書評 「5Gビジネス」

情報通信業界における経営管理、事業戦略・技術戦略立案、および中央官庁の制度設計支援に長く従事し、政策やテクノロジー、ビジネスの動向に精通する亀井卓也氏による著書。われわれのライフスタイルやビジネスが5G時代にどのようにに変わっていくのか、5Gに関する取り組み事例から紹介されている。

 

第一章「5Gが話題になる理由」では、5Gへの基本的な理解を深めるべく、移動通信の歴史をひもとき、技術革新の具体的な内容、日本と世界における5Gの現状、今後の見通しなどが述べられている。また先行事例として米ベライゾンによる「ベライゾン5GHome」、や米韓による「世界初」競走についてなどが取り上げられている。

 

第二章「5Gが変える生活」では、スマートフォンの進化を始め、エンターテインメント、モビリティ、またこれまではICTを導入されにくいとされていた医療・介護といった生活を取り巻くサービスがどう進化するのかを現状と展望を交えて解説されている。

 

第三章「ビジネスをどう変えるのか」では、電気・ガス・水道といったユーティリティ産業でLPWA(Low Power Wide Area)。製造業ではネットワークスライシングやローカル5G。防犯・警備といった公衆安全ではAIカメラ。そして公共交通産業ではモビリティサービスなど、上記のところで5Gの技術が活躍する。また、キーワードをB2B2Xとし、「センターB獲得競争」の時代になるとしている。

 

第四章「5Gがもたらすリスク」では、プライバシーやパーソナルデータの管理上のリスクや、地域間での「デジタル格差」の拡大。また、新たな通信需要を創出できなければ、5Gへの移行が進まないといったリスクも示唆されている。

 

第五章「5G時代にわれわれは何をすべきか」では、4Gから5Gへの革新において、最も重要な変化は技術よりもビジネスモデルにあると筆者は述べる。B2B2XになることでセンターB事業者が追加されたことにとどまらず、これまで主役であった通信事業者が裏方にまわり、センターB事業者が通信の主役になること、これを革命的なことと述べる。

 

事例をもとに、5Gの3つのビジョンである「①高速大容量通信」「②超信頼・低遅延通信」「③多数同時接続」が、各事業でどのように活用されているのか、あるいは期待されているのかを取り上げられていることで5G産業の概要をさらうことができた。

5G技術は、いわゆる魔の川(Devil River)・死の谷(Valley of Death)・ダーウィンの海(Darwinian Sea)と例えられるような、技術を基にしたイノベーションを実現するために、研究開発から事業化までのプロセスにおいて乗り越えなければならない障壁のさなかにいると言える。しかしながら、5G技術とは大きな木の幹のようであり、そこから枝葉のように新たな技術やサービスが今後生まれていくことに期待したい。

 

亀井卓也 著 日本経済新聞出版社 2019年6月12日発行

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