書評 「WHY BLOCKCHAIN なぜ、ブロックチェーンなのか?」

本書は2016年後半頃から北海道を拠点にブロックチェーン事業を手がけているベンチャー創業者の著者が、その経験と実践からブロックチェーンをビジネスの手段として捉え執筆したものである。多くのブロックチェーン関連書籍が仮想通貨を初めとした金融についての言及が多い中、本書は金融に縛られることなく、ブロックチェーンが既存産業にどのような影響を与えるのか、どのようなビジネスモデルが現れるのか、そして社会組織がどのように変化していくのかを説いているのが特徴である。

第1章「ITの進化」では、1990年代のITの普及段階からITバブル、現在までの変遷を説明している。携帯電話の普及からスマートフォンへの移り変わりや3G通信から5G通信への進歩を通して、人は常にオンラインに接続できる状況になり、ITはtoBからtoCへ進化している。これからのポストスマートフォンの時代では「ウェアラブルデバイス」のような人の機能に近づくITが重要視されていく。そしてIoT・クラウド・ブロックチェーン・AIを現在のITでの四種の神器とし、これらを取り入れられないレガシー産業はいずれ衰退していくと示している。

第2章「ブロックチェーンの正体」では、ブロックチェーンが①暗号化技術 ②コンセンサスアルゴリズム ③ピア・トゥ・ピア(P2P) ④DLT(分散型台帳技術)の4つの技術を組み合わせたものだと説明したのち、ブロックチェーンの最大の運用例としてビットコインを挙げ、その仕組みブーム、通貨としての価値について語る。後半部には、ブロックチェーンを語る上で欠かせない要素として「バンドル/アンバンドル」と「パブリック/プライベート」を取り上げている。

第3章「普及を阻むもの」では、主にブロックチェーンの進歩が遅いように感じられている理由について論じている。法律や既得権益の強さ、経営と現場のギャップなどが挙げられているが、特に筆者がこだわっている部分は、「Whyブロックチェーン?」である。これまで問題なく動いてきたシステムをわざわざブロックチェーン技術で作り直す意味は無いと断じ、ブロックチェーンの得意不得意や限界を把握した上で、ブロックチェーンでしか実現できないことでの利用の重要性を強調している。

第4章「ブロックチェーンが拓く未来」では、前半はブロックチェーンによって実現される自立分散型組織(DAO/ダオ)について触れていく。DAOの世界を実現するための重要なテクノロジーとしてスマートコントラクトとRPAを説明したのち、DAOを分散型というよりも非中央集権型とし、全てが完全に分散するのではなく、中央集権のコミュニティがたくさんあって繋がり合うというイメージだとしている。また、組織はヒエラルキーからホラクラシーへ移り変わるとし、ルールやレギュレーションがプログラムされている中に人間が参加していく、というようなフリーランスを組織化したようなものになるという。後半は価値を定量化する手段である「トークン」ついて論じる。トークンはコミュニティ内の価値を表すものであり、通貨と同様の機能を持つ。価値交換の手段としてトークンが金融を成り立たせ、その上に経済(エコノミー)ができ、そしてそれらを土台にスマートコントラクトによってルール化された社会(コミュニティ)が実現されるとしている。また、この社会は超競争社会となる可能性があるため、都市では民主主義・資本主義、地方では社会主義を取り入れるといった社会制度の使い分けを提言している。

第5章「実験例と想定ケース」では、筆者が代表取締役を務める株式会社INDETAIL(インディテール)がパートナーと共に行ってきた医療関係の実証実験の概要と結果を説明したのち、発展したものとして、テレビ視聴のネットワーク化、EV充電スタンドのネットワーク化、クラウドファンディングの一種であるソーシャルレンディングへのブロックチェーン応用などの想定ケースを挙げている。そして最後には、既存の技術をどう使うのかではなく、考えられたサービスを実現するためにはどうすればいいのか、という思想ドリブンが未来を切り拓くとし、それに向かうための不可欠な道具がブロックチェーンであるとしている。

本書の第1・2章は既知の内容が多かったが、第4章にてDAOによる組織の変化や、トークンによるコミュニティの形成について深く理解出来たことがとても大きかった。しかし一方で未だ実証実験段階で本格的な導入事例は少ないことが強調されており、現在の中央集権の社会における適応が難しいこともわかった。本書ではビットコインと著者が関わる事業以外のブロックチェーン事例があまり見当たらなかったため、今後は現在時点での実証実験や導入事例を調べつつ、考察を深めていきたい。

「WHY BLOCKCHAIN なぜ、ブロックチェーンなのか?」 坪井大輔 2019年7月 翔泳社

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