書評「5Gビジネス」

現在私たちが利用している携帯電話の移動通信システムの大半は4Gであるが、5Gが日本で本格的に商用化される未来はすぐそこまで来ている。本書では、5Gの普及による私たちの生活の変化について、事例を交えて紹介している。

5Gの導入によって動画配信サービスはより発展する。「5Gとはどういうことを実現するものか」について、国際電気通信連合(ITU)は、①高速大容量通信、②超信頼・定遅延通信、③多数同時接続の3つのビジョンを示している。これらについて本書では、5Gでは、より大きな電波の塊の送信、「C/U分離」という仕組みを持つ5Gのネットワークによる、基地局付近へのサーバーの設置、「グランド・フリー」という方式による接続の円滑化、が可能となるため、3つのビジョンが実現できるという。

私たち消費者にとって、5Gの高速大容量通信というメリットを実感できる一番のコンテンツは、動画である。通信速度の向上により、よりストレスフリーになることはもちろん、大画面化・高精細化にも期待がかかる。本書では、スマートフォンの次の形は折り畳み式であるという。2019年にサムスンは、5Gに対応した折り畳み式スマートフォン発表した。ディスプレイ技術の革新により柔軟に曲がるディスプレイが開発されたため、実現可能となったのだ。大画面のディスプレイは動画との相性がよく、今後発展する動画配信サービスに最適な端末だと感じた。
また動画配信サービスは、「マルチアングル」という方向にも発展するという。これは、ライブステージやスポーツの試合中の選手など、ある対象をいろいろな角度から撮影し、その映像を同時配信するという新しい視聴体験をもたらす方法である。高速大容量通信によって複数の動画を同時に伝送でき、スムーズな視点の変更も可能となるため、この視聴方法が主流となる日は遠くはないだろう。

本書ではその他に、自動車の自動運転化などの事例も取り上げられていたが、今回はより私たちに親しみ深い事例である動画配信サービスの点に着目した。新型コロナウイルス感染拡大防止のため自宅で過ごす時間が多くなった現状で、動画配信サービスの需要は急速に拡大した。5Gの高速大容量通信は動画とのシナジーがあり、今後益々発展するだろう。しかし、通信インフラの提供力は通信需要を超える恐れがあると私は考える。現在私が利用している動画配信サービスでは、4Gで十分に視聴できていると感じている。4Gでも通信の遅延は少ないからである。したがって、動画配信サービスの観点からでは、私たちが5Gの恩恵を実感するには、先で述べたマルチアングルなどの新サービスが必要不可欠だと考える。

亀井卓也 「5Gビジネス」日経文庫 2019年6月14日発行

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