となった。そこで人々は契約や法律といった仕組み、企業ブランドなどの権威などを媒介し相手の信頼性を判断するようになった。このおかげで小さなコミュニティを超えた取引が可能になり「制度への信頼」が確立された。しかし近年金融危機を招いた金融機関やそれを防げなかった政府当局・専門家への不信の高まりや、パナマ文書に代表されるような権力を持つ人々の不正が明らかになってきたことで、制度そのものへの信頼が揺らいでいる。このような状況で生まれたのが多数の個人の経験や評判などの多様な情報を共有し、相互評価することによって、自分にとって未知の相手の信頼性を判断するという「分散された信頼」だ。 第4章から最終章までは「分散された信頼」の課題を2つ指摘している。1つ目は結果に対する責任と損害に対して補償する主体が曖昧な点だ。全くの他人同士が取引しようとする場合、彼らはサービスの提供者とユーザーをマッチングさせる仕組みを利用することが多いだろう。しかし、そうした仕組みを提供する企業は、自分たちはあくまで「場」を提供しているだけであり、そこで提供されるサービスの品質の保証や、そこで生じた損害に対する責任は、提供者が負うべきであると主張する。提供者が個人の場合、企業に比べて発生した損害を補償する能力が限定され、被害者が十分に救済されないことも考えられる。本書はレーティングの高いUberドライバーによって6人が殺害された「カラマズー事件」を例に挙げて、「場」を提供するという仕組みだけでは信頼の確立は不完全であると指摘している。 2つ目は「分散された信頼」を用いたサービスを提供する企業が社会的に影響力を持ちやすい点だ。分散された信頼」は、多数の個人によるレーティングで支えられているが、そのためのプラットフォームを構築できるのは、資金・人的リソースを持つ企業(CAFAやアリババ・テンセント)などの組織に限られる。だがその仕組はブラックボックスで、権力が特定企業に集中している。レーティングの重要性が増す以上、その仕組みがブラックボックス化することは、ユーザーに対して情報の非対称性を引き起こす。その結果特定企業がますます影響力を伸ばすためルール整備が急務であると締めている。 本書を読み、シェアリング・エコノミーの拡大に代表される社会変化に制度が追いついていないことがわかった。エアビーアンドビーに代表される「分散された信頼」をもとにしたサービスは便利であるが危険性の孕んでいる。その中で信用スコアは安全の不完全性を補完するような制度や仕組みになれると感じた。今後はシェアリングエコノミーの急拡大が進むアフリカの事例研究後、信用スコアが果たせる役割について調べる予定だ。  

カテゴリー: 新聞要約 | コメントをどうぞ

書評「幸福な監視国家・中国」

本書は現代中国の監視社会をめぐる日本国内のやや偏った見方に一石を投じるため梶谷懐氏と高口康太氏が現在の中国で起きていることを多角的に掘り下げたものだ。スーパーアプリや監視カメラを用いて個人情報を収集するのは中国にとっては当たり前だ。これを監視社会として日本とは遠い世界と捉えるのではなく、日本も同様の問題に直面すると著者たちは述べている。 本書の第一章から第四章では中国社会におけるテクノロジーを実装することが社会に与えた変化を解説している。中国ではテクノロジーへの信用が高く、米企業による調査では27カ国で1位だった。ECの利便性や、監視カメラによって実現した犯罪抑止、信用スコアの運用とフィンテックとの結合といったことが進み、中国社会の利便性は格段に上がった。そのため中国国民が進んで個人情報を企業に明け渡し、結果的に中国共産党による社会統治が強化されている。ウイグル自治区における自由の剥奪が悪い例として上がる。「最大多数の最大幸福」を原理を盾に政府が暴走するときもある。少数民族への弾圧は激しく、強制収容所のような施設さえある。ただこの施設がある名目は治安のためだ。イノベーションに対する法の緩さは、人権保護に関する法の弱さの反面でもあると指摘している。 第五章から第七章では中国における公共性の議論が展開されている。テクノロジーで安心・安全で便利な社会である現状から世に溢れる中国の自発的な民主化や分裂を期待する論調が如何にナンセンスなものとなっているかを示している。つまり「アルゴリズム公共性の暴走」である。しかしこのような社会は一党独裁体制の中国だけではなくすべての国で起こる可能性があると指摘している。それは功利主義に基づいて道徳的判断が人間からAIに取って代わるのは避けられないからだ。具体的な理由としては1.一般大衆が利便性のためAIを用いたアルゴリズムによるセグメント化を進んで受け入れる素地は功利主義的社会(資本主義社会)が本質的に内在していること、2.テクノロジーの理解は一般大衆にとってますます困難になっていること、3.テクノロジーと公共性を両立させる議論にはまだ時間を要することの3つである。著者たちは常にテクノロジーが社会実装されたときの変化の方向性が正しいかを問い続ける姿勢を持つべきだとまとめている。 本書を読みテクノロジー社会において利便性と権利での葛藤をどのように処理していくかが今後の日本におけるテクノロジーの社会実装が進む道をめると感じた。テクノロジーの社会実装が極端に遅れている日本では中国社会のどの部分は手本にして、どの部分は真似をしないといった取捨選択が重要であると考えるようになった。 歴史では、近代化以前の信用の形から、近代化を経て、現代のフェーズへ移行しようとしていることがわかる。また海外の先進事例から日本とは状況が異なるとはいえ、その成功と失敗から日本における信用サービスのあり方(テクノロジーの社会実装)を考えていきたい。 「幸福な監視国家・中国」 梶谷懐・高口康太共著

カテゴリー: 新聞要約 | コメントをどうぞ