書評「ブロックチェーン革命」

本書は仮想通貨から注目を集めつつも、複雑でわかりにくいとされるブロックチェーンを解説するものである。ブロックチェーンの仕組みを説明したのち、仮想通貨での活用開始からその変遷、フィンテックやIotでの応用について触れ、組織構造のイノベーションまで解説する。そして終盤にはブロックチェーンに基づく分散自立型社会についても著述している。
序章・第1章では、新しい技術が出現した際の人々の反応と現在までのブロックチェーンに対する認識の変化を述べた後、ブロックチェーンという技術の基本的な仕組みや優れている点、なぜ今注目を集めているのかが描かれている。本書の概論にあたる部分であり、仮想通貨を起点としたブロックチェーンがフィンテック、IoTにも応用されていき、そこで既存技術では起こせなかった革命的変化を起こす可能性について示唆している。
第2・3章では、仮想通貨関連での法規制や仮想通貨界隈の今までの情勢変化を述べ、その後に銀行での仮想通貨発行や中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)について言及している。管理主体のいないビットコインなど従来の仮想通貨とは違い、銀行が発行する仮想通貨は銀行が管理者となっており、ここでパブリック・ブロックチェーンとプライベート・ブロックチェーンで分かれる。銀行が適用するプライベート型は、ブロックチェーンの最大の特徴である「管理者が不要で改竄がほぼ不可能」という性質が捨て去られることを指摘し、コスト削減の利点も挙げている一方でパブリック型との大きな違いを示している。
第4章では、在来技術型のフィンテックを送金・決済、「ソーシャルレンディング」、ビッグデータを用いる投資アドバイスや保険、の3つに分類し、PayPalなど代表的なサービス名を挙げつつ、各々の仕組みを説明している。しかし、これらは日本では規制や法制度の縛りが強く、世界から遅れていることをフィンテック・ベンチャーへの投資額を比較して指摘している。
第5章では、第2~4章の総括として、ブロックチェーンが通貨と金融をどう変えるのか改めて説明している。その上で、送金コストがゼロ近くまで下がることの重大性を説き、マイクロペイメントと国際送金の分野で大きく変革が訪れるとしている。また、ブロックチェーンを用いた決済手段を提供する主体が、(1)ビットコインのような仮想通貨 (2)銀行が運営する仮想通貨 (3)中央銀行が運営する仮想通貨 であり、各々が通貨の覇権を握った場合に想定されるシナリオやリスクを述べている。
第6章では、現在まで公的機関の信頼性に頼ってきた真正性の認定を、ブロックチェーンが代替することが出来ると説いている。また、商品の履歴トラッキングや個人のデータ管理をブロックチェーンで行うことで、低コストでその真正性を証明できる。第7章では、IoTの分野のブロックチェーン活用について述べている。現在の中央集権型のIoTの最大の問題点を、システムの運営コストが高いために経済的採算が取れないことだと指摘し、これをブロックチェーンを用いた「モノの分散型インターネット(DIoT)」に移行することで、コスト面などの諸問題を解決できるとしている。
第8章では、「分散型自立組織(DAO)」が紹介される。DAOは中央に管理者が存在せず、多数のコンピューターが運営する組織で、意思決定、実行、紛争解決は人が行うのではなく、プロトコルにあらかじめ定められたルールに従って行う。また、この章の後半では「分散市場」も紹介される。これはブロックチェーンを用いてさまざまな資産の取引を分散的に行う市場で、従来の市場と比較して、セキュリティ向上・コスト削減・決済時間の短縮を実現しており、流動性を増大させる。
第9章・終章では、ブロックチェーンによるDAOが社会的に普及した際の未来について語られている。これまでは人間によってしかできなかった仕事をブロックチェーンが代替するようになり、DAOは失業を生むディスラプター(破壊的革新者)の側面があるとしている。プロトコルに定められた規約に則り、意思決定や実行・問題解決はDAOが行う。しかし、これらの事は中央集権の支配者がいなくなることを意味し、社会構造の変革をもたらす。IT革命の際に人々が期待したフラットで、信頼を必要としない社会が実現できるとしている。その事により人々の直接的な取引が実現し、また、組織のフラット化によって人々はより柔軟に高い自由度で働くことができると説いている。
本書を読む中で度々繰り返されるものとして、法規則の整備が挙げれる。特に金融分野においてはもともと厳重な規制が多いために参入障壁が高く、日本はその傾向が強い。銀行など金融機関の利害に拘泥するのではなく、利用者や経済全体の立場から考えなければ技術進歩が遅れ、海外からより取り残されることが強調されている。
金融に限らず、さまざまな場面での応用が期待されるだけに、法や規則の整備が間に合っていない現状はなんとも歯がゆく、今後の迅速な対応が求められているように感じる。その技術を十全に力を発揮するようになった際にDAOがどのように社会を変え、人々の生活や働き方が変わっていくのか更に深く考察していきたい。
「ブロックチェーン革命[新版] 」 野口悠紀雄 日経BP

 

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