書評『邪悪に堕ちたGAFA ビッグテックは素晴らしい理念と私たちを裏切った』

企業総資産のじつに80%を、全体のわずか10%の企業が占有している。また、この10%の企業は物理的な資産や商品を有しておらず、情報とネットワークの技術を持つ企業である。『ビッグテック』や、『GAFA』、『FAANG』、『関心の商人』と呼ばれるそれら企業のビジネスは私たちの暮らしに深く組み込まれ、多くの利点を享受している。その動きはコロナ渦におけるテレワーク、オンライン授業で加速した。
『フィナンシャル・タイムズ』紙でグローバル・ビジネス・コラムニスト及び共同編集者を務め、また、CNNのグローバル経済アナリストとしても活躍する本書の著者、ラナ・フォルーハーは、このビッグテックのビジネスモデルを、「私たちは、自分のことを消費者だと考えている。だが実際には、私たちこそが製品なのである。」(引用 )と捉え、懸念を抱く。また、これら企業と政治の結び付きを指摘し、閉鎖的な現状に疑問を投げかけている。

第一章 概説
筆者は民主主義の存続を心配せざるをえない状況に陥っていると指摘する。
彼らビッグテックは広告市場の独占や、懸命なロビー活動によって政治と結び付き、介入を避け、自由な活動を存続できるよう操作してきた。
これによって独占が更なる独占を生むというサイクルの確立に成功し、公平な情報を入手する機会や自由競争が減少した。
第二章 王家の谷
革新的と言われるビッグテックの企業の経営でも、多くの権力はトップに集中している。また、効率的なソリューション志向により、その中で生じる個人のプライバシーなどの問題は見えなくなってしまっていると語る。
第三章 広告への不満
Googleが行ったデータマイニングとハイパーターゲティング広告というビジネスモデルは急速に成長した。これは人の評判が更に人を増やし、それに伴いデータも増大し、正確性を増すという単純な「ネットワーク効果」というメカニズムによって支えられていた。他業界にも進出を試みるビッグテックに対し、現行の企業たちは声をあげるべきだが、彼らもこのシステムで利益を得ており、声を出せないのが現状ということを指摘している。
第四章 1999年のパーティ
1999年に起きたPets.com等の倒産を省み、現在のシリコンバレーでスタートアップ企業が置かれている状況は同様にバブルであると指摘する。
その分析から、ユニコーンと言われているような企業は破綻し、投資家だけが利益を総取りするという予測をたてている。
第五章 広がる暗闇
ビッグテック各社が知的財産についてどう取り扱ってきたかについて書かれている。政治への介入による制度優位の獲得など、貪欲に知的財産を吸収あるいは、淘汰してきた事実が書かれている。
第六章 ポケットの中のスロットマシン
とあるゲームに課金し続けてしまう筆者の息子を一つの例に、高度なサービスと便利なデバイスに依存する人々の事実を書き出す。巨大企業が発する、関心をジャックするようなネットワークはあまりにも強力で、対抗馬となるようなスタートアップが出現することは難しく、現行のそれも勢いには乗れていない。
第七章 ネットワーク効果
ビッグテック、主にGoogleの検索エンジンにおける独占的な支配に至った経緯を、それは「必然であった」という切り口で解説している。有形なものより価値のある人々のデータ等の無形資産を活用し、連鎖的に広がるプラットフォームを構築したこと、また、その利用者のプライバシーに関する意識の低さもそれを加速する要因になったと述べている。
第八章 あらゆるモノの‘ウーバー化’
ネットなどを通じて単発の仕事を請け負う働き方、ギグワークの台頭は自分の自由な時間を収入へと還元することを実現した。しかし、これを筆者は多くの労働者のフリーランス化の予兆と捉え、現状でクラウドコンピュータやスマートフォン、ソーシャルネットワークを利用できる環境を持つ、労働者との格差を更に広げるものだと危惧している。その広がりは既に観測されており、一例として従業員給与の低下等を挙げている。
第九章 新しい独占企業
この章では、様々な業界へと分野を拡大するアマゾンについて説明している。また、独占禁止法政策の抜本的な見直しを求める声が高まり初めていることを紹介している。
第十章 失敗するには速すぎる
2008年のサブプライム危機で打撃を受けたビッグファイナンスと言われる金融企業と今のビッグテックを照らし合わせ、筆者はどちらの業界も、経営の不透明さや複雑さ、イノベーションに対しネガティブな側面を認めたり、責任を負ったりしようとしないという共通点を見出し、今後を予測している。また、そういった大きな企業においてこそ多くのルールを設けるべきだと主張している。
第十一章 泥沼のなかで
この章では、ビッグテックの中でも、特にGoogleは自社の関心分野について行われる学術研究を買収、援助してきたと指摘している。敵を見方につけるという意味で攻めでも守りでもあるこの手段はアメリカのみに留まらず、欧州の国々でも行われ始めており、世界でこの問題に慎重な目を向けるべきだと、筆者は語っている。
第十二章 2016年、すべてが変わった
2016年の米国大統領選挙では、ビッグテックのプラットフォームを利用したプロパガンダが大量にばらまかれ、論争をあおるために利用された。この中で、Facebookはドナルドトランプを勝たせようとするロシアの工作員から十万ドルを受け取っていたことが明らかになった。
筆者は選挙の不正操作、ひいては思想統制だけでなく、あらゆるインターネット上での活動を通してビッグテックが収集した情報は第三者や政府に監視目的で使われていることが最大の問題と考えている。
第十三章 新たな世界対戦
米中のデジタルイノベーションを遡って考えると、米国のビッグテックは表向きでは、世界で最も戦略的で高成長な業界を支配するために中国を相手に戦っているという姿勢を貫きながら、裏では利益のために中国の独裁政権と取引を行っている。
デジタルイノベーションに関して今後予想される対戦において、トップダウン型の監視国家があらゆるデータを集め、その管理も行う中央集権型の中国に挑むには、適切な監視と公平化が重要だと筆者は述べている。

第十四章 邪悪にならない方法
筆者は、このビッグテックの支配とこれからの競争を緩和・対応するには、超党派のメンバーで構成された独立委員会があらゆる問題について話し合い、問題を一般の大衆にも理解できる形で明らかにする必要があると主張している。また、ビッグテックにプラットフォーム上で起こる出来事にたいし法的に責任を免除されている現状の見直しや、活動の規制、課税、教育への投資の義務化等を挙げている。そして労働者層の保護も重要だと述べている。

私は高校在学中に同じ話題でレポートを書いたことがあり、問題提起としては以前読んだ書籍と代わりはないが、その中で新しい事例もあり、以前より私たちの生活に根をはるビッグテックの技術・サービスの負の側面を再確認することができた。
内容は多くの自らの経験と、様々な経緯や観点の事実に基づく分析がなされており、また、随所でビッグテックの称賛できる点についても言及し公平性を保とうとする努力も見られ、意見に説得力を感じた。
不満に感じた部分は、文章中で引用で登場する人物が余りにも多く、煩雑に見えたこと、多分に列挙された『邪悪』な事実に対して、結論が弱いと感じたことが挙げられる。もう少し具体的な方法を期待していただけに残念だった。

引用  12ページ 6~7行

『邪悪に堕ちたGAFA ビッグテックは素晴らしい理念と私たちを裏切った』
2020年7月20日 日経BPマーケティング

著者 ラナ・フォルーハー
訳者 長谷川 圭

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