書評『キャッシュレス革命2020』

本書は電子決済化するメリットや現状と課題をあげ、東京オリンピック・パラリンピックに向け、キャッシュレス決済の促進を展望している。著者は野村総合研究所金融ソリューション事業部の宮居雅宣氏を含む、5名のキャッシュレス研究会である。この本を手に取ったのは、電子決済の利用を全面に押し出しており、そこまで急速に発展させる必要があるのか疑問に思ったためである。序章を含む全8章で構成され、キャッシュレス決済のメリットをあげながら今後の在り方について言及している。

序章から第二章までは決済の現状と課題について述べられている。現金は銀行にある「データ」として保存されているものを、ATMで引き出すことによって「現物」にする。そして各店舗で利用し売上金として再び「データ」になる。現物化することで、リスクや無駄なコストを発生させている。キャッシュレス決済は現金と違い透明性があるので、犯罪に巻き込まれにくく、紛失しても利用停止にすることができる。現金を持ち歩くのは日本人くらいで海外では電子決済が主流だ。電子決済は装置産業であるため、海外への遅れを取り戻すためにもインフラ整備と運用が最大の課題になるとしている。

第三章ではキャッシュレス化によって得られる効果についてまとめられている。2014年4月に鉄道やバスに乗車する際の、二重運賃を国土交通省が認可し運用が開始された。これにより端数分、IC決済の方が安い運賃が設定されるようになった。一円単位の価格設定が出来るようになったことのほかに、迅速性、経済性、安全性といった基本的メリットがあげられている。また応用編として、透明性、情報収集性、機動性、コントロール性、市場創造性、国際性といったメリットがあるとされている。

第四章では消費者心理について触れられている。消費者の心理は足し算型と引き算型の二つに分かれる。日本人は古くから「封筒管理」といわれる引き算型を好むため、カード決済には抵抗があったが、プリペイドカードの登場で決済の選択肢が広まった。

第五章では政府や行政の取り組みについて述べられている。税金や公共料金の徴収、生活保護費の支払い等をキャッシュレス化することによって、事務処理にかかるコストが削減され事業効率が上がる。マイナンバー制度を利用し安心・安全な国を目指している。

第六章では第五章までに述べてきた課題と解決策についてまとめている。可能性のある犯罪や取引の安全性を確保するための要素、また消費者トラブルで起こり得ることについて説明し、キャッシュレス決済を促進するべきであるとまとめている。

第七章では2020年キャッシュレス社会としてのあるべき姿をフィクションで語っている。一つ目はオリンピック観戦のために日本にやってきた外国人の例である。現金は持たずに入国し、ネット決済で列に並ぶことはない。お寺のお賽銭のみ現金で、近くにある海外カード対応のATMから日本円を少額引き出す。キャッシュレス化が進み、ストレスや不安を感じることなく快適に過ごすことが可能になった。二つ目は日本に住む四人家族の例である。家族カードで全員決済にはカードを利用している。ネット決済はトークン化や虹彩認証の導入で安心して利用できる。二つの例からキャッシュレス決済の必要性を提示し、今後更に推し進めていくべきだと締めている。

本書を読んで、キャッシュレス決済を促進するメリットや課題について理解することが出来た。観光立国を目指す日本は海外にも通用するよう、決済インフラを整備していくべきだと思う。しかし、筆者らの想定していたほど現状進んではいない。今後はキャッシュレス決済が進まない原因や解決策についてさらに深く調べていきたい。また、お賽銭の例であったような、守っていくべき現金の文化についても考えていきたい。

 

『キャッシュレス革命2020 電子決済がつくり出す新しい社会』「キャッシュレス革命2020」研究会(2014)日経BP社

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