書評「電子マネー革命」

2000年代になり普及してきた電子マネー。現金が絶滅する日が来るかもしれない。本書は電子マネーやポイントの仕組みを解明し、今後それらが私たちの生活にどう影響してくるのかを展望する。著者は法律事務所にて電子マネーや決済ビジネスの法務を担当し、法的な課題解決に取り組んでいる。この本を手に取ったのは、「現金絶滅」という言葉に衝撃を受け、本当にそんな日が来るのか疑問に思ったためである。また、急速に発展しているキャッシュレス化で抱えている課題とは何かを明らかにするためである。全五章で各章SIDE-AとSIDE-Bの二部構成となっている。SIDE-Aではある夫婦が現金を駆逐する「おカネ革命」をめぐる事件に巻き込まれる姿を描いている。SIDE-BではAでの事件の背景を読み解き、解説する。

第一章では、クレジットカードや電子マネーの利用でポイントを貯める夫婦の日常が描かれ、電子マネーの普及した理由について述べられている。20年前までは電車に乗る際は駅員が切符を切っていて、買い物は消費税の導入により清算に時間がかかっていた。それが数年たち、国民皆電子マネーの時代へと推移していった。①高い利便性、②発行者間の競争、③クレジットカードに対する優位性、④デビットカードに対する優位性、⑤ポイントとの相乗効果、これら五つの点が電子マネー普及の要因とあげられている。

第二章では電子マネーの不正利用事件を描き、電子マネーの抱えるリスクについて言及している。電子マネーの二大リスクと呼ばれるのが、サーバー上でのデータ改竄、発行会社の倒産である。上記のリスク解決策として、2010年4月にサーバー管理型の電子マネーにも適用される「資金決済法」が制定された。この法律により、会社は新たに発行する際の登録手続きが厳格になり、倒産に備え国に供託することが義務化された。だが、データ改竄を防げないことやポイントとの関係性については課題が残る。

第三章では商店街での不正ポイント発行の事件を描き、ポイントの価値について説明している。電子マネーは消費者が現金をチャージして利用するのに対し、ポイントは発行主体が負担しているため、消費者を守る資金決済法の対象外とされた。発行側はポイントをオマケとして認識しているが、利用者は財産として認識している。ポイントの価値は将来の課題にも繋がっており、発行者、消費者の双方がプログラムに対する意識を高めることでトラブル防止になるとされている。

第四章では筆者が今後出ると予想する電子マネー口座を基にしたサービスについて説明されている。海外のウエスタンユニオンやPayPalのいいところをとった、サービスの提供が望ましいとしている。即時送金が可能でオンライン決済や現金無しで入金できるサービスを備えたものである。少額決済が可能になることで、CtoCの取引が今後さらに伸びていく。それにより、世の中のお金の流通速度が上がる可能性があるという。

第五章では、第四章で筆者が想定した電子マネー口座の国際決済の事例を描き、世界共通マネー実現の可能性について述べている。共通マネーが発行されれば為替変動に影響されることなく、一定の通貨交換が可能となる。銀行での取引は高額な手数料がかかるが、共通電子マネーでは抑えることが出来、CtoCのやりとりが国内外関係なく増えていく中で、需要は高まる。おカネは人々の信用で成り立っており、おカネの未来を決めるのは利用者のニーズであるとまとめている。

本書を読んで、電子マネーの普及した背景や今後の展望、またポイントの意義については理解することが出来た。だが、この電子マネーの普及が現金絶滅に直結するかというと疑問である。国際的な取引の観点で観たときには、共通電子マネーが発行されればCtoCのやりとりが増加し便利になる。しかし、ここでそれは少額決済に限った話であり、高額な決済の際には電子マネーだけでは不十分なところがある。筆者がおカネの価値は信用で成り立っていると述べていたように、現金に信頼を寄せる日本では完全になくなり絶滅することはないのではないかと思う。今後は更に進んだキャッシュレス決済の抱える課題と解決策、またその中での現金の役割について深く調べていきたい。

 

「電子マネー革命 キャッシュレス社会の現実と希望」伊藤亜紀(2010)講談社

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